ずば抜けて物語がおもしろい『AI』シリーズ。キャラや「ソムニウム」の設定は?【ADVインタビュー前編】

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※『AI: ソムニウム ファイル』は、CERO Z(18歳以上のみ対象)のソフトです。
※18歳未満の方は購入できません。

 スパイク・チュンソフトから発売中のアドベンチャーゲーム『AI:ソムニウム ファイル』、『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』の開発者インタビューの前編を掲載します。

 『AI』シリーズは、数々のアドベンチャーゲームを手がけてきた打越鋼太郎さんがシナリオを担当するタイトル。過去と現在、夢と現実を行き交いながら、事件の真相に迫っていきます。

 なお、現在PlayStation Storeで開催中のスパイク・チュンソフト「ホリデーセール」第2部において、『AI:ソムニウム ファイル』と『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』がお得に購入できます。この機会をお見逃しなく!

AI: ソムニウム ファイル』
4,400円(税込)→1,760円(税込)60%OFF

『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』
7,480円(税込)→5,984円(税込)20%OFF

 今回、世界的に人気を博している同シリーズを手がけた打越さんと、ディレクターの岡田昌さんにインタビューを敢行。前後編の2回にわけて掲載します。

 前編では、まだプレイしていない人に向けて本シリーズの特徴をお聞きしました。後編ではプレイを楽しんだ人へネタバレを交えつつ、物語や設定について伺います。(※インタビュー中は敬称略)

  • ▲シナリオを手掛けた打越さん。
  • ▲ディレクターを務めた岡田さん。

まだプレイしていない人に向けて『AI:ソムニウム ファイル』の魅力に迫る

──『極限脱出』シリーズは密室から脱出する内容でした。『AI: ソムニウム ファイル』シリーズで、主人公と、その相棒AIが捜査するバディものにされた経緯は?

打越:まず新規タイトルを作るに当たって、最初にプロデューサーの飯塚さんから「刑事ものはどうだろう?」とのご提案をいただきました。そのひと言をファーストステップとして、そこから果てしなく続く長い階段を積み上げていった感じです。

 “相棒AI”の存在は、実は最初の構想段階では盛り込まれていませんでした。“片目にコンピューターを搭載した義眼が嵌め込まれている”という設定はあったのですが、AIではなかったんですよね。人格のない普通のマシンであり、デバイスのひとつという位置づけでした。そいつが眼窩から飛び出し、ドローンのように空中を飛び回って(例えば壁の裏側や通気口などに潜り込んで)隠された証拠を見つけ出す、という建てつけで……。

 それが、岡田くんも含めた企画会議の際に「だったらそいつがしゃべった方がおもしろいんじゃない?」というアイディアが出て、結果的に“相棒”であり“Eyeball”でもある“AI-Ball”=“アイボゥ”というキャラクターが誕生することになったのです。

 なので、実は1作目のプロットには、アイボゥのセリフはひとつも書かれていなかったりします。というか、存在自体がなかったのです。当然、初期のころのキャラ設定にも、相関図にも、彼女の存在は記されていませんでした。タイトルの『AI』も開発の終盤に決まったものだったのです。

──密室空間から街を移動しながら調査するようなタイプに変わった理由は?

打越:僕は『極限脱出』シリーズ(『ZERO ESCAPE』シリーズ)に携わっているあいだ、一度も雨や雪のシーンを書いたことがありませんでした。それどころか、背景的には昼夜の区別さえなく、星空を見上げたり、夕焼け空を眺めたりといったシーンも一部の例外を除いて盛り込むことができませんでした。まあ、それはそうですよね。なにしろ登場人物たちは、窓ひとつない閉鎖空間に閉じ込められていたのですから……。

 その期間、およそ10年……。僕は10年もの長きに渡り、空や天候とは無縁のシナリオを書き続けてきたことになります。そうしている間に、空や天候に対する憧憬のような想いが日に日に募っていくことになりました。「ああ、雨のシーンが描きたい!」、「雪の降りしきる夜空の下で、切ない心情を吐露させたい!」というそんな想いが積もり積もって、『AI』の1作目では雨を、2作目では雪を、それぞれ印象に残る重要な場面で降らせることにしたのです。つまり街を舞台としたのは、ぼくの空や天候に対する渇望の表れだったと言えます。

──コザキユースケさんにキャラデザインをお願いしたのはなぜでしょう。また、デザイン面でお気に入りのキャラは?

打越:企画の趣旨に沿いながらも、企画者の想像を越える独創的で魅力的なデザインが描けるデザイナーさんはとても少ないと思います。その稀有な才能を持ったデザイナーさんのひとりがコザキさんです。

 また『AI』というゲームは“SFサイコミステリー風恋愛人情コメディ的ファンタジックフィロソフィカルサスペンス”という極めて難易度の高い世界観を持っており、これに違和感なくバッチリとハマるキャラクターが描けるデザイナーさんは、コザキさんをおいて他にはいないように思われました。そんなわけで、コザキさんにお願いすることに…。

 現在、『AI』のキャラクターが世界中のファンに愛されているのは、やはりなんと言ってもコザキさんのデザインと、それを忠実に再現してくださったSF Graphicsさんの手腕によるところが大きいでしょう。本当に感謝しかありません。

 お気に入りのキャラはとてもひとりには絞れません。悪役も含めて、全員気に入っています。

──人の記憶に入って調査する“ソムニウム世界”が生まれたきっかけを教えてください。

打越:もともと『AI』の企画はVR対応を想定して立案されたものでした。しかしアドベンチャーゲームの性質上、長時間のプレイは必須……。その間ずっとVR用のヘッドセットをつけたままでは、さすがにプレイヤーがしんどいだろう。ということで“短時間のみヘッドセットを装着し、それ以外の時間は普通にモニターを見ながらプレイする”という二刀流の仕様が考案されました。

 ではその短時間の間に何をするか? 刑事ものというのは決まっている。「だったら、容疑者や目撃者の夢の中に入って捜査すればいいんじゃない?」と、これまたプロデューサーの飯塚さんから名案が出され、かくしてソムニウムパートというものが生まれたのでした。

 “ソムニウム世界に滞在できるのは6分だけ”……この設定があるのは、上記の理由によります。またPsyncギア(ソムニウム世界に入る際に使う装置のこと)が、VRデバイスに似ているのも、その名残りだったりするのです。

──限定された空間を探索して謎を解く要素は、過去の開発がいきたのでしょうか?

岡田:ソムニウムパートは脱出ゲームのような謎解きとは少し違うことをやりたいと思って作りました。人の夢の中を、その人の精神の法則に則って壁(メンタルロック)を破り、最奥の秘密を覗き見るのが目的の、まさに夢の中をさまようような遊び。論理的にはいかないパートなので、謎解きとは別物に見えるかもしれませんが、一度に出す情報の数、誘導やヒントの散りばめ方など、『ZERO ESCAPE』シリーズを参考にしている部分は色々あります。

──ソムニウム世界はキャラの心層を描いているということで変わった描写も見られます。どこの世界の出来が自慢でしょう?

打越:もちろん全部です! まずは1作目から…。

伊達1:アイボゥのぶっ飛んだ方向性を決定づけたソムニウム。
みずき:試行錯誤の連続。スタッフの血のにじむような努力の跡を感じてほしい。
イリス1:ミステリアスで妖しさ満載。これからどうなっちゃうの?
応太:コメディタッチで、とても愉快なソムニウム。ひたすら陽気。
まゆみ:感動的なソムニウム。全米が泣きました。
伊達2:これも涙腺崩壊的なソムニウム。一番ファンに愛されてるかも。
ある人:謎が謎を呼ぶ展開。ハラハラドキドキのサスペンス。
ある人:物語の核心に迫るソムニウム。はたして真相やいかに!?
世島:イリスのパンチラが一番拝めるソムニウム。キャプチャー必須!
イリス2:飯塚さんが飛行機の中で思いついたソムニウム。めっちゃ笑えます。
イリス3:パズル要素が強めのソムニウムかも。夢は現実を変えるのか?
:神秘的で幻想的。かつ恐怖も感じるソムニウム。
ある人:ラストです。驚天動地の展開に震えて下さい。

打越:ついでに2作目の『ニルヴァーナ イニシアチブ』についても書きます。

龍木:一部、逆立ちプレイ推奨。伊達とのやり取りにほっこりします。
法螺鳥:序盤からかっ飛ばしていきます。頭のおかしい人の頭の中をご堪能あれ。
時雨:個人的にとても気に入っているソムニウム。静謐な雰囲気が秀逸。
米治:哀愁漂う喜劇です。どうしようもない男の人間味あふれるドラマ。
祥磨:感情曲線の振幅が激しいソムニウム。ハンカチを2枚ご用意ください。
亜麻芽:楽しいはずなのにゾッとする。どこか不気味な気配のするソムニウム。
イリス:一転して突き抜けたパロディ。普通に単体のゲームとしてもおもしろい!
:メルヘンチックなファンタジー。ほんわかした心温まる夢の世界。
:まさかこんな料理対決になるとは! 作り手の想像を越えた弾けっぷり。
仮面の女:『AI』はホラーゲームだったのか……。『バイオハザード』より怖いと評判。
ある人:脱出ゲームに原点回帰。パズルとしてもよくできています。
ライアン:愛に満ちたソムニウム。片方のルートではさらなる謎が……。
ある人:ラストです。悲しい結末と真相に、あなたは何を思うでしょう?

岡田:自慢とは違いますが、応太というキャラのソムニウムパートが好きです。彼のオタクっぽさや、過大な自尊心、少し歪曲された現実がヘンテコな夢として表れていて、作っているのが非常に楽しかったのを覚えています。

 他にも、あるキャラの夢の中でピタゴラスイッチ的なギミックが発動する場面があるのですが、これは僕が高校生の時に“1年かけてピタゴラ装置を作る”という課題がありまして、そのころを思い出しながら作ったものです。今思えば「変なギミック入れちゃったな~」と思いますが、個人的には思い入れがあります。

 あと、少しだけネタバレかもしれませんが、あるキャラが伊達の夢に入る展開がありまして、そのソムニウム世界の話は一番好きです。ボイスが入った時にウルッと来てしまい、同時に手ごたえも感じたパートでした。

──国内のみならず、海外でも評価の高い作品。どこが受けていると感じますか。

打越:基本的に国内でも海外でも受けている部分は同じかと。キャラクター、ストーリー、上記に挙げたソムニウムの数々……。曲もめちゃくちゃ最高ですし、声優さんの演技も日本語版、英語版ともにずば抜けて素晴らしい。自分で言うのもなんですが、『AI』の評価は世界的にとても高いです。ただ正直に言うと、国内での認知度はあまり高いとは言えず……。この差がどこにあるのかは、僕自身もよくわかっていません。

 ひとつだけ手がかりがあるとするなら、プレイヤーの年齢層でしょうか。アンケートの結果、海外の『AI』のプレイヤーは半数近くが24歳以下であることがわかりました。いつの間にか世代交代している、あるいはしつつあるようなのです。

 国内で、はたして24歳以下の子たちがどれだけアドベンチャーゲームをプレイしているか。もしかしたらこのへんがキーになっているのかもしれません。

まだプレイしていない人に向けて『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』について迫る

──2作目で主人公を変えた理由は?

打越:たぶんこれを語るのは初めてだと思うのですが、実は弊社・トゥーキョーゲームスの小高(小高和剛氏)からアドバイスをもらったことがきっかけになります。ダブル主人公というのは物語の構成上、初期のころから決まっていて、そのうちのひとりを1作目でもっとも人気の高かった“みずき”にしようというのも確定していました。けれどもうひとりについては、僕は当初、1作目の主人公である“伊達”にしようと考えていたのです。

 が、そのことを小高に話したところ「ひとりをみずきにするのは全然いいと思うが、もうひとりを伊達にしてしまうと、1作目のファンだけにしか刺さらない内向的な作品になってしまうのでは?」と言われたのです。中身がどうであれ、外面的には“一見さんお断り”的なゲームに見えてしまうと……。

「もっとファン層の幅を広げるには、もうひとりの主人公は新規キャラのほうがいい。そのほうがとっつきやすくなるし、新しさも感じる。もちろん伊達に人気があるのはわかっている。だが伊達には別の役割を与えれば……」

 その役割が何なのかについては後述するとして……。とにかくその意見を聞いた僕は確かにそうかもと納得し“龍木来斗”という新たな主人公を立てることにしたのです。

──AIボールのタマのデザインがやや過激になったのは、コザキさんのアイデアでしょうか。それとも打越さんの指定でしょうか。

打越:僕が書いたキャラ設定を確認してみました。そこにはこう書かれていました。

「妖艶で小悪魔っぽい感じのドSな変態女王様。人型モデルの時は、スタイル抜群で、露出度の高い扇情的でエチエチな服を着ている」

 この指定をもとにコザキさんがデザインしたので、取っ掛かりとしては僕の発案ということになるのかも……。が、まさかあそこまで過激になるとは思っておらず……。その意味ではコザキさんの想像力によるところが大きいと思います。

 余談ですが、3Dモデルのタマは胸が揺れるんですよね。その指定はぼくが行なったわけでも、コザキさんが行なったわけでもありません。モデルを作ったSF Graphicsさんの強いこだわりです(笑)。グラフィックチーフによると、そのためにバグが起こって苦労したとか……。けれど結果的にはめちゃくちゃいい感じになったと思います。多くのスタッフが奮闘を重ねたうえでの胸揺れです。そこに込められた熱き職人魂を感じていただければと……。

──ソムニウム世界での時間の進み方が見直されたのは、前作で出た意見からですか? 他に遊びやすさで、どのようなことを意識されましたか?

岡田:はい、“難易度設定”で時間の進み方をゆるくできるようにしたのは、前作のファンの方からの感想やご意見を反映したものです。ありがたいことに、とても多くの感想をいただけまして、1つ1つのコメントを見て、開発内でしっかり検討していきました。もちろんギリギリの歯ごたえを求める方は前作と同じ難易度で遊ぶことも可能です。

 他にもわかりやすい所でいうと、“マップのナビ機能の実装”、“文字の大きさ設定”、“QTEの難易度設定”などを入れています。なので、もしかしたら遊んだ人の中に「オレの言ったことが実装されてるじゃん」と思う人もいるかもしれませんね。

 ただ、どれも“打越さんが書く物語をより楽しめる体験になるか”という基準で実装する仕様を選定しました。なのでもしそうなっていたら「そうなってるよ!」と教えてください。

──米治や厳など、かなり特徴的な見た目のキャラが出ています。こちらの流れは?

打越:2作目のキャラデザは、コザキさんがラフを描いていくところを、関係スタッフがリモートで見守りながら「あーでもない、こーでもない」と言い合って進めていきました。

 そのさなか、コザキさんが唐突にキューブ型の頭部を描き始めたのです。僕は我が目を疑いました。「あれ、時空が歪んでしまったかな?」と本気で思ったものです。

 けれどZoomの画面には、楽しそうに笑うスタッフ一同の顔も同時に映し出されていました。そこで僕は思ったのです。「ひとめ見た瞬間に笑えるというのはインパクトがある証拠だ。守りに入ってコンサバなゲームを作ってもつまらない。ここはコザキさんの想像性に賭けて、攻めに出るべきである」と……。

 そんなわけで、米治のデザインはあの方向性で進められることになりました。見た目は□ですが、満場一致で○ということになったのです。

 厳については、キャラ設定には“袋男”と記されていました。指定はこうです。「つねに布袋を被っている。心優しき怪物。皮膚は岩のように硬く、体型も岩のようにゴツくてデカい」と。この文章から描き起こされたのが、あのデザインになります。

 僕は前の質問で「コザキさんは企画の趣旨に沿いながらも、企画者の想像を越える独創的で魅力的なデザインが描ける稀有な才能の持ち主である」と言いました。この厳のデザインに、そのことは如実に表れていると思います。

──プレイして2作目の物語もずば抜けておもしろいと感じました。物語を作っていく中で、どういった部分がポイントだと考えていますか?

打越:ありがとうございます!! 大変光栄であり、うれしく思います!! できれば、この質問文を記事の冒頭に入れ替えていただければと(笑)。

 “作劇法のポイント”については後述するとして……。すべてはスタッフの皆さんの努力の賜物です。今回プロジェクトを進めていく中で、みんなの「隙あらば、少しでもクオリティアップしてやろう」というギラギラとした情熱をとても強く感じました。プロジェクトマネージャーも寛大で、頼もしい味方になってくれたように思います。

 現在『ニルヴァーナ イニシアチブ』は、北米版Amazonで★4.8/5.0、Steamで★9/10という評価をいただいています。またMetaCriticではPC版:88点、PS4/Switch版:85点、OpenCritic:86点の高スコアで、これは2022年に発売された全世界のゲームの中で、それぞれMetaCritic PC版:10位 Switch版:19位 OpenCritic PS4版:15位 Switch版:16位というランクになります。国産タイトルのみに限定すると、順位は5位とか6位とかに……。手前味噌で恐縮ですが、トリプルAクラスが並ぶランキングの中で、この順位につけているのは驚異的だと思います。

 繰り返しになりますが、これもひとえにスタッフの皆さんのおかげです。ディレクターの岡田くんを旗頭として、スタッフが一丸となって挑んだ結果がこの高い評価に繋がったのだと思っています。

──やり込みを含めて、クリア後の要素も増えています。特に育成ゲーム“めだまっぺ”はちょっとハマりました。具体的に入れた理由は?

岡田:“めだまっぺ”まで遊んでくれてありがとうございます! それらのおまけは「『AI』の世界に長く浸ってもらいたい」、「キャラや作品に愛着を持ってほしい」と思って入れました。“いようと思えば長く居続けられるアドベンチャーゲーム”ってあまりないと思うんですね。事件の捜査に疲れたら“めだまっぺ”で現実逃避ができ、人生に疲れたら“人生相談”もできる。成功しているかは置いといて、一応そこを目指しました。

 ただ、そのためにはおもしろいテキストがふんだんに必要で、打越さんにはとても負荷を掛けてしまいました……。その節はすみませんでした。

→明日は『AI』シリーズをすでにプレイしている人向けのインタビュー後編を掲載!


AI: ソムニウム ファイル

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