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2018年5月15日(火)

【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー第5回:発売後だからこそ語れる『MHW』の世界

文:電撃PlayStation

 電撃PlayStationで連載されているPS4用ソフト『モンスターハンター:ワールド』の開発者インタビュー連載企画。ここでは、電撃PS Vol.656(2018年2月8日発売号)に掲載された“第5回:発売後だからこそ語れる『MHW』の世界”を全文掲載する。

【電撃PS】『モンハンワールド』インタビュー連載 バックナンバー

『モンスターハンター:ワールド』

 お話をうかがったのは、エグゼクティブディレクター/アートディレクターの藤岡要氏、ディレクターの徳田優也氏の2人。開発の苦労話やヴァルハザクを含めた古龍についてなど、明らかになるエピソードに注目してほしい。

『MHW』誕生からユーザーの手に届くまで

E3 2017からリリースまですべてが緊張の連続だった!

――先日、ついに『MHW』が発売されました。開発当初から振り返って印象に残っているできごとは?

藤岡要氏(以下、敬称略):ここまであっという間だったので、すべてが思い出深いですね。個人的に印象に残っているのは、はじめて『MHW』の情報を世界にお披露目したE3 2017です。今まで作ったものをどう見せていくのかや、どう受け止められるかという不安や期待が入り混じっていました。実際にPVを公開してからのユーザーさんの反響も含めて印象に残っています。

 じつは『MH』シリーズの新作の第1報を海外で発表するのは、初代『MH』以来のことなんですよ。ただ、当時は第1報以来、情報をまるで出さなかったので、発売まですべてを逆算して海外でシリーズの新作を発表すると決めたのは、本作が初になります。それまでの準備をすべてつぎ込んでE3 2017での発表となりました。

――『MHW』は、なぜE3 2017で第1報を発表することになったのでしょうか?

藤岡:『MHW』が国内外のAAAタイトルと同じ土俵に上がっているものとして受け止めてもらえるかを確認したかったのが大きいですね。事前の準備やPVの作りなどを工夫して、海外であってもインパクトがあるタイトルとして受け止められるように心がけました。それでも実際どう見られるかはわかりません。ここで海外のユーザーさんに『MHW』が見向きもされないと、その後の展開にも影響があるので緊張しましたね。

――E3 2017の時点で『MHW』の完成度はどのぐらいだったのでしょうか?

徳田優也氏(以下、敬称略):ゲームの中身としてはほぼ完成していました。ですから、PVを作る際はどこを抜粋して何を見せるのかに注力しました。先日あらためてすべてのPVを見直しましたが、やはり最初に公開したものが印象に残っています。

藤岡:E3 2017で公開したPVは、徳田をはじめとしたスタッフと何を見せるのかを入念に話し合いました。その結果、みなさんがご存知の武器のアクションではなく生態系や環境利用を見せるPVにしました。

『モンスターハンター:ワールド』
▲E3 2017で公開された1st PVは、スリンガーを使った移動やアイテムの現地調達など、本作ならではのシーンが中心。ハンターが武器を抜いたシーンはほんのわずかだった。

――武器を使ったアクションをPVにあまり盛り込まなかったことに、不安はなかったのでしょうか?

藤岡:E3 2017では、実際のプレイを見せながらのプレゼンも行うと決めていたので、武器を使ったアクションはそこで見せられると考えていました。

徳田:武器を使わなくてもいろいろな選択肢があることや、密度のあるフィールドで狩りを行うといった『MHW』でやりたかったものを見せることに重視しました。ただ、何を作りたいのかが伝わりにくい部分だったので、どういったシーンをPVに盛り込むのかは悩みましたね。

藤岡:新たなコンセプト中心でPVを構成して『MH』としてユーザーに受け取ってもらえるかは重要でした。武器を使ったモンスター相手の立ち回りを見せて『MH』の新作と思ってもらうのは簡単ですが、それはしたくなかったんですよ。PVを見て「この『MH』はどうやって遊んだらいいんだろう?」とか「作り込まれた『MH』が出てきたな」と思ってもらいたかったんです。

徳田:スタッフも乗ってくれて、望んだ形でのプロモーションができたと思っています。

――PVと同じくプロモーションの核になった、実機プレイでのプレゼンについても聞かせてください。

藤岡:正直PVだけで「今回の『MH』はこんなことができます」と見せても、説得力やリアリティがないと思っていたんですよ。だから、実機プレイでリアルタイムで動いているものをちゃんと見せたかったんです。それに加えて、先ほども話した武器を使ったアクション部分を見せるのが実機プレイによるプレゼンの目的です。

徳田:プレゼン担当には、自分が鬼教官になってみっちりプレイの流れを仕込みました(笑)。本作はモンスターの初期配置などにある程度のブレがあるので、毎回同じプレイができず、何かがうまくいかないことがあります。これは本作の味でもあるので問題ないのですが、そのうまくいかなかった部分をプレゼンでリカバリーできるようになるまで、スタッフにがんばってもらいました。

――E3 2017を乗り越えたあとの各地でのイベントは、スムーズに準備を進められたのでしょうか?

藤岡:そこからもたいへんでしたね。はじめてユーザーさんに触ってもらったGamescomも緊張感がありました。自分たちがいいものを作ったと思っても、実際にプレイした人からいい反応が得られなければ、ゲームの方向性から立て直す必要があったので。

 そしてやはり大事だったのが『MH』ファンの多い日本でのTGS 2017です。目の肥えたユーザーさんに新しい『MH』が受け入れてもらえるかはとても重要なので。どこも緊張していたので、すべてのイベントが高いハードルに見えていたこともありましたね(笑)。

徳田:PVで公開するものや実機プレイできる内容など、何をフックにユーザーをひきつけるかをイベントごとに考えました。自分が初代『MH』のPVを見てカプコンに入ったこともあり、PVは自分が当時感じたワクワク感を持ってほしいと、とくに力を入れましたよ。

――海外のユーザーと日本のユーザーで、何か違いを感じられましたか?

藤岡:とくに印象深いのは、北米でカジュアルにゲームを楽しむ人が増えていたことですね。『MH』はもちろん、ゲーム自体にもあまりなじみのないユーザーさんが、3時間も並んでプレイしてくれているといったことがありました。

徳田:これはマルチプレイのできるゲームの強みだと思うのですが、1人くらい藤岡が言ったような初心者がいてもクエスト自体はクリアできます。ですから初心者さんもなんとなく来て、モンスター相手に好きなように武器を振ってクエストはきちんとクリアしたという満足感を得る。というように『MHW』をプレイして楽しかった体験を持って帰ってくれるんですよ。

藤岡:日本でいうと『MHP 2nd』で爆発的にPSPを持っている層が増えたときのような、一気にゲームユーザーが増えた頃に近い印象を受けましたね。

“新しい狩り”であることのレベルデザイン

あえてストーリー上の壁となるモンスターを用意する

――世界中でのイベントのあとに実施されたベータテスト。ユーザーさんの反応はいかがでしたか?

藤岡:チュートリアルが充実していることもあり、みなさんすんなり『MHW』の狩りになじんでもらえたようです。おもしろいのが、太刀を使っている人もハンマーを使っている人も、みんな自分の使っている武器が強いと言ってくれるんですよ(笑)。

――環境を使って狩猟するというコンセプトは、ユーザーさんにどのように受け止められましたか?

藤岡:ベータテストの段階では、モンスターを見つけたらすぐに狩り始めるユーザーさんが多いと思っており、実際にそのとおりでした。なかでも日本のユーザーさんに多く見られた傾向ですね。

徳田:日本のユーザーさんは『MH』に慣れてますからね。『MHW』は知らなくても『MH』シリーズを知っているためか、自分の足でモンスターを探す人が多かったです。逆に海外のユーザーさんは、今回が初めての『MH』という人が多いこともあり、チュートリアルで示したとおりにプレイする人が多かったです。

――具体的に、海外のユーザーさんはどのように『MHW』をプレイされていたのでしょうか?

藤岡:痕跡を集めるように指示されたので集めて、もっと集めろと指示されたらもっと集めて、モンスターのもとへ誘導されるステップを体験していました。ある意味で海外のユーザーさんのほうが『MHW』らしい遊び方をしていた印象です。

――シリーズをプレイしたことがあるユーザーさんは、痕跡よりもモンスターが気になってしまうんですね。

徳田:痕跡を集める過程は、製品版ではよりていねいに段階を追ってチュートリアルにしていますので、自然と痕跡を集めてもらえると考えています。

――3回目のベータテストに登場したネルギガンテに対する、ユーザーさんの反応はいかがでしたか?

藤岡:強くて手ごたえがあるという声をいただいています。いわゆる『MH』らしい手ごたえのモンスターだと感じてもらっているようですね。

徳田:これまでのシリーズだと、こういった手ごわいモンスターを先行して触ってもらっても、そもそも操作がおぼつかないユーザーさんも多かったんですよ。とくに海外のユーザーさんに見られたケースですね。

 ただ3回目のベータテストは、チュートリアルに力を入れたうえ、ネルギガンテが登場する前に2回のベータテストを行っていたので、アクションとしてネルギガンテの討伐を楽しみながらも、手ごたえを感じてもらえたようです。

藤岡:欧州のメディアツアーでもネルギガンテに触ってもらったのですが、みなさんベータテストに触れているためか、すんなり狩りになじんでもらえたようでした。

『モンスターハンター:ワールド』
▲第3回のベータテストで挑戦できたネルギガンテ。アクションによっては、ハンターを一撃で力尽きさせるほどの攻撃力を誇っていた。

――最初ネルギガンテに歯が立たなかったのですが、慣るとなんとか立ち回れるようになりました。

徳田:ネルギガンテは、攻撃を受けた際にプレイヤーのミスがわかりやすいように設計しました。何度も挑むことで、プレイヤーがわかりやすく立ち回りを洗練できるモンスターになっています。

藤岡:TGSでビジュアルを見せたときには『MH』らしくない見た目という声もありましたが、動きやゲーム性を体感してもらえれば、『MH』のモンスターとして納得いくものになっていますよ。

徳田:全身のトゲが伸びたときに出す強力な攻撃も、地味に思っていた人もいるようですが、実際触るとまったく油断ができない攻撃だと理解してくれたことでしょう。

――ネルギガンテをあえて3回目のベータテストでのみ登場させたのは、まず『MHW』に慣れてからという意図があったんですね。

藤岡:正直『MHW』をはじめて触れるユーザーさんに、いきなり「ネルギガンテを討伐してみましょう」というのは手ごたえがありすぎます。ですから、まずはもっとベーシックな『MHW』の遊び方を知ってもらい、そのあとにアクション重視のネルギガンテに挑んでもらいたかったんです。

徳田:本作の特徴である環境を利用する狩猟は、本来そのフィールドに生息しているアンジャナフなどを相手にしたほうが活用しやすいです。そのため、まずはそういったモンスターだけを登場させ、最後のベータテストでネルギガンテを登場させました。

藤岡:じつは海外で『MHW』は、以前のシリーズよりも簡単なゲームになっているんじゃないかという質問があったんです。先ほどの環境を利用してもらうなどの理由から、意図的に難易度を抑えた部分があったのを心配されてしまいました。ネルギガンテは、そういった心配に対する、開発チームからの「安心してください」というメッセージにもなっています。

――製品版の話になりますが、実際プレイしていて下位はそこまで難しくはないという印象でした。

徳田:『MHW』では、難易度曲線をゆるやかにして、序盤で極端に難易度が上がることを避けています。そのため、最初は簡単に感じるかもしれませんね。ですが、最後は今までと同様、もしくはもっと手ごたえがあると思います。

 ベータテストやイベントでは、この難易度上昇の部分をベースにしたクエストを用意していたので、簡単だと感じた人もいたのでしょう。ですが、リオレウスやディアブロスの狩猟に挑んだユーザーさんは、第3回のベータテストより前の段階から手ごたえを感じてくれたと思いますよ。

――製品版でも、下位でリオレウスとディアブロスを狩猟する任務がありますよね。

徳田:そこも含めて、プレイ中に壁となる部分を意図的に複数用意しています。初心者は遠く離れていても突進を仕掛けてくるボルボロスにやられ、ボルボロスをギリギリで狩猟できる人にはアンジャナフが壁になるといった具合です。さらにアンジャナフを乗り越えると、リオレウスやディアブロスが待っていると。

――任務で狩猟対象となるモンスターは、いずれも特徴的な存在のものが多いですよね。

徳田:モンスターごとにレベルデザインとしての立ち位置を考えています。動きがゆっくりなドスジャグラスに始まり、直線的な突進で攻めてくるボルボロス。そしてモンスターの直線的な動きに慣れたころには、素早く変則的な動きで攻撃するトビカガチが登場して、そのあと空中にフォーカスしたパオウルムーが現れる。それぞれのモンスターがスタンダードな動きをするのか、変則的な動きをするのかを考えたうえで、どんなレベルの相手として登場させるのかを相談しました。

藤岡:ある程度『MH』に慣れている人が詰まるポイントは、アンジャナフの狩猟だと思っています。ですから、その直前で初登場するトビカガチの装備は、アンジャナフを狩猟しやすい性能を持っているのが特徴ですね。

『モンスターハンター:ワールド』
▲狙った相手の側面を取るように攻撃を仕掛けることが多いトビカガチ。木につかまる、滑空するなど、そのアクションは非常に独自性が強い。

上位クエスト達成のカギは日々のモンスターのフン集め!?

――レベルデザインといえば、下位と上位でかなり難易度の違いを感じました。上位は狩りの知識を身につけたハンターが挑むような難易度に設計してあるんですよね。

徳田:上位では装備の更新だけでなく、薬草などの消費アイテムを集めておくのも重要になります。ここで消費アイテムの確保をおろそかにすると、クエストに失敗しやすくなり、わずかな消費アイテムを失うという悪循環になってしまうんですよ。

 そこであらためて、生態マップで消費アイテムや素材の位置を確認したり、植生研究所ではじめてハチミツなどを増やす人も出てくると思います。こういったアイテムが必要になってくると、自然と任務以外のクエストや探索に行く機会が増え、ただ任務をこなしてストーリーを進めるだけでない、横軸の楽しみが広がっていく仕組みです。

――上位に入ったら、アイテムポーチのマイセットがどんどん増えていきました(笑)。

藤岡:素早く狩猟するために捕獲用のアイテムを持ち込むなど、状況に応じたマイセットが欲しくなります。なかでも、スリンガーこやし弾は上位になると重要度が上がります。「あの乱入してくるモンスターを追い払えないかな?」というときが来ますよ。

――たしかに任務の狩猟対象以上に危険なモンスターを見掛けると、スリンガーこやし弾が欲しくなりますね。

藤岡:足りなくなりやすい消費アイテムなので、テストプレイをしている人からモンスターのフンが手に入る機会が少ないという意見もありました。ただ、下位の段階からしょっちゅう見かけているはずなので、決して手に入りにくいと感じるような数にはしていません。

徳田:モンスターのフンは、モンスターが移動中に落とすものですからね。意識して集めていると問題ないのですが、スリンガーこやし弾が枯渇してしまい、すぐにまとまった数を集めようとするとかなりたいへんです。

『モンスターハンター:ワールド』
▲テトルーとの交流や納品依頼など、サブコンテンツを進めると狩猟生活がより快適なものに。これが、モンスターを狩る以外に横軸の遊びとしてゲームにボリュームを与える。

モンスターだけに頼らないゲームボリューム

――今回クリアまでかなりのゲームボリュームでしたが、モンスターの総数は、直近の『MH』シリーズと比較すると減っていますよね?

藤岡:ゲームデザインしていくうえで最低限必要なモンスターの数というのは、シリーズの経験からノウハウがあります。例えばモンスターが3体しかいないのに、先ほど話に上がった直線的なボルボロスなど、モンスターの特徴に合わせてプレイヤーにステップアップしてもらうような難易度設計は、いくらシリーズを手掛けてきた我々でも難しいです。

――さすがにモンスターが3体では、新しい狩りができたとしてもすぐに飽きてしまいそうですね……。

藤岡:レベルデザインの段階ごとに、何体モンスターが必要かを考え、何段階でレベルデザインをするかということが決まれば、掛け算で最低限必要なモンスターの数がわかります。このゲームを構成するために最低限必要なモンスターを制作したあとに、時間の許す限り新たなモンスターを作っていく流れです。

徳田:これまでキークエストと呼ばれていたものと、本作の任務でモンスターを狩猟する回数を比較すると『G』の付かないナンバリング作品と同等のモンスター数です。

――それ以上のボリュームを感じました。

徳田:『MHW』のゲームボリュームがあると感じてくれたのなら、それはストーリーを進める以外の部分、いわばゲームの横軸をモンスターだけに頼らなくてもいいというのが理由でしょう。探索して新しいキャンプを作ったり、モンスターの調査を進めたりと、いろいろな形で遊びを用意できました。

藤岡:リアルタイムデモもまじえて、ボリュームたっぷりにストーリーを描いている点も満足度につながっていると思います。また、本作ではフィールドやモンスターそれぞれに違う印象が得られるよう大きく差別化をしています。ですから、ただ狩りをしているだけでも繰り返し感は少ないように感じられるのでしょう。

――下位と上位という難易度の区分けは、レベルデザイン上で必要なものなのでしょうか?

徳田:ユーザーさんのなかには任務やキークエストといった、ストーリーを進めるのに必ず狩猟する必要があるモンスターを、一度狩猟したら素材が必要にならない限り狩らないという人もいます。ですが、せっかく作ったモンスターですし、我々としては何度も狩って遊んでほしい気持ちがあります。上位では装備の性能も異なりますし、きっと新しい発見がありますよ。そういったあまり狩猟してこなかったモンスターに目を向けてもらう仕組みとして、下位と上位という区分けは便利なんです。

藤岡:モンスターの位置づけや個性をきわ立たせ、細かくレベルデザインするというのが、本作で徳田がこだわった部分の1つになります。これにより、狩りを続けているだけで段々モンスター相手の立ち回りがわかってくるうれしさや、壁となる任務をクリアしたときの楽しさを合わせた、ゲームのボリュームと遊びの質がかみ合っていくのではないでしょうか?。

――レベルデザインを意識したうえで、モンスターの個性を重視するのが大事ということですね。

藤岡:ちなみに、自分はアート関係のディレクションをメインに本作に参加していますが、ビジュアル面だけでプレイヤーを飽きさせないようにするのは、なかなかに難しいんですよ。彩りをかなり散らさないと、同じ雰囲気に見られてしまいます。今回は各モンスターの個性的なゲームデザインに合わせてビジュアル面も調整でき、モンスターと出会うことにも新鮮さを感じられるようになっていると思います。

『モンスターハンター:ワールド』
▲『MH』シリーズのレベルデザインで重要となるのが下位と上位の区分け。同じモンスターでも下位と上位で狩ることで、新たな発見を感じられるように作られている。

ビジュアルの進化で描き方の変わった物語と生態系

物語に深みが増したのはデモと1人のスタッフの力!?

――上位と言えば、以前に本作では上位もストーリーの延長線として描くという話がありましたよね。

徳田:そうですね。ただ、アクション的には同じモンスターが上位でより手ごわくなるというのは自然なのですが、そこをストーリーとひもづけるには、どうすればいいのかという点には悩みましたね。

藤岡:同じモンスターを再び狩ることになっても自然に見えるかどうかは徳田と相談もしましたが、最終的にストーリーを担当しているスタッフにまかせました。

 じつはモンスターを作った際に強すぎるものができあがった場合、あえてそこからポテンシャルを落として下位のモンスターとして実装することがあるんですよ。ですから、下位のモンスターには我々が見せたいものがすべては入っていないことがあります。下位と上位の両方にストーリーを盛り込むと決まったあとも、同じモンスターを下位と上位の両方で出すところは変わりませんでした。

――ストーリーを担当された方は、これまでの『MH』シリーズにもかかわっていたのでしょうか?

藤岡:岡村という『MH4』のシナリオなどを手掛けていたスタッフが、本作のシナリオも書いています。今までもゲームルールを覚えてもらう部分にはストーリーを入れるようにしていたのですが、レベルデザインをしている企画担当者がストーリーも書いていると、どうしても労力的に物語に深みを持たせにくいので、専属としてストーリーを書いてもらいました。

徳田:今回は、その『MH4』での実績がある岡村に、リアルタイムで表現豊かなことができるという点を意識して、ストーリーを書いてもらっています。

――本作でも物語にグイグイ引き込まれました。

藤岡:リアルタイムデモをふんだんに使えるようになったことで、各シーンに自分の分身であるハンターがいるという描き方ができるようになったのが大きいですね。『MH4』でもモンスターとの初遭遇のシーンにハンター自身の装備が反映されるようにしましたが、これにより自分が『MH』の世界にいると、より強く感じられるようになっていると思います。

徳田:『MH』シリーズでストーリーを描く理由は、モンスターの生態や世界観を知ってほしいからです。RPGなどでは人間ドラマを重視してストーリーを描くことがありますが、『MH』シリーズは世界観ありきです。

『モンスターハンター:ワールド』
▲本作のデモシーンはすべてリアルタイムでレンダリング。会話シーンなどをまじえて本作の世界や生態系が美麗なグラフィックで描かれ、物語に臨場感と深みを与える。

――PVでも一部が公開されている、ゾラ・マグダラオス捕獲作戦のデモはかっこよかったですね。

藤岡:今回のイベントカットシーンは外部に委託して制作しているものです。制作会社含め、今回協力してくれたスタッフは、長年『MH』の映像を一緒に作ってきてくれたメンバーが主軸になってくれているので、ゾラ・マグダラオス捕獲作戦のような非常に大掛かりなイベントカットにもチャレンジすることができました。そういった経験豊かで力のあるスタッフにお願いしているからこそ、心に響くデモができあがったと思っています。

――モンスターの初登場シーンも力が入っていますよね。

藤岡:本作ではボイスオーバーも使えますし、セリフも豊富です。はじめて出会ったモンスターの生態系や世界観がわかる内容を受付嬢などにも語ってもらっています。

――受付嬢のセリフと言えば、作中でゾラ・マグダラオスのことを“彼”と呼びはじめる理由は?

藤岡:本作の受付嬢は、いろいろなものに対して感受性がものすごく強いんですよ。それがゾラ・マグダラオスを“彼”と呼んだことにもつながっています。シナリオ担当者の岡村はシナリオを書くときにキャラクターのなかに入っていくので、きっと彼女に「なぜ受付嬢は“彼”と呼んだの?」と聞いたら「自分の頭のなかで自然に“彼”と呼んでいたから」と答えると思いますよ。

徳田:ただ、そういったシナリオの書き方をするので、岡村が入り込んでいくまでいっさいセリフがないキャラクターもいました。しかも、そのキャラクターは物語上で必要だと岡村からオファーがあって追加したキャラクターなんです(笑)。

藤岡:当然こちらから「このキャラクターにもセリフを」と切り出すのですが「いや、この子が全然しゃべってくれないんですよ」と返される。岡村自身のなかで、まだしゃべってくれないキャラクターだからセリフも書きようがないんです。

――独特の感性を持つ人なんですね。

藤岡:はい。ちなみに、あるタイミングで急にセリフが増えることもあります。きっとキャラクターに入り込めたんでしょう。そんなスタッフが手がけているおかげで、各キャラクターにものすごく個性が出ました。

徳田:3期団のリーダーのセリフとか、音声収録直前まで悩んでいましたね。3期団のリーダーが少し煙に巻いたようなしゃべり方で、しかも口数が少ないこともあり、ちょっとした語尾にまで気をつかっていました。

藤岡:そういったセリフ回しとデモで表現できることが増えたので、個々のキャラクターにスポットを当てたり、期団ごとの歴史を盛り込んだりして、物語全体のドラマをふくらましています。

ストーリーのキーであり、難易度のキーでもある古龍

――ストーリーについてですが、本作で古龍の扱いを非常に大きなものとしたのはなぜでしょうか?

徳田:本作の舞台となる新大陸には、草食種がいてそれを肉食のモンスターが捕食していくといった、土着の生態系があります。「古代樹の森」のリオレウスのように、個々のフィールドには主となるモンスターもいますよね。では、フィールドではなく新大陸全土に影響を与える存在を出すなら、これは古龍種しかないでしょう。

 また、ハンターたち『MH』世界の人から見れば、1体現れるだけで天災のような被害をもたらす古龍が、集団で大陸に渡っていくとなったら調査団が派遣されるのが自然です。これらの点から、古龍種を物語のキーとして位置づけて本作のストーリーを構築しました。

――古龍は討伐難易度も高いですよね。

徳田:今お話したとおり、新大陸全土に影響する存在なので、難易度としても壁になるように設定しています。

――例えばキリンでいえば、帯電して雷を落とす動作が、とてもインパクトがありました。

徳田:表現力がものすごく上がっているので、見た目だけでもインパクトありますね。開発スタッフ内でも衝撃だったようで、あの見た目に合ったゲーム体験をプレイヤーにしてほしいと、グラフィック担当とシステム担当で切磋琢磨していました。

――古龍種のなかで、キリンだけ下位でも討伐ができるのはどういった理由なのでしょうか?

徳田:プレイヤーの目的は新大陸の調査ですよね。キリンを討伐対象にしたクエストは、任務ではないクエストを達成していくと現れます。プレイヤーはキリンと出会うまで、下位の段階で十分に新大陸の調査を進めている必要があるということです。しっかりと調査をしていたプレイヤーへのサプライズという位置づけですね。

 下位で出会っておけば痕跡を集めることができるので、そのぶん上位でキリンと出会いやすくなったり、あらかじめ弱点がわかっていたりするなど、キリン自身を調査したことへのメリットもありますよ。

『モンスターハンター:ワールド』
▲キリン討伐が目的となるクエストは“捕獲:○○の生態調査”というクエストを順にこなしていくと受注可能になる。男女ともに人気の高いキリン装備を手に入れるために、ぜひとも挑戦してほしい。

――古龍というと、今までは現れたらほかのモンスターがいっさい出現しないというのが定番でしたが、ヴァルハザク討伐時に瘴気ギルオスがいるのはなぜでしょう?

藤岡:古龍が現れるとほかのモンスターが姿を隠すというのは絶対のルールではなく、あくまで古龍種の生態がほかのモンスターに影響を及ぼすため、ほかのモンスターは自衛として姿を隠しているんです。

 ちなみに、瘴気ギルオスはヴァルハザクがまとう瘴気に影響されたモンスターで、正常な判断ができなくなっています。ですから、ヴァルハザクがいても姿を隠すことはありませんし、動画で公開したとおり餌食になってしまうんです。

徳田:もう1つ大きな理由となるのが表現力の向上です。「古代樹の森」でアンジャナフが現れるとジャグラスが木の上などに逃げるといったように、本作ではモンスターをフィールドに配置したまま、別のモンスターを警戒するという表現ができます。ヴァルハザクと瘴気ギルオスの関係も、同様に双方をフィールドに配置したまま表現できるので、あえて一方を消すことはしていません。

――ちなみにゾラ・マグダラオスが討伐対象のクエストを、常時受けられない仕組みにしたのはなぜですか?

徳田:あれだけ大規模な作戦をしいたモンスターを、常に討伐できるというのは世界観的に微妙じゃないですか。あとゾラ・マグダラオスを相手にしたクエストは仕組みが独特なので、何度も連続してこなすのは負担が大きいです。ゲーム的にも世界観的にもしっくりくる形として、不定期にクエストが登場するようにしました。

藤岡:こういったモンスターって、コミュニケーションにもつながると思うんですよ。「今ゾラ・マグダラオスいるから行こう」みたいな感じで。そういったコミュニケーションのきっかけになればという思いもあり、通常のクエストとは違う設計になっています。

発売後も『MHW』の勢いは止まらない!

――ほぼすべてのモンスターが発表された今、『MHW』でお気に入りのモンスターをあげるとしたら?

藤岡:いつもはリオレウスと言っているのですが、新規モンスターのなかからで気に入っているモンスターをあげるとヴァルハザクですね。どこまでディテールを出せるかに挑戦したモンスターで、アゴのなかまで細かくデザインされています。身にまとっている瘴気も専用のシェーダを使っていて、フォルムはわかるのにパッと見でどんなモンスターなのかわからない不気味さがあるのがポイントですね。

徳田:自分もいつもと違うモンスターをあげたいのですが、ネルギガンテ以外となると……(汗)。名前は言えませんが、本作のストーリーの最後に現れるモンスターが好きですね。ゲームをプレイしながら「早く倒れてくれ」と、感情移入できたので大満足しています。表現としても最後に現れるモンスターにふさわしい豪華なものが用意されているので、ぜひともアクションやフィールドの反応もあわせて見てほしいです。

――細かな質問ですが「龍封力」の効果をゲーム内で名言していないのはどういった理由でしょうか?

徳田:龍封力は古龍種の能力を抑えるものになります。ただ、クシャルダオラは暴風、キリンは落雷といったように古龍ごとに異なる力を持っているので、すべてを書こうとすると冗長になってしまうんですよ。そのため大枠の説明だけにとどめています。

藤岡:物語的にも古龍の力を抑え込むというのは調査団の目的に合致しているので、龍封力を新要素として盛り込みました。

『モンスターハンター:ワールド』
▲『MH2(dos)』で、古龍という絶対的な存在を知らしめたクシャルダオラ。本作では金属質の甲殻の輝きや、頭部の細部に至るまで、ていねいに作り込まれている。

――そういえば『MHW』は発売後、どのような展開が予定されているのでしょうか?

藤岡:まずは、すでに発表しているイビルジョーが登場します。イビルジョーはもともとなんでも食べる暴力的なモンスターなので、本作ではそういった表現に特化してゲームデザインしています。

『モンスターハンター:ワールド』
▲3月22日の無料大型アップデート第1弾で追加されたイビルジョー。シリーズをとおして屈指の凶暴さと狩猟難易度の高さで知られる手ごわいモンスターだ。

――イビルジョーを狩猟するクエストは、やはり難易度が高めになるのでしょうか?

徳田:モンスターが追加されたとき、本作をクリア済みの人が見向きもしないと意味がありません。ですから、難易度も高めですし、素材から生産できる装備もゲームクリア済みの人が満足できるものになります。

藤岡:イベントクエストは需要と実施タイミングを考えて難易度を設定しています。そのため、幅広い層が興味を持つであろう『ロックマン』とのコラボクエストは、本作を始めたばかりのプレイヤーでも遊びやすい難易度になりますね。

――コラボ以外では、どのようなイベントクエストが予定されていますか?

藤岡:レアな素材が出やすいなど、かゆいところに手が届くようなクエストを実施予定です。

――最後に、『MHW』が世界のユーザーさんにとってどんなタイトルになってほしいかを聞かせてください。

藤岡:世界に通用するといったら大げさですが、日本人の作るゲームも元気だと思ってもらえたらうれしいですね。グローバルでしっかり興味持ってもらえる“メイドインジャパン”みたいな意識を持って作りました。そんなゲームになってもらいたいです。

徳田:発売前にクリアまでプレイしたのですが、全部味わい切ったときにすごいものを作ったかもと思いました。自分がクリア時に抱いた思いと同じような形で、ユーザーさんにも『MHW』が受け止めてもらいたいです。

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