クトゥルフ朗読劇『華蝕の匣』ネタバレありレポート。「黒幕の答えは、すでにお客さまの手の中に」の答えは?

電撃オンライン korbitt(アーカム・メンバーズ・フェロー)
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 クトゥルフ朗読劇『華蝕(かしょく)の匣 ~書生の夢現(ゆめ)~』が、2019年10月5日、6日に、横浜YTJホール(神奈川県横浜市都筑区センター北駅)で上演されました。

 各日昼の部と夜の部を1回ずつ、計4回行われた朗読劇。5日、夜の部のレポートをお届けします。

 小説やゲームといったジャンルで注目を浴びるクトゥルフ神話。この熱いテーマに新たなジャンルが加わりました。

 それはなんと朗読劇! 上質な脚本、人気声優による熱演、光と音による演出など、クトゥルフ神話の新しい魅力に満ちたこの公演を紹介していきます!

そもそも『クトゥルフ』神話とは?

 宇宙には人類の力ではとうていかなわない恐ろしい邪神やおぞましい生物が存在し、人間も地球もその影響から逃れることはできないというのが世界観のもとに構築されているのがクトゥルフ神話です。

 クトゥルフとは神話に登場する邪神の一つ。太平洋の海底に何億年も眠っており、星の並びが正しくなった時に目覚めるのだとか。眠っているクトゥルフが見る夢は人類の精神にも影響を与えると言われます。

 クトゥルフ神話の元祖は20世紀初期に活躍したアメリカの作家、H.P.ラヴクラフトが書いたホラー小説です。その後多くの作家が同じ世界観をもとに小説を書くようになり、神話を発展させてきました。アニメ、ゲーム、小説などの題材にも多く取り上げられていますし、女性にもファンが急増中の、今アツいジャンルです!

 クトゥルフ神話の特徴は、とにかく時代や場所に制約がないこと。アメリカだけではなく、日本も舞台にできますし、今回の朗読劇のように大正時代を舞台にしてもクトゥルフさまは許してくれます。

クトゥルフ朗読劇『華蝕の匣 ~書生の夢現~』夜の部をレポート

 本作は、実際の『クトゥルフ神話 TRPG』のプレイをもとに作られた脚本を使っています。プレイ参加者は、酒井さん(番頭役)、菊池さん(書生役)。出演者がキャラクターとして遊び、演技したものをもとにしているという点で、とても斬新です。

 『クトゥルフ神話 TRPG』を遊んだことがある人は、「ああ、ここはアレをしたんだろうな……」などと想像する楽しみ方も。また、クトゥルフ神話原作の邪神、生物が登場するため、本作に散りばめられた、たくさんの要素を探し出すのも面白いでしょう。

 物語は3つの視点から、1つの事件を見ていく構成で進んでいきます。

 まず中心となる1つ目の視点は大正14年、関東大震災から復興中の日本です。当時の豪商である鈴木商店の番頭と書生が、地方に住む華族の屋敷に借金の取り立てに行き、そこで事件が起こります。

 2つ目は昭和24年、アメリカ軍将校の訪問を受けた元・番頭が事件を振り返ります。

 3つ目は令和元年、書生の子孫である大学生が現代の視点で事件を振り返るのですが、事件はまだ終わっていたわけではなかったのです……。

『クトゥルフ神話 TRPG』とは?

 “クトゥルフ神話”の世界で恐怖と対峙しながら真相を探求することを楽しむゲームです。ゲームは会話で進行し、起こした行動の成否はサイコロをふって決定します。自分のキャラクターを会話で操作することから、演劇に近い要素を含んでいます。

登場人物(1日目の出演者)

・執事:柳(やなぎ)白井悠介さん

 貴族の青木に拾われ、執事として働いています。主人への忠誠心がとても、とても高い人です。料理が得意。

  • ▲執事:柳(やなぎ)。
  • ▲白井悠介さん。

・番頭:日達貫太郎(ひだち・かんたろう)酒井広大さん

 豪商である鈴木商店の番頭(下働きで一番えらい人)。苦節20年以上でようやく独立……というところに関東大震災がおき、店が傾いてしまいました。自分の進退のために借金を回収しに奔走します。

  • ▲番頭:日達貫太郎(ひだち・かんたろう)。
  • ▲酒井広大さん。

・書生:喜央正午(きお・しょうご)菊池勇成さん

 祖先が勝海舟の部下。じわじわと没落している名家の出で、現在大学生ですが貧乏で学費が払えないため休学中。学費を払うために、番頭の借金取りに力を貸します。

  • ▲喜央正午(きお・しょうご)。
  • ▲菊池勇成さん。

驚きの開幕

 開場して20分。客席はほとんど埋まっています。舞台上には椅子が4脚、とりわけ中央のがっしりした、アンティーク調の椅子には、座る面から大きな杭のようなものが突き出ています。出演者は3人のはずですが……。

 なお、物販では本作の複製台本が販売されていました。開始前にも手にとる方がちらほら。

 開演時間になると、おどろおどろしく吹きすさぶ風の音が聞こえ始めました。

 期待にざわめいていた会場が静まりかえり。にわかに紫と白のスポットライトが観客席を照らし、しばらく目が眩みます。そして光が収まり舞台に目を向けると……本を開き、椅子に腰掛けて佇む出演者の皆さんが!

 番頭役、酒井さんの低く、落ち着いた語りから物語は始まります。

 序盤は舞台設定の導入と、片田舎の漁村まで移動していく場面です。

 震災からお店を復興するために借金取りに赴く番頭、学費のために手伝いとして同行する書生、屋敷で働く執事の3人、後世に残った旅行記を読む令和の大学生といった人物が顔を見せます。

 番頭と書生がたどり着いた漁村は寂れていて、村人も何やら様子がおかしい。なんだか目がとても大きく、歩きにくそうなほどガニ股で、首元にはくの字状の傷がたくさんついているのです。四つん這いで歩いている老人もちらほら。

 クトゥルフ神話が好きな方ならピンときたかもしれません。魚人、“深きもの”たちです。

 朗読劇なので読み上げるだけかと思いきや、光と音での演出が非常に凝っており素晴らしい臨場感です。

 とりわけ移動中のシーンでは、揺れる馬車の音に合わせ馬車に乗っている2人が跳ねたり、天井に頭をぶつけて痛がったりします。タイミングはバッチリ、軽妙な会話も合わさりコミカルな演出でした。

コラム:深きもの

 “クトゥルフ神話”によく登場する怪物です。いわゆる魚人。世界各国の海辺に住んでいるとされています。人と混血児を生むこともあり、その混血児は年齢を重ねるごとに魚人に近づいていきます。

  • ▲イラスト:ロイク・ムジー。

屋敷へ到着。じっとりと嫌な雰囲気が漂ってきます

 屋敷を訪問した2人は、執事に応対され、客人として中に通されます。

 庭は美麗ですが、山羊の頭を祀った祠、座る部分の中央に太い杭が伸びている座椅子など、明らかに異常な情景が広がっています。

 借金のカタになるものを探しに館の散策を始めた2人は、ある部屋に若い女の剥製が並んでいるのを見つけました。それを見てしまった書生は叫び声を上げて狂乱してしまいます。

 『クトゥルフ神話 TRPG』で言えば一時的狂気です。TRPGでは恐ろしいものに遭遇してしまった場合、正気を保ち、平静でいられるかどうかを判断する“正気度ロール”を行います。失敗してしまうと、書生のように狂乱してしまうわけなのです。

 このように、異様な雰囲気が漂う館で、番頭と書生は次々と恐怖の体験をしていくことに……。

 登場人物それぞれ違った形での狂気は、各出演者の演技で際立って表現されていました。

 閉幕し、後半までの休憩時間に入ったときの緊張が解けた雰囲気は印象的です。会場全体が物語にのまれていたかのようでした。

後半はトークショー。舞台の裏話、話しちゃいます!

 朗読劇が終わり、後半はトークショーが展開。出演者である白井さん(執事役)、酒井さん(番頭役)、菊池さん(書生役)が、朗読劇について語ってくれました。

 緊迫した本編とはうってかわり、終始なごやかな雰囲気でした。

 まず挨拶のあと、客席を見渡した白井さんはすぐさま、「昼も来てくれた方がちらほら見えますね」と発言。客席まで覚えているのか! と会場を驚かせました。

 菊池さんはたびたび出てくる“剥製”を“燻製”といい間違えそうになり、とても緊張したとのこと。台本の“剥製”にすべてふりがなをふったそうです。白井さん、酒井さんも同意し、観客席から笑いがおきました。

 オープニングのトークのあとは、白井さんの進行で自由にお話が進んでいきました。話題ごとに見ていきます。

昼の部と夜の部で演技を変えた?

 今回は2日、昼夜と計4回の公演でしたが、エンディングが分岐するほか、出演者の皆さんも意識して演技を変更した部分があったそうです。白井さんは、昼の部ではイラストのイメージに合わせた演技を、夜の部では不気味な自然体を意識したそうです。

 酒井さんは、昼の部より濃いキャラ付けを意識したとのこと。というのも、夜の部で変化したエンディングでは、番頭は“あちらがわ”に魅せられてしまい、剥製を操る狂信者になってしまったことが明かされます。

 それに対応し、終盤に向かうにつれ、人格に変化が出てしまっていることを表現したそうです。

 菊池さんは2人がキャラを濃くしていったことにバランスをとり、あえて薄めに調整したとのこと。

 現代大学生の役では徐々に不安、危機感を募らせ、何かに勘付いていく様子をイメージしたそうです。皆さん共通して、複数回やる以上は変化を楽しんでもらいたい! と演技を変えているんですね。

時代について

 大正時代の日本はややイメージしにくいけれど、華やかで“大正ロマン!”という雰囲気を感じると話題に。そして朗読劇の元になったプレイ前には、KP(司会役となってゲームを運営する人)から大正時代についてのレクチャーがあったというお話が出ました。

 プレイに参加した菊池さんは、授業を受けている気分で楽しかったと笑顔。続いて大正時代になにがあったかクイズが始まり、出演者間のジェネレーションギャップにショックを受ける出演者の様子が、客席を沸かせました。

残った謎について

 エンディングにおいて、とある人物が豹変しますが、ではいつ狂ってしまったのかは、出演者の皆さんの中でも夕ご飯を食べたところだ、いやその前にはもう落ち着いていた、と意見が分かれているようです。

 謎を残したまま終わるのもクトゥルフ神話らしいと言えるのかもしれませんね。

 酒井さんは、残った謎は調べたり、考察してもらっても楽しめるのでぜひ想像してみてほしいと締めてくれました。

アーカムと深きもの

 劇中に何度か登場した“アーカム”という名称と前述の“深きもの”は、クトゥルフ神話の知識を持った人にはメジャーな存在です。そういった知識を持つプレイヤーや、この記事を読んでいるあなたが、この原作シナリオをプレイする機会があったらどうだったでしょうか?

 目的地である館の名称は黄色い泉と書いて“黄泉荘”です。あの“黄衣の王”を連想させるような名称の館へ行く途中に、どうひいき目に見てもクトゥルフ界隈では一般的に忌まわしき存在の“深きもの”どもの住まう村が登場します。

 さまざまな可能性を連想させる情報が提示される中、狂気をまとった執事が登場し、異様な館の中で物語は加速します。

 酒井さん、菊池さんがプレイした際、KPを務めた原作者の芝村裕吏さんが仕掛けた数々のトラップのような情報は、クトゥルフ神話やクトゥルフ神話TRPGの造詣が深いほど混乱する仕掛けでした。

 プレイヤーの選択によって幾重にも分岐するシナリオなので、また別の機会があれば、今回の朗読劇として演じられたストーリーとは違う結末を迎えるかもしれません。

コラム:アーカム

 “クトゥルフ神話”でおなじみのアメリカ、マサチューセッツ州の都市。得体のしれない怪物や、邪教を崇拝するカルト教団が潜んでいる恐ろしい街です。そこのミスカトニック大学は、“クトゥルフ神話”にたびたび登場する重要な施設です。

最後に一言!

 酒井さんは、昼公演とお客さんの雰囲気が違って、新鮮な緊張感があったそうです。珍しくホラーものということもあり、とても楽しかったと嬉しそうな様子でした。

 菊池さんはTRPG経験者なので、話を聞いたとき、クトゥルフで朗読劇……? と意外に思ったと語っています。しかし台本を受け取ってみると、実プレイ中に知らなかったことが入っていて面白かったとのことです。

 白井さんは昼夜でエンディングが変わる朗読劇だが、いろんなスタンスで望みたいと思い、演技を変えていると言っていました。

 そして明日(2日目公演)は出演者も変わるので、違った感じを楽しんでほしいと意気込みを語ってくれました。次は台本作成前の実プレイに参加したいと要望も。

 3人とも、次の朗読劇があったらぜひ出演したいと言い、トークショーは締めくくられました。

 そして最後に舞台からの捌け際。白井さんが執事役の声で一言。

 「黒幕の答えは、すでにお客さまの手の中に」と言い残して退場していきます。

 最後に残った謎にざわめく会場。トークショーでも語られたような“クトゥルフ神話”らしさあふれる朗読劇でした。

 ちなみにこの台詞の意味は……入場時に配布された、貴方の手の中にあるものに目星をつけてみるといいかもしれません。

コラム:シュブ=ニグラス

 “クトゥルフ神話”によく登場する神格。黒いヒヅメのついた足を持っていることから黒山羊と呼ばれています。邪悪な豊穣の神であり、生命力を司るとされています。作中の異常気象や、剥製を動かしていた黒い粘液は、シュブ=ニグラスの力の一部だと考えられます。

2日目公演のフォトレポート

 2日目となる10月6日の公演では一部演者が変わり、白井悠介が執事役、高塚智人さんが番頭役、永塚拓馬さんが書生役を演じました。

まだまだあります、クトゥルフ神話 TRPG!

 本朗読劇のメインテーマであるクトゥルフ神話。あなたもこの世界に飛び込むことができます。常識の外に潜む邪神、不条理な生物の恐怖に立ち向かい、ときには作中の書生くんのように錯乱したりしながら物語を作っていくことができるのです。

 会話でキャラクターを動かすゲームなので、朗読劇と似た部分も多いです。物語を作り上げていく楽しさ、ぜひ体験してみてください!

 2019年12月には『新クトゥルフ神話 TRPG』が発売されます。今までのものからさらに遊びやすく、リニューアルされています。

 “クトゥルフ神話”について、またTRPGについて気になる方は手にとってみてくださいね。大正時代の日本を舞台にする追加設定をまとめた『クトゥルフと帝国』もおすすめです。

 もうちょっとプレイを見てみたいという方は、クトゥルフ神話TRPGチャンネルをのぞいてみてください! 声優や、Vtuberの方々など、豪華なキャストが実際にプレイする様子を視聴することができます。こちらは朗読劇にかなり近いですね。

 また、公式Twitterにて登場人物のキャラクターシートが公開されています。

 実プレイで使われた番頭さん、書生くんのプロフィールやデータをのぞいてみてください。キャラクターの特徴がひと目でわかりますね。

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PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION


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『クトゥルフ神話 TRPG』

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