『ゼノンザード』なら『SAO』と違う形でAIが描けるかも。小谷英斗氏&三木一馬氏が求めた世界観

カワカミ雁々
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 9月10日より配信開始となった、バンダイが手がけるデジタルカードゲーム『ゼノンザード』。電撃オンラインではすでに本作のレビューを掲載しているが、ここでは本作を手がけるバンダイの小谷英斗氏とストレートエッジの三木一馬氏のインタビューをお届けする。

 既存のデジタルカードゲーム(以下、DCG)とは一線を画す“AIをエンターテイメントに落とし込む”意欲作である『ゼノンザード』に、お2人はどういう想いを込めたのか。制作の経緯から未来への展望までを聞いた。

  • ▲小谷英斗氏(左)と三木一馬氏(右)。

なぜ“今”、バンダイがデジタルカードゲームを?

――昨年の話になりますが、バンダイがDCGを制作するというニュースを聞いて驚いた記憶があります。DCGもすでに加熱したブームから落ち着く時期に来ている印象で、正直「なぜ今になって?」と思いました。『ゼノンザード』制作の経緯についてお話しいただけますか。

小谷:これは私自身も、バンダイという企業もですが、常に「新しいモノ作り、新しい遊び作り」を模索しています。確かに当時、すでに国内・国外を問わずDCGのラインナップは豊富にありましたが、どれもスマートフォンなどのデジタル端末に合わせた遊びになっていました。この状況を突破できるDCGを作れないだろうか、と考えたのが『ゼノンザード』の始まりです。

――マンネリ化が進行しているからこそ、ブレイクスルーを求めたということですね。具体的にどういうDCGを作ろうと考えられたのでしょうか?

小谷:第一に“相手ターンに介入する”要素があることですね。バンダイの『バトルスピリッツ』もそうですが、アナログのカードゲームではこの要素は珍しいものではありません。しかしDCGになるとこの要素を導入しているものはごく一部です。

 この“相手ターンに介入する”ことには、ゲームそのものの複雑化やテンポ面など、いくつかの問題があります。あったほうがエンターテイメントとしておもしろいのは間違いないのですが、プレイヤーに負担をかける要素でもあるということです。

 これを解決するためにAIの導入を思いつきました。以降、この“AIをエンターテイメントに落とし込む”が『ゼノンザード』のテーマになっていきました。

――キャッチコピーでも“AIと共に、AIと闘う”と、AIの存在を強く押し出していますよね。

小谷:そうですね。既存のDCGとは違ったおもしろさを持つコンテンツを作りたい、しかし、それにはさまざまな問題がつきまとう。それを解決するにはAIが必要、ならばAIの存在そのものをエンターテイメントにしてしまおうと考えたわけです。

――具体的には、どのような形のエンターテイメントを志したのでしょうか。

小谷:まず1つは新機軸のDCGであること、もう1つはAIをコンセプトにした世界観やストーリーを楽しんでもらうということです。そのためにストレートエッジの三木一馬さんにお話をさせていただき、エンターテイメントの部分で『ゼノンザード』を支えてもらうことになりました。

AIをエンターテイメントにするために三木一馬氏が上遠野浩平氏を招聘した理由

――では、三木さんにお聞きしますが『ゼノンザード』の制作に協力してほしいというオーダーが来たとき、どのように思われましたか。

三木:新しいモノを作りたいというコンセプトがあって、その題材としてAIを取り上げるのはすごくおもしろいなと思いました。ただ「普通のカードゲームで終わらないモノを作りたい、そのためにはしっかりとした世界観が必要」という注文だったので、これは今僕たちストレートエッジが関わらせてもらっている作家さんよりも、さらにこういった題材が得意な人を紹介したほうがいいと考え、上遠野浩平さんに声をかけさせてもらいました。

――「上遠野さんにお願いしよう」と思い当たった背景について、もう少し詳しくお話しいただけますか。

三木:『ゼノンザード』は、舞台は“未来”なんですが、同時にオカルティックな要素もある世界なんです。つまりはスタイリッシュさと、ある種レトロな趣きが融合した世界、これを高いレベルで共存させられる書き手が上遠野さんでした。

 スタイリッシュとオカルティックが融合した世界というのは、言ってみれば「何でもあり」ですから、ある意味では誰にでも作れる世界です。

 しかし、その世界にしっかりと基盤を作り、血肉をまとったものにするのは誰にでもできる仕事ではありません。上遠野さんなら、バンダイさんの求める『ゼノンザード』の世界を作り上げてくれるだろうという確信めいたものがありました。

 僕自身、上遠野さんと直接仕事をするのは初めてで、「どうだろう、引き受けてもらえるかな?」と思っていましたが、快諾いただけてうれしかったですね。そして制作が始まって、上遠野さんからいろいろアイデアがあがってくるわけですが、「1666年から続く“いわく”があって、そのいわくとは……」というテキストを見るたびにゾクゾクしました(笑)。未来の世界の話なのに、中世から入ったぞ! という!

 しっかりと“上遠野ワールド”ができあがっていますので、これはぜひ遊んでみてほしいですね。

『ゼノンザード』世界観プロモーション映像

『ゼノンザード』で描かれる世界とテーマ

――実際に『ゼノンザード』の制作には長い時間をかけられてきたと思います。キャラクターに込めた想いや、その過程であったエピソードなどがありましたらお話しいただけますか。

小谷:16人のコードマンたちを見ると、いい意味でバンダイらしくないものを作ったかなとは思います。

三木:結構、開発スタッフのわがままを聞いてもらったところはありますね(笑)。たとえば建築家AIのレヴィル・デヴィラというコードマンがいるんですが、これは僕が上遠野先生の『戦地調停士』シリーズに登場する、ミラロフィーダ(ミラル)とキラストル(キラル)という双子が好きで「双子のキャラクターを絶対出してください!」とお願いした結果です。

  • ▲建築家AI:ラヴィル・デヴィラ/レヴィル・デヴィラ(声優:田村睦心)。

小谷:それ以外にも最初に構想したコードマンのアイリエッタは、実際にオファーする前に「これは早見沙織さんだろう」「確かに」「そうだな」とみんなで言っていたりしましたね(笑)。

 絵ができてからAIのキャラクターを設定するのではなく、警察や看護師といった職業をベースにAI像を作っていったのですが、ここで“AIは万能ではない”という話になりました。これはゲームとしての『ゼノンザード』にいい影響を与えたかなと思います。AIはある特定の分野のスペシャリストであって、何でもこなすジェネラリストではない。これがAIの個性付けにつながったかなと。

三木:AIというテーマは、『ソードアート・オンライン(以下、SAO)』でも取り上げているものです。昔よりずいぶんと世間でのAIの受け取られ方って変わってきていると思うんです。シンギュラリティ(技術的特異点)なんて言葉を聞く機会も増えましたし、いわばAIと人間の距離が、少し前とまた違ってきているなと。

 それなら、『SAO』とは違ったAIというものが描けるんじゃないか、という気持ちがあります。これは僕が『ゼノンザード』に関わるうえで、自分に課した挑戦とも言えますね。

――クリエイターとして、新しいモノを作り出すということでしょうか。

三木:もちろん、その側面もあります。さらに付け加えて言うとカードゲームとそのプレイヤーのことをもっと掘り下げたいんです。日本では今も少し事情が異なりますが、世界ではビリオネア(億万長者)になるのは“技術者”なんですよ。昔だったら考えられないことですが、そういう潮流が生まれています。わかりやすい例で言えばスティーブ・ジョブズなどがそうですよね。

 フィジカルな技術というのは見てわかりやすいものですが、エンジニア的な技術を持っていることがすごい、この感覚をもっと当たり前のものにしたいなって思うんです。昨今、“eスポーツ”という言葉もごく当たり前に聞かれるようになりました。そういった意味でもここが一つ潮目なのかなと。

 カードゲームがうまいってすごいことなんだ、カッコいいことなんだともっと知ってほしい。それが『ゼノンザード』で自分が成し遂げてみたいことですね。

小谷:僕自身、長くカードゲームを遊んできたので、三木さんのようなカードゲームを知らない人がカードゲームプレイヤーに対してこう言ってくれるのはすごくうれしかったですね。『ゼノンザード』に求めていたスタイリッシュさ、というのはゲームの雰囲気だけでなくプレイの仕方なども含めてのものだったので。

――縦持ちでプレイするころもこれまでのDCGとは違っているな、と感じます。

小谷:そこもこだわったポイントですね。DCGはだいたい横に持ってプレイするようにできていますが、『ゼノンザード』ではそういったところでも違いを出したいと考えていました。

ゲームとしての『ゼノンザード』、そして今後の展望を語る

――続いて、実際の『ゼノンザード』のゲーム設計についてお話しをうかがいたいと思います。キャッチコピーでもある“AIと共に、AIと闘う”これはどのようにゲームに落とし込まれているのでしょうか。

小谷:カードゲームに限らずですが、同じ趣味の人と一緒に遊ぶのって、これはもうシンプルに楽しいことですよね。その役目をAIに果たしてもらうようにしています。

 たとえば『ゼノンザード』のデッキ編集画面ですが、他のDCGだと“おまかせ編成”みたいな機能がありますよね。一定の基準に従って手持ちのカードからデッキを組んでくれるという。『ゼノンザード』にも同じ機能があるんですが、AIは一からデッキを組んでくれるんじゃなくて、あくまで提案する立場なんですよ。

 プレイヤーが「このカードを使いたいんだけど」と聞く。AIが「じゃあ、このカードを一緒に入れればいいんじゃない?」と提案する。そういう、カードゲーム仲間と遊んでいる感覚が味わえると思います。

三木:AIを作っているのはHEROZさんという、将棋の“電王戦”で話題になったAI“ponanza(ポナンザ)”を手がけたところなんですが、インフラなどのAIを制作することもあって、乱暴な言い方になりますがマジのガチのAIを作ってくれています(笑)。

 AIと対戦するって聞いてプレイヤーが一番に思うこと、これは僕も最初そう思ってたんですが、「こっちの手札見て、いい感じの難易度で反応してるだけなんじゃないの?」ってことじゃないでしょうか。でも、『ゼノンザード』のAIはそういうズルを一切していないそうです。あくまでフェアに、いま得られる情報だけをもとにプレイしてくれていると。

小谷:βテストのときに、プレイヤーの前に立ちはだかる壁としてザナクロンという最強AIを用意していたんですが、これに勝てたプレイヤーは上位の中でも本当にごく少数でした。それを見て、AIというのがプレイヤーを適度に満足させて最終的には倒される役目のCPUではなく、しっかりプレイヤーが挑むべきものとして作れたことに安心しましたね。

 今後、どんどんイベントなどもやっていきたいと思うのですが、まず各国の代表を決める国別選手権があって、それから各国の代表で世界最強を決める世界選手権をやって、そして人間の世界チャンピオンと最強のAIが戦うなんていうイベントができたらいいなと夢想しています(笑)。

――世界進出も目指しているのですね。

小谷:むしろ、海外からのオファーがどんどん届いている状態です。なので、サービスの裾野を広げることも現在検討しています。

――世界進出以外にも、構想されていることはあるのでしょうか。

小谷:自分の感覚として、後手に回るのが好きじゃないんですよ。なので、コミカライズやTVアニメについても当初から同時進行で考えていました。なので、これからもいろいろな展開をお見せしたいと考えています。

 直近では11月23日に品川で“ZENONZARD THE 5WALLS”というイベントを開催する予定です。プレイヤー同士のガチガチのトーナメントというわけではなく、AIと連戦して最後まで勝ち残っていたプレイヤーが賞金獲得!? みたいな。プレイする人はもちろんなんですが、“観ている人も楽しめる”ということを推していけたらと思いますね。

三木:先ほど、カードゲームがうまいことがステータスになる世界を作りたいと言いましたが、こういうイベントを通じて新たな“スター”が出てきてくれたら『ゼノンザード』を作った甲斐があるというものですね。

『ゼノンザード』プレイヤー、そしてファンへのメッセージ

――では最後になりますが、『ゼノンザード』のプレイヤー、そして三木さんや上遠野先生のファンの方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

三木:僕は最近までDCGというものにそれほど触れてきたわけではありませんでした。しかし『ゼノンザード』を作るにあたって知ってみたら、これが奥が深い!

 そんな“深い”カードゲームでも、『ゼノンザード』は初心者からベテランまで楽しめる仕様になっているんですよ。AIがいることで、慣れないうちは彼/彼女に選択をゆだねてプレイしてもいいですし、自分でじっくり考えてプレイしたい場合も、相手を待たせてしまうことがありません。本当に入門としても、またカードゲームプレイヤー向けの新作としても楽しめるものになっていると思います。

 僕たちもストーリー面などで『ゼノンザード』を盛り上げていきたいと思うので、現在公開されているアニメ0話やコミカライズからでも、ぜひ『ゼノンザード』に触れてみてほしいです。よろしくお願いします。

ゼノンザード THE ANIMATION 0話

『ゼノンザード』コミカライズ

小谷:DCGのなかにアナログカードゲームの良さ、おもしろさを再現し、それに付随する問題をAIによって解決するという試みを、ひとまず達成できたかなと思います。これまでカードゲームが合わなかったという人にも、カードゲームであるという先入観を捨てて、三木さんや上遠野さんが作った新しいエンターテイメントとして遊んでもらいたいですね。もちろん、カードゲーマーの皆さんにもです。

 そうして遊んだあとは、ぜひ人間代表となって最強のAIと火花を散らすようなプレイヤーを目指してほしいです。よろしくお願いします!

――ありがとうございました。

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