『ソードアート・オンライン』ゲームシリーズ振り返り対談その2。川原礫先生が驚いたゲーム制作の裏側とナイショの話
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2022年にアニメが10周年を迎え、来年2023年にはゲームシリーズが10周年を迎える『ソードアート・オンライン』。おもにゲームの面にフォーカスして、ずっと支え続けてきた4人のキーマンによる対談の第2回をお届けします。
対談に参加していただいたのは、電撃文庫『ソードアート・オンライン』シリーズの著者・川原礫先生、川原先生の担当編集にしてストレートエッジの代表・三木一馬さん、『ソードアート・オンライン』ゲームシリーズの総合プロデューサーである二見鷹介さん、『ソードアート・オンライン インテグラル・ファクター』および『ソードアート・オンライン ヴァリアント・ショウダウン』のプロデューサーを担当する竹内智彦さんの4人です。
第2回では、川原先生たち原作チームがゲームの監修作業など“制作の裏側”で驚いたことや、10年やってるからこそ出てくるここだけのナイショ話などをお届けしていきます。
ゲームの驚異的なシナリオ分量への驚き
――原作チームはゲームを監修するお立場ですが、監修態勢はどのようなものでしょうか?
川原先生:原作ではもう会えないキャラと一緒に冒険できるのがゲームのいいところで、僕はそこが好きなんですよね。ですからそういう設定には基本的に「いいですよ」と言ってしまうんですが、そこに三木さんとか僕が監修をお願いしている来栖達也さんは「ちょっとちょっと」と言う(笑)。原作者としては相当ガバガバですね(笑)。
三木さん:来栖さんは川原さんがデビューする前からずっと『SAO』でご一緒されていて、原作小説のMAPイラストを描くイラストレーターでもある方です。『SAO』について言うなら、川原さんの次に詳しい方ですね。来栖さんと一緒にゲームのシナリオをチェックしているんですけど、来栖さんにもわからないことが出てきたときだけ、川原さんにピンポイントで聞いていますね。
――ゲーム制作にかかわって驚いたことや、初めて知ったことはありますか?
川原先生:シナリオの分量ですね。昔からゲームのシナリオの分量が凄いということは聞いていたんですけど、実際に監修で回ってくると「これを手で書いたのか……」と驚かされます。電撃文庫の標準的なページ数だと、ワードファイル換算で大体250~300キロバイト(10万~12万字)くらいなんです。ところがゲームのシナリオは3~4メガもあるんです。電撃文庫10冊分以上ですよ! しかもフルボイスの場合は、その文字数を全部収録するわけですから……。いったい何日かかるのかと思うと気が遠くなります。
二見P:キリト役の松岡くん(※声優の松岡禎丞さん)は相当大変ですね。
川原先生:ですよね。たとえば『アリシゼーション リコリス』だと何ワード(※1つのセリフを1ワードと呼ぶ)くらい録っているんですか?
二見P:15,000~20,000ワードぐらいは録っているはずです。自分が担当した、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』というアドベンチャーゲームですと5,000~8,000ぐらいですね。そう考えるとキリトはすごく多いです。松岡君はいろいろなキャラクターと受け答えするのでシーンごとのセリフもすごく多いし、各ヒロインとも個別で話すので倍々ゲームで台詞が増えていきますね。他のキャストの方はメインの方でも1,000~2,000くらい、キャラクターメインのシナリオがなければ500くらいです。ゲームの収録でも松岡君だけかなりの多くのスケジュールをいただいてます。ほんと松岡君には感謝ですね。コンシューマとアプリをひっくるめてみると、数カ月ごとの間隔で新規収録があるイメージですね。
――ゲーム化の際に原作チームとして苦労することは何でしょうか?
川原先生:メインの監修作業は三木さんと来栖さんにお任せしていて、お2人が気になったところを私がチェックする態勢になっています。これは私がいちプレイヤーとしてゲームを楽しみたいので、こういうワガママを言わせてもらっています。
三木さん:先ほどもお名前出ましたし、来栖さんにもお答えいただいた方がいいかも知れませんね。
来栖さん:来栖です。よろしくお願いします。川原先生もおっしゃっていましたが、ゲームの監修は物量がすごいですね。
――監修にかかる時間はどれくらいですか?
来栖さん:一度に全部いただくわけではなくて何回かにわかれた形で見ることになるんですけど、監修して終わったら次がきて、それも監修したらまた次が来て……と、すごいスピードでシナリオが上がってくるんです。あれを実際に書いている人がいるんだと思うとすごいなと……。
――監修物として回ってくるものはシナリオ以外に、モンスターや小物、美術などもあるのでしょうか?
来栖さん:はい。画像があればそれもチェックしますが、それらに関して僕から何か言ったことはほぼないと思いますね。
――それはバンダイナムコエンターテインメントが作ってくるものの精度が高いということですか?
来栖さん:そうですね。ゲームオリジナルで作られたデザインも原作のイメージを尊重して作っていただいていると思います。オリジナルはオリジナルでバンダイナムコエンターテインメントさんがしっかり描かれています。1回だけダメ出しをしたことがあったのですが、それは《GGO》が舞台のタイトルで《ALO》的なファンタジー色の強い服装が上がってきたことについてのものですね。もう少し近未来感を強めて《GGO》寄りにしてほしいと戻したことはあります。
三木さん:最初に川原さんや二見さんもおっしゃっていましたが、普通はシナリオを読み進めていくアドベンチャーにしたほうが原作の設定を壊さずに済むんですよ。いわゆる恋愛アドベンチャーみたいにしたほうが処理も簡単ですし、原作側にごちゃごちゃ言われないんです。なぜなら、テキストで描写するだけでいいので、ある意味小説のようなものです。
ところが『SAO』をアクションRPGにしようとするとすごくハードルが上がるんです。ソードスキルを実装するにはどうすればいいかとか、《ディティール・フォーカシング・システム》をどうするのかとか、実際にやろうとしたらメチャクチャ大変なことになる。だけどバンダイナムコエンターテインメントさんはそこにチャレンジしようとしてくれているんですよね。原作サイドとしてもシナリオを監修する大変さはありますけど、ゲーム制作サイドのほうが大変かなと。
あと僕らは結構細かく見てチェックもうるさいと思うんです。それに対応するバンダイナムコエンターテインメントさん側のご苦労も相当だと思いますね。監修が入ることによってシナリオの制作過程が1.5倍くらいに伸びちゃうんですよ。監修がなければもっと早く制作できるはずなので、大変だろうなと思います。
竹内P:でもあまりそこを大変だと思うことはあまりないですね。監修でしっかり見てくださっているからこそ『SAO』の一部として成立しているわけですから。それに開発期間は監修期間も込みで考えているので、監修によって制作期間がふくらんでしまうという意識はありません。
原作設定を活かしたシステムへの感動
――『SAO』のゲームシリーズで特にお好きなタイトルはありますか?
川原先生:思い入れがあるのは『ロスト・ソング』かな。単純にゲームとして好きでしたね。でもプレイ時間が一番長いのは『フェイタル・バレット』ですね。原作《GGO》編のバレットライン、バレットサークルは、光剣で戦うキリトが銃メインのゲームで弾丸を避けるための、いわばご都合的システムだったんです。これをそのままゲーム化することは、ゲームシステム的に無理だと思ったんです。バレットラインが見えたら避けられちゃいますからね。
ところが『フェイタル・バレット』をプレイしてみると、バレットラインとバレットサークルがゲームシステムとしてちゃんと機能しているんです。バレットラインがあるからこそ、自分が狙われているという危機感を感じられますし、バレットサークルもどうにかして小さくするために頑張るというゲーム性があって、あれはすごく感心しましたね。
三木さん:僕は『インテグラル・ファクター』かな。オリジナル主人公でアインクラッドの100層を目指すというコンセプトがチャレンジングですよね。キリトを操作することもできないですし、主人公のパートナーもアスナではなくオリジナルヒロインのコハル。あくまでオリジナルキャラクターたちがメインになっているところがおもしろいと思いました。
――シナリオやシステムで、感心したものはありますか?
三木さん:添い寝イベントですね。どのタイトルにも絶対に入っていますし、すべてのファンを裏切らないようにヒロインを網羅しているのがすごいと思います。
二見P:添い寝イベントはネタ作りが大変なんです。1作目の『インフィニティ・モーメント』はアスナだけそういったシーンがあるのですが、『ホロウ・フラグメント』から本格実装でしたね。これは前作を超えるものを作るのが大変で……。なんとかして毎回ひねり出している感じです。
川原先生:一番上手いことやったなと思ったのは『フェイタル・バレット』のオリジナル主人公ですね。これが結構チャレンジだったと思うんですけど、プレイヤーさんにも受け入れられていました。キリトモードは苦肉の策だったと思うんですけど、これがあることでキリトで遊びたい人のニーズにも応えられますし。オリジナル主人公であそこまで自然に『SAO』のゲームを自然にやれたのは素直に褒め称えたい気持ちです。
二見P:ありがとうございます。キリトモードは確かに苦肉の策な感じが出てしまったと思います。
川原先生:オリジナル主人公でアスナたちと添い寝すると、ちょっと微妙な空気が漂いそうですからね。しかし添い寝というシステムはSAOのゲーム最大の伝統ですから。プレイヤーさんも入れてほしいでしょうからね。
――ゲームのオリジナルキャラクターで好きなキャラは誰ですか?
三木さん:僕は『ホロウ・リアリゼーション』で登場したプレミアちゃんです。一番ラノベっぽいというか、社会不適合者なところが可愛いんですよね。キャラとしてはかなり尖っていてお世話をしないといけない子なんです。キリトの愛人になりたいと言ったりするところもラノベヒロインっぽくておもしろいなと、シナリオの段階から思っていました。
川原先生:女性キャラなら『ロスト・ソング』のレインです。設定や性格含めて可愛いのと、オリジナル・ソードスキルの《サウザンド・レイン》が強い。SAOのゲームは各種ありますけど、全タイトルの中で一番好きな技です。
男性キャラは『フェイタル・バレット』のイツキかな。僕は敵か味方か分からないトリックスター的なキャラが好きなんですけど、自分ではなかなか扱いに困って小説に出さないんですよね。原作でトリックスター的なキャラといえばギリギリ菊岡くらいかな。なのでイツキさんの立ち回りは好みです。
10年やってるから出てくるここだけのナイショ話
――この10年の間にはさまざまな出来事があったと思います。前回でも“今だから言えること”を聞きましたが、ゲームのこと以外にも何かこぼれ話はありますか?
川原先生:ゲーム制作とは関係ないんですが、グリーから出た『エンドワールド』に50万円以上課金したことですね。まあバンダイナムコエンターテインメントさんから出ている他のアプリゲーにも色々と課金してはいますけど(笑)。
三木さん:毎回毎回ゲーム制作ってリリースの3、4年前に企画書をいただくんですけど、ゲームのリリース時に原作のシリーズが続いているのかと考えることはあります。その懸念をバンダイナムコエンターテインメントさんに伝えるんですけど、バンダイナムコエンターテインメントさんはずっとやってくれていますね。ちなみに……今から新しいタイトルを作ると2025年あたりのリリースになります! バンダイナムコエンターテインメントさんはそれでもやるんですか?
二見P:ノーコメントでお願いします(笑)。
川原先生:これまたゲームとは関係ないことですが、せっかくの機会なので……。『SAOVS』でホロライブのVTuberさんが稼働したり、『川原礫チャンネル』にもさくらみこさんがゲストとして登場してくれたりしましたが、どちらも私がお願いしたわけではありません! ちなみに、あれはどなたの提案なんですか?
竹内P:私たちも驚きました(笑)。『SAOVS』の攻略組にホロライブの皆さんを起用したのは、アプリチームの若手の発案がきっかけになっています。10年間続いているコンテンツで、どんどん若い読者が入ってきていますから、そういった方々も含めて興味を持ってもらえるような新しい接点としてVTuberはどうだろうかとの狙いです。たまたま湊あくあさんも『SAO』がお好きでよくご存じでしたので、取り上げていただきました。
川原先生:私もめちゃくちゃうれしかったんですが、それよりも驚いたという感覚のほうが大きいですね。
――前回の記事では“ゲーム制作サイドから原作チームに聞いてみたいこと”を伺いましたが、今度は原作チームからゲーム制作サイドに聞いてみたいことを話してみてもらえますでしょうか?
川原先生:来年でゲーム化10周年を迎えますけど、いつくらいまでゲーム化される予定ですか?
二見P:川原先生が途中で『プログレッシブ』を始めてしまったんですよね。だからこれは終わらないんじゃないかと僕らもドキドキしています(笑)。
川原先生:当面の目標は第25層到達ですけど、今(2022年10月現在)だと第8層ですね。
二見P:僕らは原作が続く限り、10年、20年お付き合いしていきたいなと思っています。私に関しては目下、後継者を探している最中です。
竹内P:『インテグラル・ファクター』の初期のころは、当時原作の中でしか情報がなかった層のフィールドを作ったりしていたんですけど、『プログレッシブ』の劇場版が出て、わからなかった層の設定が出てきたので改めて再現したいとも思っています。また当時のスマートフォンの性能的な限界でできなかったこともありましたが、技術も進歩してきましたので《アインクラッド》や《ALO》を今の技術で改めて作ってみたいとも思っています。
――ここまでの〆として、原作・アニメ・ゲームと多くの展開を長年追い続けてきたファンに一言ずつお願いします。
三木さん:『SAO』のゲームが10年も続くとは誰も思っていなかったと思いますが、ここに僕たちは今立っています。みんな見てるか? これからも僕は立ち続けるぞ! ということで応援よろしくお願いします。そしてバンダイナムコエンターテインメントさんは人事異動が激しい会社であるにもかかわらず、何年もずっと一緒にいてくれるプロデューサーさんが多く、それも助かっています。名物プロデューサーになると異動させられないようですので、竹内プロデューサーもそうなっていただけたらなあと思います。二見さんはもうなっていますね(笑)。
竹内P:ゲーム10周年の立ち位置は、11年目以降のゲームの展開にも期待してもらうことではないかと思っています。まずは来たるゲーム10周年の日に向けて、皆さんにこれからも期待していただけるように、走っていきます。『SAO』ゲーム制作チームも層が厚く、僕や二見プロデューサー以外のメンバーもたくさんいますので、彼らがどういう展開をするのか見ていただければと思います。
二見P:まずはアニメ10周年、おめでとうございます。そしてゲーム10周年に向けて色々と仕込んでいる最中です。川原先生の小説からここまで世界を広げることができて、僕もこのタイトルで世界のプレイヤーさんたちを知ることになったので、非常に感慨深い10年だったと思います。
これから僕たちも力をつけて、『SAO』を今後10年、20年続けられるタイトルにして、下の世代にどんどん引き継いだり、現場の環境を整えたりすることにもチャレンジしていかなければと思っているので、皆さんがずっと楽しんでいける環境をゲームというプラットフォームで続けていければと思います。10周年はゴールではなくスタート地点だと自分たちに言い聞かせて、さらに上を目指して行こうと思っていますので、これからもよろしくお願いします!
川原先生:改めてゲーム10周年おめでとうございます。原作者にとってこんなに長く続けてくださったことは本当にありがたいと思っています。しかし見方を変えれば、二見さん、竹内さんを始めとするゲームクリエイターさんが、クリエイターとして一番脂が乗っている10年間を、『SAO』という炎にくべてくださったということでもあります。
そしてさらにはアニプレックスの丹羽さん、ストレートエッジの三木さん、エッグファームの大澤さんたちが『SAO』に人生の少なからぬ時間をつぎ込んでくださっていると考えると、ありがたいような、申し訳ないような、畏れ多いような気持ちになります。しかしここまで来てしまったからには私が炎に水を掛けるわけにはいかないので、これからも炎を大きくしてもっとたくさんお人の人生を燃やしていきたい。これを読んでいる読者様、視聴者様もますます大きくなるであろう『SAO』という炎にどんどん飛びこんできていただければと思います!
対談の第2回をお届けしましたが……実はもうちょっとだけ続きます。第3回の掲載は、11月6日24時を予定しています。そこではどんなお話を聞けるのでしょうか? 第3回もお見逃しないように!
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