2018年12月4日(火)
『僕と彼女のゲーム戦争』などで知られる作家・師走トオル氏によるゲームコラム“名前のないゲームコラム”。今回は“美少女ゲームが繋ぐVRの未来”をテーマにお送りします。
PlayStation VRをはじめとした様々なVR用ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)が登場し、VRという単語が知られるようになってからずいぶん経ちました。VRを使った体感型の施設、VRチャットなども話題になったものの、さすがに一年二年と経つと、話題という意味では沈静化しつつある印象も受けます。
その一因として、『バイオハザード7』に続くようなVRならではの大ヒットゲームが生まれていないといった問題があることは否めません。この一年で私も結構VRゲームをやってみたのですが、その中にはゲーム性よりも“VRを頭にかぶるだけで新たな体験ができる”という点を重視しすぎているゲームが散見されるのは残念ながら事実です。
ですが先日もPlayStation VR専用ゲーム『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』が大きく話題となりました。また来年には『エースコンバット7』が控えているなど、VRゲームの中にも注目すべき作品が出てきているのは間違いなく、まだまだ元気なコンテンツだと思っています。
特に個人的に注目しているのは、今年初頭から国内でも流通が始まったWindowsMR対応HMDの登場です。
WindowsMRとはマイクロソフトがWindows10で提供するバーチャルコンテンツのために実装した新システム“Windows Mixed Reality(複合現実)”の略称です。ただこのWindowsMRの詳細については本コラムでは触れません。私もWindowsMR対応HMDを常用してはいるのですが、VRゲームにしか使っていないので他のことはよく知らないんです……。本ゲームコラム的に重要なことは“WindowsMR対応HMDを使えば、従来のVR器機と同じようなVR体験ができる”という点です。
WindowsMR対応HMDの特徴は手軽さと、そしてなんといっても価格です。
たとえば従来のVR器機ですと、コントローラやHMDの動きを感知するためのデバイスが必要となり、その分、配線や設置物が必要になります。
ですがWindowsMRは、HMDに搭載されたカメラで周囲の測定物から位置情報を取得するというシステムのため、必要なのはUSBポートとグラフィックボードのHDMIポートに繋ぐ、たった二本の配線だけ(※1)。もちろんグラフィックボードにはある程度のスペックが要求されますが、もしPCゲームのファンの方でしたら決して満たすのは難しくありません。
※1:ただこの仕様のため、従来の外部センサーを多用しているVR機器とは多少操作感が異なる場合もあります。
そしてWindowsMR対応HMDはスペックのわりに大変安価であり、両手に持って使う二本の専用コントローラがセットで3万円台後半から購入することができます。余談ですが先日確認したところ、アメリカのamazon.comなどでは200ドル前後で売られていました(なお筆者は大喜びでアメリカで購入しようとしたのですが、関税やら送料やらあれこれ加算されると日本で買うより少し安い程度で、かつ日本でアフターサービスが受けられるのかよく分からないため、結局日本で買いました)。
一昔前まで、パソコンでVRを動かすためには高スペックPC+10万円近い投資が必要と言われましたが、それが半額以下で済むようになったため、ようやく私も手が出せたというわけです。
さて、ここからが本コラムの本題です。VR環境を整えた私が真っ先になにを始めたかと言えば『カスタムメイド3D2』と『VRカノジョ』です。平たくいうと美少女モノのVR対応ゲームです。真顔でなに言ってるんだと思われそうですが、この美少女モノのVRゲームこそVRの未来を約束する鍵であり、それを否定できる人はいないと個人的に思っています。(※2)
※2:著者の性別の都合上、またジャンルを表す単語として “美少女ゲーム”と表現しておりますが、コラムの主旨としては“美男子ゲーム”などと置き換えて頂いても差し支えありません。
実際、「VRの美少女コンテンツがすごい」という言葉は以前から聞いていました。たとえば、ゲーム業界でも有名なある方はこう仰っていました。
「VRは他の機器と違い、脳にズバズバ来るので、美少女コンテンツやると直撃度がものすごい(注:一部意訳しています)」
ただ個人的には半信半疑でした。だってVRでプレイしたところで、ようするに目の前に大きく女の子が描画されるだけじゃないですか――と。
ところが結論から書くと、眼前いっぱいに色々と広がるあの光景はマジでいろいろとヤバかったです(具体的な言葉が使えないので抽象的な表現になっている点はご容赦ください)。
自由に視線や体を動かせるVR空間内で緻密に表現された女の子の存在感は、従来のモニター越しのそれとはまったく違いました。これは『サマーレッスン』が発表された当時からよく言われていたことですが、仮想空間であっても可愛い女の子が目の前にいたりすると、思わずドキドキしてしまったり、女の子の体温や呼吸を感じることすらあるとか。
これ、名前が付いた現象だそうですね。その名も“クロスモーダル現象”。ようするに目の前に可愛い女の子がいると脳が錯覚した結果、本来感じるはずのない体温や呼吸などを脳が自動補完することで発生する現象だとか。あまり詳しく語るのも野暮ですが、3D空間で女の子とキャッキャウフフできるその迫力たるや凄まじいもので、VRの未来に可能性を感じざるを得ません。
ところで今回の記事は、女性の方には関係ないと思われるかもしれません。
ですが脳の自動補完機能ことクロスモーダル現象は、個人差はあっても男女を問わず発現することが期待されます。実際、以前に『刀剣乱舞-ONLINE-』のVR版が女性の間で大きな話題となりましたし、今年9月に行われた東京ゲームショウにおいては架空の彼氏を自由にカスタマイズしてコミュニケーションができるというIVRの『VRカレシ』が大きな話題となりました。
ちなみにVRに可能性を感じる根拠はもう一つあります。
実はある美少女VRゲームの開発スタッフの方にこんな話を聞いたことがありました。
「高価なハイスペックPCとHMDを買い揃える必要があるせいかもしれませんが、美少女VRゲームのお客様はとっても紳士的な方が多い印象を受けます。たとえばイベントを開催すると『キミ、他になにか買えるVRコンテンツはないのかね? ああ、お金のことは心配しなくていい』みたいなお客様が非常に多くいらっしゃいます」
というわけで。こういった諸々の反応を見る限り、恐らく日本のみならず世界規模で、求めるモノに違いこそあれ男女共に理想の異性とキャッキャウフフしたいといった需要があるのは確実で、しかも良質なVRコンテンツならお金に糸目を付けないという購入者層すら存在しているわけです。
にもかかわらず彼ら・彼女らを満たせるゲームが(世界規模で)まだまだ不足している現状を見る限り、VRに秘められた価値にはまだまだ可能性があると感じる次第です。
師走トオル氏プロフィール
ゲームをこよなく愛する作家。主な著作に『火の国、風の国物語』『僕と彼女のゲーム戦争』『無法の弁護人』『バイオハザード7 レジデントイービル ドキュメントファイル』等。最新作『ファイフステル・サーガ 再臨の魔王と聖女の傭兵団』は富士見ファンタジア文庫より発売中。