アジアに眠る才能を世界に広めたい。40タイトル以上をパブリッシングしている会社の本気【電撃インディー#151】

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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、パブリッシャー・Neon Doctrineの共同設立者でメディアディレクターのVladislav Tsopljak氏へのインタビューをお届けします。

  • ▲Neon Doctrine共同設立者/メディアディレクターのVladislav Tsopljak氏

 Neon Doctrineは、11月2日に発売されたNintendo Switch/PC用ソフト『添丁の伝説』の販売を担当したパブリッシャーです。本記事では、今後の日本展開や最新作の『添丁の伝説』などについてお話を伺いました。

 ちなみに『添丁の伝説』は、20世紀初頭の台湾に実在した人物をモデルにしており、作りこまれたストーリーやアクションが特徴の作品です。

 電撃インディーでは『添丁の伝説』のレビューを掲載しているので、ぜひチェックしてみてください!

 なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

プレイヤーのニーズに対応できるようにできるだけ多くの言語でローカライズ

――今までにリリースしたNeon Doctrineのゲームはどれくらいありますでしょうか。

 全世界で発売されたものを全て数えると、20タイトルほどですね。それ以外にも、開発会社と提携して中国でのパブリッシングをお手伝いしたゲームが複数本あります。それらも含めると約40~45タイトル程でしょうか。

――Neon Doctrineは何人くらいで活動しているのですか。

 現在、15名のスタッフが台北、廈門(アモイ)、マニラに分かれて活動しています。今後もチームを拡大していく予定です。

――以前はAnother Indieという名前で活動していたとのことですが、Neon Doctrineという名前に変わった理由を教えてください。

 私たちは“インディー”という名前を卒業し、より高い生産価値を持つゲームに焦点を移すことで、ブランドの方針転換を図る時が来たと考えました。

 そこで、今後注力していくゲームの全体的な雰囲気やスタイルを反映させるために“Neon Doctrine”という名称を採用しました。ちょっと不気味で不穏、そしてサイバーパンクな雰囲気を感じて頂ければ幸いです。

――いままでに発表された作品を見ると、アクションやシミュレーション、ホラーゲームなど多彩なジャンルのゲームを発表していますが、どのような基準で発売を決めているのでしょうか。

 自分たちが気に入っていて、将来性があると思うゲームに強く焦点を当てているというのが、正直なところです。

 特に多くのパブリッシャーが見落としがちな東南アジア、アジア全域に注力し、地元の開発シーンをサポートしたいと考えています。

 そのため、発足当初からあらゆるタイプやジャンルのゲームを、出来るだけ制限なく受け入れるようにしています。

――Neon Doctrineは、ゲーム発売のペースが速いように思うのですが、発売ペースの基準があったりするのですか。

 普段は、プレイヤーや開発者に余裕を与えるために発売時期をなるべく分散させるようにしており、弊社から発売されるゲーム同士の時期が被って注目を奪い合うことにならないようにも心掛けています。

 しかし、コロナによって多くの開発チームが影響を受けたため、この1年は次々とゲームをリリースしているように見えたかもしれません。特にここ数ヶ月は『Lamentum』、『Jack Axe』、『添丁の伝説』……と、短いスパンで沢山のゲームを発売してきました。

 これは、コロナ時代にビジネスを行うことで生じる多くの副作用の一つと言えるかもしれませんね。

――Neon Doctrineのゲームは多数の言語でプレイできようになっている理由を教えていただけますか。また、日本語でプレイしたときには翻訳が丁寧な印象を受けたのですが、何か特別な手法を使っていたりするのですか。

 私たちはなるべく多くのプレイヤーのニーズに対応することをポリシーとして、いつも無理のない範囲でできるだけ多くの言語にローカライズするよう努めています。

 日本語翻訳に関してはパートナーであるBeep Japanと協力して行っていますが、彼らのローカライズの質は賞賛に値するものですね。

 私たちからは最終的なテキストデータをお渡しするだけで、彼らが翻訳のクオリティをしっかり担保してくれます。

――Neon Doctrineの理念として“言語や地理的条件がゲーマーや開発者にとって障壁になるべきではない”とありますが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。

 私たちはすべてのゲームで最高品質のローカライズを提供することを重視しています。予算に余裕さえあれば、できる限り多くの言語を追加し、それが当社の基準を満たしているかどうかをつねにチェックしています。これはストアに使われるテキストや、ウェブサイトのローカライズについても同様です。

 また、アメリカやヨーロッパ以外の国のメディアにも情報を提供するため、広報活動も複数の言語で行っています。

 Discordのメインチャンネルは英語ですが、異なる言語に特化したチャンネルをいくつか用意して、より国際的なコミュニティを育むようにしています。

 他にも、国際的なイベントも重要な役割を担っており、世界のさまざまな地域のゲームコミュニティにアクセスする機会を提供してくれます。コロナ禍以前は、世界各地で年に15~20個ものイベントに参加していました。

 PAX、GDC、BiG、Gamescom、EGX、DevGamm、ESGS、LevelUpKL、GameStart、ChinaJoy、Taipei Game Show、BIC、TGS、BitSummit、GameCores、WePlayなど……数え切れないほどですね。

――現在発売中のゲームの中で反響の大きかった作品を教えてください。

 最近の作品では『添丁の伝説』がかなりの人気作になりました。

 少し前のゲームだと、カルト的なファンを持つインドネシアのKaigan Games社による『SIMULACRA』シリーズや、スペインのBaroque Decay社の『Yuppie Psycho』なんかも多くのファンを獲得しました。これらは発売から数年経った今でも、ファンアートやプレイヤーからの応援の声が絶え間なく寄せられるくらいです。

 ただ、これまでで最も大きなインパクトがあったのは、Hunter Studio社の『Lost Castle』でしょうね。本作は中国で生まれた最初のプレミアム・インディーPCゲームの一つで、シーン全体に大きな影響を与えた作品です。

――いくつかのタイトルをプレイさせていただいて『Vigil:The Longest Night』のように難易度が高めでやりごたえのあるゲームが多いように感じました。発売するゲームを決めるときに難易度は重視していたりするのでしょうか。

 契約時にゲームの難易度に着目しているわけではないのですが……気付いたら確かに難しめのゲームばかりですね。

 それでも、誰もが楽しめるゲームになるよう、質の高いアクセシビリティのオプションを実装するようつねに心がけています。

――Neon Doctrineのゲームをまだプレイしたことのないユーザーがこれからプレイしようとしたときにおすすめの作品を教えていただけますか。

 難しい質問ですね(笑)。

 プレイヤーがどんなジャンルを好むかによると思いますが、もし頭を混乱させるようなサイコホラーがお好きであれば、『Yuppie Psycho』と『Lamentum』がとてもおすすめです!

 どちらも似たようなスタイルで、ワクワクするストーリーとゾッとする雰囲気が上手く混在した作品です。

 また、『添丁の伝説』は、台北を舞台にした独特のストーリーと、マンガにインスパイアされた素晴らしいアートとサウンドトラックが特長の作品です。ぜひともプレイしてみてください!

――今後、注力していきたいゲームジャンルなどはありますか。

 今後はより規模の大きいゲームに注力したいと思っています。ジャンル的には、グロテスクなものや精神に来るようなもの、ホラー、そして全体的には大人向けのゲームに注力していきたいです。これは、私たちのファンや私たち自身が好きで楽しんでいるジャンルでもありますからね。

 とはいえもちろん、これらの基準に当てはまらないタイトルにも、つねに門戸を開いていたいとは思っています。

――発売するゲームを決定するうえで気を付けている点などを教えてください。

 通常はチームの構成や全体の予算、スケジュールなどを見て、それが当社のポリシーや他のタイトルとマッチするかどうかを確認します。

 また、発売時には複数の言語に対応するようにしていますので、文字数も重要な要素となりますね。何十万単語もの翻訳が必要になると、それだけで大変なコストがかかってしまうので。

 ただ、タイトルを決定する際に大きな部分を占めているのは、私たち自身がそのゲームを実際に楽しめるかどうか、そしてプレイする際に魅力を感じられるかどうかということです。これは、パブリッシャーの仕事をしている私たち自身がそのゲームに情熱を持っていると開発者から見ても安心して一緒に働くことができると考えているからです。

 他にもいくつかの判断材料があるのですが、ここから先は残念ながら企業秘密とさせて頂きます(笑)。

――『PROJECT ALTHEIA』などすでに発表されているゲームで、何か新情報などがあれば教えていただけますか。

 新作の発売日やクローズドベータ、オープンベータについての情報は、12月のSteamショーケースにて詳しくご紹介する予定です。『PROJECT ALTHEIA』の新情報も用意していますので楽しみにしていてください。

アジアの優れた才能が世界に評価されるように手助けしたい

――新作『添丁の伝説』の注目点を教えてください。

 『添丁の伝説』の注目点をいくつかに絞るのはとても難しいですね。19世紀の台北を表現したマンガ風の素晴らしいアート、ダイナミックなサウンドトラック、流れるようなゲーム性――すべてが一体となってこの素晴らしい作品になっていると思います。

――『添丁の伝説』のPRで力を入れたところを教えていただけますか。

 この作品のユニークなアートスタイルを強調し、視覚的に目立たせるようにしました。また、アジアにルーツを持つ開発者達にローカルなストーリーを自ら伝えてもらったことも大きなPRポイントです。

――『添丁の伝説』の発売を決めた理由や経緯などを教えてください。

 初めてこのゲームを見たとき、すぐに「これはすごいゲームだぞ」と思いました。Neon Doctrineのメンバーにシェアすると満場一致で、ほとんど議論することもなくすぐに「やろう!」と決まりました。あの衝撃は今でも鮮明に記憶に残っていますね。

――今後、実現したいことややってみたいことなどはありますか?

 アジア地域の開発者達と協力し続け、彼らのゲームが世界に広がって正当に評価されるような手助けをしたいと思っています。

 アジアには優れた才能がたくさんありますが、それが見落とされがちなのは残念なことですし、私たちはそれを変えようとしています。

――ゲーム業界に携わることになったきっかけについて教えてください。

 実は妙な話なのですが……前職でスペインにいた際、言語習得が必須だったためスペイン語のクラスに通うことになり、その時の先生が、Electronic Arts社でもクラスを受け持っていたんです。その先生に誘われてEA社にQAとして入社することになったのがきっかけですね。そこでは、マネージャーまで昇進しました。

 それから数年がたって、中国で中国語通訳の修士号を取得していた時にNeon Doctrineの共同設立者となるメンバーに出会い、この会社を作るにいたりました。

――ここ数年でもっとも感銘を受けたゲームについて教えてください。

 『Wildermyth』は、特にストーリーテリングの点において素晴らしいゲームでした。

 他にも、『コーヒートーク』、『ファイナルファンタジーVII リメイク』、『Loop Hero』、『バイオハザード2 リメイク』、『Gunfire Reborn』、『Hades』、『龍が如く7』、『Disco Elysium』、『The Ascent』、『The Messenger』、『Ultrakill』、『Exo One』などたくさんあって挙げ始めたらキリがないですね。

――Neon Doctrineの作品を楽しみにしている方のために、発表予定のタイトルなどがあればヒント等を教えていただけますか。

 来年のはじめには、『マイラブリーワイフ』、『Hazel Sky』、『Doors of Insanity(完全版)』、『Tamarindos Freaking Dinner』、そしてもう1本未発表のゲームを発売する予定です。


――今後の日本展開の展望などがあれば教えていただけますか。

 私たちは今後も日本のプレイヤーにゲームをお届けしていく予定で、ほとんどの作品で日本語翻訳を予定しています。個人的には、安全に旅行ができるようになったら、東京ゲームショウやBitsummitにも遊びに行くのを楽しみにしています!

――最後にユーザーに一言お願いします。

 いつも応援とサポートをありがとうございます!

 私たちのゲームを楽しんでいただけましたら、ぜひレビューを書いてくださいね。それらは大きな助けになりますから。

 そしてもちろん、新しいゲームをウィッシュリストに入れたり、リリース済みのゲームをプレイしてみたり、私たちのコミュニティにも是非参加してください。

 来年は、どこかのイベントで皆さんにお会いできることを楽しみにしています!


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