『FF14』背景制作の裏話を直撃。『暁月のフィナーレ』の世界はこうして作られた!【BG班インタビュー前編】

電撃オンライン
公開日時

 昨年発売された最新拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』(パッチ6.0)で、長きに渡って描かれた”ハイデリン・ゾディアーク編”の物語がひとつの完結を迎えた『ファイナルファンタジーXIV(以下FFXIV)』。すでにその物語を体験した光の戦士たちなら、怒涛の展開とともに、冒険の途中で目にするさまざまな美しい風景に目を奪われた人も多いことでしょう。

 そこで今回は、『暁月のフィナーレ』のバックグラウンド(背景や景観。以下BG)の制作を担う2人のキーマンにインタビューを敢行。色鮮やかな景色が広がる“サベネア島”や、月が舞台となる“嘆きの海”など、6.0の印象的なフィールドがどのようにして作られたのか、リードバックグラウンドアーティストの高梨佳樹氏と、バックグラウンドアーティストの志田雅人氏のおふたりに制作秘話を語っていただきました。

 なお、本インタビュー記事は前編となります。追って公開となるインタビュー後編では、パッチ6.1で実装されたアライアンスレイド“輝ける神域 アグライア”の制作秘話もうかがいましたので、ぜひそちらもチェックを!

※本インタビューの内容は、『暁月のフィナーレ』(パッチ6.0)のネタバレを要所に含んでいます。まだプレイしていない人やプレイ途中の人は、『暁月のフィナーレ』をクリア後に読み進めることをオススメします。

  • ▲『FFXIV』リードバックグラウンドアーティストの高梨佳樹氏(写真左)と、バックグラウンドアーティストの志田雅人氏(写真右)。

“嘆きの海から見るアーテリス”は月から見た地球を踏襲

――まずは、あらためて高梨さんと志田さんの『暁月のフィナーレ』でのご担当領域についてお聞かせください。

高梨佳樹氏(以下、敬称略):リードバックグラウンドアーティストとして、『FFXIV』における背景制作の監修や品質、スケジュールの管理全般を担当させていただいております。

志田雅人氏(以下、敬称略):フィールドとダンジョンの画作りに関するディレクションと品質管理を行っております。そのほか天候などの環境制作と、一部フィールドのテクスチャのブラッシュアップも担当させていただいております。

――過去のインタビューや、ファンフェスの開発パネルでは、高梨さんがおもに全体的な構造を見られていて、志田さん天候などの環境を中心に見られているというお話を伺いましたが、今はそれよりも開発全般をチェックされている形でしょうか?

高梨:そうですね。自分は全体的な監修やマネジメントなどの業務が多くなってきています。

志田:私は引き続き、環境の制作とあわせて画作り全般の品質をチェックし、各スタッフの制作のフォローを行っています。

――『漆黒のヴィランズ』のときに比べ、『暁月のフィナーレ』ではBG班全体の制作体制にも変化がありましたか?

高梨:いえ、そこまで大きく変わっていないですね。タウンやフィールドそれぞれに担当班があって、それぞれに制作を進めていく、といった体制です。

――スタッフの数は増えたのでしょうか?

高梨:大幅には増えていないですね。

志田:微増ぐらいです。若いスタッフが少しずつ増えています。

高梨:やはり、長く運営が続く中で若返りはしないといけないので……(笑)。なお、拡張パッケージの開発時の作業量は通常パッチの作業量よりも多いので、協力会社さんなど外部の方にお手伝いしていただくことも多いです。とはいえ、『暁月のフィナーレ』では『漆黒のヴィランズ』と比べて作業量が大幅に増えたかというと、じつはそれほど大きくは変わってはいません。

――6.0の制作がスタートしたのはかなり前だと思いますが、BG班として背景制作を開始するための共有イメージのようなものは、どのようにして固まっていったのでしょうか。

高梨:まずはシナリオ班との合同会議が開かれて、各マップのテーマやデザイン、コンセプトが書かれた資料が共有されます。そこで、それぞれのフィールドの具体的なイメージやコンセプトが提示されて、フィールド作りに着手していく感じですね。

志田:今回は各フィールドの表現の方向性が大きく異なっていたため、BG全体に共通するコンセプトはとくに掲げていませんでした。ただ既存のエリアと似ないこと、かつ新鮮に見えることを第一に考えて制作しました。

――各エリアの方向性がバラバラというのは、これまでと比べて大変だったのではないでしょうか?

志田:じつを言うと、我々としては方向性がバラバラのほうが作りやすいのです。

高梨:エリアごとに個々に詰められますからね。

志田:似ているエリアが多いと、差別化を図るためのアクションが必要になります。その点、6.0はエリアごとにテーマが大きく違っていたので、作りやすかったですね。

高梨:例えば、『新生エオルゼア』における黒衣森の場合、北部や東部といったように同様のエリアが複数あります。この場合はまったく別物というわけにはいかないので、“似たテイストを入れつつも、差別化する”必要がありました。

 ですが今回は原初世界もあれば、宇宙空間もあり、古代人の世界もある。個々で考えなければいけない、詰めなくてはいけない要素はあるものの、担当スタッフがそれぞれに集中して作成に臨めたのかなと思います。

――最初にシナリオ班から「こういうマップが作りたい」と提示されたときに、「これは大変そうだ……」と感じた指定はありましたか?

高梨:ラヴィリンソスはビックリしましたね。「このフィールドは地下に広がる巨大空間で、人工太陽があって……」と伝えられたときは、「ちょっとよくわからない」となりました(笑)。

一同:(笑)

志田:ラヴィリンソスは“タウンのようなフィールド”というのがユニークな特徴であり、街全体が見渡せる作りなので、処理負荷の削減という点でも難しいだろうと思っていました。

――たしかに広く見渡せるぶん、負荷も大きくなりそうですね。

志田:ほかに驚いたのは、ウルティマ・トゥーレですね。さまざまな要素が盛り込まれた複雑なフィールドであるため、ひとつのマップにうまく収めるのは大変だな、という懸念がありました。

高梨:テーマ自体も“世界の最果て”、“宇宙の果て”というようなキーワードくらいしか用意されていなくて、どう詰めていくべきか迷いました。シナリオ班との合同会議では、BG班のスタッフも全員参加していたのですが、ウルティマ・トゥーレのテーマを聞いたときはみんな「???」となっていましたね(笑)。

――シナリオ班との合同会議でほかにも印象深かったものはありますか?

高梨:合同会議では、おもにキーワードがテキストで提示されるのですが、嘆きの海は「地表に大きな魔法陣が描かれています」といった指示があって、少し驚いた記憶があります。今までは現実世界にあるような場所をイメージしたものが多かったのですが、『暁月のフィナーレ』では魔法陣や人工太陽など、ファンタジーの要素が盛り込まれたオーダーが多かった印象ですね。

志田:個人的にシナリオ側からの要望で印象深かったのはエルピスです。シナリオ班からは「天国のような場所です」と聞いていたのですが、天国といっても人によって思い浮かべるイメージが違いますよね。

――たしかにそうですね……。現実に行ける場所でもないので、そこはイメージを固めるのが難しそうです。

志田:ですから「天国の構成要素は何か」、「天国を作ることでプレイヤーにどのような感情を与えたいのか」など、担当スタッフと長めにディスカッションしたことを覚えています。

――具体的にはどのようなイメージをベースにされたのでしょう?

志田:天国はわりと“物がない”イメージです。雲や浮島の上に花畑や古代ギリシャ・ローマ風の建物がある景観が、最も典型的な天国ではないかと考えました。それを実際にどう表現していくのか話し合いました。

――6.0ではそんなエルピスやウルティマ・トゥーレを筆頭に、バラエティに富んだ多彩なエリアが登場しますが、まずはどのエリアの制作から着手されたのでしょうか? それとも複数エリアを並行して制作していった感じでしょうか?

志田:今回ラザハンとサベネア島は画としてキャッチーなエリアで、6.0のメインのビジュアルになる場所と考えていました。ですので、まずはサベネア島で地形やライティングの画の方向性を固めてから、他エリアの細部を詰めていきました。

――これまでの拡張パッケージでも、制作の指針となるエリアを先行して作るようなスタイルだったのでしょうか?

志田:どの拡張パッケージの制作でも、最初に特定のエリアで画の方向性を固めています。ひとつのイメージを決めた後に、ほかのエリアをどのように見せるべきか考えます。

――ちなみに、5.Xシリーズと比べて技術的な進化や、今回新たにチャレンジしたということはありますか?

高梨:新たに挑戦した部分としては、嘆きの海から見えるアーテリス(惑星ハイデリン)ですね。特定のオブジェクトにカメラを追従させるシステムや、アーテリスが満ち欠けして見えるシステムなどは、あの場所のために独自に採用したものです。

志田:過去に実装されたフライングマウントや潜水のような、ゲームプレイに関わる新しい仕様の追加は今回なかったのですが、嘆きの海におけるアーテリスの変化は、地味ながらも結構な手間がかかっています(笑)。プログラマーと企画、アーティストがそれなりの期間をかけて対応しました。

――具体的にどのような作業をされたのでしょうか?

志田:まずは”現実世界の月から地球はどのように見えるのか”、という点をリサーチしました。地球の自転はどう見えるのか、満ち欠けはどう変わるのか、動画などを見て確認していきました。

 具体的には、“月から見た地球は、同じ位置で西から東に回っているように見える”、“地球は満ち欠けしていて、右から太陽光が入って右から欠けていく”、そして“月から見た地球は、地球から見える月よりも4倍程度大きい”というような知識です。中学校理科の問題に出そうですね(笑)。

――あそこまで大きく見えるのはゲームならではの誇張ではなく、現実世界で月から見た地球の見え方と同様なのですね。

志田:実際の見え方をひと通りリサーチしたうえで、ゲームの表現として落とし込むところと割り切るところを決めていきました。現状は、月から見えるアーテリスが(エオルゼア時間で)32日の周期で満ち欠けする表現、アーテリスが1日の周期で自転する表現が実装されています。

――逆に割り切ったのはどのような表現なのでしょう?

志田:月面の昼と夜の表現ですね。月面では昼と夜がそれぞれ、およそ16日間連続して続く状態が変化として正しいのですが、夜が長く続いたところで誰も喜ばないだろうと思いまして、そこは割り切りました。

高梨:嘆きの海に行ってずっと夜のままですと、ゲームの進行にも影響が出てしまいますからね。

――ちなみに、嘆きの海から見たアーテリスを長時間にわたって撮影した映像が、有志の方によってYouTubeにアップロードされて、話題になっていました。

高梨:ありがたいことに、満ち欠けの模様をまとめていただいたりしていますね。

――そのアーテリスの大陸の形状を見て「この大陸は青魔道士クエストで存在が語られた新大陸だな」などといった予想もされていました。

高梨:そこは織田(織田万里氏。リードストーリーデザイナー)に「この大陸はどういう位置づけなのか」といったことや、見せる部分と見せない部分をヒアリングしながらテクスチャを作成していきました。

――6.0で実装されたオールド・シャーレアンやガレマルドなども、これまでに名前や一部のシーンのみが登場していたエリアでしたが、その細かいディティールもシナリオ班の皆さんと詰めながら作っていったのでしょうか。

高梨:まずフィールドごとに担当者が決まったら、担当者とシナリオ班とで質疑応答を行います。「ここでどういう生活がされているのか」、「どういった歴史があるか」など、聞いてみたいことのリストを作って、設定を詰めていく感じですね。

 この作業を行わないと形にできないので、密に行っています。今回のガレマルドなども、「都市が壊れてからどれぐらい時間が経っているか」など、質疑応答を行ってすり合わせを行っていきました。

――シナリオ班とのキャッチボールを繰り返したからこそ、設定が絵作りにもしっかりと反映されているのですね。

高梨:そのためにも幾度となくやり取りをして制作を進めていきます。たとえば嘆きの海ですと、「レポリットの施設とはどのようなものなのか」、「どういう生活をしていてコールドスリープに入ったのか」などを詰めていきました。

6.0では彩度の高い特徴的な空を表現

――では次に個々のエリアについてうかがっていきます。まず『暁月のフィナーレ』でホームタウンになるオールド・シャーレアンですが、これまでの拠点に比べて制作する際に意識された点は何でしょうか?

高梨:オールド・シャーレアンは、“シャーレアン島”、“本国”など、言葉自体は先行して登場していた場所ですから、プレイヤーの皆さんの「ようやくあそこに行ける!」という声もあり、担当者が結構なプレッシャーを感じていました。ですからシナリオ班とのやり取りに加えて、世界設定本(※)をもう一度見直して、シャーレアンはどういう国だったのかを確認しながら作成していきました。

※スクウェア・エニックスより刊行中の2冊の書籍「Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~」と「Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~ Volume II」のこと。

 とくに、今までの拠点となったタウンは、商業都市や戦いの準備をしているタイプの都市が多かったのに対し、今回は学術都市というコンセプトがあり、それをどう表現しようかを詰めていった感じです。

――オールド・シャーレアンといえば、港に巨大なサリャク像があるのも特徴的です。これは開発初期の段階からから決まっていたのでしょうか?

高梨:サリャクの像に関しては、シナリオ班から“必須”ではなく“希望”として入れてほしいと伝えられていました。そこでフィールドを作る際、アートセクションのスタッフにいくつものアイデアアートを描いてもらいましたね。中には現状の何倍も大きい像が街中にある案もありました。そのアートを確認しつつ、「(街の)シンボルとして、船でやって来たとき最初に見えるようにサリャク像を置こう」と決めて、作業を進めていきました。

――オールド・シャーレアンは北洋の島にあるため寒冷な気候を感じさせつつも、地中海的な爽やかな港町といった雰囲気もあります。どのようなテーマで街のイメージを作られたのでしょうか。

高梨:もともとのテーマ自体、アイスランドや北の地方の雰囲気のイメージでした。ですが完全に現実世界に寄せるわけではなく、『FFXIV』独自の表現として海の色を明るめにしたり、緑の色を調整したりして、少し不思議な地方の都市を目指しています。

――そのような爽やかなイメージのほか、テレポ後にすぐマーケットへアクセスできるなど、プレイしていてとても利便性がいいというのもオールド・シャーレアンの大きな特徴です。施設の配置はどのようにして決まっていったのでしょう?

高梨:『漆黒のヴィランズ』のクリスタリウムがやや複雑な構造だったので、今回はシンプルにしようとBG班内で話し合い、それを元にエリアのモックアップを作って施設を配置していきました。その際、我々もプレイヤーとしてゲームを遊んでいる経験上、「ここが一番便利だろうな」という場所にいったん仮で都市内エーテライトやマーケットボードなどを配置していくわけです。

 そしてその後、プランナーさんやプログラマーさんと話し合って、施設の位置を調整・変更していきます。その話し合いでは利便性ももちろん重視するのですが、人が密集しすぎると処理が重くなるという問題も発生してしまいますので、たいていは便利さ以外の要素も加味して位置を調整していくことになります。ですが、今回はBG班が「ここが便利だな」と設定していた仮配置が、意外にもそのまま通っちゃいまして。結果的に便利になってよかったなと(笑)。

――おかげさまで助かっています(笑)。ちなみに、そのやり取りはこれまでに拠点となるタウンを作った際に同様でしたか?

高梨:このやり取りは『紅蓮のリベレーター』のクガネでもありましたね。普段はなるべく密集させないようにと調整することが多いのですが、今回はうまくいった感じです(笑)。

――つぎはオールド・シャーレアンの地下に広がるラヴィリンソスについてうかがいます。最初に訪れたタイミングで、わずかにフィールドの南側の様子が見えますが、エリアの構造的に“風景によるネタバレ”の調整が難しかったのでは?

志田:基本的にはネタバレをしないようにひたすら隠す形で作っていきました。

高梨:制作途中では「下の施設を別マップに分けた方がいいんじゃないか」という案が出たこともあるのですが、「ロードを挟んで施設に入るよりも、リアルタイムで移動できるという要素は残したほうがいい」という結論になりまして。最終的にはポリゴン数が厳しい中、あの施設の中に魔導船を格納する形で進めていきました。

――牧場のような場所、街のような場所、そして最後にドーム型の建物の中に宇宙船と、まさにいろいろな要素がてんこ盛りのエリアですよね。

志田:最初に訪れたときに「ここはなんだろう」という謎が浮かんでくる部分がラヴィリンソスの魅力だと思いますので、ネタバレになるところは隠して、“不思議な土地を辿っていくと最終的に驚きがある”というマップデザインにしています。

――ちなみに、このエリアのみの要素である“人工太陽”関連で苦労した点などはありますか?

志田:実際の時間に合わせて人工太陽の位置を変える仕様にはしていませんので、表現は割り切っていますね。ここはあまり突っ込まないでください(笑)

高梨:今回は、あくまで現状の仕様の範囲内で人工太陽を表現した感じですね。上空を見るとパネルのようになっていて、ただの空ではなく”ドーム面に空が映された人工の世界”だとわかるように、担当者も表現してくれました。

志田:今までと同じように空を作ってしまうとかわり映えしない見た目になるので、雲の表現をエフェクト班にお願いするなど制作方法を少々変えています。

――ラヴィリンソスで気になったのは、エリアがバリアのようなもので区切られていることです。最初に見たときは通り抜けられないと思って律儀に迂回していたりしていたのですが(笑)、どのような経緯であの表現を取り入れたのでしょうか?

志田:ラヴィリンソスには研究施設という側面もあるので、区画ごとに環境をコントロールするためにバリアを張っています。上の層でも建物を離れて林に進むと環境が変わるのですが、それも吉田P/D(プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏)からの「環境がコントロールされている表現を入れてほしい」というオーダーに基づいて制作しています。

高梨:区画ごとにそれぞれの実験をしているというイメージですね。

――なるほど。水蒸気のようなものが出ているのも、そのイメージからだったのですね。次はオールド・シャーレアンとはまったく異なるイメージである、サベネア島とラザハンについてお聞きします。ここは物語が進むと終末の災厄に見舞われることになりますが、これは開発当初からシナリオ班から伝えられて、それを意識しながら制作されていったのでしょうか?

志田:いえ、ラザハンという土地自体がエッジの効いたビジュアルですので、そのユニーク性を表現することに重きを置いて制作しました。シナリオにおける環境の変化に関しては、そこまで強く意識せずに作っています。

――オールド・シャーレアンと同様に、実装前から名前が知られていたエリアでもあります。

高梨:そうですね。サベネアンビスチェなど、シルクの生産地という設定自体が以前から出ているので、養蚕施設や絹織りの施設を作ろうと考えて制作していきました。

――ラザハンの街は非常にカラフルですが、原色を使った独自の文化性を維持しつつ、風景として浮きすぎないようにバランスを取るのは難しかったのでは?

高梨:色は一番苦労した点でした。日本に住んでいる中で、あのような文化に接することが少ないということもあり、“原色を使ってどうかっこよく見せるか”は担当者がすごく悩んでいましたね。色の配置や、どれだけの色数を使うかなどは、ラザハンで一番時間をかけた部分だと思います。

 使う色が1種類だけであればまた考え方が違ったかもしれませんが、カラフルでかつ色が被らないようにするなど、何度も相談をして作っていきました。今思い起こしてもここの作業は大変でしたね……(苦笑)。

――ラザハンはオールド・シャーレアンに比べ、かなりの立体構造になっているのも印象的です。

高梨:“大きい巨石の中に作った都市”という設定があるので、今のような形になっています。さらに巨石の中を平面に削っただけではなく、“中で生活をしていく過程で拡張していった”、というイメージで作っています。当初から「迷わない程度に高低差を作りたい」という話もしていました。

志田:コンセプトとしてモチーフにしたのが、スリランカにある巨岩の王宮遺跡“シーギリヤ”で、そのイメージをベースに立体構造にしています。ラザハンとサベネアの制作にとりかかる前には、シーギリヤを旅する紀行番組を観たり、Googleのストリートビュー機能でスリランカの海岸を散歩したりして、イメージを掴んでいきました。

――気軽に旅行できない今、世界各地の風景を参考にするにはGoogleのストリートビューは便利ですよね。

高梨:いろいろとお世話になっております。

志田:ストリートビューで確認したときに、シーギリヤ近辺の赤い土の道に強い日差しがあたって輝いている様子が印象的でした。そのイメージをサベネア島でも表現したいなと思い、彩度の高い色味の土と林を採用しています。

――ここは夕方の風景が美しく、夕日が映えるエリアなので、お気に入りのプレイヤーも多いかと思います。

志田:5.0ではモノトーンの空が多く、色の主張が少なかったので、今回は逆に彩度が高く、色の対比や変化が美しく見える空にしたいと思っていました。とくにサベネア島に関しては、カラーインクをにじませたような透明感のある色、とくに緑色の空に真っ赤な雲が浮かんでいるような夕日にしたいという意図が明確にありまして、それを目指して作っていった形ですね。吉田P/Dのチェックもスムーズに通ったので、それを起点にほかの天候も作っていきました。

――たしかに6.0では、エリアごとに空の特徴が違いますね。さらに同じサベネア島でも、終末に見舞われた際は大きく雰囲気が変わります。この変化について苦労された点はありますか?

志田:苦労はないですね。今までのエオルゼアでも天変地異の天候を作ることが多かったので、もう慣れました(笑)。

高梨:開発内では、通称“終末天候”と呼んでいたりします。「“終末天候”を作って」というオーダーにも、もう慣れましたね(笑)。

――次にガレマルドについてお聞きします。ガレマルドは訪れたときにすでに倒壊していて、寒々とした風景が広がるエリアですが、こちらのテーマなどをお聞かせください。

志田:ガレマルドは完全に崩壊しきった状態のフィールドとなっていますが、最初から景観のイメージが明確に固まっており、さらにベテランのスタッフが担当しているということもあって、制作初期の段階から完成まで一貫してスムーズに作っています。

 ガレマルドで提示されたテーマは“寒冷地で永久凍土がある場所”というものです。よって、環境としてもダークファンタジーを体現するような感じの場所にしたいなと思い、あえてほかのフィールドよりも彩度を抑えています。悲惨な光景ではあるけれど、無常の中に美しさを感じるような見た目にしたいと思って制作しました。

――同じく雪が印象的なイシュガルド地方の描き方より、さらに暗めな印象です。

志田:そうですね。崩壊してまもない場所であるため、あちこちから煙が立ち上っており、晴れのときでも暗いのが特徴かと思います。

――続いて嘆きの海ですが、先ほど現実世界の月の映像を参考にされたというお話がありました。一方で現実には存在しないレポリットの居住区などは、どのようなイメージで作られたのでしょうか?

高梨:レポリットの施設は、アート班のスタッフたちにレポリットの設定などを伝えて、いろいろとアイデアを出してもらいデザインの方向性が決まっていきました。

志田:制作の初期に「月の魅力とは何だろう」と考えることがありました。その時に「一見何もないように見えて、もしかしたらその裏側に人間の想像を超えるような何かが隠されているかもしれない」という、“見えていないものに対する期待”が月の魅力ではないかと考えました。

 ですから“何かが隠されている”という片鱗をうまく見せることに加えて、“表と裏で対極の世界が広がっている”というコントラストを強調することを、画作りのポイントとして重視していました。

――“楽園都市 スマイルトン”の入口がある場所の地形が顔の形をしているのは、『FFIV』を思い出してニヤリとしましたが、『FFIV』の月のイメージも多少意識されたのでしょうか。

高梨:それほど強くは意識していません。それこそ月面にある顔ぐらいでしょうか(笑)。

志田:あの顔は担当スタッフがモックアップ制作の段階ですでに作っていましたね(笑)。なおシナリオ班からは、「みんなが月面と聞いてパッと思い浮かべる光景にしたい」というオーダーがありました。

 ごく一般的な月のイメージですと、NASAが1961年~1972年に行っていたアポロ計画の月面着陸写真や映像がベースになっていると思いますので、『FFIV』というよりはそれを踏襲しようという意識のほうが強かったですね。そのため、他のフィールドよりも日向と日陰のコントラストを強めにし、さらに空気の薄さを感じさせるような表現を取り入れています。

――次はエルピスに関してお聞きします。以前のインタビューで、このエリアの空の色は吉田さん的にかなりこだわられたとうかがいましたが、どのようなオーダーのもとに作られたのでしょうか。

志田:シナリオ班からは「ファンタジックな見た目の明るい夜が欲しい」という要望がありました。それに加えて、私個人としては“生まれたばかりの空”というイメージをベースにして制作を進めていましたね。

――時間帯によって空の色も多彩に変化しますよね。青く抜けた色になる時間帯もあれば、緑がかったような色の時間帯もあり……。

志田:たしかに、色の変化が多い空にしたいという思いはありました。またエルピスには“空に浮いた美しい島”というコンセプトもあり、プレイヤーの皆さんに「美しい」という印象を与えることが課題のひとつだったので、空でもそれを表現した形になっています。

――空に浮かぶ島という点では、アバラシア雲海などとの差別化も意識されましたか?

志田:『FFXIV』には浮島のマップが多いので、既存エリアと差別化する意識は制作初期からありました。また、ファンタジックという点では5.0のイル・メグとも雰囲気が近いので、そことも異なる見た目を作ることを意識していました。

――エルピスは『FFXIV』で初めて、古代という“現代とは時間軸の異なるフィールド”になりますが、建物の形状などはどのように決められたのでしょうか?

高梨:最初に話を聞いたときは、「古代人のフィールドを作るとなったら、古代人サイズの大きなものを作るのかな」と思っていました。ですがストーリーの流れでプレイヤーのほうが大きくなるということなので、基本的には他のフィールドと同じスケールで作っています。

 ただ、植物などは巨大に見えるような表現を心がけていました。すべてを普通に作ってしまうと驚きも何もなく、スケールが違うということも伝えづらかったので、それをどうやって表現するかは担当者がこだわったポイントですね。

志田:建物に関しては、シナリオ班から「イタリアのメディチ家が作っていた庭園のようなイメージ」というオーダーがありました。

――そして天国がテーマのエルピスと同じく、“宇宙の果て”という誰も見たことがないエリアとなるウルティマ・トゥーレですが、このエリアを作るにあたってポイントはどのような部分でしたか?

志田:通常のフィールドと違って様々な星が存在するため、ポリゴン数、テクスチャ数など、容量の問題を解決すべくデータ容量を抑えて作ることが課題でした。

――テーマとしてはどのようなものだったのでしょうか。

志田:ウルティマ・トゥーレは「宇宙の果て」というコンセプトであり、さらに惑星の残骸が集まっている場所という設定です。嘆きの海で見えた空が”具象的な宇宙の表現”だったのに対して、ウルティマ・トゥーレは”概念的な宇宙の表現”にしようという意識がありました。

 アート班から届いたコンセプトアートもカオスな印象だったので、要素が複雑に絡み合っている様子を表現するのは制作の難易度が高いなと思っていましたが、ベテランのスタッフがうまくまとめてくれて、現状のような形に落とし込むことができました。

――吉田さんから「ライティングの調整をギリギリまで行った」というお話を伺いましたが、そのあたりのお話しもお聞かせください。

志田:完成間近に吉田P/Dから「ここはライトの明るさを下げて、かなり暗いフィールドにしてほしい」というオーダーがありまして、プレイに支障の出ないギリギリの明るさに変更した経緯があります。

高梨:あのときは全セクションがどよめきましたね。カットシーンやクエストの進行は大丈夫なのかと。

――たしかにイベントシーンのライティングや、クエストで必要な目印の視認のしやすさなど、いろいろな要素に関わってきそうです。

高梨:そこで、「まず1回やってみて、ゲームプレイに支障が出そうなら後で個別に調整しよう」と話し合って、ガッツリとライティングを暗くしてみました。基本はそれが最終版に生かされています。

――そのライティングの結果、終盤の絶望的な雰囲気がより増して、エルピスの花が一気に咲くシーンとのコントラストが印象的になったと言えますね。

高梨:そうですね。他のエリアと同じ感覚で“視認のしやすさ”前提で作業を進めていたら、作中で花が咲くシーンの感動も薄まっていたかもしれません。

志田:『暁月のフィナーレ』ではウルティマ・トゥーレ以外にも、「よりシリアスに調整してほしい」という吉田P/Dのオーダーが多かったですね。

ダンジョン内の細かな表現にもこだわりが!

――では次に6.0のダンジョンについてお伺いします。“異形楼閣 ゾットの塔”と“魔導神門 バブイルの塔”は『FFIV』から引用されたダンジョンですが、グラフィックは『FFXIV』独自の要素が強いです。この2つのダンジョンはどこまで『FFIV』を意識されたのでしょうか?

志田:じつは、デザインについては『FFIV』をあまり踏襲していません。“異形楼閣 ゾットの塔”については、“一見、帝国風の金属でできた塔に見えるけれど、近づいてよく見ると有機的な素材で作られている怪しげな塔”というコンセプトで制作しています。なお制作当初の塔内部は、内臓のような肉と粘液が絡んだ表現を行っていたのですが「気持ち悪いから、もうちょっと表現を抑えてくれ」というオーダーが……(苦笑)。

――当初はもっとグロテスクだったと?

高梨:もっと赤みが強く、ヌルっとしたような感じでしたね。ですが、ちょっとやりすぎだったようで……。

志田:私はけっこう好きでしたけどね(笑)

――『FFIV』では機械のイメージが強いデザインでしたが、そこは大きく変えて有機的な表現にされたのですね。

高梨:ゼノスとアシエンが魔法の力で作ったように見せようという方向性で作っていきました。

志田:“魔導神門 バブイルの塔”に関しては、『FFVI』の瓦礫の塔のようなごちゃごちゃ感を出してほしいというオーダーがありました。このダンジョンは、スタート地点から塔の頂上までの場面ごとの変化が大きくて、制作にかなり苦労しましたね。ひとつのダンジョンでここまで変化のあるマップは今までなかったと思います。

高梨:以前のカットシーンでは何度も魔導城の王の間が出てきたと思いますが、あの場所もダンジョン中に組み入れました。崩壊してさらに作り変えられているものの、元のテイストも残しつつ制作しています。

志田:とにかく制作の物量が多かったので担当スタッフは大変だったと思います。私からは「上に登っていくにつれて禍々しい雰囲気になるように整えてほしい、塔の上に鎮座しているアニマが印象的に見えるようにライティングしてほしい」というオーダーをしたことを覚えています。

――“終末樹海 ヴァナスパティ”は、5.0の“終末幻想 アーモロート”と同じように終末の災厄の中で獣たちと戦っていくダンジョンになっています。両者の差別化を図るためにどのようなことを意識しましたか?

志田:“終末幻想 アーモロート”は建物が派手に倒壊していくダイナミックさがメインでしたが、“終末樹海 ヴァナスパティ”は山火事のシリアスさと、その説得力のある表現に注力しています。炎の表現には非常に手間がかかりましたね。エフェクト班のスタッフにも、炎エフェクトを多めに追加してもらうなど注力してもらいました。今回一番制作に時間がかかったダンジョンかもしれません。

高梨:炎の表現に関しては、吉田P/Dからもこういった表現のほうがいいのではという要望があり、何度かやり直しました。最初は部分的に燃えている感じだったのですが、もっと大規模なイメージにしたいという要望に合わせて、現状のような形になっています。

 あとは、終末の表現として最後のエリアに小さい妖異がたくさん出てきますが、あそこも担当者が独自の仕様によって表現しています。本来キャラクターとして実装した場合は、あんなにたくさんの妖異は出せないのですが、BGとして実装することで大群が現れているということを表現できました。

――なるほど。妖異の3Dモデルを個別に飛ばしているわけではないのですね。

志田:“終末樹海 ヴァナスパティ”は、制作の過程で定期的にチェックしていたのですが、見るたびに“大惨事”の度合いがアップしていましたね……。ほかにも最初の密林の表現や、最後の倒壊した神殿の表現なども含め、細かい部分を調整し続けた結果、最終的にかなり見応えのあるダンジョンになったと思います。

――次に訪れる“創造環境 ヒュペルボレア造物院”と、“星海潜航 アイティオン星晶鏡”ですが、いずれも幻想的なダンジョンになっています。それぞれどういうコンセプトで作られたのかお聞かせください。

志田:“創造環境 ヒュペルボレア造物院”は、“魔法の研究施設”という設定です。火山、砂漠、雪山など異なる環境に区分けされていて、それぞれで各種研究が行われているというイメージで作っています。ただ、開発当初はあまりにも不思議な場所すぎて、初見のプレイヤーが状況を理解できない懸念があったので、表現をわかりやすく整理した記憶があります。

――“魔導神門 バブイルの塔”や“最終幻想 レムナント”と並んで、ここもエリアごとの状況の変化が多いダンジョンですよね。

高梨:我々はこれを“画変わり”と呼んでいますが、これまでは徐々に何かが増えていく、変わっていくといったものが多かったのですが、今ではエリアごとにまったく違う景色を作ることが増えましたね。

志田:企画側から求められる表現のハードルが拡張を経るごとに高くなっているので、その要望にアーティストがどこまで応えられるか、今後が心配なところですね(笑)。

――“星海潜航 アイティオン星晶鏡”のコンセプトはいかがでしょう?

志田:こちらは、マザークリスタルに近い場所にある観測施設という設定があり、クリスタルで構成されたマップというイメージもありました。

「奥に進むとどんなものが待っているのだろう?」というプレイヤーの期待を煽るような、ワクワク感のある演出がうまく取り入れられたかなと思います。占星術や錬金術を思わせるような、近代的な施設のデザインもお気に入りです。

――そして“最終幻想 レムナント”は、3つのエリアで別々の惑星の終焉を見届けるというダンジョンになっており、画変わりという意味ではもっとも変化するダンジョンです。

志田:じつは、制作当初は終盤のダンジョンとしてはかなり地味な見た目で、インパクトに欠けていたのです。そこで具体的な指示やイメージと共に、「絶望的な雰囲気を強調して、シリアスの度合いを増そう」と吉田P/Dから提案がありました。その提案を元に全セクションでテコ入れをした経緯があります。

高梨:開発初期はそれぞれのエリアの印象が弱めでした。最初のエリアも汚染された状況の表現が弱かったので、それぞれをもっと強調させるような感じで改修しています。

――2番目のエリアも戦争の描き方が印象的です。

高梨:あそこも最初に作ったときは、要所に土嚢が積んであるようなデザインだったのですが、「もう少し文明が進んだ星の戦争感を出してほしい」という要望があり、ひとつずつデザインし直した経緯があります。

志田:このエリアはかなり細かい要望が入りましたね。地面の表現やライティングも何度か調整を入れました。

――各エリアの印象をより強くしているのが、メーティオンのナレーションだと思います。吹き出しのテキストも印象的で、より“読ませる”作りになっていると感じました。

志田:アーティストとしては、テキストで補完してもらえるのは非常に助かりますね。視覚のみで状況を理解させることが難しい場合もありますので。

高梨:とくにラーラーが登場する最後のエリアは、どういった絶望なのかがひと目ではわかりづらいですからね。きれいな景色が広がっている中での特殊な絶望を演出できたのは、ひとえにテキストの力があったからかなと思います。

――そして6.0のストーリークリア後にも2つのダンジョンが登場しますが、こちらはそれまでのダンジョンとは雰囲気がかなり変わっています。これは明確にそのような意図があったのでしょうか?

高梨:はい。クリア後に関しては企画サイドの意図として、変わった感じのダンジョンで遊んでもらいたいという狙いがあったようです。

――なかでも“楽園都市 スマイルトン”は、かなりおもしろい構造のダンジョンですよね。

志田:あのダンジョンには開発名称として“月のだまし絵”という名前がついていて、エッシャーのだまし絵のような世界がコンセプトとしてありました。

――なるほど! それであの構造なのですね。

志田:街を作っているはずが、何かの弾みで暴走してしまって用途不明の建造物を作り続けているという表現になっています。

――まさにエッシャーのだまし絵のように、天井が回転して床になったりして、ユニークな作りになっているので印象的でした。

高梨:普通のダンジョンとは見え方が大きく変わるように調整していきましたが、開発初期の段階では普通に見えてしまって苦労しました。ですので、階段部分に印象的な意匠を付けたしたりしてイメージを詰めていきました。

――ありえない角度で階段がくっついていたりしますよね(笑)。

志田:おかしな状況がプレイヤーに伝わりやすいように調整を入れています。このダンジョンは5.0で“終末幻想 アーモロート”を制作したスタッフが担当していて、ダイナミックに構造が変化する様子をうまく表現してくれました。

――もうひとつの“電脳夢想 スティグマ・フォー”は、やはり“次元の狭間オメガ”のイメージを踏襲された形でしょうか。

志田:そうですね。“電脳夢想 スティグマ・フォー”は制作がスムーズに進んだので、苦労した点は思い浮かばないのですが、ちょっとおもしろい開発名称が付いていました。

――どんな名前だったのでしょう?

志田:“アンドロイドが見る電気羊の夢ダンジョン”という名前がついていたのです(笑)。映画『ブレードランナー』の原作小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が元ネタですが、企画したスタッフは、当初あの映画や小説のようなイメージを持っていたのかもしれませんね。

――かなりユニークな開発名称ですね(笑)。そうなるとほかのダンジョンの開発名称も気になります。

志田:たとえば“創造環境 ヒュペルボレア造物院”には“パンドラ資料館”という名前が付いていましたね。まあ、さすがに“アンドロイドが見る電気羊の夢ダンジョン”は長すぎて言いづらいと、制作初期から言われていましたが(笑)

高梨:ちなみに私たちは開発名称で呼んでいた時間が長いので、逆に正式名称で言われると「どこだっけ?」となってしまうことが多いんですよ(笑)。

エルピスの“天国”に対し、相対的な位置づけとなるパンデモニウムの“地獄”

――6.0では“ゾディアーク討滅戦”、“ハイデリン討滅戦”、“終焉の戦い”という3つの(ノーマル)討伐・討滅戦が用意されています。どの戦いも蛮神レベルではなく“神”クラスの相手であり、その存在の大きさを表さなければいけなかったと思うのですが、その点はかなり苦労されましたか?

志田:かなり苦労しました。とくにゾディアークは、開発当初から「その強大な力で“世界ごと回せる”ことを表現したい」という企画要望があり、苦戦しましたね。どう表現すれば「世界が回った」と直感的に理解させられるのか……。そこは何テイクも作り直して、企画とアーティストのあいだで確認をくり返しながら作りました。

――あのギミックは開発当初のコンセプトに沿ったものだったのですね。

高梨:はい。メインのギミックとして必ず出したいと伝えられていました。それをどう表現するかを何回も検証しながら作っていった感じです。

志田:カメラの位置を変えてみたり、エフェクトを追加してみたりと試行錯誤を繰り返しましたね。

――“ゾディアーク討滅戦”も“終焉の戦い”も、ステージの外側に巨大なボスがいる状況のバトルになります。この場合のデザインは、BG班的に既存の作り方とは変わってくるのでしょうか?

高梨:大きくは違いませんが、スタート地点に立ったときや、バトルが進んでフェーズが切り替わるタイミングでの見え方は意識して作っています。

 例えばバトル中は基本的にはボスを見つつ、要所で外周側のギミックをチェックして……といったようにカメラを動かす必要がありますよね。そういったバトル中の視点ごとにどう見えるかなどは、けっこう気を使って調整しています。

――“ゾディアーク討滅戦”だと、アストラルエクリプス(星座に沿って星が落ちるギミック)では外周を見渡す必要がありました。

高梨:そこもそうですね。その時にプレイヤーからどのようにステージが見えるのかも、細かく詰めていきました。

――そして“ゾディアーク討滅戦”とは対照的に白を基調としたイメージの“ハイデリン討滅戦”ですが、こちらの制作時に苦労したポイントはありますか?

志田:“ハイデリン討滅戦”はBG、キャラ、エフェクトの全セクションで試行錯誤して作り直しをしながらようやく完成したバトルなのですが、当初は光の表現が多くて全体的にぼやけた感じの印象になっていました。

 そこで吉田P/Dから「最初はあえて暗く、マザークリスタルだけを浮き上がらせ、バトルの展開や進行に合わせて徐々に明るく。ハイデリンの履行技が発動した後から、“光の氾濫”のイメージに合わせて最も明るくなるように」と指示があり、その表現に変更した経緯があります。

――外側から光の波が押し寄せるという、今までにない表現も印象的です。

高梨:そうですね。“ハイデリン・ゾディアーク編”の目玉となるバトルなので、吉田P/Dからもこれまで以上力を入れて作ってくれというオーダーがありました。

――そして、最後のゼノス戦を除くと物語のラストバトルとなる“終焉の戦い”ですが、これはどういったイメージの戦いにして欲しいというリクエストがあったのでしょうか?

志田:じつはコンセプトとして何か具体的なものがあったわけではなくて、「ラスボス戦にふさわしい派手さを表現しつつ、“現実感”をなくしてほしい」という要望がありました。ですからキャラクター調整のほか、環境でカラーフィルターを入れたりしながら既存のマップとは違う空間に見せる方向で調整しています。

――神龍の背に乗って戦うというのも当初からあった構想ですか?

志田:はい。「神龍に乗っているところを見せたい」という要望がありましたが、こちらも状況がプレイヤーに分かりやすく伝わるように、ステージの床面の表現を何度もリテイクしています。

高梨:最初は龍の背中にある構造物の上で戦っているように見えてしまっていて、魔法陣的な表現にしてほしいという要望に合わせて、今の形になっています。

――6.0のコンテンツについて、最後に “万魔殿パンデモニウム:辺獄編”についてもお聞きします。こちらは“牢獄”のイメージが強いレイドダンジョンですが、改めてどのようなイメージで制作されたのかをお聞かせください。

高梨:“天国”であるエルピスに相対するものとして、“地獄”のようなイメージで制作を進めていました。開発当初は“ダークネスなゴシックホラー”というテーマで作っていたのですが、ひたすら暗いイメージになりがちだったので、単純なゴシックホラーではなく『FFXIV』らしい要素を加えようと、試行錯誤しながら初期イメージを固めていきました。

――結果、“辺獄編3”はイメージが大きく変わるデザインになっていますね。

高梨:“辺獄編3”は、最初は空がもっと暗くて、地獄の炎が燃えているというイメージのステージでした。ですが「これだと普通すぎる」という意見があったので、逆に空を明るくして、火の色味や空を少し黄色ベースにしたものに調整しています。

――暗い空と炎と聞くと真っ先に“イフリート討伐戦”が思い浮かびました。それと差別化するように作っていったわけですね。

高梨:それもあり、普通の“地獄の炎”のイメージとは違う表現にしています。

――なお“辺獄編3”について、一部ではギミックエフェクトの色が床の色と被って見えづらいという意見もありますが……。

志田:赤色が基調になるマップは慎重に調整を行っているのですが、なかなか難しいですね……。じつは赤色は、プレイヤーの皆さんが使っているモニターやテレビの影響を最も受けやすいのです。とくに鮮やかな発色を特長とするテレビでは、開発が意図した以上の強い色に見えてしまうことがあるため、調整には注意を払っています。

高梨:開発内でマスターモニターを使った確認はしていて、デリケートに調整しているのですが、個々のご家庭の設定で変わってしまうので難しい問題ですね。

――では最後に、改めて『暁月のフィナーレ』(6.0)の開発をBG面から振り返って、ひと言ずつメッセージをお願いします。

高梨:6.0はリリースが延期になってしまい、その点は非常に申し訳なく思っています。ですが結果としては、その期間にセクション全体で最後まで調整することができました。SNSやLodestoneで皆さんの感想を見させていただくのですが、喜んでいただいている声が多く見受けられ、本当にギリギリまで作業してよかったなと思います。プレイヤーの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

志田:6.0の制作の大半が、コロナ禍による在宅勤務での制作になったのですが、最後の延期以外は思っていたよりスムーズに進められてホッとした、というのが一番の感想ですね。プレイヤーの皆さんから好意的な感想が多く寄せられていることに関しても、本当によかったと感じています。

<後編に続く>

(C)2010 - 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

関連する記事一覧はこちら