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2016年4月29日(金)

『ポケモンコマスター』の優秀すぎるAIの秘密に迫る。開発陣イチ推しのポケモンは?

文:MAC佐藤

 ポケモンが配信するiOS/Android用アプリ『ポケモンコマスター』。3Dモデリングで描かれたポケモンのフィギュアを用いて対局する戦略対戦ゲームだ。

 簡単に説明すると自身のコマがゴールに到着すると勝利といったルールだが、盤面ではポケモン同士のバトル、指し筋の読み合いなど、奥深い要素も詰まっている。そんな本作を開発したメンバーに、開発での苦労話や優秀すぎるAIについての話などをうかがった。

『ポケモンコマスター』
▲左から鈴木直樹氏(ポケモン)、伊藤久史氏(HEROZ)、大山功一氏(火星工房)、三浦昌幸氏(ポケモン)。
『ポケモンコマスター』
▲編集部の質問に対して、開発スタッフの方々がフリップに答えを書いていただき、それをオープンしながらお話をうかがった。それぞれが書いたフリップも見どころの1つとしてあわせてチェックしていこう。

ポケモンの数だけおもしろさがある

――まずは、皆さまの『ポケモンコマスター』開発におけるポジションや役割を教えてください。

三浦昌幸氏(以下、敬略称):2007年頃に『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』というアナログのボードゲームを海外で制作しておりました。

 今回、それをベースにしたアプリも制作することとなり、『ポケモンコマスター』の中で“PFG”と言っているゲームの部分となりますが、自分はそのアドバイザーとして参加しています。

『ポケモンコマスター』
『ポケモンコマスター』
▲『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』の盤面とフィギュア。アプリ版でしっかり再現されているのがわかるだろう。

大山功一氏(以下、敬略称):僕もほとんど同じです(笑)。

三浦:大山さんは『ポケモンカードゲーム』の生みの親でもあるんです。古くは、伝説の『MOTHER 2』というゲームのドット絵全般を担当していたり……って、なんで大山さんの自己紹介を僕がしているんでしょう(笑)。

大山:『MOTHER 2』では基本的にはドット絵描きで、キャラクターデザインもやっていました。ポケモンカードゲームではゲームデザインでしたが。

 小学生時代からゲームを作りたいって思っていたんですけど、当時はゲームがここまで脚光を浴びるとは思っていなかったので、まさか仕事になるとは思っていませんでした(笑)。

 仕事をし始めた時は、まだ家庭用ゲーム機ではなくて、とりあえずゲームに近い仕事ということでオモチャの企画デザイン会社に入ったのですが、そこの企画やプレゼンテーションのために絵を描いていくうちに、とりあえず絵でやっていこうとなって。

 そのうち時代が家庭用ゲーム機に移ってきて、ゲーム作りに参加したいなと思って自分に何ができるのかと考えた時に絵なら参加できるかもと思いまして。

 でも、もともとはゲームの仕組みを作りたいと考えていたので、TVゲームにかかわっていくうちにカードゲームやボードゲームのルールを作る依頼が来たので、これはありがたいなと思いました(笑)。

――今回のアプリでは、ゲームのバランスやルール的なことを三浦さんと大山さんがメインで担当していると。それでは続いて伊藤様、お願いします。

伊藤久史氏(以下、敬略称):今回は開発側のプロジェクトマネージャーとして、ポケモンさんと最初の企画の立案の頃から2年ほどいっしょにプロジェクトを進めさせていただいております。どういう仕様にしますかとか、どういう内容にしますかといった、開発の進行管理などを担当していました。

――最後に鈴木様、お願いします。

鈴木直樹氏(以下、敬略称):大山さんと三浦が作った『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』は、ゲーム自体のルールがおもしろくもあり、難しくもあるので、それをどのようにスマートフォン向けのアプリとして落とし込んでいくかというところをHEROZさんにお伝えしていました。

 それを世の中に出す時に、お客さんにどのようにアピールしたらいいのかというのをアドバイスしたりと、トランスレーター的なポジションで関わってきた感じです。

――さっそく質問に移りたいと思います。『ポケモンコマスター』のどこがおもしろいと思いますか? 一番のアピールを一言いただければと。

『ポケモンコマスター』

鈴木:“答えがない”ですね。最近のゲームは、最強はこれというのがわかりやすいのが多いですけど、このゲームに関しては最強はこれというのがなかなかないんです。それがわかりにくいところでもありつつ、おもしろいところでもあります。

 これに対してはこれが強いとか、相性のよし悪しがたくさんあって、それが絡み合ってくるので、プレイヤーそれぞれが答えを見つけるというゲームになっています。

 ポケモンは現在全部で721匹発見されているんですけど、その種類に応じられるだけの魅力を出せるゲームの設計になっていて、答えもどんどん変わっていくので、それがこのゲームの魅力だと思っています。

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伊藤:“奥深さ”というのがあるなと。一見盤面が狭いですし、MP(移動力)3のポケモンならすぐ相手のゴールに行けそうな気がするんですけど、実際やってみるとポケモン同士の相性とか、すごく戦略性があるんです。

 割と簡単にできそうだなというところもありつつ、プレイするほど奥深さを感じられるいいゲームだなと思っています。

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大山:“スポーツっぽいところ”です。プレイしていると感じるかもしれないですけど、サッカーのような要素もあって。ゴールがあるというのもそうですが、どういうラインで攻めていくかとか、入れ替えとかでラインを変えてサイドチェンジみたいなことをやったりとか、ずっと押されているんだけど1つ突破口を開くとカウンターで逆転できるとか。

 あと、ポケモンはルーレットの確率でワザが出るのですが、それも野球選手のように“このポケモンは3割打者だな”とか、そういう感覚で監督のような気持ちになって遊んでほしいというのもあります。ポケモンの能力を使ってスポーツをしているような感じで楽しめるので、そこが魅力かなと思っています。

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三浦:“勝負は時の運”というのはスポーツでもよく言われるんですけど、それもありつつ、デッキ作りの“努力”と、プレイヤー自身の“スキル”、それらがよいバランスで構成されていると思います。

 デッキはなかなか集められないけど、時の運があれば強い相手にも勝てるとか、デッキはそろったけど負けるとか。そういう勝負のあやというのも魅力で、そこを楽しんでいただければと。

――皆さんゲーム性の高さを挙げられていて、実際遊んでみてもそれがポイントなのかなと感じました。アナログのボードゲームがもとになっているということですが、スマホのアプリに落とし込むにあたって、変えた部分や調整した部分というのはあるのでしょうか?

三浦:アナログゲームの時には見立てとしてトレーナーのフィギュアというのもあったのですが、ゲーム内ではプレイヤー自身がトレーナーなので、それを強く出していくためにトレーナーのフィギュアはなしにしました。それが大きな違いですね。

――ポケモンごとの能力やワザというのは、アナログゲームのものをベースにしているのでしょうか。それともアプリ向けに変えたりしているのでしょうか?

三浦:当時はまだ発見されていなかったポケモンがたくさんいたので、そのあたりは鈴木と話し合いをして調整していきました。ただ、当時完成されていたものはできるだけ変えずに再現しています。

――どのようなきっかけで、アナログゲームをスマホのアプリで再現することになったのでしょうか?

三浦:社内ではよく「三浦の執念が」とか言われていますが(笑)。2004年に『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』を大山さんと一緒にすごく力を入れて作って、実際手ごたえも感じたんですけど、日本で発売することはできなくて、いつか出したいとずっと思っていました。

 アプリの前にも、個人レベルではニンテンドー3DSで企画を考えたりしていたんですけど。それがアプリならできそうだということがわかって、そこから初めて具体的に動き出した感じです。

伊藤:開発はHEROZが担当することになったんですけど、初めにお話をいただいた時は「ウソだろ?」という感じでした(笑)。うちがポケモンさんとゲームを作ることになるとは思わなかったと、今でもよく話しています。

 実際作っていく過程の中で『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』を拝見させていただいて、すごくおもしろいゲームだと思いましたね。

 ただルールとしては難しいところもあるので、アプリにあるようにAIに頼れるということに関してはやったほうがいいなと思いましたし、そのAIを作れるのは多分うちくらいだろうと自負しているので、気概を持って臨ませていただきました。

複雑になりすぎず、誰でも遊べるゲームを作る苦労

――それでは次の質問です。ずばり開発で大変だった部分はどこですか?

『ポケモンコマスター』

三浦:“誰でも遊べるゲームに”することでした。大山さんとアナログゲーム版を作っている時に、石原(株式会社ポケモン代表取締役社長)から「難しすぎるよ」というツッコミが入ることが多かったんです。

 大山さんはもともとものをシンプルにわかりやすく作るのが得意なんですけど、2人で作っていくうちにおもしろくなって、あれも入れたい、これも入れたいとどんどん複雑になってしまって(笑)。それをできるだけ削ぎ落としていく作業が大変でした。

 今回のアプリでは、ルールをわかってもらえればおもしろいと思うんですけど、それをどう伝えるかというところで悩みましたね。

『ポケモンコマスター』

大山:アナログゲームの時の苦労なんですけど、“コマのダミー作りとテストプレイ”です。アナログゲームで使うコマって実際に回転するんですけど、それを手作業で作るしかなかったんですよ(笑)。

 今考えると笑っちゃいますけど、最初は画鋲で回していたんです。テストプレイをするためには手作業で行う部分がとても多くて、僕は手作業が大好きなので楽しみながらやっていたんですけど、さすがに大変でした(笑)。

 あとは、テストプレイもアナログだったので、何度もやってみて戦術を編み出したり、これは強すぎるとか、これはどう対処したらいいのかとか。そういうことを繰り返した挙句、こうすればどうにかなるんじゃないの、ならばOKみたいな。

 弱すぎると使えなくなってしまうので、やはりある程度は強くないとよくなくて、スピードと強さのバランスなど、ギリギリの線を見極めながら細かいデータを決めていきました。

 そういった作業を、僕と三浦さんともう1人の開発スタッフで、デッキを作りながらやっていたんですけど、本当に大変でしたね。

『ポケモンコマスター』
『ポケモンコマスター』
▲これが『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』で使用する実際のコマ。フィギュアとワザが書かれたルーレットの部分が回転して、止まった時に矢印のマークがあるところのワザで判定するという仕組み。ちなみにフィギュアやルーレット部分は取り外し可能で、大山氏自身が図面を書いて設計したという。
『ポケモンコマスター』

伊藤:“AI”の開発が一番大変でした。ゲーム自体のシステムは完成されているんですけど、それをプログラムに落とし込むにはすごく厳密に定義する必要があって、例えば気絶の処理にしても、すべて時系列で並べて衝突がないようにしなければいけなかったんです。

 そのために三浦さんからいただいた資料を僕やAIを作ったメンバーと一緒に読ませていただいて、ここはこういう効果でいいんですかというようなやりとりをたくさんさせていただきました。

 その部分に関しては苦労しましたね。逆に言うと、そこをちゃんと頑張らないと忠実に再現できなかったので、やり切れてよかったなという思いはあります。

 あと、AIも初めから強かったというわけではなくて、最初は進むだけでも精一杯という感じだったんですけど、そこから何万局も対戦して学習を積み重ねて強くしていきました。

 本当に強くなるのかと疑心暗鬼だったというか、三浦さんと大山さんを「参りました」と言わせるレベルまでいけるのかなと(笑)。開発当初は先が見えない状況で、やりますとは言ったものの実際アウトプットとしてそこまでできるのかと本当に不安だったので、AIに関してはそれが大変だったという思いがあります。

『ポケモンコマスター』

鈴木:“初純スマートフォンゲームアプリ”というところです。『ポケモン』シリーズは家庭用ゲームやアーケードゲームなど、いろいろな媒体で登場しているんですけど、この『ポケモンコマスター』はスマートフォン向けのみのゲームとしては初のゲームとなります。

 アナログゲームだと、遊ぶために必要な物一式と説明書があれば、ルールを教えればあとは好きに遊べるという形で提供できるのですが、スマートフォンゲームだとなかなかそうもいかなくて。

 スマートフォンゲームにする時にはどういう仕様にするのかという部分を設計したりとか、実際どのような機能を追加すればいいのかとか。例えば図鑑の機能だと、実際のフィギュアだったら棚に飾っておけばいいのですが、スマートフォンゲームだとその棚を1から設計しないといけないという(笑)。

 新しく作らないといけないことが多くて、それが難しかったところではあります。あとは、家庭用ゲーム機と違っていろいろな端末に対応する必要があるので、いかに処理を軽くして遊びやすくするかという部分も苦労しました。

――『ポケモンコマスター』というタイトルはスムーズに決まったのでしょうか。

鈴木:このゲームは日本で初めて提供するということもあって、お客様にゲームの魅力やおもしろさ、ルールなどをわかりやすく伝えるために、それらをタイトルの中に込められないかなと考えました。

 タイトルを聞けばどんなゲームかちょっとイメージがつかめるような感じにしたいなと。このゲームの最大の特徴は、生きたポケモンではなくてフィギュアが出てくるところで、それもただの観賞用ではなくゲームの中でのユニットとしての機能も備えています。

 そういった意味では“コマ”という言葉が一番しっくりくるのかなと。それとうまく組み合わせられる言葉として、コマが輝く、“スター”になるという意味で“コマスター”と名付けました。

 その後に気が付いたんですけど、このゲームではプレイヤーとAIが共闘するというシステムになっているので、いっしょにマスターするという意味で、共同という意味の接頭辞の“co”と、“master”の組み合わせにもなっているんです。これはいい感じのダブルミーニングになったかなと思っています(笑)。

――そんな意味が込められているとは意外でした。ちなみに、『ポケモン』シリーズに携わって一番思い出に残っている出来事はなんですか?

三浦:『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』をいつか出せたらとずっと企画を温めていたので、それが今回ようやく出せたのが一番感慨深いところではあります。

 ちなみに自分は『ポケモン+(プラス)ノブナガの野望』というゲームの開発を担当しておりまして、そこで『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』のほうで入れたかった要素を、別の形で取り入れたりしたのですが、それがまた一周回ってこの『ポケモンコマスター』に戻ってきたというのも感慨深いですね。

大山:僕は『ポケモンカードゲーム』です。これを作ったあとに『ポケモントレーディングフィギュアゲーム』の依頼が来たのですが、ボードゲームならカードゲームとはまた違った魅力が出せるんじゃないかと感じていました。

 どちらもデータゲームではあるんですけど、それぞれポケモンの魅力の切り口を変えたものとして考えていて、例えばただ強いだけじゃなくて、素早いやつとか、堅いやつとか、一発屋とか、飛ぶやつとか、それぞれのポケモンの個性というものをコマに与えたいなと。

 タイプ相性がないのはポケモンらしくないのではとよく言われてしまうのですが、それ以外のところでポケモンを表現するということができないかと考えています。

 カードゲームのほうではタイプ相性がありますけど、整理された形になっていて、もとの形とは違っているんです。それぞれのポケモンにファンがいると思うので、その人たちに喜んでもらえたらと思って、いろいろ工夫していますね。

伊藤:僕が『ポケモン』シリーズに携わったのは、この『ポケモンコマスター』が初めてです。自分自身がポケモン世代というか、1996年にGB版が発売された時は小学生だったので、帰り道にみんなで『ポケモン』をやっていました。

 そのシリーズに携われるのはすごく光栄なことだと思いましたし、自分の友人でも『ポケモン』を遊んでいた方が多いので、3月10日に『ポケモンコマスター』を発表した時にはみんなから連絡があったりしました(笑)。

 あと、甥っ子が『ポケモン』好きなので、このゲームも遊んでくれて、本当に世代を超えて知名度があるシリーズだなと。皆さんからこんなに反響をいただけるということは、『ポケモン』シリーズに携われたからこそ初めて味わえることだなと実感しています。

鈴木:先ほど“初純スマートフォンゲームアプリ”と書きましたけど、実はスマートデバイス向けのアプリには以前に携わったことがあって、それを応用している部分もありますね。

 また、以前は『ポケモンカードゲーム』の事業に携わっていて、カードゲームのルールの普及活動などを行っていたんですけど、そういう経験がうまくこのプロジェクトに集約されてアウトプットできたなと思っています。

仲間であり、先生、師匠にもなるAI

――続いての質問です。本作をプレイしていて感じたことなんですけど、ぶっちゃけAIによるオートバトルは便利すぎませんか(笑)? AIについて、皆さんはどのように感じているのでしょうか。

『ポケモンコマスター』

大山:“AI先生って感じです”(笑)。アナログゲームだったら、誰かが説明書を読み込んでルールを覚えて、こうすればいいんだろうとわかるまでに時間がかかると思うんですよ。

 でもAI先生は、そこをちゃんと説明してくれるんですよね。こういう手がいいよ、みたいな感じで(笑)。やっぱり初心者はAI先生に頼って、ある程度指導を受けたあとに自分で動かすのがいいと思うんです。

 最初から自分で動かすと闇雲に戦ってしまうことが多くて、ただ運だけと思ってしまうので。そうではなく、AI先生はここは戦わないほうがいいみたいなことを教えてくれるので、まずはAI先生の指導を受けてほしいなという思いはあります。

 あと敵のAIも、先へ進むとかなり手強くなってコマの動かし方にもほとんどミスがないんですよ。こっちが引っ掛けようとして打った手も読まれていて、“だからそこに置くのね”みたいなことがわかるんです(笑)。

 その賢さが上級者にとってはなるほどと思うだろうし、初心者にとっては指し回しをある程度学べると思います。そこを理解するのは大変なんですけど、見ているとだんだん“そういうことね”というのがわかってくるんじゃないかなと。

『ポケモンコマスター』

三浦:“発見”ですね。一時期、社長の石原と“バックギャモン”を毎日お昼休みにプレイしていたことがありまして、すごく長い間やっていたのでお互い相当強くなったと思っていたのですが、ある日強いと評判のパソコンソフトと対戦してみたら、全然コンピュータのほうが強かったという(笑)。

 アグレッシブに攻撃してくるプレイで、自分たちとは全然プレイスタイルが違って新しい発見がありました。それからはプレイスタイルが変わって、よりゲームの本質がわかるようになって、目から鱗だねと。今回の『ポケモンコマスター』のAIは、それと同じような体験ができると思っています。

『ポケモンコマスター』

鈴木:“反骨精神”です。AIはいわば師匠なので、最初は弟子入りしてほしいんですけど、みんな弟子入りするのが好きじゃないみたいで(笑)。

 せっかくなので弟子入りしていただいて、多分どこかでケンカ別れすると思うんですけど、その後またどこかでAIを使ってみると、“なるほどそういう手もあるよね”と教えられることもあると思います。

 そういう意味でAIはいつでも待っていてくれるし、師匠のような存在でもあるので、ユーザーとしては反発するもよし、従うもよしという感じなのかなと。そうやって自分の手を少しずつ発見してもらうというのが、このゲームの楽しみ方としては一番いいのかなと思っています。

 あとこのゲームは、最初は棋譜があまりなくて定石といえるものがなかったので、プログラムに読ませる時に、こうなると強いというものがない状態からスタートしているんです。

 そこはゲームの最後のルールである“ゴールすれば勝ち”というところから逆算して読んでいく必要があったのでとても大変でした。でもAI先生はそこをすべて把握して突破した超優秀な師匠なので(笑)、最強の師匠に反骨精神を示しながら、時には従い、いっしょに戦っていただければと思っています。

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伊藤:僕は“仲間”かなと感じていまして、昨今世間では人間とコンピュータというと対立する関係のように語られることもありますが、『ポケモンコマスター』では人間が強くなるための仲間というか、教えてくれるパートナーとしてこのAIが立っていると思っています。

 積極的にAIを使って学んでいただいて、時には自分がAIを助けることもあると思うんですよね。基本的にAIというのはその局面において勝率の高い手を選ぶんですけど、でも自分だったらリスクを取ってこの手を打ちたいということもあるでしょうし、それで局面を打開できることも多いと思うんです。

 なのでお互い助け合いながらゲームを進めていってもらえるといいなと。AIを使う=一緒に戦うというのが、僕らの中のコンセプトとしてあるので、そういう形で使っていただけるとうれしいです。

――皆さんが言われるように、確かに『ポケモンコマスター』のAIは仲間や先生といった印象で、プレイヤー寄りの立場であるというのが新しいというか、おもしろいところだなと感じました。それでは最後の質問です。現状『ポケモンコマスター』で実装されているポケモンフィギュアの中で、お気に入りの1体を教えてください。

『ポケモンコマスター』

鈴木:“エモンガ”です。この『ポケモンコマスター』では何マス進めるかというのが重要なんですけど、基本的にたくさん進めるポケモンはワザがあまり強くないんです。

 エモンガはそこをちゃんと補ってくれる能力を持っていて、ベンチにいるポケモン1体と自分を入れ替えることができるんです。エモンガを突進させて、足が遅いけど強いポケモンを入れ替えることで、より早く相手のゴール付近に送り込む、というような使い方ができます。

 このようなポケモン同士のコンビや連携をうまく活かせるというのは、このゲームならではの魅力だと思いますね。

『ポケモンコマスター』

伊藤:僕は“ミズゴロウ”がすごく好きで(笑)。単純にポケモンとして一番好きというのもあるんですけど、このゲームではMP3で移動力が高くて、プレートをうまく組み合わせることでワザの威力を強化できるという戦術もあるので、自分の中ではかなりのお気に入りです。

 今使っているデッキにもミズゴロウが3体入っているという状態です(笑)。自分なりの作戦を考えて、お気に入りのポケモンを活かせるというのがとても楽しいですね。

『ポケモンコマスター』

三浦:“ボーマンダ”なんですけど、実はまだ手に入れていません(笑)。MP1のポケモンで、足は遅いけど一発が大きいんですよね。前線に出すのはなかなか大変なのですが、“とぶ”というワザを持っているので、うまく使えば相手のポケモンを飛び越えて前線に出ることも可能です。

 その挙句に包囲されてやられてしまうこともありますが、そんなお茶目なところも好きで(笑)。使って楽しいポケモンだと思います。

『ポケモンコマスター』

大山:自分も持っていないんですけど“ニャース”です(笑)。やっぱりニャースは活躍しますよね。トリッキーなところがおもしろいというのと、あと自分のゴールを守っていて自滅するとか、ゴール守れないじゃんみたいな(笑)。

 “ねこだまし”というワザを出すと、相手の位置と入れ替わるので、ニャースが自分のゴールにいる時に出してしまうと、そのまま負けちゃうんです(笑)。そこらへんも含めて、ニャースらしくて好きですね。いろいろな局面でいろいろなドラマを生んでくれるので、使っていてすごくおもしろいです。

――強いポケモンの名前が並ぶかと思いきや、意外な使い方やネタ的なものもあったりして、皆さんのポケモンへの愛が伝わってきました(笑)。

三浦:ちなみにそれぞれのポケモンのルーレットに何気なく書かれているワザも、よく見てみるとフィギュアと連動している形になっていたり、意味が込められていたりします。

 例えばリザードンは、脇の後ろの部分がミスになっていて、脇が甘いとか(笑)。コイルは、赤のワザと青のワザがあるんですけど、それが磁石のN極とS極のように配置されていたりとか。

大山:あと気付く方は少ないと思うんですけど、混乱を受けるとワザが1つ分ずれるのですが、基本的に頭のいいポケモンほど混乱に対して強くしているんですよ。伝わるかどうかはわからないですけど、そういう部分も細かく設計しています。

三浦:ルーレットへのワザの割り付け方によって、マヒが強かったり混乱が強かったりとかはあるので、そこまで含めてポケモンらしさを出せたらいいなと。必ずしもポケモンバトルでの強さとは違うわけですが、図鑑を読み込んで解釈していくといろいろ発見できると思うので、ぜひそのあたりも楽しんでいただければと思っています。

今後も登場ポケモンは増え、それによってAIも進化していく

――ちなみに、今後はどんな新要素や展開を予定しているのでしょうか。

鈴木:『ポケモンコマスター』に登場するポケモンフィギュアの種類は、現在のところ103種類なんですけど、これからどんどん増えていきます。増えることで、現在いるポケモンたちが急に強くなったりすることもあるかもしれません。

 今まではあまり強くなかったけど、すごく使えるようになるとか、そういうところも含めて、アップデートでいろいろな可能性があると思うので、楽しみにしていただけたらなと。

 プレイヤーの皆さんは多分おわかりだと思いますけど、今のところ何か足りないんじゃないかなという要素がありますよね(笑)。それに関しては、今後順次開発して追加していく予定ですので、遊び続けてくれるとうれしいなと思っています。

伊藤:AIに関しても今後さらに強くしていきたいと考えています。強い手があればどんどん反映されていくので、ポケモンの種類が増えるとともに、AIもさらに進化できたらいいなというのは、AIチームとよく話していますね。

――このゲームは対人戦も盛り上がると思うんですけど、今後公式大会のようなものは予定されているのでしょうか。

三浦:もちろん野望としてはあります(笑)。いつかやってみたいですね。

鈴木:プレイヤーと開発者が直接対戦できるようなイベントもできたらいいなとは思っています。

大山:僕はランクマッチによく参加しているので、もしかしたら対戦したことがあるプレイヤーの方もいるかもしれません(笑)。ちなみにルームマッチだと、直接目の前にいる人と対戦できてすごく熱くなれるので、もっと盛り上がってくれるといいなと思っています。

――それでは最後に、『ポケモンコマスター』を遊んでいるプレイヤーや気になっているファンへ向けてメッセージをお願いします。

伊藤:今回はAIという目新しい要素が入っているんですけど、ぜひAIを仲間として活用しながら自分も強くなっていって、このゲームを楽しんでほしいなと思っています。開発サイドとしては、これからいろいろな更新や展開を準備しておりますので、ぜひご期待ください。

三浦:ルール的にはシンプルなゲームではあるんですけど、今プレイしていただいている方は、変なゲームというか、不思議なプレイ感のあるゲームだなと感じている人もいるかもしれません。

 でもそこは、噛めば噛むほど的な作りになっていますので、今後の拡張性も含めて長い目で見て遊んでもらえるとうれしいなと思っています。

大山:Twitterとかを見ていると凹むことも多いですけど(笑)、だんだん理解してくれている方も増えているみたいで、そこはすごくうれしいですね。

 もう少し遊び続けてもらえたらおもしろさが伝わるのに、というもどかしい思いもありますが、ボードゲームは人によって向き不向きもあるとは思うので。

 でもボードゲームにあまりなじみのない方に、入門というか始めるきっかけになってくれたらいいなというのはあります。あとは先ほども言ったように、対戦が熱いのでぜひ楽しんでいただければと思っています。

鈴木:このゲームは自分がスポーツ監督になったような感覚で、好きなポケモンをどういうチームにしたら一番活かせるのかというのを考えるのがおもしろいところだと思うんですよね。

 それをAIがちゃんと読み取ってくれて、プレイヤーの思惑通りに動かしてくれるはずなので、それがずばりハマった瞬間というのをぜひ味わってほしいなと。

 相手のデッキによっては、相性が悪いということもあるのですが、その時は交代して別のポケモンで、というところを含めていろいろなデッキに対応しながら遊ぶというところに戦略性があるので、まずは相手を見て人事を尽くして、あとはAI先生におまかせすると(笑)。

 それは相手のデッキがわかっている時の話で、通信対戦ではわからないまま相手と戦うことになるのですが、今どんなデッキや戦術が流行っているのかを調べる楽しみもあると思うんです。

 一戦一戦勝ったり負けたりすると思うんですけど、そこは重く考えずに気楽に遊んでもらって、“これっておもしろいかも”と感じて遊び続けていただけるとうれしいですね。

(C)2016 Pokémon.(C)1995-2016 Nintendo / Creatures Inc. / GAME FREAK inc.Developed by HEROZ, Inc.

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