『FF14』14時間生放送インタビュー③:積み上げ式だからこそ未来を見据えた音作りが大事!
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毎年恒例となっているスクウェア・エニックスのMMORPG『ファイナルファンタジーXIV(以下FFXIV)』の14時間生放送。そんな長時間イベントの合間に敢行した、さまざまなセクションのスタッフへのインタビュー企画。第3弾では『FFXIV』サウンド班・祖堅正慶氏、絹谷剛氏、藤田麻美氏からサウンド作りに対する熱い想いをうかがいました。
なお読みやすさを高めるため、お三方のコメントに若干の編集を加えています。開発者の方々の発言が、そのまま記事に掲載されているわけではないので、あらかじめご了承ください。
◆インタビュー企画のリンクはコチラ!
インタビュー①/吉田直樹氏、室内俊夫氏
インタビュー②/廣井大地氏、石川夏子氏、織田万里氏
拡張パッケージ単体と同ボリュームになりつつあるパッチごとの作業量
──まずは"クイズバラエティ 新たなBGMが追加されました。"に出演された感想をお聞かせください。
藤田麻美氏(以下敬称略):難しくてびっくりしました(笑)。今日はかなり悔しかったですね。(対戦相手となった)コンポーザーのチームがすごく強かったので、いつかリベンジしたいと思っちゃいました。でも、最後に祖堅さんがタジタジになっているのは、個人的にメチャクチャおもしろかったです(笑)。
祖堅正慶氏(以下敬称略):チクショウ!
一同:(笑)
──絹谷さんはいかがでしょう。
絹谷剛氏(以下敬称略):新鮮な体験ができて、すごくおもしろかったです。ふだんは効果音の制作のほかに、プロデューサーレターLIVEやパッチノート朗読会にも参加して、裏方として音響関連のお手伝いをしてきました。でも自分が演者として出るのは初めてだったので、プレイヤーさんの前でリアルタイムに話す難しさと楽しさを体験できて……すごくよかったと思います。
祖堅:サウンドに関してはいつも片鱗しか紹介できないことが多いので、こういう機会に興味を持ってくれたらうれしいですね。いつも生放送などで言っていることではありますが、ゲームサウンドは楽曲がとかくフィーチャーされがちなものの、『FFXIV』を形作るサウンドっていうのはBGMだけではないんですよ。今回みたいな放送をきっかけにして、そのあたりを楽しみつつ知ってもらえればうれしいなと。
──冒頭の藤田さんと絹谷さんのお仕事を紹介する動画を見て、多くのプレイヤーに「この音を手掛けた人なのか!」ということを知ってもらえたかと思います。
絹谷:あの紹介動画はすごくうれしかったですね。ひとつひとつのSEに対して「これは自分が作ったんだよ」と明かされることはふだんないですし、私自身それが当たり前だと思っているのですが、「この音知ってる!」といったコメントが流れてくるのを目にして、すごく光栄に思いました。
──ちなみに絹谷さんと藤田さんから見て、祖堅さんはどのような方ですか?
絹谷:面と向かって言うのは恥ずかしいですね……。"クイズバラエティ 新たなBGMが追加されました。"の最後のコーナーが僕らに跳ね返ってきた感じが(苦笑)。
祖堅:付き合いが長いからね。
絹谷:そうなんです。家族みたいと言ったらおかしいですが、本当に10年以上いっしょにやってきたので(苦笑)。面と向かって言えることはさほどありませんが……最後のコーナーである"開発/運営スタッフに聞きました 祖堅さんのイイところ"で出て来たアンケートの回答といっしょかなと。「やさしい」とは言いませんが、僕たちも同じ思いです(笑)。気を遣わせないところがすごく上手なので、みんな兄弟みたいな感じでいっしょに楽しく仕事しています。
──藤田さんはいかがでしょう。
藤田:私も祖堅さんに拾ってもらってこの業界に入ったので……(笑)。
──『FFXIV』のチームにはいつごろ入られたのですか?
藤田:いつぐらいだろう……。
祖堅:7~8年は経っているよね。
絹谷:入社とほぼいっしょかな?
藤田:そうですね。入社直後に祖堅さんを「上司」と呼んだら「先輩だよ!」みたいに怒られたのをすごくよく覚えています(笑)。最初にそういうことがあった通り、祖堅さんはすごい方でありつつ、チームのスタッフと対等な立場で関わろうとしてくれます。実際、『FFXIV』のサウンドチーム全体がそういう雰囲気なので、気軽に何でも話せる環境だと思いますね。そうしたあたりも今日の放送で皆さんに伝わっていれば、すごくいいなと。
──逆に祖堅さんから見たおふたりはいかがでしょうか?
祖堅 当初からなくてはならない人材というか、『FFXIV』のサウンドの中核を担っているふたりなので、そういう意味でも、このふたりがいることが"日常"ですね。改めて何か言おうと思っても、いつもいるのが当たり前になっちゃっていますから……。それくらい、自然と頼りにしている存在であり、かつ、いっしょに仕事をしていて楽しいメンツなので、自分は恵まれているなぁとすごく思います。
──おふたりは、これまで膨大な数のSEを手掛けられてきたかと思いますが、そのなかで印象深いものや、お気に入りのものはありますか?
絹谷:本当にひとつひとつに思い入れがあるので、どれかひとつを選ぶのは難しいですね。お話が盛り上がるシーンで使われたSEだけでなく、もちろんバトルのSEもそうなのですが……。それでもどれかひとつと言うのであれば、個人的には"蒼天幻想 ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦"の究極履行(アルティメットエンド)のSEでしょうか。
蒼天騎士団がプレイヤーを取り囲んで武器を掲げると、そこから光のオーラが発生する、あのシーンです。一連の演出がかもし出す圧迫感と言いますか、プレイヤーの皆さんに絶望を与えるくらいのヤバさを漂わせつつも、どこか神々しさも感じられる……そうしたところを表現するために、SE作りに四苦八苦しました。
さらに蒼天騎士団が武器を振り下ろすとパリーンと画面が割れますが、その場面に関しても祖堅さんから「もっと音を聞こえるようにして、世界が一変する瞬間をフィーチャーしよう」と言われたのを受けて、曲との調和も考えつつがんばって作りました。いまとなっては、かれこれ6~7年くらい前の話でしょうか。
祖堅:もう6~7年じゃ済まないかもしれないね。
絹谷:かなり古いリソースアセットのひとつなのですが、個人的にはすごく思い出深いですね。
祖堅:そのころは、サウンドスタッフの人数もメチャクチャ少なかったんですよ。だからもう本当、いまとは比較にならないくらい、ときには会社に泊まり込んでまで何でもやった時代でした。何だかもう、いつもグチャグチャの泥まみれでやってるような感じで。そういう意味でも、確かに"蒼天幻想 ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦"は思い出深いですね。
絹谷:そうですね。
祖堅 さらにそんな中で、絹谷くんは当時から『FFXIV』のレイドをガチで攻略していたんですよ。攻略しながら仕事もこなして……本当にマジで時間がなくて、「だったらずっと会社にいたほうが楽じゃん」みたいな(笑)。
──まさにガチ勢ですね(笑)。一方で、藤田さんの印象深いSEは何ですか?
藤田:私はけっこうピンポイントで、パッチ5.4でリリースされた"魔術工房 マトーヤのアトリエ"です。ノッケンというカワイイボスが登場するんですが、このころはSEの発注量がすごく増えている時期でして、私自身もたくさん作らなければならないなかで、バリエーションが出せずに苦しんでいたんです。
そのときに『FFXIV』の中でもとくにデフォルメされたキャラクターが出てきたので、いつもと気分を変えて、すごくカワイイ系の音を付けてみました。それがリリースされた後、プレイヤーの方々から「カワイイ!」や「おもしろい!」といった反応をたくさんいただいて、言いかたが難しいですが私の中で「もっと遊んでもいいんだ」と気づいたんです。
それまでは「もっとカッコイイ音を作らないと」という気持ちが強かったのですが、デフォルメされたポップな音を入れてもいいことがわかって……『FFXIV』の可能性の広さを感じました。それ以降けっこう吹っ切れて、いろんなものが作れるようになりました。ちなみにそのSEを祖堅さんに聞いてもらったところ、「これって『ドラゴンクエスト』の人に作ってもらったの?」みたいに言われました(笑)。
祖堅:言った言った(笑)。
藤田:「ヨシッ!」って思いました(笑)。祖堅さんもそれを「ダメ!」とは言わなかったので、正解の一部として認めてもらえたんだなと。そのあたりがすごく印象深いです。
──確かにいまは実装されるコンテンツ量がものすごく膨大で、もうすぐ実装されるパッチ6.25でもヴァリアントダンジョンなどが追加されるなど、たいへんなことになっています。やはり、SEの発注量はとんでもないですか?
祖堅:正直に言うと、さっき絹谷が話していた『蒼天のイシュガルド』のころの拡張パッケージに投入したSEの容量と、現在進行中の"ひとつのパッチ"で作っているSEの分量が変わらなくなってきているんですよ。くり返しますが、拡張パッケージですよ! ひとつのシーズン当たり、パッチは全部で5回リリースされるので本来は5分の1で済むはずなのに、違うんですよ。物量からすると、当時の5倍に増えているんです。
──単純計算で5倍に(笑)。
祖堅:異常なんですよ。それを藤田はずっと担当してきているんですが、もちろんヘルプで誰かが入ることはあるものの、主幹はずっと彼女ひとりです。やっぱり、人間の限界みたいなところがあるじゃないですか。
とりわけMMO(大規模多人数参加型オンライン)RPGのバトルは、爽快感が求められるのはもちろん、必ず聞こえなければならないSEが出てきたりするので、とくに調整が難しかったりします。ふつうのRPGであれば、たとえば敵と味方が1体ずつ登場する状況が事前にわかるので、どこでどの音を鳴らせばいいのかある程度の予測がつきます。
でもMMORPGの場合は、いつどこで誰がどのSEを鳴らすのか常にわからない状況です。このため、あらゆるパターンを想定して、複数音を重ね合わせたり、あるいはそれを組み合わせたりすることで何が起こるのかという検証を行わなけれななりません。
ですからSEの量が増えると、そのぶん検証の組み合わせも増大するので、作業量が膨大になってきます。彼女はそこを一手に引き受けてくれていて……。近ごろ、ひとつのパッチの制作が拡張パッケージを作っている物量に近い感じになってきているので、藤田は相当負荷が高い状態のはず。でもしんどそうな顔をしつつ、これほどの分量をソツなくこなしてくれるので、コイツは何者なのかと。ちょっとビックリですね。それが俺の印象です(笑)。
藤田:祖堅さんに比べたら、まだまだです(笑)。
──祖堅さんは放送内で「没入感を重視している」と話しておられましたが、おふたりがSEで没入感を作り出すにあたり気を付けている点は何でしょうか?
絹谷:ひと言で表現するのは変かもしれませんが、バランスです。あたかもプレイヤーがその世界にいるかのように感じつつ遊べることが没入感だと思うのですが、SEを作る側からすると、「あれもこれも聞かせたい」はダメだったりします。
環境の一部のような形で、自然にプレイヤーの耳に入る音が没入感を高めてくれるので、「音を何でも聞かせよう」ではなく、引くべきところは引く。あくまでも自然な音量とそのバランスを意識しています。世界を作るにあたって変に主張しすぎずに、調和の取れた音量で空間を表現してあげることが没入感につながるのかなと思いながら、いつも作っていますね。
──藤田さんの考えはいかがですか?
藤田:基本的に絹谷さんと同じです。それ以外で言えば、たとえば専用BGMが存在する討滅戦を作る際に、祖堅さんがデモの段階で曲を先にくれたりするのですが、それを聞きながら効果音を制作する……個人的に、これをこっそりと意識しています。その狙いは、なるべく曲とSEがなじむようにするためです。
たとえば女性的なボスを作るとして、曲もそれに合わせてきらびやかなものであったならば、SEもそれに寄り添った感じにしています。キラキラしたBGMの中で、すごくジャキジャキしたSEを鳴らしても不自然なので、そうしたところでもバランスを崩さないよう意識していますね。
──"ティターニア討滅戦"はそんな感じでしたね。
藤田:まさにそうですね。ああいう感じで、SEがまるで曲の一部かのように感じられて、さらに広がりが増せばいいなと思っています。
──今日の放送を視聴して、「SEの開発って楽しそうだな」と思ったプレイヤーも多いかと思います。そうした人に向けて、『FFXIV』ならではのSE作りの特徴や、おもしろさを語っていただけますか?
祖堅:難しいな……。
絹谷:難しいですね(苦笑)。
祖堅:ふつうのパッケージ系のゲームの場合は一度完成すればそこで終わりだけど、『FFXIV』の場合はいわゆる"積み上げ式"です。このため、ひとつバランス調整を間違えると、以降のすべてが崩壊してしまうのです。これを避けるためには、ある程度先の未来を見据えたうえでSEを作る必要があったりします。ここがほかのゲームと根本的に違うところですね。
何か変なことをすると、それが引き金になって傷ができて、つぎからそれを塞ぐ作業が必要になってきます。そうなると(仕事の分量的に)もう終わってしまうので、そこに気を付けながらSEを作ってきたのですが……もうかれこれ10年近くになるものの、奇跡的にうまく行っているなと。それができた理由は彼らが優秀だからだっていうのは、すごく思いますね。あれ、また変な空気になっちゃったな(笑)。
一同:(笑)
絹谷:プレイヤーが何かを入力したときに、瞬時にいまの状況を打ち返してあげるのがSEの役目です。バトル中に、このアクションを実行するとこの音が鳴る……そのレスポンスの早さや正確性、あるいは爽快感の向上に寄与する要素がSEだと思っているので、画面に表示されている絵にマッチした音をいかに鳴らせるのかどうかが醍醐味というか、作っていておもしろいところではないのかなと。
藤田:『FFXIV』に関して言えば、自分のキャラクターを愛しているプレイヤーがすごく多いので、そうした方々をガッカリさせたくない気持ちがすごく強いです。私自身もプレイヤーのひとりとして、ステキなSEが鳴るというよりも、自然で違和感のない、日々の生活に寄り添った音を提供できたらいいなと思って作業しています。
自分のキャラクターから発せられる音をプレイヤーの皆さんがすごく気にするというのは、本当に『FFXIV』ならではです。SNSでのいろいろな反応も、SEを作る側としてはこんなにうれしいことはありません。そうしたところも楽しみながら仕事できるいまの環境は、すごくいいなと思っています。
絹谷:僕たちもやっぱりプレイヤーなので、皆さんの気持ちはすぐに想像がつきます。
──ちなみに今回の"万魔殿パンデモニウム零式:煉獄編4"では、鳥か竜のどちらが現れるのかを鳴き声のSEで判断できたりするのが、攻略にもひと役買っていてありがたいです。
藤田:まさにそこは、バトル班の方から「そうなるようにしてほしい」とオーダーがあった部分です。担当者と相談しながら制作しました。
祖堅:"朱雀征魂戦"のときもそうだったよね。ボスの攻撃が始まる前に笛の音が鳴るところが。
藤田:あのときは、祖堅さんに「笛のフレーズを作ってください」ってブン投げました(笑)。
──祖堅さんはいかがですか?
祖堅:さっきも話しましたが、『FFXIV』は積み上げ式の作品なので、プレイヤーの方たちからいただくフィードバックは、僕たちからするとメチャクチャいい勉強になっています。HDタイトルは以前にも増して作るのが大変になってきていて、開発にすごく時間が掛かるんですよね。
たとえば3~4年、もしくは4~5年くらい使って1本のタイトルを作ったとして、そこに大量のフィードバックをもらったとしても、それらを活かしてどう軌道修正すべきなのかは、大きな節目を迎えたときでないとわからないことが多いんですよ。
ところが『FFXIV』の場合は、そこがすごく特殊で。プレイヤーの中にサウンドに興味を持ってくださる層がいらっしゃるので、いい悪いも含めて、そうした方たちからSEやBGMに関する感想をひんぱんにもらえて……それを読むと本当に勉強になるので、メチャクチャありがたいです。
その特殊性ともいえる部分が、我々のスキルアップにつながっている。『FFXIV』のサウンドを作っている我々としては、そこが"ならでは"かなと思います。
絹谷:確かにそうですね。
──プレイヤーの方たちには、今後もどんどんフィードバックを返してほしいと。
祖堅:好きな意見を言ってほしいなと(笑)。サウンドを手掛ける側からすると、そういう環境に身を置けることって本当に少ないんですよ。本当にありがたいというか、いい環境で仕事ができているなぁという気がしています……仕事の量はキツイですけどね(笑)。
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