『蒼き雷霆 ガンヴォルト鎖環』インタビュー後編。会社が一丸となって開発しているシリーズの特徴に迫る
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インティ・クリエイツから7月28日に発売予定のNintendo Switch用タイトル『蒼き雷霆(アームドブルー) ガンヴォルト 鎖環(ギブス)』の開発者インタビューを前後2回に渡ってお届けします。
『蒼き雷霆ガンヴォルト 鎖環』は、2014年に発売された『蒼き雷霆(アームドブルー) ガンヴォルト』、2016年に発売された『蒼き雷霆(アームドブルー) ガンヴォルト 爪(ソウ)』に連なるシリーズの正統な続編。
エグゼクティブプロデューサー/アクション監修・稲船敬二さん、プロデューサー・會津卓也さん、ディレクター・津田祥寿さんへのインタビューを実施。後編である今回は、稲船さんとインティ・クリエイツの関係性や、インティ・クリエイツにおける『ガンヴォルト』の立ち位置などをお聞きしています。
なお、インタビュー中は敬称略。
『蒼き雷霆 ガンヴォルト 鎖環』インタビュー
家族のような信頼関係
――2014年から始まった『ガンヴォルト』シリーズ。以前のタイトルから付き合いはありましたが、当初の印象はいかがでしたか?
稲船:インティ・クリエイツができた時は、元カプコンのメンバーでほぼ構成されていたので、当時の印象はよくなかったですよ。
(一同笑)
稲船:俺がカワイがっていたメンバーを會津がインティ・クリエイツに連れていっちゃったわけですからね。
會津:すみません。ずっと「返せ返せ」って言われてました。
稲船:『ロックマンゼロ』を作る時にお願いしたわけですが、メンバーを知っていたし「こいつらなら頑張るだろうな」という感覚、信用はありました。信用していなければ『ロックマンゼロ』の開発を任せていません。
いろいろなところで言っているのですが、ゼロはカプコンの中でも俺がキャラクターデザインをして、「ゼロは触るな! 俺のデザインのままにしろ! 新しくするな!」と言って、触らせていなかったのです。
でも『ロックマンゼロ』を作るわけですから、「もちろんチェックはするけど、自分らでデザインしていいよ!」と言ってインティに投げました。その時点で信頼していたわけです。
會津:ありがとうございます。
稲船:最初からこいつらはできるとも思っていました。もちろんダメ出ししたり、怒ったりしたこともいっぱいありますが、最初からかなりいい関係でしたね。信頼している家族のような感じです。
本作の監修依頼を頼まれた際、前回までは自分の会社だったので気軽に「やるよ!」と言えたわけですが、今はレベルファイブグループに入っています。しかもレベルファイブグループにいながら外の会社の監修をすることは異例なんですよ。
でも、どうしても監修したかったので日野さん(※)に直接交渉してやらせてもらいました。他とはやっていないので、インティだからという特別感はありますね、そういう意味でも、最初から信頼している会社です。
※レベルファイブの代表取締役社長の日野晃博さん。
プロデュースもネクストフェーズへ
――以前に稲船さんは「1作目は試行錯誤するのでコストがかさむ。2作目は利益率を上げて稼ぐ必要がある」と話されていました。3作目における制作セオリーはあるのでしょうか?
稲船:2作目である程度1作目の部分を回収し、3作目ではコストを抑えてそれ以上の売上を立てていくんです。3作目は2作目を踏まえつつ、同じように作っていくのがセオリーといればセオリーです。でも4作目になった時には大きく変えなきゃいけないんですよ。
『1』~『3』は3部作とよく言われるじゃないですか? だからある程度システムが一緒で構わない。だけど4作目となると、大きくモデルチェンジをして違いを出して、うまく変化できるかで、5作目以降が決まっていくと思います。自分が手掛けてきた続編はこの流れでしたね。
――なるほど。
稲船:ただ『ガンヴォルト』の場合、1作目と2作目で極端に言えば力尽きちゃってるんですよ。言うならば、『1』と『爪』の2作で3部作のセオリーを使っている感じ。そのため本作は3作目を作るような感覚ではなく、4作目に近い作りをしないとダメだなと思いました。
3DSからNintendo Switchとハードが変わっていますし、売り方を含めて変えていかねばならないと。ターゲットを含めて同じ思想で作ると失敗するだろうと思いました。その1つがパッケージ版の販売でもあります。
――これまでのタイトルはPS4やSteamなどでも発売されています。本作はマルチに展開する予定はあるのでしょうか?
稲船:今は任天堂ハードでの展開ですけど、今後はもしかするともっと間口を広げてマルチで展開するなど、もっと広いところからユーザーを取りに行かなければと思っています。
GVもネクストフェーズへと進化しているので、プロデュース的にも新しいフェーズに行かなければというイメージです。
――『ガンヴォルト』シリーズをすぐ近くでご覧になられていて、初期と比べて変わってきた部分、逆に変わっていない部分はありますか?
稲船:アクション監修という関わり方なので細かい部分は分かりませんが、基本的なゲームの作り方は初期から変わっていないと思います。ただ1作目を作っていた時と本作では、経営的な視点は違うだろうなと思います。
作品をどう売りたいのか? どう広げていきたいのか? そういうビジョンが社長である會津の頭の中にあって、それを目指していく形になっていると思います。単に「ゲームができちゃったので売ります!」みたいなことではなく戦略的になっているでしょう。
『ガンヴォルト』はインティ・クリエイツにとって特別なタイトル
――本作の注目ポイントについてお話いただければと思います。
會津:3作目ということで、『1』や『爪』の要素を入れたうえで、新要素も入れているところです。
注目してほしい新要素はやはり“イマージュパルス”ですね、他の要素は順当なアップデートだったり、シリーズ作品としておなじみのシステムだったりするのですが、“イマージュパルス”はシリーズ作になかった完全に新しい要素。そのため、楽しみにしていただきたいですね。
あと発売後、有償と無償のアップデートを予定しています。期間や量などの詳細はまだ決まっていないのですが、決まり次第公開したいと思っているので、こちらにもご期待ください。
津田:やはり注目してほしい要素は“きりん”ですね。キャラもアクションも新要素でポイントになっていると思います。
前作では“アキュラ”、今作では“きりん”というポイント=キャラクターとして作っていて、新キャラの魅力を最大限に生かすためにライブノベルだったり、歌だったり、アクションだったりという要素を入れているので、きりんを好きになってもらいたいです。
會津:シンプルに「カワイイ!」で好きになってもらえると思っています。
――アキュラときりんの名前が出たのでお聞きしたいのですが、『ガンヴォルト』シリーズと『白き鋼鉄のX(イクス)』シリーズでは、どのような違いがあるのでしょうか?
會津:大きく違うのはゲームのジャンルです。『ガンヴォルト』シリーズは“ライトノベル2Dアクション”ですが、『イクス』シリーズは“2Dアクション”です。
何が違うかというと、『ガンヴォルト』シリーズは世界観やキャラクターを楽しんでもらうための2Dアクションで、『イクス』シリーズは“2Dアクションの極限をみせてやる”と言っているように、「2Dアクション好きは『イクス』で遊んでおこう!」というぐらいのつもりで作ったタイトルになります。
『ガンヴォルト』シリーズは、アクションゲームはそこまで興味がないけど、キャラクターや世界観が好みだからやってみたいという人にも知ってもらいたいタイトルになっています。
――そもそものコンセプトが違うわけですね。
津田:『ガンヴォルト』シリーズも、もちろんアクション好きをターゲットにしているのですが、キャラクターや世界観に興味をもっていただいた人を、どうにかしてアクションゲームに繋ぎ止める方法はないのかをメインに考えています。
その答えとして、思いついたモノをシステム内に片っ端から組み込んでいます。キャラクターについてはとにかく印象的な喋りをするキャラクターにしてほしいとシナリオライターにお願いして、個性的なキャラクターに仕上げてもらっています。
――そのためか、『ガンヴォルト』シリーズに登場するキャラクターは少しアクが強いと言いますか、記憶に残りやすいんですね。
津田:小学生のころに好きだったものって、10年、20年と大人になっても好きでいてくれるじゃないですか。だから『ガンヴォルト』は小学生のファンが増えてほしいと思っていたのですが、実際は小学生のユーザーが少なくて……。
會津:年代別のグラフを作ったら、小学生の人数が少なすぎてパーセンテージが出ないという(笑)。
津田:それを見て少しガッカリしましたね。
會津:小学生にまったく売れていないわけではないのですが、中高生以上の比率が多いんですね。
津田:中高生のユーザーを得られていることが分かりました。また、これまでのアクションゲームユーザーとは違う層がついていることがSNSなどで感触として得られたので、そこは大事にしていきたいと思っています。
會津:『ガンヴォルト』と『イクス』の違いに絞ったので極端な話になっていますけど、もちろんアクションゲームが好きな人が遊んだら楽しいことは前提条件としてあります。
本作は“初心者でも遊べるゲーム”というコンセプトがあるので、キャラクターや世界観が好きだけどアクションが苦手という人でも最後までしっかりと遊べるように、工夫しています。
――開発体制の違いはあるのでしょうか?
會津:『ガンヴォルト』はインティ・クリエイツに所属している社員全員が1回でも関われるようにしてほしいと、津田にお願いしているんですよ。
津田:そのため、キャラクターデザインやボスをどんなキャラにするのかという初期案など、たくさんの人のアイデアが詰め込まれた作品になっていますね。
會津:端的に説明すると、社員からキャラクター案やボス案を募集して、その中から採用されたものをキャラデザ担当の荒木宗弘が手直しして、それをイラストレーターの畠山義崇さんにリファインしてもらう流れです。
そのため『ガンヴォルト』シリーズのキャラクターデザインは畠山さんではないんです。でも『イクス』シリーズは、デザインもイラストもすべて畠山さんが描いている。そのため、シリーズを通してデザインの統一性があるのは『イクス』シリーズになりますね。
――社員総出で『ガンヴォルト』を制作していたとは驚きです。
會津:キャラクターやボス案のアイデア募集をしているのでデザイナーが関われるところが非常に多いですし、プログラマーやサウンドメンバーも全員携わっています。インティ・クリエイツのフラグシップタイトルとして必ず全員プロジェクトに加わるようにして作っているので、インティ・クリエイツに在籍したことがあるのなら「『ガンヴォルト』を作ったことあるよ!」と言えるようにしたいですね。それも『ガンヴォルト』のコンセプトとしてあります。
逆に『イクス』の開発はディレクターがすべてを決めて、デザイン面はデザイナーが決めていく普通の作り方になっていますね。
――『ガンヴォルト』は、多くの人が携わっているので開発に時間がかかるのでしょうか?
會津:そうなんですよ(笑)。
津田:すごく時間がかかります(笑)。
會津:具体的に『イクス』シリーズであればボス1体の仕様が決まるのに2週間ぐらいだとすると、『ガンヴォルト』は少なくとも4カ月はかかります。
津田:キャラ案を出した人とミーティングをして、そのあとでキャラとプログラマーが集まって、企画の人がボスの攻撃方法を説明します。そうすると、キャラ案を出した人から「それはおかしい!」と意見が出る。
會津:「それは違う!」って言われるね(笑)。
津田:もう一回出直していく流れになって、そこから2週間かけて仕様を書き直すという作業の繰り返しですね。
會津:長い時には6カ月以上かかったこともありました……。そういう作り方をしているので、『ガンヴォルト』と『イクス』では、そもそもの作り方が違ううえに、会社としてタイトルの持っている意味合いが違うのです。
他のタイトルだと、このタイミングまでに完成させる必要があるため、期限が来たら内容を削ってでもできるように作らなければいけないのです。
でも『ガンヴォルト』の場合は、「完成しない? だったら発売日を伸ばそう!」というように、納得できるまで作るタイトルなので全然違いますね。
稲船:プロデューサーとしては一番厄介なタイプですね。普通であれば能力のないプロデューサーですよ。
會津:すみません。
(一同笑)
稲船:納得がいかないから期限を延ばすクリエイターは絶対にダメ。それをこだわりという言葉に置き換えて伸ばそうとするのは、何か間違っていると思いますね。やはり決められた期限の中にこだわりを入れていくのがいいかと。
野球で例えるなら、160kmのストレートを投げられたとしてもストライクゾーンに入らなければ意味がない。それならば150kmのストレートでストライクを取れる方がいいわけです。だから期限を守れないというのは、ストライクが入らない投手と同じだと思いますね。
――あまりよくないスタイルということでしょうか?
稲船:ただ、いろいろな人の意見を聞きながら制作をするのは理想的ではあるので、その理想的な環境を作れて、きちんとバランスを取っていけるならばすごくいいかと。
企画がキャラとかプログラマーの意見を聞かずにワンマンで進めていくと、短く作れるわけです。ただ、それでいいゲームができるのかといえば、そうではない。
いろいろな人の意見を入れながらまとめていくことと、期限を守ることのバランスをどう取っていくのかが、ゲーム作りの大事なところです。
ちょっと時間がかかり過ぎている本作は、バランス的に崩れているけど、インティ・クリエイツらしいなと……。
會津:一応、フォローしておくとこのような作り方をしているのは『ガンヴォルト』シリーズだけです!
(一同笑)
會津:ディレクターが副社長で、プロデューサーが社長というタイトルは『ガンヴォルト』しかないです。だから期限を伸ばせるだけの話で、他のタイトルでプロデューサーが「開発を伸ばします!」と言ってきたら「何を言っているんだ?」と一蹴されますよ(笑)。
また、社員総出の『ガンヴォルト』は、社員を育てるという意味合いもあるので、ただ製品が完成すればいいわけではないのです。その過程も大事なので、インティ・クリエイツにとても非常に特別なタイトルとなっています。
――そう考えると『ガンヴォルト』と『イクス』は全然違う作品になっているわけですね。
會津:そうですね。成り立ちからして『イクス』シリーズとは全然違うんですよ。『イクス』シリーズはよく『ガンヴォルト』と同じシリーズに見られがちになるのですが、『イクス』シリーズは別のコンセプトに基づいて制作されているスピンアウトした違うシリーズ。明確に分けたいところも心の中にはありますね。
――最後に、本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
津田:玄人プレイヤーに向けた調整をアクションディレクターの宮澤拡希が行っているので歯ごたえのあるアクションを味わえると思います。
あとは、先ほども話しましたが世界観やキャラクターを見て興味をもっていただいたけど、アクションが苦手という方にこそプレイしてほしいと思っているので、ぜひ手にとって遊んでいただきたいです。
會津:今回、『ガンヴォルト』シリーズとしては初めてパッケージ版とダウンロード版が一緒に発売されます。
ダウンロード版をいつも買っていただいている方はもちろんダウンロード版を買っていただいても問題ないのですが、今回パッケージ版があります。しかもパッケージ版には限定版があって、その中には4年間の設定がギッチリ詰まった設定資料集がついてきます!
あと弊社はサウンドトラックCDをよく出すのですけど、大体1枚2,000円します。今回は2枚組のサントラが付属するので、4,000円分入っていて、さらに“わんボルト”のアクリルキーホルダーもついてくるという、かなりお得な限定版になっています。
しかも、限定版のパッケージも描き下ろしになっているので、ぜひパッケージ版を手に取ってほしいです。
店舗特典予約もありますので、好きな絵柄の店舗でですね予約していただきたいです!
重要なことなのでもう一度言います。ぜひ予約していただきたいです!
稲船:本作はレトロな部分がありつつも進化したタイトルなので、不思議なゲームになっていると思います。絵や世界観から入ってきたエントリーユーザーでも楽しくプレイできるようなアクションになっていると思います。
そこから徐々にうまくなっていくことも組み込まれているため、世界観やキャラクターが好きで始めても、最終的にはある程度アクションが上達しているという、老若男女問わず楽しめるタイトルになっています。奥が深いというか、津田が目指していた幅広いタイトルになっています。
あと、うまいプレイ、華麗なプレイができた時に「うまくできたね!」って褒めてくれる要素がある。そういった部分も丁寧に作られているため、うまくなっていっていることが視覚的にも聴覚的にも分かるようになっているので、ぜひ体感してほしいです。
津田の言う通り、小学生や子どもにも遊んでもらいので、アクションゲームが苦手だからと突き放さないで、ぜひ遊んでほしいですね。
――本日はありがとうございました!
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