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2018年1月8日(月)

【電撃PS】『勇者のくせになまいきだ。』のコラボの考え方。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.651(2017年11月23日発売号)のコラムを全文掲載!

第120回:コラボを越えて

 最近、なぜか時代物ばかりに触れる日々が続いています。きっかけは、後半戦に入ってさらに盛り上がってきた大河ドラマの「おんな城主直虎」です。

 のちの名将、井伊直政となる虎松が、井伊万千代を名乗り、徳川家康のもとで出世街道を歩きはじめる展開がもう面白くて面白くて。

 菅田将暉さん演じる井伊万千代は、知性を感じさせながらも危なっかしい熱血漢なのですが、彼が持ち前の機転で周囲に認められていくサ クセスストーリーが見事なのです。

 で、そんなタイミングで、映画「関ヶ原」の公開が直前となり、予習のためにと司馬遼太郎さんの原作を読み始めたらこれがまた止まらないくらい面白い。「おんな城主直虎」ではまだ元服前の直政が、「関ヶ原」ではすでに徳川四天王の一角として八面六臂の大活躍。

 小姓時代に直政を子ども扱いしていた武将、本多忠勝と肩を並べ、西軍調略に駆け回っているわけです。いやー、面白い。

 この2つの作品がさらに呼び水となり、よしながふみさんの漫画「大奥」も読み返しました。この漫画の舞台は、通常の“女の園”である大奥ではなく、男性が短命で死を迎えてしまう病が流行し、男性の人口が女性の4分の1になってしまった世界の大奥です。

 つまり、“男の園”となった大奥と、彼らと交わることで世継ぎを成す“女将軍”が、幕府や日本を切り盛りしていくお話なのです。

 これがまた最高に面白い。女将軍たちは、男性比率が著しく低い世界で、いかにして15代に渡る徳川幕府を継続させていったのか。厳然たるフィクションの設定のなか、しかし史実に基づいた展開もしっかりと織り込みつつ、極上のエンタテインメントへと昇華されているのです。

  ふと思うのですが、「おんな城主直虎」「関ヶ原」「大奥」、期せずしてこの3作品を同時並行で体験している僕は、これらの作品を「個別」に味わう以上の興奮を、感じている気がします。

 「おんな城主直虎」の舞台は、家康が天下を獲る遥か前、信長が生きている時代です。「関ヶ原」は、秀吉亡き後、家康の天下獲りがそこまで見えている時代。そして「大奥」は、天下を獲った家康が徳川幕府を開き、徳川家を存続させるためにあらゆる手管を使っていく物語。

 別の作者が、別のアイデアと視点で、別の時代を描いているにも関わらず、「歴史」というさらに上位の大きな流れのうえでは、出来事やキャ ラクターが、なんとなく繋がって感じられるのです。これって、ひとつの作品からだけでは決して味わえない作品の楽しみ方なのではないかと思うのでした。

 皆さんは、マーベル・シネマティック・ユニバース、通称MCUをご存知でしょうか。「アイアンマン」や「マイティ・ソー」、「アベンジャーズ」や「スパイダーマン」など、マーベル・コミック原作の映画のスーパーヒーローが、同じ世界線上で登場したりする作品群の総称です。

 僕はこのMCUといういわば“くくり”を知らなくて、数年前に「アントマン」という映画を観たときに、どうも他の映画(確か「アベンジャーズ」)のヒーローが、当たり前のように登場していることに違和感を感じ、調べてみたら、あ、そういうことなんだと学んだ次第。

 ちょっと前に観た「スパイダーマン:ホームカミング」も、いきなりアイアンマンが登場して、え、そんな設定だったっけ? と思い、そうか、これもMCU作品なのか、と思ったのでした。

 ゲームに限らずですが、「コラボレーション」ということがよく行われます。本来は、異なる分野の人達が協業し、新たな発想の何かを生み出そうとする試みのことですが、ことコンテンツ業界では、AというゲームのキャラクターがBというゲームに登場する、といったようなことを指すことが多いと思います。

 実は僕、『勇者のくせになまいきだ。』シリーズでも、いくつかコラボのお話をいただいたことがあったのですが、全部お断りしてきました。

 理由は二つあって、そもそも『勇なま』って、ネタの集合知みたいな側面もあるので、その時点でセルフコラボさせてもらっているようなものだしコラボとか滅相もない……という思いがあったのと、もう一つは、コラボの本懐は、1+1が2以上になることにこそあるのでは、という気持ちが強かったからです。

 これは、単純なキャラクターの相互コラボでは達成できないと思っていて、最初から「それ」を想定した「世界」を一緒に用意しないと難しい。やるならそこまでチャレンジしたいのですが、なかなか利害や双方が感じる費用対効果が一致しないのです。

 MCUの作品群は、そのあたりを莫大なお金をかけてやり切っている。結局全部観ないと100%は楽しめない、と感じさせてしまうデメリットもなくはないとは思うのですが、他に類を見ないパワープレイで体験を浸透させています。

 それとは別のやり方で、最初に挙げた時代劇群のように、「偶然起こるコラボによる新体験」、みたいなことが狙って仕込めないかなあ……と、これまた時代劇漫画の傑作、「へうげもの」を読みながら妄想するのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.654』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年1月11日
■定価:694円+税
 
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