『FFXIV』キタンナ神影洞の演出は『聖剣伝説2』のオマージュ!? 世界に命を吹き込むBG班・志田雅人氏の手腕に迫る

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 オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)』の魅力をお伝えすべく、タイムリーな話題を追いかけながら開発者の方々の声をお届けするインタビュー連載企画。

 今回お話を伺ったのは、マップや環境、背景などを手掛けるバックグラウンド(以下、BG)班の志田雅人氏。できたばかりのマップに光や空、天候といったものを加えていき、“世界の空気感”を作り上げる……まさに創造魔法の使い手とも言うべきアーティストに、マップやエリアの作成手順から『漆黒のヴィランズ』の制作秘話まで、さまざまな話題を語っていただきました。

※本インタビューは、9月上旬に行われたものです。

スタッフの“創造”の賜物
第一世界のマップはこうして作られた

――志田さんは3月の日本ファンフェス開発パネルでもご登壇されましたが、志田さんが『FFXIV』で担当されているお仕事について、あらためてお聞きしてもよろしいですか?

志田雅人氏(以下、敬称略):フィールドやダンジョンの環境製作を担当しています。そのほかには、フィールドのテクスチャ、ライティングといったディテールのブラッシュアップと、地形モデルの細かい凹凸やオブジェクトの配置、配色などを改善する全マップの品質チェックを行っています。

――フィールドを作る作業というのは、最初はどういったところからスタートしていくのでしょうか?

志田:まず前提として、各マップに対して1人ずつ担当のスタッフがついており、世界設定班の情報をもとに彼らが簡単な地図を作成します。大まかな地形の起伏や集落の位置、洞窟がある、といった情報などを反映して地図を作り、そこに各スタッフの“夢”をさらに追加していく形です(笑)。それをもとに、吉田やレベル班のスタッフと話し合いをして、クエスト上での“次の目的地までの適切な距離はどのくらいか”といった要素を詰めていきながらマップを作っていきます。

――第一世界では、プレイヤーがイメージしやすいよう原初世界の地形的特徴とある程度似た部分を作るというコンセプトがあったと、織田さん(織田万里氏。世界設定/メインシナリオライター)から以前お聞きしました。この場合、原初世界の地図を参考にしつつ中身を変えていくのでしょうか? それともマップ自体は完全にイチから作っていった形ですか?

志田:基本的には各スタッフにまかせて、イチから作っています。はじめに、世界設定班からざっくりとした情報が用意されたんですね。例えば、“マップ内で高低が大きく分かれている”“砂漠がある”といった、簡単な情報をもらって、各スタッフが想像を膨らませてディテールを詰めていった感じです。

――となると、「ここから見える景色、原初世界のあそこと似てるなー」と感じる部分は、スタッフのみなさんの創造力によるものなんですね。

志田:そうなりますね(笑)。

――ストーリーラインでプレイヤーがたどる道筋というのは、マップ製作段階から考えられているのでしょうか?

志田:いえ、マップを先行して作り始めて、そのあとにシナリオが乗ってきます。なので、「このエリアをどう通っていくのか」といった細かいところは、じつは私たちが把握していない状態で作っています。その後、詳細が確定したあとに、それに合わせた調整を入れていくことになりますね。

――ギラバニア辺境地帯やコルシア島など、1つのエリア内で訪れるタイミングが異なる場所があるマップも多いですが、これらも当初はプレイヤーがいつ訪れるかわからない状態で作られているのでしょうか?

志田:はい、開発初期はシナリオの詳細はわかっていません。なので、同じマップのなかでも2つか3つぐらい、見た目に変化のある場所を作って、新鮮に見せる工夫はしています。

――では、あらためて第一世界についてお伺いしていきます。第一世界のフィールドとしてはイル・メグがかなり印象的ですが、とくにこだわった部分をぜひ教えて下さい。

志田:イル・メグは、レイクランドから入ってすぐに見える景色を重視して作っていて、そこから臨む城の高低差をどうするかは悩みました。最初は、もっと高い位置に城が見えるようにしようと進めていたのですが、「もう少し低いほうがいいのではないか」という指摘があり、細かい調整をモックアップで詰めながら現在の高さに整えたのを覚えています。

――高さといえば、プレイヤーが行ける限界高度はどのように決められているのでしょうか?

志田:フライングマウントは、ある程度の高さで制限しないとマップの見え方に問題が出てしまうので、その高さが仕様上の限界ですね。なので、もっと高い位置まで昇れなくはないのですが、そこそこで抑えています。例えば、コルシア島は下層と上層に分かれていて、上層からさらにフライングマウントで高いところまで飛べます。あのエリアは、飛行時の高低差が一番あるんです。最高高度はけっこうギリギリで「本当に問題ないのだろうか……」と何度もチェックしました(笑)。コルシア島は、ある意味チャレンジでしたね。

――そういう意味では、逆にラケティカ大森林はもともと木が鬱蒼と茂っていて、木の上まで出ることができません。この木の高さの調整も難しかったのでは?

志田:じつは、そもそも吉田から「ラケティカ大森林は、あまり飛べなくてもいいよ」というオーダーがありまして(笑)。逆に作りやすかったかもしれませんね。当初から、木の高さまでしか飛ばないという制限で作っていました。その代わり、高所にある木の枝に降りられたりするなど、担当スタッフの工夫が出ていると思います。

――ラケティカ大森林にもありましたが、“メインストーリーとはかかわらないけれど飛べることで初めて行けるようになる名所名跡”も多いですよね。飛べるようになってからエリアをあらためて見て回るのがおもしろかったりします。

志田:そういうところは、各担当スタッフが「こう作ったら楽しんでいただけるだろう」というアイデアを盛り込んでいます。基本はその担当個人のアイデアなので、チェックのときに初めてそういう場所が発覚して「ここすごいね!」と盛り上がったりしますよ(笑)。

――ラケティカ大森林のサブクエスト“秘密の癒やし場”で温泉が見つかりますが、ここもこのサブクエストを受けて初めて気づく場所ですね。

志田:そこは、自分もチェックの通しプレイで遊んでみて、初めて「おぉ、こんなところがあるのか」と気づいて感心しました(笑)。

――ちなみに、志田さん的に『漆黒編』でお気に入りのエリアはどこですか?

志田:お気に入りはレイクランドですね。やはり、今までにないビジュアルですし、木々の紫色が、時間帯によって変化するように調整しているんですよ。晴れの昼間も良いのですが、夕方になるにつれてどんどん紫色の林が赤みを増してキレイに見えるように変化を付けています。あそこは、自分でもなかなか良い感じにできたかなと思っています(笑)。

――雨の日もきれいですよね。

志田:スタッフと「『FFXIV』の雨は、激しくて暗いものが多いね」という話をしたことがあったので、「今回は優しい天気雨を作ろう」と考えていました。レイクランドとイル・メグの雨天は、明るくて気持ちのいい雨、というコンセプトで作成しています。

――クリスタリウムに降る雨が、恵みの雨といった風情でとても好きです。

志田:ありがとうございます(笑)。まさに、それを目指していました。

――通常であれば、明るいほど安心というイメージがありますが、『漆黒編』ではメインストーリーの展開上、闇夜に安心感や恵みというイメージがあります。そのあたりの雰囲気を出すのには苦心されましたか?

志田:そうですね。さきほどの雨もそうですが、“穏やかで優しい”が自分の中のテーマとしてありましたね。落ち着いた雰囲気になっていると思います。

――『漆黒編』では、無尽光の状態に加えて、空が通常に戻ってからの昼・夜という3つのパターンが用意されていました。これらはどのように作られていったのでしょうか?

志田:今回は無尽光ありきだったので、とりあえずマップごとに無尽光の見映えの良さを追求することから始めて、そのあとにほかの天候を作っていきました。無尽光はかなり主張の強い天候なので、闇を取り戻したあとは逆にマップが落ち着いて自然に見えることを重視しようと、今までの拡張コンテンツよりも主張を抑えた調整を行いました。

――グループポーズを使っていて気づいたのですが、無尽光のときは“鮮やか1”や“鮮やか4”で補正を入れるよりも、デフォルトの状態のほうが見栄えがよかったりしますよね。

志田:無尽光はかなり攻めたライティングをしているので、加工すると逆に光が飛びすぎてしまうかもしれませんね。光が飽和するかしないかのギリギリのラインを狙っているんですよ。

――拡張パッケージごとに光の印象がガラリと変わってきていると感じます。過去の拡張パッケージごとにコンセプトはあったと思いますが、具体的にどう変わっていったのでしょうか? 日本ファンフェスのときにもお話いただいていたかと思いますが、あらためてお聞きできればと。

志田:吉田から『蒼天編』で「光と影を強調した、コントラストの強いエリアにしたい」という、ライティングに対する明確な指示があり、洋ゲー感といいますか、ヨーロッパの方々が好むような “暗くて光が強く見える”ライティングに変更していきました。

『蒼天編』はちょっと暗く沈んだ印象のライティングだったので、そのあとの『紅蓮編』では逆に明るくて乾いた雰囲気にしたいというコンセプトで詰めていました。

――なるほど。アジムステップは、その体現ですね。

志田:『紅蓮編』でも、ひんがしの国系のエリアとギラバニア系のエリアでライティングを変えているんですよ。ひんがしの国はより東アジアっぽい天候にしようと思い、クガネは群青色の青空が広がるイメージで作っています。逆にギラバニアは、それと対極にあるような場所にしようと、トルコなど中東をイメージしています。ピンク色の大地が広がって、空は砂煙で少し霞んでいるような緑味の強い色に……というように、東アジアの感性ではあまり使わない配色を意識していました。


 『漆黒編』の場合は、“エオルゼアと似て非なる場所である”というコンセプトがあったほか、一部マップには実在する場所をモデルとして考えていました。例えば、コルシア島はイギリスの“セブン・シスターズ”という岩壁をイメージして寂れた雰囲気に、アム・アレーンは“エチオピアの砂漠”をモデルに作ろうといった感じです。レイクランドにはモデルはないのですが、世界設定班の石川(石川夏子氏。メインシナリオライター)から「紫色の林がほしい」というオーダーがあったので、そこから詰めていきました。

――たしかに、レイクランドは現実にはない色味をしていますね。

志田:今までにない風景だったので、自分も楽しみながら調整しました。


――それは別の世界にきたというのが、パッと分かるようにということでしょうか?

志田:最初に訪れる場所なのでインパクトがほしかったのと、石川的に原初世界の対応エリアであるモードゥナは紫色のイメージがあるとのことだったので、こういう形になっています。自分の中では、紫色の桜の森がずっと続くイメージで色調整をしていました。イル・メグも特別なモデルはなくて、スクリーンショットをたくさん撮ってもらえるような楽しい見た目のエリアにしようというのが第一のコンセプトでした。

――「イル・メグに行くたびにスクリーンショットが増える」と言っているフレンドがいます(笑)。

志田:まさに、それを狙って作りました(笑)。

――今まで『FFXIV』で、あそこまで風景自体でファンタジーを体現した場所はなかった印象です。

志田:王道のファンタジーを作ろうという意識はありましたね。妖精さんがいたりして。ラケティカ大森林もモデルらしいモデルはないのですが、強いて言えばロンカ遺跡はカンボジアのアンコール遺跡をイメージしています。テンペストは、アート班のイメージをそのまま再現していますね。

――テンペストは、アーモロートとオンド族の集落周辺でイメージが全然違いますよね。アーモロートの見せ方は、PAX WESTの開発パネルでは「入った瞬間からアーモロートが見えてはいけない」といったお話もされていました。

志田:じつは、最初は見えている想定で作っていたんですよ。途中から「見せてはダメ」という話になって、慌てて「隠さなきゃ!」と(笑)。

――アーモロートを訪れたあとは、フォッグが晴れて見えるようになる景観の差はすばらしかったです。

志田:ありがとうございます。担当のスタッフががんばって作っていました。

――テンペストは、アート班が描いたイメージの総合体として作ったとPAX WESTの開発パネルでお話がありました。何枚かイメージアートが出されていましたが、あれらを総合した最終版のアートもあったのでしょうか?

志田:採用された何枚かのイメージアートをもとに、あらためてブラッシュアップして描かれたアートから作っています。

――深海エリアということもあって、地面にコースティクス(網目状の光)が入るなど、光の入れ方もほかのエリアとはまったく違うものでした。そのあたりを監修していかがでしたか?

志田:テンペストでは、アートに合わせてライティングを調整したぐらいで、何度も作り直すような試行錯誤はそれほどしていません。強く印象に残っているのは、通路になっている太くて光っているイソギンチャクみたいなあのオブジェクトです(笑)。「これは気持ち悪いけどイイね!」と話したのを覚えています。ああいった植物が光っている様子は、初期段階から担当のスタッフがおもしろがって作っていました。


――アーモロートに入ると、上空が明るくなるなどと微妙に表現が変わりますが、このあたりも最初から考えられていた部分なのでしょうか?

志田:あの辺も、イメージアートに似せて作っています。ちなみに、ビル群が奥まで続いているように見せていますが、仕様上マップが作れる範囲は限られているので“実際の距離は短いけれど、奥にあるように見せる”という技術的なウソを仕掛けています(笑)。フォグのかけ方を細かく調整しました。

――今までは、崖などの物理的に行けない断絶があったうえでの背景でしたが、今回は地続きに見えるようになっていたので驚きました。

志田:じつは、けっこう泥臭い調整を入れています(笑)。

――あの街並みは、映画メトロポリスのような、“ひと昔前の時代が考えた未来都市”のイメージがありましたね。

志田:近代的な感じのデザインですよね。アールデコ調(編注:1910年後半~1930年頃の装飾様式。直線的かつスタイリッシュなフォルムで、幾何学模様をモチーフとした記号的表現も多く使われた)の街並みは意識して作っています。

世界各国の風景・地形からも生み出される、『FFXIV』の“自然な”世界

――志田さんは、環境制作の資料にするために世界中で多数の写真を撮影しているという話を以前されていました。具体的には、これまでどのような国で撮影を行ってきたのでしょうか?

志田:主にプライベートで海外旅行に行ったついでに写真を撮っていますね。じつは、先週遅めの夏休みを取って、フィンランドへ1週間の旅行をしていました。昨日帰ってきたばかりなんですよ。

――おお。収穫はいかがでしたか?

志田:草原や岩肌、レンガの積んである壁など500枚ほど撮影してきました。さきほど、会社のPCにデータを移したのですが、ひたすら地面を撮っていたりするので、ほかの人が見てもつまらないだろうなという画像がバーっと並んでいましたね(笑)。ただ、自分的にはだいぶ収穫がありました。

――やはり、世界各地で地面に特徴はあるものなのでしょうか?

志田:そうですね。例えば、フィンランドのヘルシンキは岩肌が見える場所がとても多いんです。日本とは違い、地面に土が少なくてすぐ岩盤が見えるんですよ。思いのほか、岩盤や岩壁が続いていておもしろかったですね。あとは、アジアだとタイのアユタヤ遺跡にも行きました。カンボジアでは、アンコールワットをはじめとした遺跡の外観を写真に収めたりしています。ラケティカ大森林のロンカ遺跡のテクスチャの一部はアンコール遺跡の苔むした岩壁を使っています。ほかには、少し分かりにくいんですけど、イル・メグの花畑ではないほうの草原は、じつはタイで撮影した草原だったりします。そういう細かいところで、いろんな国の写真を使っていますね。

――以前、グリダニアの黒衣森:中央森林は新宿御苑の写真を使っているとお話していましたね。

志田:都内は、頻繁に撮影していますね。ひんがしの国は和風の場所が多かったので、都内の神社仏閣を撮影して、クガネのいろいろなところに使っています。

――赤誠組屯所の砂利も、とてもリアルですよね。

志田:そこは、まさにそうですね(笑)。

――ちなみに、アジムステップの草原も、どこかを参考にされているのでしょうか?

志田:アジムステップは、モンゴルの草原というコンセプトで作っています。「何もないひらけた草原である」という設定が先にあったのですが、何もないひらけた草原というのは、デザイナー的に本当に作りづらいんですよ。画として間が持たないですし、すべてが見渡せてしまうので、破綻の無いように作らなくてはいけないと、担当スタッフと苦労した記憶があります。

――アジムステップですごいなと感じたのは、草のなびいている様子がとても自然に見えるところです。ここは、どのような工夫をされていたのでしょうか?

志田:工夫らしい工夫は特にしていませんが、モデルにしている写真などを参考にして、見る人にできるだけ説得力を与えられるように表現してほしいと指示しています。これは、いつも口酸っぱく伝えていますね。

――各地に生えている植物は、マップごとに描き起こしていたりするのでしょうか?

志田:ある程度は共通のものを使っていますが、特徴を持たせたいところは新規で描き起こしています。共通のものを使う場合も、ほかのマップとは似ないように微調整を行う場合が多いです。

――基本となる木や草のオブジェクトがあって、それを各マップで調整していくんですね。

志田:はい、基本的には各マップの担当スタッフにまかせている部分ですが、自分のほうでは、樹木を特徴的に見せたいマップはこだわっています。例えば、レイクランドの木は樹皮の印象を変えたいと思って、プラタナスや桜の写真素材から加工したテクスチャを3種類用意しています。

――樹皮の感じにもこだわっているんですね。そういえば、ラケティカ大森林の木は硬質化しているような樹皮のものもありましたが、あれもほかで見られない独特のものでしたね。

志田:そうですね。あれも特別に作っています。ちょっと引いて見たときに見映えがするような樹皮にしたいと思って、いくつかのパターンの樹皮を作って当てはめてみて、一番しっくりきたものを採用しています。

――そういった植物について、世界設定班と“時代背景としてこういうものが生えている”といった打ち合わせはするのでしょうか?

志田:植生については、バックグラウンド班が自由に作っていますね(笑)。

――『FFXIV』は空もとても印象的で、そのエリアの空気感を表現するのに非常に重要な役割を担っていると感じます。志田さん的にも、空はこだわられているポイントですか?

志田:そうですね、マップの特徴をつかんで、できるだけマップの良さを引き出す空を作るように心がけています。また、空の見た目を調整するときは“その雰囲気に感情移入できること”を強く意識しています。あとは以前作ったゾーンと印象が似ないように気をつけていますね。例えば、夕焼け空や朝焼け空はこれまで何度も作っていますが、『漆黒編』ではその空気感や温度感といった印象を意識的に変えています。

――エリアによって空の表情が似ないように……となると、具体的にどう調整されているのでしょうか?

志田:まずマップの特徴に沿った空をイメージしていきます。参考資料やインターネットで空の表情を調べて、コレだという状態を一旦決めて作ってみてから、さらに調整を加えるということはよくしますね。

 あとは雲の表情も大事にしています。無尽光という天候を作るためにグアムまで行って入道雲を撮影したのですが、『漆黒編』では雲の印象を今までよりも大事に作成していますね。

――ちなみに、星空は全エリアで共通のものを使用しているのでしょうか?

志田:星はほぼ共通ですが、空のグラデーションなどは個別に作っていることが多いですね。

――空間という意味で、各マップの天候やそのエフェクトも志田さんが考えられているのでしょうか?

志田:そうですね。特別な指定がない場合は自分が「ここには、こんな天候がほしい」というのを考えて、世界設定班に相談します。天候エフェクトも、エフェクトを担当するスタッフに「こういうイメージなんですけど」とお願いして作ってもらい、ライティングと合わせています。

――例えばアム・アレーンだったら砂漠っぽく熱波がほしい……といった感じですか?

志田:アム・アレーンは「本当に暑いエリアだから気温を上げてほしい」というオーダーがあったので、熱波の天候では蜃気楼のゆらぎのエフェクトを入れました。ただ、蜃気楼は人によって目が疲れて長く見られない、酔ってしまうという方もいらっしゃるので、今までは控えめに入れることが多かったんです。しかし、今回は「もっと効果的に見せたい!」とエフェクト担当のスタッフと話し合いながら調整して、普段よりも強めに入れています。

――今まで以上に暑そうな空気感がありました。こういったリアルな天候とは異なる、現実にない霊風といった天候はどのように作られているのでしょうか?

志田:霊風のあるエリアは平凡な見た目の天候が多かったので、もうちょっと特徴的な天候がほしいと自分から提案しました。よりファンタジックで、その天候に変わったときに「おっ?」とプレイヤーの方が気付いてくださるような見た目を意識して作りました。この天候もエフェクト担当のスタッフと話し合って、よりよい形に仕上げています。

細かな工夫による、飽きさせないダンジョンの作り方

――フィールドの次は、各種ダンジョンについてお伺いできればと思います。ダンジョンは、フィールドとまた違った考え方・作り方があるのでしょうか?

志田:ダンジョンは、フィールドよりも世界設定が細かく指定されていて、情報がすべて明らかになってから制作に入るので、そういった意味ではダンジョンのほうが精密に作っているんです。

――今回、ダンジョンとしては“殺戮郷村 ホルミンスター”が、かなり異彩を放っていると感じました。

志田:ダンジョンも、既存のマップにないビジュアルをどんどん提供していこうと思って作っています。ホルミンスターはちょっとホラーチックな要素を入れつつ、ひらけた場所から物語がシリアスに展開していくことを意識しています。“森を出たあとに、視界が開けて遠くに村が見える。その村は混乱している”という状況を、かっこよく見せたいと考えていました。

――次のダンジョンである水妖幻園 ドォーヌ・メグは、まさにファンタジーですね。

志田:ドォーヌ・メグは、よりハジけた見た目のマップを作ろうというコンセプトでした。じつは環境を何度も作り直していて、自分が5パターンぐらい見た目の違うものを作って話し合いを行い、最終的に吉田から「夜の見た目にしたい」という意見が出たので現在のバージョンに落ち着きました。

――なるほど。最初から昼のバージョンもあったんですね。

志田:ピンクの空が広がっているパターンもありましたよ(笑)。メインストーリーでは、まだ光の氾濫状態でしたので、できるだけ、ダンジョンに入ったときのギャップを大切にしようとした形ですね。

――続く“古跡探索 キタンナ神影洞”や“爽涼離宮 マリカの大井戸”は、ザ・ダンジョンといった様子ですよね。

志田:そうですね。スタンダードな……まさにインディー・ジョーンズ的な、いろんな仕掛けがある遺跡を冒険していこうという感じですね。

――メインストーリーのイベントバトルにもありましたね。インディー・ジョーンズ的な。

志田:あそこは自分でプレイしていても、ワクワクしていました(笑)。

――ここで、志田さんにぜひお聞きしたいことがありまして……。キタンナ神影洞の遺跡を抜けた先で滝の上から見る景色で、赤い鳥が飛んでいくところが『聖剣伝説2』のタイトル画面を彷彿とさせますが、やはり意識されていたのでしょうか?

志田:あれは意識していますね(笑)。あの赤い鳥をどのタイミングで飛ばすかというのは、微調整を重ねています。

――プレイヤーが洞窟を出てから滝を飛び降りるまでの時間を計算したうえで……ということですよね?

志田:ええ。“絶妙なタイミングで見せるには”というところを計算しています。このタイミングというのは、キタンナ神影洞だけでなく今までのダンジョンでも重要視して対応していますね。

――プレイヤーが自由に動くフィールドと違って、ダンジョンでは常に進み続けることを前提としたタイムラインで作られているということですね。

志田:作っても、「ぜんぜん見えてなかった」と言われることもありますけどね(笑)。

――次のダンジョン・偽造天界 グルグ火山の風景は、これまでに見たこともない景色が広がっていて驚きました。

志田:あそこは、作るのにだいぶ苦労しました。“罪喰いが、魔力で火山に神殿のような施設を作った”というテーマですが、はじめに白いキューブ状の素材が大量発生して、それが建物の外観にどんどん変わっていく工程を上手く見せたいという話がまずありました。担当のスタッフと「どういう見せ方をすればプレイヤーにわかりやすく伝えられるのか?」を課題として話し合いました。モデルを作っては壊し、作っては壊しを続けて、『漆黒編』開発の最後の方まで調整していましたね。

――途中でエフェクトが入って、白亜の宮殿がズラッと出来上がっていく演出はかっこよかったです。

志田:ありがとうございます。開発初期は、“白いキューブが配置されている状態”と“建物が完成した状態”があって、それらをつなぐ“白いキューブが建物に変わる”工程がとてもわかりにくかったんですね。最終的には、さきほどの赤い鳥の話と同じように“プレイヤーが近づいてきたときにキューブが柱に切り替わる”といった見せ方を採用しながら表現しました。ホルミンスターや、終末幻想 アーモロートの街の崩壊もそうですが、画だけでその状況をプレイヤーにわかりやすく伝えることを強く意識して作っています。

――“終末幻想 アーモロート”での“ビル群が崩れるなどして、オブジェクトそのものがなくなる”という演出は、今までのダンジョンではなかった手法ですよね?

志田:たしかにそうですね。担当スタッフが、煙などのエフェクトを駆使し、ほかのゾーンをはるかに超えた力を入れながら壊れた風景を作っていました。

――それが、1体目のボス戦でギミックになっているのもビックリしました。

志田:自分も初めて見たときは驚きました。あとは最後の区画がマップ作成上の難関でして、宇宙空間の下に惑星ハイデリンが見えますよね。そこまでの区画とはまったく違う画を、しかもすごく広い空間として見せなくてはいけないというのが、一番の課題でした。作成できるデータの範囲には限度があるので、アーモロートの街並みと宇宙空間をどう配置すれば、1つのマップとして成立させられるのだろうと。

――1つのマップ……ということは、都市部と上空ひっくるめて1マップに収めているということですか!? 言われてみれば、たしかにロードははさみませんね。

志田:はい、同じマップに街と宇宙空間が配置されています。……種明かしをすると、街の下に惑星のドームがあるんですよ。つまり、最後のフェーズで一気にワープしているんです(笑)。じつは、あの惑星の上部には最初の街並みがあるんです。

――すごい工夫! 宇宙空間にはパッチ2.3「還りし神、巡りし魂」でアシエンたちがいた謎の場所も浮かんでいて驚きました。ちなみに、以前、エオルゼアの星空は志田さんが手書きをしていたとお聞きしましたが、宇宙空間の空や流星群もそうだったりするのでしょうか?

志田:いえ、あれはさすがにエフェクトです(笑)。仕様上の制約があるので、宇宙空間の大半はエフェクトで作っています。

――志田さんは、これまで原初世界、第一世界、果ては宇宙空間と、さまざまなゾーンを手がけられてきました。そのうえで、今後こういうものを描いてみたいというものがあれば、ぜひ教えてください。

志田:毎回たくさんのマップを作っているので、どちらかといえばネタが尽きてしまわないかという心配があるのですが(笑)。自分としては、クガネのようにコンセプトのしっかりした街を作るのがかなり楽しかったので、そういった1つの文化圏をじっくり作り込むようなものは、もう一度やってみたいです。例えば、インドの宮殿のようなエッジの効いた文化圏を作り込んでみたいなと思います。

――クガネは、置いてあるオブジェクトの形も違いますよね。壺が瓶だったり。

志田:はい、第一世界でも木箱が微妙に違うんですよ。

――漆黒エリアで言うと、ラケティカ大森林の集落やロンカ遺跡などの一帯は、独特の世界観が成り立っていておもしろかったです。

志田:あれを、さらにスケールアップさせた、巨大な街を作れたらおもしろいですね。自分は、文化圏の装飾であったり、建築のディテールに強いこだわりがあるので、そういうところを詰めて表現できると、自分的には「楽しいなぁ!」と思います。

――風景について、海外の人と日本の人で感じ方が違う意見があったりしますか?

志田:実際にプレイヤーの方の意見を比較したことはないですが、自分的にはあると感じています。『ファイナルファンタジー』シリーズは、もともと日本の方々が好みやすい絵を作っていたと思っていますが、『FFXIV』は全世界の方々が楽しんでいただけるように、日本人の嗜好に偏り過ぎない作りを意識しています。

――「ガラリと特徴の変わるエリアがあったりして、おもしろいね」という話を海外のファンがしていたと聞いたことがあります。

志田:バラエティに富んでいるのも『FFXIV』の特徴ですね。

――では、最後に『FFXIV』のプレイヤーの方々にメッセージをお願いします。

志田:自分が担当している“環境”は、ゲーム全体のなかでは箸休め的な要素だと思っています。ゲームの合間に、ふと頭を上げてみると、「あ、またちょっと空の色合いが違っているな」と感じていただけたらいいなと思っています。「ここを見てほしい!」というよりも、普段のプレイのなかでちょっとしたときに天候の変化を感じて楽しんでいただけたら幸いです。

――ありがとうございました!

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