レビュー:【イーグレットツー ミニ】立体映像を実現させた『ワイバーンF-0』が初移植。時代を先取りしすぎた一作
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タイトーから12月21日(木)に発売される、『イーグレットツー ミニ』専用ソフト収録SDカード『アーケードメモリーズVOL.2』のなかから、比較的マイナーなタイトルをピックアップしてレビューしています。
今回のタイトルは、『ワイバーンF-0』です。
ほかにも下記の4タイトルをレビューしていますので、ぜひあわせてチェックしてください!
・1987年『ワードナの森』
・1987年『特殊部隊U.A.G.』
・1988年『中華大仙』
・1989年『クライムシティ』
デジタルの「夢の時代」だった1985年という年
編集部から本稿の依頼があったころ、私は数年ぶりに生まれ育った名古屋の街にいました。
名古屋の繁華街、栄、大須地区を時間潰しで歩いていて、たまたま当時通っていたゲームセンター&ゲームコーナーの跡地巡りなぞをしていたのでした。
というわけでやや強引気味な前フリから、以下、お題のゲーム『ワイバーンF-0』の稼働当時のお話を、当時このゲームに触れた名古屋のいち中学生の私的な視点で厚かましさ重々承知で書いてみることにします。依頼の時点で名古屋にいたのも何かの運命(?)です。
このゲームが世に現れたのは1985年。ゲームが好き過ぎた私が、名古屋の街中に新作アーケードゲームを求めて通っていたころです。
この時代のキッズの背景を少しだけ記すと、「人類の進歩と平和」な大阪万博はわずかにも掠らない世代だし、「自然ダイスキ」(意訳)な愛知万博は遅すぎて一欠片の興味もない世代だけど、「デジタルがこれからの生活を変えるよバンザイ」(意訳)なつくば万博は、まさにそのとき開催中でガッツリ、ドンピシャな世代というわけです。
そして、そんなころのゲームセンターは、つくば産地直送的なムード溢れる、デジタルで最先端でカッコいい遊びが詰まっていた空間だったのですよ。
あるとき、毎月購読していたパソコン誌『LOGiN』誌のコーナー「ビデオゲーム通信(※1)」に、突如、最新作として現れたのが今回紹介する『ワイバーンF-0』でした。なんかタイトーから立体視ができるめちゃかっこ良さげなゲームが出る、と。
※1:コーナーヘッダイラストは、金魂巻で一世を風靡した故・渡辺和博画伯。編集は元祖新人類こと、雷門ビデ坊こと、野々村文宏氏。参加ライターは今さら説明不要のゲーム同人サークル「ゲームフリーク」の面々という、今になって振り返ると、そこだけ当時の80’sサブカル的空気が露骨なまでに丸晒しなコーナー。
当時のほとんどの新作アーケードゲームが、ドヤ顔気味に全方位に放っていた「ハイテク感」が記事からも伝わって、いち中学生がシビレたのはいうまでもなく。
1985年時点で「裸眼立体視」を実現。しかも100%アナログ産!
ここで、ようやく、お題の『ワイバーンF-0』とはいったいどんなゲームかの説明に入ります。
ゲームは見下ろし型の縦スクロール・シューティング。空中弾(ツインブラスター)と地上弾(ザ・プロトン)の2種類の攻撃を駆使してマップを進むという、当時ですら定番の形式です。
ゲーム面での特徴は、第3のボタン「転回」があること。これを押すと戦闘機の自機が宙返りして、緊急回避ができます(同時にマップも若干戻ることができます)。
そして、ハード面での特徴は、空中物(自機、敵と弾全般)が筐体内で浮かんで=立体に見えるということが挙げられます。
具体的には、専用筐体内に空中物表示用と地上物(地表)表示用モニタが2つ搭載されていて、これらの映像をモニタ間に設置されたハーフミラーを介して光学的に合成。プレイヤーの眼には、空中物だけが浮かんで見える……そんな立体映像のゲームなのです。
まさか、このゲームから30年近く経た時代に、「裸眼立体視」を可能にしたゲーム機がフツーに世の中に普及する(そしてこれから消えゆく)未来が待っていたとは、この時点でだれも予想をしていなかったわけですが、要はかの「ニンテンドー3DS」で世界のゲームプレイヤーが得られた、あの裸眼立体視のワンダー感とほぼ同等の経験が、1985年時点のゲームセンターで得られたということです。
このゲームをリリースした時点で、会社創立33年のタイトーですが(2023年に創立70周年!)、アミューズメントを世に送りつづけた最老舗の企業といえども、いくらなんでも時代を先取りし過ぎです。
筐体内部の構造はどうなっているのか、ちょうど当時読んでいた記事が手元にあり、詳細解説がされているので引用します。
まさかアスキー(当時)刊行「LOGiN」誌の記事を、一時期社名にアスキーの名があった電撃のウェブで掲載することになるとは、お釈迦様でもわかるめぇって感じですが、巡り巡って今は刊行元の組織が同じですので!(月刊「LOGiN」誌1985年9月号137ページより)
ここでは、難しいことは抜きにして、プレイヤーに見える立体映像が、ハーフミラーとモニタの設置構造によって、映像を筐体内部で光学的に合成された=“100%アナログ産”な立体映像であることが、読者の皆さまに伝わればそれで十分でしょう。
詳細な原理は私にも説明できませんし、現代みたいな映像信号をキャプチャーしてGPUの能力でリアルタイムに加工補正して云々……みたいな、デジタルの手助けは一切ナシなのが、ここで強調すべきポイントでしょう。メカ機構のノウハウがエレメカの時代から豊富に蓄積されていたタイトーだから実現した、という感じです。
話は1985年の名古屋に戻って(もう少しだけ、お付き合いください)……。
その「LOGiN」誌の記事とほぼ同時期に、名古屋は栄の繁華街、プリンセス大通りにあったゲームセンター「◯ッポ◯ージョ(※2)」で、私は実機に触れることになります。
※2:伏せ字なのは、米国の有名アニメキャラを勝手に店名とマスコットキャラに使っていたのがバレて、後に改名することになったため。当時のオペレーター業者はのちに倒産して現存せず。
「ホントに立体に見えるすげー!」……ハーフミラーを介した背景絵ボードの上にゲーム画面を表示させる仕組みは、すでに『スペースインベーダー』のアップライト筐体で知っていたのですが、ゲーム画面どうしが合成されるというのは不思議な感覚。しかも雑誌のとおり「立体」になってるよ!
でも、でも、なんですよ。肝心のゲームはなんというか「まあ、あれだ……こんなもんだよね……」という微妙な印象だったのは覚えています。その後ちゃんとプレイを重ねることがないまま、いつしか店舗から消えてしまい、気づけば四半世紀以上の時が過ぎて……。
高みを目指すプレイへいざなう「隠し地上物」の存在
ここから、お話はようやく現代になるのですが、まさか、そんなゲームが『イーグレットツー ミニ』で遊べるようになるとは、普通だれも思わないじゃないですか。
じつは、筆者自身はプレイ自体懐かしいという感覚はやや薄かったのですが(2013年ごろ、なぜか突然タイトーの直営店「Hey!」で、通常のイーグレット筐体で無理矢理気味に一瞬だけ稼働していたり、1990年代末ごろに名古屋大須の某店で筐体ごと実機が稼働していた)、今回の『アーケードメモリーズVOL.2』収録実現の報せを受けて、私みたいなおっさん勢が真っ先に思ったのは以下のはずです。
「立体視、どーすんの?」
立体視のない『ワイバーンF-0』は、ただの『(ここ、あなたの思うワードを入れてください)』……あ、いや、なんでもありませんが、このゲームにコインを投入したときの第一印象をずっと引きずっていたものですから……。
しかし、今回、ご縁があってこのゲームの攻略記事を手掛ける機会をいただくことになったのですが(※3)、この記事作成の際、私がかつての「立体視、すげー」に引きずられて、視覚どころかシューティングゲームとしての本質を知る機会も惑わされていたことに気づいたのでした。初プレイから30年近く経った今になって、です。
※3:それどころか、おそらくこのゲーム史上初のマップ(一部だけ)も作成しました。詳細は電撃TAITO STATION VOL.3をご覧ください。はい、ここはダイレクトマーケティングです。
1980年代なかば当時は、何もない地上を撃つとなぜか生えてくる謎の塔やら、スライムを3匹倒すとなぜか現れる宝箱……といった具合にアーケード、家庭用ゲームともにとにかく「隠れキャラ」ブームの真っ最中でした。何なら「隠れキャラが入っていないとゲームじゃない」までの空気感がありました(その仕込みが、面白いか否かにかかわらず)。
このゲームもご多分に漏れず、地上に隠れキャラ(本記事では便宜上、総じて「隠し地上物」と呼ばせていただきます)が多数入っています。
何もない地上で、地上弾のカーソルが反応する場所があります(具体的にはカーソルが黄色く点滅、同時に「ピッピ……」という探知音)。ここが隠し地上物のある場所。
この隠し地上物こそが、『ワイバーンF-0』というゲームを深く味わうための重要なカギだったのです。
その理由として主に2つありまして、まず、隠し地上物がこのゲーム最大のスコアリソースになっていることが、1つの理由。通常の敵は50点、100点といったなかで、たとえば隠し地上物の1つ「隠れ基地」は3000点なんです。
そして、もう1つの理由は「隠し地上物の『隠し地上物』」が存在することです。以下、ややこしい話ですが、大事なところですのでもう少しだけお付き合いください。
このゲームでは(通常の)隠し地上物を2体連続で撃破すると(※4)、さらなる隠し地上物「ワイバーン」が画面に出現します。青く点滅するこのワイバーンを撃破すると、10000点獲得なのです!
※4:正確には、連続して隠し地上物で「得点を獲得する」のが条件。その間、ほかの地上物を撃ってはダメ。
ここまで来ると一見、ゲームのスコア経済圏を単体でブチ壊すバランスブレイカーの存在でしかないと思われがちですが……まあ実際そうなのですが、このワイバーンにはそれ以上の意味があると考えます。その先に、いかに隠し地上物のコンボを狙ってワイバーンを多く引き出してスコアを稼ぐか、という本来意図していたゲームの遊ばれ方とは異なる別の顔が見えてくるからです。
いや、スコア稼ぎはアーケードゲームの本質的な楽しみ方なので、別の顔という表現は少し違いますね。どんな手段でも稼ぐのは正しい行為なのですから(永久パターン以外は)。
稼働開始当時、あまりに特殊な筐体だったゆえに出回らず、この時代のハイスコアラーにスコアアタックの対象にされなかったのも想像に難くありません(実際はどうだった不明ですが……)。
イーグレットツー ミニ版では、繰り返し同じエリアをプレイするのに便利な、即時セーブが可能なので、自力で隠し地上物を探す→ワイバーン出現、撃破という遊び方も大いにアリです(隠し仕様を自力で見つけることは何であれ嬉しいことですし)。
時として理不尽な軌道で襲ってくる空中敵の存在も、隠し地上物の発掘をジャマする存在と思えば、(多少は)許してもいいかな、と思えてきます。
ともすればゲームの足を引っ張る、蛇足になりがちな当時の隠し仕様の存在が、奇跡的にも? たまたま? 違うおもしろさを引き出してくれた珍しい例なのかな、と今回プレイして思いました。
影と機体の間に存在していた空間を心の眼で感じるのです!
最後に、イーグレットツー ミニ版では再現不可能と言い切ってしまった立体視について。
前述したように、このゲームの空中物は、空中物用のモニタに表示されていたものですが、よく見ると、キャラクター表示数に限りのある当時のゲームにしては珍しく、弾以外の空中物に、1つずつ影専用のキャラクター表現が与えられています。
この影、じつは実機では、前述した2つのモニターのうち、地上物表示用画面で表示されていたもの。筐体内にポッカリ浮かんで見える空中物にたいして、リアルな立体感を強調する小道具になっていたのです。
イーグレットツー ミニ上ではもちろん立体に見えないので、ただのズレカゲにしか見えないですが、それでも実機の立体感、浮遊感の雰囲気を伝える要素であるのは間違いないでしょう。おのおの、プレイの際は、ご自身の脳内で空中物のキャラクターとカゲの間に、実機で存在したはずの空間を思い浮かべましょう!
「ナイトストライカー」をはじめ、10タイトル収録。『アーケードメモリーズVOL.2』12月21日(木)発売!
『アーケードメモリーズVOL.2』は、1985年から1995年までの間にゲームセンターに登場したゲーム10タイトルを収録した『イーグレットツー ミニ』専用ソフト収録SDカードです。本体のSDカード用スロットに差し込むことで、収録タイトルを遊ぶことができます。
『アーケードメモリーズVOL.2』は、電波新聞社が展開する「インテリジェントコントローラ サイバースティック」対応で、ゲームセンターの臨場感そのままに対応タイトルをお楽しみいただけます。
※サイバースティック対応タイトルは「オペレーションウルフ」「ナイトストライカー」のみです。
製品紹介PV
収録タイトル紹介動画
『アーケードメモリーズVOL.2』製品情報
『アーケードメモリーズVOL.2』には、全32ページの特典DX攻略本「電撃TAITO STATION VOLUME3」と10タイトルの「インストラクションカード ミニ」、特典「タイトー70周年記念ステッカー」が同梱されます。
発売日:2023年12月21日(木)
『アーケードメモリーズVOL.2』(10タイトル収録SDカード)
希望小売価格:8,778円(税込)
同梱物:特典DX攻略本「電撃TAITO STATION VOLUME3」(全32ページ)、インストラクションカード ミニ(10タイトル)、特典「タイトー70周年記念ステッカー」
『イーグレットツー ミニ』本体+『アーケードメモリーズVOL.2』セット【限定生産】
希望小売価格:19,778円(税込)
商品内容:
・イーグレットツー ミニ(40タイトル内蔵/ケーブル付属)
・アーケードメモリーズVOL.2(10タイトル収録SDカード)/特典DX攻略本「電撃TAITO STATION VOLUME3」(全32ページ)、インストラクションカード ミニ(10タイトル)、特典「タイトー70周年記念ステッカー」、セット特典「IMAGE CARD(復刻版)」2種
■イーグレットツー ミニ
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