2016年12月31日(土)
PS4で遊べる『キングダム ハーツ』。野村哲也氏への『KH2.8』インタビューを掲載
スクウェア・エニックスが2017年1月12日に発売するPS4用ソフト『キングダム ハーツ HD 2.8 ファイナルチャプタープロローグ』。『KH』シリーズディレクターを務める野村哲也氏へのインタビューを掲載します。
本作は、完全新作のプレイアブル作品『KINGDOM HEARTS 0.2 Birth by Sleep -A fragmentary passage-』と、新規HD映像作品『KINGDOM HEARTS χ Back Cover』、そしてHDリマスター作品『KINGDOM HEARTS Dream Drop Distance HD』と、『キングダム ハーツ III』へつながる3作品を収録したスペシャルパッケージ。『キングダム ハーツ』シリーズのいまだ語られていない物語を、PS4で楽しむことができます。
シチュエーションコマンドに熱いこだわりが!
――『KH2.8』はシリーズ初のPS4作品となりますが、手ごたえはいかがですか?
どうしてもHDリマスター作品ということで軽視されがちなのですが、『KH2.8』はスタッフ一同かなりの力を注いで作り上げました。『KHIII』の進行に影響が出ない範囲で、ギリギリのいいボリュームに落とし込めたと思います。
――『KH0.2』についてお聞きします。ゲーム中、『KH バース バイ スリープ』に出てきたいくつかのワールドが闇に堕ちた状態で出てきますね。
あれは、1作目からあった設定にそって作りました。『KH0.2』に着手した当初、スタッフは『KH バース バイ スリープ ファイナルミックス』のシークレットエピソードの延長線上でマップを作ろうとしていました。
そうではなく、僕のなかではあのように闇に堕ちたディズニーのワールドの構想があったんです。新規マップの制作はボリュームとのバランス面で苦労しましたが、似たようなロケーションが続いてもおもしろくないですしね。
●動画:『キングダム ハーツ HD 2.8 ファイナル チャプター プロローグ』Final Trailer(2016)
――以前に試遊したときも感じましたが、どのマップも高低差が感じられる作りでした。
そこは特徴の1つです。2Dの全体マップを見るとそこまで広くないように感じるのですが、実際に歩いてみると迷うほどの広がりが感じられます。開発チームのマップ構成力は優秀なので、このあたりは安心してまかせていますね。
――『KH0.2』のバトルシステムやグラフィックは、『KHIII』に近いと言ってもいいのでしょうか?
システムまわりは『KH0.2』と『KHIII』で根本的に違う部分がありますが、ひとまずPS4クオリティの『KH』を感じられるデキにはなっているかと。PS4のシリーズ作としては『KH2.8』が初出なわけで、超えるべきラインは一発でクリアしないといけなかったのはプレッシャーでしたね。
とくにグラフィックについては、シリーズで初めてライティングを採用したので、ヴィジュアルワークスに指導をもらうなどしてかなり試行錯誤しました。
従来はライティングを使うとディズニーの雰囲気が出せないと思って避けてきましたが、現行のハードのスペックなら雰囲気を損なわずにできると思いました。まだまだ慣れ始めたところなので、今後はさらに向上すると思います。
――バトルシステムのシチュエーションコマンドは、過去作のリアクションコマンドとコマンドスタイルを組み合わせたような仕組みでおもしろかったです。
あれはなかなか試行錯誤がありました。PVでシチュエーションコマンドを見たとき、画面中央に△マークが出るのがQTE(クイックタイムイベント)のように見えてしまっていました。
でも、コマンドウィンドウのそばに表示すると使用可能になったかわかりにくいという意見も出ていて、どうしたものかと。最終的には“STANDING BY”という英字を出す形で落ち着きました。
“押せ”ということじゃなく“押せるようになりました”ということなので。
――シチュエーションコマンドは、複数の条件を満たしているとそのぶんのコマンドが並んでいくんですね。
その仕様は『KHIII』の制作初期から入れようと考えていました。いろいろなコマンドを発動可能にして、時間制限のあるなかでプレイヤーがどれを使うか選ぶ形にしたかったんです。
『KHII』のリアクションコマンドの進化形として、バトルに幅を持たせるシステムになったと思います。『KHIII』では、このシステムが大きな軸になると思っています。
――“ファイガン”や“サンダガン”といった上位魔法も、シチュエーションコマンドで登場するようですね。
『KH0.2』はシステムをギュッと詰め込んだ内容なので、操作キャラクターがいきなり上位魔法を使えますが、『KHIII』に同じ内容があっても、いきなり使えるようにはならないと思います。
――『KH0.2』をプレイしていて、まさかシャドウにあそこまで苦しめられるとは思いませんでした(笑)。
闇の世界の影響でシャドウも力が増しているということもあります。E3の試遊でシャドウの集合体のボスと戦えましたが、あれだけ大量の敵を動かしながらボス戦を描けたのは、やはり現行機のスペックのおかげですね。
――キャラクターのデコレーションはシリーズ初で、目新しい要素でした。
限られたボリュームのなかでも遊びごたえのあるものをと思って、スタッフが最後に駆け込みで考案してくれました。けっこうキャラクターの見た目が変わるので、アイテムをたくさん集めて自分だけのアクアをデザインしてください。
――デコレーション要素は『KHIII』にも導入されるのでしょうか?
今回の制作でゲーム内に入れられることはわかりましたが、『KHIII』に導入するかというと……優先度はそのほかのほうが高いので時間次第ですが、『KH0.2』の反応を見て考えます。
――アクアと王様の出会いや共闘も公開されました。
闇の世界で王様とアクアが出会うこと自体は、これまでの流れを把握されているファンのみなさんもわかっていたと思います。アクアは王様と出会うまで1人ぼっちなので、シナリオ上のセリフを書くのがたいへんでした。王様が登場したあとは2人の会話が弾みます。
――ファイナルトレーラーのなかに、テラとテラ=ゼアノートの姿もチラリと見えましたが……。
詳しくはプレイしてのお楽しみですね。ちなみにあのシーンのテラは、オフィシャルコンサート“ファーストブレス”の朗読劇で見せたナミネとの会話のあとという、つながりになっています。
――同じくファイナルトレーラーにソラ、ドナルド、グーフィーの姿も確認でき、ファンにとってはうれしい瞬間だったと思います。
いまだに、次世代機で制作したイベントシーンがちょっと見慣れないところではありますが、それもこれからだと思っています。今までの『KH』シリーズは、1作目で作ったキャラモデルや背景モデルが制作ベースになっていました。
でも『KHIII』はさすがにハードスペックが違いすぎるので、イチからすべて作り直さないといけなくてたいへんです。
――イベントのなかでリクと王様の新衣装に関するシーンもあり、『KHIII』でのお披露目が楽しみです。
すでに衣装デザインは完成していて、いい感じに仕上がっていますよ。ここだけの話、『KH キー』の3周年イラストでリクが着ていた衣装がベースになっています。
新キャラクターは一発で見た人の印象に残るように!!
――『KHBC』は完全新規のシアター作品ですが、イベントシーンを作るうえで意識したことは?
予知者たちは全員仮面で顔が隠れており、マスターとルシュにいたっては口元すら映りません。つまり表情が見えないということなのですが、その状態でもキャラクターに魅力を感じてもらえるよう個性付けするのは意識しました。
メインキャラクターのほとんどが、初めて登場して初めて声がつくキャラクターばかりなので、この短い作品内でユーザーの方に感情移入してもらわなければいけませんから。
――マスターの会話シーンは、今までの『KH』シリーズにはないノリで驚きました(笑)。
あれはもう、マスターがそういう性格なので仕方ありません(笑)。
――軽い口調が目立つマスターですが、一方で考えが読めないという不気味さもありました。
いかにもクールで計算高いようなキャラクターは、ちょっとわかりやすすぎるかなと。あれこれ考えた末、僕のなかの“とてつもなくすごいヤツ”を具体化したのがマスターです。
きっと心底すごいヤツって、何事に対してもあんな調子でふるまうんじゃないでしょうか。
――マスターの個性については、キャストである杉田智和さんの演技力も影響していると思います。
キャストはかなり悩みました。マスターの人物像はあのようにすると決めていたので、あとはそういう芝居をできる人を探しました。
会話の間の取り方などをしっかりこなせる方と考えたときに、適任なのは杉田さんかなと。収録は声優さんごとに個別で行いましたが、それを感じさせない会話の間になっていますよ。
――ユニークなセリフも多く見られましたが、声優さんのアドリブもあったり?
アドリブはありません。なので、セリフは台本どおりです。ただ、1つだけアセッドのセリフで台本どおりじゃないものがあります。
マスターとアセッドの会話シーンで、アセッド役の方がセリフをかんだのですが、シチュエーションに合ってておもしろかったので、そのまま使わせてもらいました。
――声や動きがついたことで、とくに予知者に対するユーザーの印象が変わりそうですね。
『KH キー』や『KH アンチェインド キー』のユーザーさんのなかで、予知者の人物像が固まっていたかもしれないので、『KHBC』を観たあとの反応は自分も気になります。もしかしたら、アセッドは嫌われちゃうかもしれませんね……。
――トレーラーでも、アセッドは感情を爆発させているシーンが見られましたからね。
ただ、ストーリーを冷静に追えばわかると思うのですが、じつはアセッドはずっと正論を言っているんですよ。『KHBC』のシナリオを書くうえで、すべてのキャラクターが極端な悪者にも善者にも見えないように気を配りました。
しかし、どうしてもアヴァだけはいい子になってしまうんですよね(笑)。まあ、物語の引き金をある程度引くのもアヴァなので、そういう意味では罪がないとは言い切れないのですが。
――『KH アンチェインド キー』ではストレングスバングルでギルトを力に変えたりと、“罪”が1つのキーワードになっているようですが?
察しのいいユーザーさんなら、そのあたりも気づいているかと思います。壮大な前フリは、すでに始まっているわけです。
――エフェメラも少しずつクローズアップされていますが、今後『KH アンチェインド キー』で彼の出番は増えていくのでしょうか?
エフェメラとスクルドは『KH アンチェインド キー』のシーズン2でかなり重要になってきます。『KH キー』のお話は完結して、『KH アンチェインド キー』は別軸のお話になっているのですが、そのあたりの関係性もシーズン2で語られますので、続報をお待ちください。
――『KH アンチェインド キー』の物語が今後も続いていくということは、その裏側の物語として、例えば『KHBC』の続編が作られるという可能性も……?
今のところその考えはありません。予知者たちについては、今後の本編や『KH アンチェインド キー』で掘り下げていく予定です。
――『KHDDD』の原型となる『KH3D』は4年前の作品ですが、何か当時の思い出はありますか?
『KH3D』は自分にとって、アクション面でもシナリオ面でもターニングポイントとなる作品でした。アクション面ではフリーフローアクションでダイナミックなジャンプを試してみたかったし、シナリオ面ではちょっと軽いノリのものを入れたかったりと。
その後の『KH』の方向性を決めるタイトルでもあったので、僕のなかでは『KH3D』から『KHIII』が始まっていました。
――HD版の追加要素として、3体の新スピリットが加わりましたね。
ちょっとしたにぎやかし要素です。ポンダニャン、ビイトッポイ、ユアガリペンギンの3体は、いくつかある案のなかからチョイスしました。ユアガリペンギンとか、実際には湯上がってないあたりがおもしろいです(笑)。
――ゲーム中には50体以上のスピリットが登場しますが、野村さんのお気に入りは?
やっぱり、ワンダニャンでしょうか。毎回、新しい敵種族を生み出すときはベースとなる最初の1体(ハートレスならシャドウ、ノーバディならダスク)を描くのですが、ドリームイーターの場合はワンダニャンがそうだったので、思い出深いです。
少し前にアルトニア(スクウェア・エニックスのオフィシャルショップ兼カフェ)に展示するために原画を探していて、そのときにワンダニャンの原画も発見したのですが、ハッキリ言って落書きレベルでした……。よくあそこから最終的にあんなにかわいくなったなと驚いています。
――『KH3D』のときはARカードで手に入る専用スピリットがいましたが、『KHDDD』ではどういう扱いに?
ARカードで仲間になったスピリットは、すべてゲーム内で手に入るようになっています。
――2017年の3月には『KH HD 1.5+2.5』も発売されますが、ゲーム部分で変わったところはあるのでしょうか?
内容は過去に出たHDリマスター2作と同じです。PS4の1枚のゲームディスクに6本も収録されているので、より遊びやすくなっています。
●動画:『キングダム ハーツ - HD 1.5+2.5 リミックス-』タイトルアナウンスTrailer
――『KH HD 1.5+2.5』用にパッケージイラストを描き下ろすといったことは?
しないと思います。というのも、『KH1.5』『KH2.5』『KH2.8』のパッケージは3つのイラストがつながっているので、新たに描き下すと意味がつながらなくなってしまいます。
“なんのこと?”と思われる方は、3つのイラストを並べてソラのポーズや背景を見てみてください。
――『KH2.8』が発売されたあとは、いよいよ『KHIII』を待つのみとなるわけですが。
開発は先程お話しした通り、モデルをすべてイチから作り直しという壮大なボリュームに苦戦はしていますが、進めてはいますのでご安心を。新情報を発表したい気持ちは山々なのですが、今はタイミングを練っているところです。
2017年は『KH』シリーズ15周年で、コンサートに代表される記念イベントが盛りだくさんなので、できればそういう機会も活かして『KHIII』の情報も絡めていきたいですが、まだ決まっていませんね。おまたせしていて申し訳ないですが、もう少しお待ちください。
――『KH2.8』の発売を楽しみにするファンに、メッセージをお願いします。
『KHDDD』は『KH3D』未経験の方はもちろん、すでに遊んだ方もストーリーを思い出す意味でプレイしていただければと。できればシークレットムービーまで見てから『KH0.2』をプレイするのがオススメです。
『KH0.2』は『KHIII』を待ち望むファンにこそ、体験してもらいたい内容になっています。『KHBC』は本編とはやや切り離されたお話になっているので、どのタイミングで鑑賞しても楽しめると思います。
タイトルにもあるとおり、『KH2.8』はまさに最終章の“プロローグ”です。『KHIII』の物語は、もう始まっているんですよ。
【『キングダム ハーツ HD 2.8 ファイナルチャプタープロローグ』注目記事】
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