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2016年8月27日(土)

襟川陽一(シブサワ・コウ)氏の野望には“スマホゲームでの成功”も! 氏が語る今後のゲームの未来とは?

文:電撃PlayStation

 8月24日~26日まで行われた日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2016”。当イベントでは、コーエーテクモゲームスの代表取締役会長 襟川陽一(プロデューサー名 シブサワ・コウ)氏による講演が行われました。ここからは根強い人気を誇る『信長の野望』や、発売が待たれる『仁王』など、数々の人気タイトルを生み出してきた襟川氏が語る、経営学や今後のゲームへの展望などをレポートしていきます。

『信長の野望』のルーツは染料の工場にアリ

 先日配信された『仁王』β体験版にハマってしまい、寝不足状態で登壇した襟川氏。まずは襟川氏の生い立ちと、コーエーテクモゲームス(当時 光栄)の成り立ちを語ります。

『CEDEC2016』
▲襟川陽一氏。
『CEDEC2016』

 襟川氏の父が経営していた染料工業薬品の卸問屋の倒産をきっかけに、「父親が断念した会社経営を自分もやりたい」と考え、光栄を起業したと語る襟川氏。しかし経営はあまり順調には進まず悩んでいたところ“マイコン”と呼ばれるコンピュータが発売され、このマイコンを利用して財務管理や見積もりのプログラムなどを作っていたという。

『CEDEC2016』
▲1979年に発売されたパーソナルコンピュータ。奥様からのプレゼントで、今でも大事に保管しているとのこと。

 その頃からプログラム作りにハマり、そこから生まれたのが『川中島の合戦』『信長の野望』といったシミュレーションゲーム。当時は通信販売が主流だったためユーザーと直接やりとりすることも多く、手紙や電話での激励が仕事への意気込みへとつながっていったようです。そして、光栄は稼業の再興からゲーム開発へとシフトしていきます。

『CEDEC2016』
『CEDEC2016』
▲『信長の野望』は当初のセールスは低調だったが、口コミが広がり人気作になっていったとのこと。

 経営方針としてはIPの創造と展開を重要視する襟川氏。当初は歴史シミュレーションゲームとして発売された『信長の野望』をオンラインゲームやソーシャルゲームへと展開、他社の人気IPとコラボさせることでより強いIPへと成長させてきました。

 また、ゲーム以外にもメディアミックスやタイアップ、地域との交流によって自社のIPを幅広く公開。ゲームをプレイしない層にもIPを浸透させることに成功しているようです。

『CEDEC2016』
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▲横浜市とのタイアップ展開。諸葛亮公明による振り込め詐欺注意ポスターはとくにお気に入りとのこと。写真右に写っているのが襟川恵子夫人。

襟川氏が思い描くゲームの未来

 『ポケモンGO』などでさらに広がっていくスマホゲーム市場、海外でのPS4の高い支持率、そして今年発売される“PS VR”など、ゲーム業界はさらに発展していくと予想する襟川氏。ゲーム開発の環境も大きく様変わりし、IPを意識したゲーム制作に他社もシフトしていくことで、さまざまなタイアップが行われるなど、業界の垣根を超えたグローバル展開の実感を語ってくれました。

『CEDEC2016』
▲これまで主流だったアーケードゲームや家庭用ゲームに加え、デジタルビジネス分野の拡大に注目。『DEAD OR ARIVE』を例に、これからの課金要素のあり方について語る場面も。
『CEDEC2016』
▲ゲーム開発の高騰化にも言及。効率よくゲーム開発を行うためのノウハウやゲームエンジンの開発など、これからはコストダウンのための技術力向上も重要になってくるとのこと。

 これまでのCG表現は日本ではアニメ調、海外ではリアル調が主流だったと語る襟川氏。しかし、現在では“クールジャパン”として海外でもアニメ調のCGが注目されたり、日本でリアル調の3Dアクションゲームの人気が高まったりと、CG表現のグローバル化についても言及していました。

『CEDEC2016』

 また、今流行りのゲーム実況について、襟川氏はゲームが“遊ぶもの”から“見るもの”へ変化してきたと分析。『ポケモンGO』などのスマホゲームの普及により、幅広い層がゲームをプレイするようになった現在について、ゲームへの価値観や課金への考え方など、プレイヤーの人生に影響を与えることを前提にクリエイトすることが重要と語りました。

『CEDEC2016』
『CEDEC2016』
▲スマホとゲーム機のマルチプラットフォームも積極的に取り入れていくべきと襟川氏。ARやVRといった仮想現実はゲームとの親和性が高いと分析しており、自社IPをどうやって仮想現実とマッチさせていくか考案しているようです。
『CEDEC2016』
▲これまで同様、マルチプレイを意識したゲーム作りだけではなくシングルプレイも重要な要素。『信長の野望』の次回作はAIが強力になっており、手ごたえのある戦いが楽しめるとのこと。

 さらに、自身が理事長を務める科学技術融合振興財団(FOST)の活動についても解説。VR酔いについての研究など、科学技術の融合を促進させる助成事業とその成果について説明してくれました。

『CEDEC2016』

プロデューサーであるシブサワ・コウとして

 プロデューサーのシブサワ・コウとしては、歴史に興味を持ったから『川中島の合戦』を制作したように、好きなことに一生懸命に取り組んでほしいと襟川氏。さらに、会社経営の経験を元にした経営要素の組み込んだことでIPがさらに成長した例を挙げ、実体験の重要性についても語ってくれました。

『CEDEC2016』
『CEDEC2016』
▲襟川氏からは部下のことは同志だと考えているという印象的な言葉も聞けた。
『CEDEC2016』
▲品質や納期を“管理”することも。一定の品質を保つために“管理”することの重要性を説いた。
『CEDEC2016』

 自身の経験からプロデューサーは経営者であり、利益に責任があると厳しく話す場面も。コーエーテクモゲームスでは役員がプロデューサーを兼任し、ゲームのプロとして、良いゲームを作ってユーザーに楽しんでもらって初めて“仕事の達成”という信条でゲーム開発を行っているとのこと。

『CEDEC2016』
▲成功すると羽振りがよくなって夜の街に繰り出す人も多いが、キチンと家庭に還元して幸せな家庭を築くことも重要と力説。

 最後に自身の代表作となった『信長の野望』にかけて、自分自身の野望をもって何事にも取り組んでほしいと語りかけ、セッションは終了しました。

『CEDEC2016』
▲来場者の「襟川氏の現在抱いている野望は何か?」という質問に対して、「今後発売される『信長の野望』『仁王』、そしてスマホゲームの成功が野望」と語ってくれました。

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