『幻影都市』30周年を祝う特別企画! 日本で生まれたサイバーパンクRPGの名作を振り返る【周年連載】

キャナ☆メン
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 あの名作の発売日から5年、10年、20年……。そんな名作への感謝の気持ちを込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として、“周年連載”を展開中です。

 今回お祝いするのは、1991年12月14日にMSXturboR版が発売され、今年で30周年を迎えたサイバーパンク超伝奇RPG『幻影都市 -ILLUSION CITY-』(以下、幻影都市)です。

 『幻影都市』を手掛けたメーカーはマイクロキャビン。同社は、戦神デュエルの血を引くラトク・カートの物語を体験するアクションRPG『Xak(サーク)』シリーズや、限られた期間で3人の女の子を育成するフリーシナリオ&マルチエンディング系のRPG『英雄志願』などを世に送り出したことでも知られます。

 マイクロキャビン作品と言えば、グラフィックのリアルな表現を目指したVR(Visual Representation)システムを思い出す人もいるでしょう。そのVer.2.5が使用された『幻影都市』は、立体感や奥行きのあるマップで表現された都市がサイバーパンクの世界観を際立たせ、イベントシーンではドット絵の細かな演技がキャラに命を吹き込んでいる、シナリオへの没入感が高いゲームになっています。

  • ▲演技面をサポートする操演システムにより、キャラの動きはかなり細やか。

 記事執筆時は、1992年1月18日に発売されたPC-9801版をプロジェクトEGGにてプレイでき、当時のマニュアルをコピーしたPDFなども含めて楽しむことが可能です。記事内の画像は、そちらのスクリーンショットを使用しています。

サイバーパンクの空気に飲まれるほど濃密な世界観

 ゲーム内容を振り返る前に、まずは『幻影都市』の世界観と舞台設定に軽く触れておきましょう。

 物語の舞台は香港。この世界では21世紀初頭に“降魔変”と呼ばれる大災害がアジア全土を襲い、その際の地殻変動によって同都市は崩壊してしまいます。

 その後、国際情報企業体“SIVA”の進出と支配により復興を遂げると、スピナーが空を飛び交い、EVが地上の交通を支える超近代都市として新生しますが、香港全域を覆う人工地殻(プレート)によって都市は上下に分断されました。

 上層区域(インナー)には限られた市民だけが暮らす摩天楼が築かれる一方、プレートの下には、崩壊後に現れるようになった魔物の存在を含め、地殻変動によって生じた障害の多くが未だ残ったまま、SIVAから見捨てられた市民が暮らす下層区域(アウター)が形成されている状況です。

 そして香港崩壊から20年後、主人公の天人(ティェンレン)は、ある誘拐事件に関わることでSIVAの陰謀に巻き込まれ、香港の裏で暗躍する魔天王、魔天八部衆らと戦いを繰り広げていくことになります。

 設定もさることながら、グラフィック、テキスト、音楽が一体となってサイバーパンクの世界観を演出しており、新旧のテクノロジーとアジア文化の混濁がもたらす独特な空気感、企業の支配による管理主義と格差に歪むディストピアな社会像は、PC-98版の発売から2年後、まだ中学生のころに本作をプレイした筆者にはあまりに衝撃的でした。

 現代のゲームを知ったうえで初めて『幻影都市』の画像を見ると誇張に思えるかもしれませんが、およそ30年前のゲームしか知らない当時の自分からすると、画面に映るサイバーパンク世界の実存感が圧倒的で、その空気に飲まれそうなほど、特別な没入感を得られるゲームだったことを覚えています。

 開発者自身も着想を得た作品の1つとして挙げている『ブレードランナー』、香港が醸し出すオリエンタルな空気、サンスクリット語などインドまで含む東洋の文化と外連味を色濃く演出する伝奇的な設定の数々。

 それら多様なエッセンスが混ざり合う『幻影都市』の雰囲気は妖しい魅力に満ちており、夜の繁華街にきらめくネオンのように、刺激のある大人なドラマ性とキャラクター性を彩っていたように思います。

▲『ブレードランナー』や『宇宙の戦士』など、小ネタが所々にオマージュとして盛り込まれる遊び心も。

 ちなみに、本作のマニュアルには開発スタッフのメッセージやイラストが掲載されており、当時の心境や企画を立ち上げた際の経緯などを見ることができます。ぜひ、ゲームをプレイしたらマニュアルまで含めて楽しんでほしいです! いやもう、ホントお宝なので。

語りだすと止まらない『幻影都市』におけるキャラとドラマの魅力

 筆者が仕事で『幻影都市』を語らせてもらえる機会は、おそらく最初で最後になると思うので、悔いのないように愛を叫んでおきたい! 愛に目覚めた男、南天リーのように!!

 ということで、南天リーは誰? という話ですが、彼は主人公の天人が敵対する魔天八部衆の1人。一人称は「私」のクールな性格ではありますが、愛に心動かされて激昂する場面があるなど胸の内に秘めた情熱は強く、そのギャップあるキャラクター性が最高です。

 南天リーは名場面・台詞が多いキャラなので、本当はもっと深く語りたいのですが、『幻影都市』はプロジェクトEGGを利用すれば今でも普通に遊べるゲームなので、その欲をグッと堪えたいと思います。

 というのも、彼はもう1人の主人公と言っても過言ではないくらい、ストーリーの奥深くまで絡むキャラなんですよ……。

 主人公の天人はクールな魅力を持っているのですが、彼が現実主義なのに比べると、南天リーは理想主義でそこが人間的な隙になっているというか、強さの中に弱さを抱えたところが人間味になっていて魅力なんです。ああもう、ぜひ遊んでほしい!

 他の作品で、主人公と同じかそれ以上にライバルを好きになってしまう人や、クールの裏に熱意を抱えたキャラだったら堪らんという人、ロミオとジュリエット的な恋愛が琴線に触れるという人などは、南天リーがきっと気に入るはずです。

 とはいえ南天リーの場合、ライバルではないんですけどね。設定や物語に主人公の対比となる部分があるので、そういうキャラクター性の持ち主ではあります。

 そして本作、エリア切り替え時などで敵側視点のイベントが頻繁に挟まれるストーリーテリングなこともあって、魔天八部衆のキャラがめちゃくちゃ立ってます。さらに“愛”の描き方が実に多彩。

 南天リーの愛はプラトニックな男女の純愛ですが、魔天八部衆の多くは肉体と精神の両面で愛が描かれており、2人の性別であったり、ベッドシーンの描写だったり、あるいは戦闘中の会話だったりで、キャラの個性や愛の形が非常によく表現されています。

 さらに書けば、身体を重ねれば心も通うかというとそれは別の問題な場合もあるわけで……逆に本物の愛であれば、戦いがそれを引き裂くことにもなるでしょう。後者なら一抹の罪悪感を覚えますが、情も無情も等しく描かれるところに大人なドラマ性を感じます。

毒舌が挨拶代わりの愛すべきジジイキャラたちが魅せる

 引き続きキャラについて語ると、酸いも甘いも噛み分けたオジサマ(というかジジイキャラ)が数多く登場するのも『幻影都市』の魅力です。

 主人公の天人とヒロインの美紅(メイファン)にとっては育ての親になる老師、その彼に「歩く武器庫」と称されるサイボーグ傭兵のカッシュ、仲間にはならないものの、装備の調達でお世話になる武器屋でマッドサイエンティストのドク。この3名が、通信規格がまだ1Gだった当時、本作で3爺(※勝手に命名)を形成しておりました。

 挨拶代わりに毒舌を交わす会話やすべてを語らずとも通じ合っているシーンなど、見ていて「ジジイキャラのこういうトコがいいのよ……」と味わいを感じる場面に事欠きません。3人の髪色にも出ているような、いぶした銀の渋みを存分に堪能できると思いますよ。

 ちなみにパーティメンバー8名の中でジジイキャラは2名。女性キャラも2名なので、何とジジイ率と女子率が同じという驚き!

 しかも画像を拡大すれば分かるとおり、本作の顔グラフィックはアニメ調の美形ばかりですからね。いくら時代性の違いとはいえ、こうしたキャラクター性が強いストーリードリブンの国産RPGでは、やはり珍しいことではないでしょうか。

  • ▲敵味方とも美形が揃っていますが……。
  • ▲味のあるジジイキャラもやはりいい!

 何せ、パーティからジジイキャラが抜けて、またジジイキャラが入ってくるわけで。このキャラ構成はクレイジー(賞賛と敬意を込めての褒め言葉)ですらあります。全国1億2000万のジジイキャラファンの皆さん、朗報だよ!

 とやや興奮気味ですが、そうした愛すべき人物らも含めて敵味方に魅力あるキャラが揃い、先に書いた愛が真か嘘かという話に限らず、多彩な人間関係の機微を描き出すイベントの数々は名場面・台詞が揃っています。

 加えるなら、舞台演劇のように1人1人のキャラがよく動くイベントシーンがまたいい。台詞からさらに想像力をかき立てられ、言葉の裏にある感情や描かれていないシーンのことまで思い描いてしまいます。

 ちなみに主人公とヒロインについては触れていませんが、敵と脇役だけでこれだけ語っているのだから、2人とも魅力的であることは推して知るべし。天人の関係をイジられると慌てる美紅がカワイイんですよね、もう……(以下自粛)。

今遊んでも十分に楽しい『幻影都市』

 新たに興味を持ってくれた方のためにゲームシステムに少し触れると、バトルはオーソドックスなコマンド式ターン制なので、ゲーム自体にはすぐ慣れるはずです。ただし、残弾が尽きた時のため、脱出用の術を使えるように天人のMPは4残しておきたい!

 なお、武器屋で左右のキーを押すとライナップを切り替えられることに気づきにくいかもしれないので、その点はご注意を。最初のボスを倒した後からは段々とお金が貯まりやすくなるので、積極的に装備を強化すると攻略がラクです。筆者は、中盤でリコイレスガンにめっちゃお世話になりました。

  • ▲パーティメンバーは最大3名。シナリオの進捗で入れ替わります。

 30年前のゲームなので、細かな点には古さを覚えるかもしれませんが、シナリオは今改めて遊んでも十分に楽しいです。特にドット絵の表現が好きな人であれば、動きまくるキャラに見応えを感じること請け合い。「30年前にこんなすごいゲームがあったとは……」と感じてもらえるかもしれません。

 ちなみに、本作を配信しているプロジェクトEGGは20周年記念キャンペーンを2022年11月23日13:00まで実施中。期間中はゲーム購入時の還元ポイントが増えたり、対象タイトルが大幅に割り引きされていたり、月替わりで有料タイトルの無料化(合計で100本)が行われていたりします。

 割引率はタイトルによって違いますが、『幻影都市』は半額の440円で購入可能。プロジェクトEGGでゲームを遊ぶには月額550円必要ですが、ハードの垣根を越えて1,000以上のレトロゲームが遊べる環境はかなり貴重なので、他にも気になるタイトルがあるほどお得感が出てくると思います。

 同じマイクロキャビンなら前述の『英雄志願』はおもしろいうえに繰り返し遊べますし、サイバーパンク繋がりならADV『サイレントメビウス』、RPG繋がり……は数を絞るのが難しいですが、『妖撃隊』『ソードワールドPC』『サバッシュII』『ルナティックドーンII』あるいは日本ファルコム作品などは頭にパッと思い浮かぶタイトルです。

 話が『幻影都市』から脱線しましたが、30周年を祝い、昔を懐かしむついでということでご勘弁を。何より今も遊べることがうれしいですね。改めておめでとうございます!

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