大手にはできない挑戦ができる! インディーゲーム業界の未来は明るい:SIE吉田修平氏インタビュー連載【電撃インディー#298】

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 “PlayStation”で“インディーゲーム”を推進するインディーズ イニシアチブの代表として、現在さまざまな活動を行っている吉田修平氏。ゲーム好きなら名前を聞いたことがある有名人で、ゲームシーンのいろいろな場所で見かけた方も多いだろう。

 今回から始まるこのコーナーでは、そんな吉田氏に電撃ゲームメディア総編集長の西岡美道がインディーゲームに関するさまざまな質問を行い、吉田修平氏から見た世界のインディーゲーム事情や、今後“PlayStation”で発売予定の最新インディーゲームなど、ユーザーが気になる疑問やお得な情報を掲載していく予定だ。

 第1回は、今からインディーゲームクリエイターを目指す人に向けたアドバイスと、吉田氏がオススメするタイトルについてうかがってみた。

  • ▲ソニー・インタラクティブエンタテインメント インディーズ イニシアチブ代表の吉田修平氏(文中は敬称略)。

 なお、第1回は興味深いお話をたっぷりとお聞きすることができ、1つの記事にまとめるとかなりのボリュームになってしまうので、3つの記事に分けて公開中。

 この記事は3つ目の記事になるので、まだ1つ目と2つ目の記事を読んでいなければ、そちらから読んでみて欲しい。

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PROFILE

吉田修平(よしだ しゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
インディーズ イニシアチブ代表

 1986年ソニー株式会社に入社、1993年2月にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に参画。

 以降、“PlayStation”プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュースし、2008年よりゲーム制作部門であるSIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントに就任。

 『ゴッド・オブ・ウォー』、『アンチャーテッド』各シリーズの制作などを担当。2016年10月に発売したバーチャルリアリティシステム『PlayStation VR』の開発にも携わる。

 2019年11月よりインディーズゲームを推進するインディーズ イニシアチブ代表に就任。

日本初のゲームが売れるようになってきた国内のインディーゲーム事情

──コロナ禍で日本のゲーム業界も打撃を受けてきましたが、吉田さんは今の国内インディーシーンを見てどう思いますか?

吉田:日本のチームが作ったゲームが、世界で売れているパターンが増えてきました。それが本当にうれしいことです。

 『天穂のサクナヒメ』(マーベラス)が100万本を超える大ヒットをして先駆者になりましたが、そのあとに出た『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』(Binary Haze Interective)も世界でヒットしました。

 7月28日にPS5/PS4用ソフトとしても発売となる『LOST EPIC』も日本のチーム。ゲームをずっと作られてきた人たちの作品が表に出る機会が増えて、Steamで販売する方法も上手になってこられました。

 必ずしもパブリッシャーさんを通じて出されていない場合もありますが、集英社さんも集英社ゲームズというパブリッシャーさんになって“BitSummit”で出会ったタイトルを発売予定ですし、日本のパブリッシャーさんも増えています。そうした、サポートも得られているのかなと。

 とくに最近になって売れているゲームを作っている人達は、生高橋さんやもっぴんさんのような天才的な若者というよりも、これまでずっとゲームを作っていた人たち。

 彼らが、そのスキルを生かして独立してから、自分たちの作品を出されています。

 だから、内容も素晴らしいですよね。日本のゲーム制作者業界というのは非常に大きなものなので、すごくポテンシャルがあります。

 自分たちが作りたいもののファンディングを受けて、世界の市場で通る。そのチャンスが広がっている感じがしますね。

──本当にそうですよね。ゲーム性自体はクラシックだけど新しいものも採り入れていて、とてもクオリティが高い。

吉田:2Dのメトロイドヴァニアやローグライト、ソウルライクは世界中にファンがいるのですが、日本のクリエイターが入りやすく、作りやすいジャンルなんですよ。

 往年の8Bit、16Bitの2Dでゲームを作っていた時代に大活躍された人達も多いですし、その頃は日本のゲーム業界が世界を席巻していました。

 その後は3Dになり、ハリウッド的でリアルな世界になってくると欧米との差が出てきましたが、ドット絵で手触りの良いアクションゲームに関して言えば、日本人は一日の長があると思います。

──才能を生かして、今風に解釈したものを出すことができれば世界でも受けるということですね。ただ、逆にメトロイドヴァニアやソウルライクというだけでは埋もれてしまう危険性もありますよね?

吉田:それはそうです。たくさんあるなかで、クオリティにしてもキャラクターデザインにしても手触りにしても、頭1つ抜けたものを日本のクリエイターなら作れると思います。

 やはり、3Dのアクションアドベンチャーなどになると相当きついですよ。

 インディーゲームと言っても、欧米では最初から100億円かけて50人体制でベンチャーを作り、バーンとお金が入ってから作るようなケースがあるので、そういったところと勝負をするのは相当きついと思います。

 2Dドット絵のアクションローグライクならば、今の段階であれば勝負できると思います。

 そういう感じで勝負している東南アジアのデベロッパーさんもいますね。あと、日本の得意分野はアドベンチャーゲーム。

 アニメファンは世界中にいますから。そうした自分たちが得意な分野。これだったら良い作品を作れる。

 どこで勝負するのか。何が向いているのかをわかって作れているのが良いですね。

──そうなると、日本のインディーゲーム業界は未来が明るいと考えてもいいですよね?

吉田:そう思います。日本にいなくても、どこにいてもゲームは作れますし、今だと投資家やパブリッシャーさんも日本でゲームを作るほうが逆に安いので注目してくれています。

 名が知られたクリエイターがコアになっているスタジオで、欧米のベンチャーから投資の話が入ってきているところもあるみたいですね。

 それは円安ですし、長い間日本の物価が上がらなかったということも理由にあるのかもしれません。

 スキルがある日本人に投資するという例は、今後も増えていくと思いますよ。だからこそ、最初にお話したように英語ができるようになっておくとオトクです。

 欧米もそうですが、あとは中国。今はチャイナマネーもすごくあるので、盛んに投資が行われています。

 そうしたところから資金を得てゲーム制作に入れる場合もあるでしょう。

 ベテランや自分たちの作品があるクリエイターのチームであれば、今はそういった道も増えていますね。

──日本の作品への注目度は上がっていますよね。“Indie Live Expo”で紹介されている日本人の作品も、クオリティが高いものが多いです。たとえば、Team Ladybugさんの『DRAINUS(ドレイナス)』。あれは、ものすごくハイクオリティな物でした。

吉田:“Indie Live Expo”は、視聴者数も多いですね。視聴者が多いので、すごく良い発表の場になっています。

 最初に“Indie Live Expo”が始まる前、運営の人たちにお話をうかがったのですが、彼らは「日本のインディーを世界に届けたい。そのサポートをしたい」という思いで運営されていたので、うまくいって良かったです。

 すっかり、定着しましたよね。あれだけうまくいっていれば、うちのタイトルをぜひそこで発表して欲しいと、コンテンツをどんどん持ってきてくれると思います。

──“Indie Live Expo”は、初回だと応援放送が10チャンネル程度でしたが、今では100チャンネルにまで増えていて驚きました。

吉田:それだけビューアーが増えているんでしょう。単日開催だったのも2日間開催になりました。

 日本のインディゲームシーンはユーザーさんも増えていますし、作る方をサポートする環境も良くなっています。

 それから、発売後にレポートしていただけるメディアさんも増えていますね。

 すごく良い環境ですが、それぐらい新しいアイディアに飢えているんです。

 この業界がずっと成功していくためには、新しいアイディアの作品が次々と出ていかないと飽きられてしまうんですよ。インディーゲームはそこを突破できる力があります。

 ある種、無謀とも言える挑戦もできる。大手ゲームメーカーでは、どうしても多額の予算で作るから失敗できず、手堅い内容を選んでしまいます。

 大手が基本的に誰でも遊べるように磨いたタイトルで業界を回しつつ、インディーゲームに良い意味で隙を作っているんです。「なんだこれは!?」と言われるようなタイトルでも、インディーで自由に作ってくださいという構造は変わらないと思います。

──逆に多すぎて選ぶ方も大変ですよね。吉田さんは『Fall Guys: Ultimate Knockout』(PS4R用/EPIC GAMES)をTwitterで宣伝していましたが、インディーゲームが数多く存在しているなかでどういう方針で推しているのですか?

吉田:昔、SIE ワールドワイド・スタジオジャパンスタジオ時代に自分達で定期配信番組をやっていた時は、ただインディーゲームが好きだからと自社とは無関係に推していました。

 それこそ何かのイベントで見たり、気に入ったタイトルがあったら推すという感じでやっていましたね。

 今は、会社の中にある開発中のインディーゲームをチェックするチームと一緒に仕事をしているので、以前よりも世の中で作られているゲームに触れる機会が増えています。

 その中で、今後PlayStationで出てくるラインナップを戦略的にプロモートする形です。

 『Fall Guys』も、最初はPlayStationとPCだけで出ていたということもあって推していこうと。もちろん、無茶苦茶面白いゲームなので自分でも遊んでいました。

 今年であれば、今後出てくるなかでは『Stray』ですね。オンラインで初めてPS5のタイトルを発表した時からユーザーさんも期待してくれていますし、そこはしっかりプロモートしていこうと思っています。

 そうではなく、たとえばPlayStationで出るのかもわからないPCゲームでも、面白いと思ったら応援するつもりでツイートしていますよ。

 とくに、アジアのデベロッパーさんは応援したいと思っています。アジアや中南米のデベロッパーさんはイベントで知り合うと若い人が多くて、みんなインディーなんですよ。

 業界自体がすごく若い。夢を持っていて、すごく応援したくなります。

  • ▲サイバーパンクな世界を猫になって冒険できる独特なアドベンチャー『Stray』。

──『Stray』といえば、新しいプランになったPlayStation Plusで発売日から遊べますよね。サブスクリプションサービスで発売日からゲームを遊べるようになったことで、インディーに触れる機会も増えるのではないでしょうか?

吉田:『Stray』は、PlayStation PlusエクストラとプレミアムのDAY1ですね。だから、多くの人に遊んでもらえると思います。

 エクストラとプレミアムのラインナップは、なかなかいいですよ。PS Nowにあったゲームも入っていますし、新しくインディーゲームの名作も入っています。

 今後もタイトルを追加していくので、いろいろなゲームをちょっとずつ試してみたい人には非常にお得なサービスです。

──Xbox Game Passもそうなのですが、インディーゲーム開発者にとってもサブスクリプションで触れてもらえる機会が増えることはありがたいのではないでしょうか。

吉田:インディーデベロッパーさんは知ってもらう機会が難しいですからね。

 サブスクリプションのお金さえ払っておけば遊べるので、とりあえず遊ぼうという人が増えるでしょうし、デベロッパーさんが続編を出すときにも知っているファンベースが増えると思います。

 サブスクリプションによる収入もあると思いますが、収入以上のプラスがあるのではないでしょうか。

PSやPCで遊べる吉田修平さんオススメのインディーゲーム

──いろいろと参考になるお話が聞けて助かりました。最後に、現在配信されているものや今後PS Storeで出る予定のインディ―ゲームのなかで、吉田さんオススメの作品を教えていただけますか?

吉田:7月は『Stray』と、先ほどお話した『LOST EPIC』ですね。8月11日にはDevolver Digitalの『CULT OF THE LAMB』も出ます。あれは滅茶苦茶おもしろいですよ。私もイベントなどで遊ばせていただいていますが、すごく良かったです。

  • ▲宗教教団を運営する強烈な設定のアクションアドベンチャー『CULT OF THE LAMB』。

 すでに発売済みのタイトルで遊べるものをあげると『Salt and Sacrifice』。あとは、4月に出た『Nobody Saves the World』

 作っているのはカナダのDRINKBOX STUDIOSで、前に『Guacamelee(覆面闘士)』や『SEVERED』を作っていた2Dのアクションゲームが得意なチームです。今度はアクションRPGなのですが、結構なボリューム感があるゲームになっています。

 出たばかりの作品では『Behind the Frame とっておきの景色を』(AKUPARA GAMES)ですね。

 台湾のゲームスタジオ・Silver Lining Studioが作ったゲームで、ショートストーリーみたいな心温まる作品です。2時間ぐらいで遊べてしまう良いゲームなのでオススメしたいですね。

 あとは『Trek to Yomi』(Devolver Digital)も、ビジュアル面がすごくカッコ良い。

 『Ghost of Tsushima』の黒澤モードだけで作ったような見た目で、黒澤映画が本当に好きなのだと思います。こうして挙げていくと、尽きないですね。

──吉田さんが以前に推していた『Chicory: A Colorful Tale』も日本のPS5用ページが出来ていますし、そろそろ発売されるのを期待してもよさそうですか?

吉田:『Chicory: A Colorful Tale』(FINJI GAMES)も、すごく好きなタイトルです。あれこそ、ほかにないゲームですよ。

 まだ国内では出ていませんが、任天堂さんのIndie Worldでも紹介されていたのでローカライズが進んでいるところだと思います。ローカライズが終われば、日本のPSでも出ると思いますしオススメですよ。

 PSではないのですが、PCがあれば『Inscryption』もオススメします。コンシューマーで出すのは難しそうな作品ですけれども。

  • ▲色を塗り替えてパズルを解いていく『Chicory: A Colorful Tale』。数々の賞を受賞し、海外で非常に高く評価されている。

© 2022 Sony Interactive Entertainment Inc.
『Stray』
© 2022 BlueTwelve Studio Ltd. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.
『CULT OF THE LAMB』
Copyright Massive Monster 2021. All Rights Reserved.
『Chicory: A Colorful Tale』
This is a fun game and you will have a good time playing it
Chicory: A Colorful Tale™ © 2021 Greg Lobanov. All rights reserved. Finji® and regal weasel and crown logo are trademarks of Finji, LLC.

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