【ひきこまり吸血姫の悶々×豚のレバーは加熱しろ】両作品でメインキャラを演じる楠木ともりに原作者も驚き。アニメならではの見どころも語る【対談・後編】

セスタス原川
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 現在、アニメ放送中の『ひきこまり吸血姫の悶々』と『豚のレバーは加熱しろ』。『ひきこまり吸血姫の悶々』原作者の小林湖底先生と『豚のレバーは加熱しろ』の原作者である逆井卓馬先生は、個人的にも交流のあるラノベ作家さんです。

 そこで今回は特別企画として、作品の枠を超えて2人の先生に対談インタビューを実施。交流や作家としてのスタイルから、お互いの作品も読んでいるからこその感想などを語り合っていただきました。

 後編では、作品の深い部分の話をたっぷりと語っていただきました。作家同士だからこそわかる両者の作品の魅力や、アフレコの感想についてもトークしていますので、アニメの面白さも増すこと間違いなしです。

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――作品のアイデア出しの方法などをお伺いしたいです。

小林先生:能力が使えない吸血鬼という設定については、初期段階の構想はあまり覚えていませんが、今までの知識の組み合わせだと思います。

 能力がない人が無双する作品は多くあると思いますが、そこから着想を得て、吸血鬼という要素を加えました。明確に閃きの瞬間があったわけでは無いので、アイデア作りは逆にやり方を聞きたいですね、

逆井先生:具体的な組み立て方ではないんですけど、どうしても何かアイデアが欲しいときは散歩することはありますね。あとは寝る前のぼーっとしている時に思いついたものをメモしておいたりとかでしょうか。

小林先生:ああ、確かに散歩中に思いつくことはありますね。

――お互いの作品の設定を改めて見ていかがでしょう。

逆井先生:『ひきこまり吸血姫の悶々(ひきこまり)』は、引きこもりであること、いじめられていたこと、能力が使えないことが全て結びついていて、綺麗に話が繋がっていることに感動しました。

小林先生:実はその設定部分も何故そうしたのかあまり覚えていなくて、最初に引きこもっている吸血鬼という構想があって、そこに理由をくっつけていたら最終的に今の形になったと思っています。

――『豚のレバーは加熱しろ』はいかがですか?

逆井先生:僕の『豚のレバーは加熱しろ(豚レバ)』は、豚のレバーを炒めているときに最初の構想を思いついた気がします(笑)。

 小中学生の頃はファンタジーが好きで実際に書いていましたが、その後はミステリーを書きたい欲求が強くなりました。ファンタジー世界でミステリー色を出せるのはどんな話かなと悩んでいたところ、何の能力もない人物の知恵や推理が事態を好転させていくのはどうだろうとなり、そこから主人公・豚という設定に行きついたんですよ。

 アニメではまだミステリー要素は少ないですが、豚が知恵を絞って解決していく展開はその1つです。

小林先生:『豚レバ』はミステリー要素が物語や設定と噛み合っている感があって、そこは真似できないところだなと。やっぱりミステリー系の作品から発想を得ているのですか?

逆井先生:本格的なミステリーを志向しているわけではないのですが、幅広い意味でのミステリーが好きで意識していることはありますね。

 ジェスが豚の心を読めるのは、豚が活躍するには思考を読み取る人が必要……というように豚という部分から設定を広げていきました。まぁ僕も昔のことなのでそこまで詳しく覚えていないのですが……。

――影響された作品などあれば教えてください。

小林先生:大学時代に書いていたのもあり、その頃に読んでいた司馬遼太郎先生の『項羽と劉邦』など、中国系の読み物に影響を受けていると思います。

 作品の名前だけでなく構造にも影響されていて、『ひきこまり』で言うとコマリが周りの人から持ち上げられる展開は劉邦に近しいものがあります。

逆井先生:実は僕は小林先生の電撃文庫のデビュー作の『少女願うに、この世界は壊すべき』が大好きです。

 和風なのに中華っぽい雰囲気もある強烈な世界観のファンタジーで、書きたいものをまっすぐに書いたのだなという感じが伝わってきます。

――今のファンタジー作品では異世界に行くものと行かないものとがありますが、お二人がここの違いをどう捉えているかお聞きしたいです。

小林先生:転生などで異世界に行く場合だと、現代知識はあるけどその世界のことは何も知らないという状態になりますし、読者が自分に重ねて感情移入しやすくなるように思います。

逆井先生:ファンタジー系の作品だと、もとからその世界にいるキャラが主人公の場合、世界観など入口が説明しにくい傾向があるんじゃないでしょうか。

 『ひきこまり』は、引きこもっているという設定である種の別の世界に来たような形にし、うまく解決してますよね。引きこもっている期間に外で起きたことはあまり知らず、そこをほかのキャラが教えることで読者にも伝えられていますし。

小林先生:確かに言われてみたらそうかもしれません。

逆井先生:有名な作品だと『ハリー・ポッター』も魔法使いとそうでないマグルがいるという形で、物語への入りやすさを作っていますよね。

小林先生:そうなると、転生するかしないかはあまり関係ないですかね?

逆井先生:転生でも転移でも良いですしね。『豚レバ』もどちらかと言えば赤子からやり直しているわけではないので、転移という方が合っているかもしれません。

――その話を聞いて納得できました。

逆井先生:読者と一緒に歩く主人公が、知らない世界のことを知っていく形は、映画館に入っていくようなワクワク感と、周りの人が教えてくれるわかりやすさがあると思います。『ひきこまり』もそこをしっかり押さえている作品だなと。

小林先生:執筆した際に意識したわけではありませんが、そう言われるとそんな気がしてきました。

原作者から見た声優陣のお芝居は?【ひきこまり吸血姫の悶々×豚のレバーは加熱しろ】

――両作品でメインキャラを演じている楠木ともりさんの印象はいかがでしょうか?

小林先生:全く別のタイプのキャラにもかかわらずしっかりハマっていて、演じわけがすごいですね。コマリの演説シーンで声を張ることもあれば、ジェスでは儚い感じの声色を出していて……すごく幅が広い印象を受けました。

逆井先生:「どうなっているの?」って思うくらい違いますよね。楠木さんいわく、ジェスのときはほぼ息で演じているらしいのですが……それでどうやって声を出しているのか謎です。でもほかのキャラと比べて体力を使うそうなので、難しいキャラなんだろうなと素人ながらに。

小林先生:『ひきこまり』ではエンディングテーマも歌ってくださっていて、本当に多才な方だなという印象です。

逆井先生:『豚レバ』のオープニングもASCAさんと一緒に歌ってくださっているバージョンがあるのですが、あのジェスの声質で歌唱されていて感激しました。

――キャスト決定にはお二人は関わったのでしょうか?

小林先生:オーディションの際にリストを貰ってマルバツを付けるというのはありましたが、僕はほとんどお任せで、スタッフの方が良いと思った方にしていただこうと思い、特に何かを言ったとかはありませんね。

逆井先生:僕もオーディションリストをいただいた際に良いと思った人は挙げましたけど、メインの松岡さんと楠木さんは小説のPVで声を当ててくださり、反響もあったので続投していただけたら良いなという話はしていました。実際またアニメでも演じていただけて嬉しかったですね。

小林先生:メインキャラでいうと『ひきこまり』も原作PVを楠木さんと鈴代さんにご担当いただいたので、アニメもそのままで嬉しかったです。

――アフレコに立ち会った感想はいかがでしたか?

小林先生:僕は初回と第12話だけ現地であとはオンラインで立ち会ったのですが、声優さんのすごさを感じました。読んでいただくのが自分の書いたセリフなので、それを全力で演じてくれているのを見るのは少し恥ずかしくもあり……。

逆井先生:わかります、正直恥ずかしい……!

小林先生:特に技名とか叫んだりするところは、感動もしますけど恥ずかしさも同じくらいすごいですね。それが印象的です。

逆井先生:恥ずかしいですけど、イントネーションとかのチェックもあるのでちゃんと聞かないといけないという。僕も初回と最終話だけ現地で、あとはオンラインで立ち合いました。

小林先生:『豚レバ』の松岡さんのお芝居を目の前で見られたのは羨ましい!

逆井先生:基本マイクに向かっていらっしゃるので、見たのは後ろ姿だけでしたけどね。自分で言うのもなんですがいろいろとギリギリなセリフがあるので、どういった感じで演じられていたのか少し気になります(笑)。声を聞いているだけでも笑ってしまいそうでした。

――アニメ化される・された中で好きなシーンがあれば教えてください。

小林先生:僕は第1話の終わりでこまりが自分の書いた小説を読まれてしまって、もうやめてくれとすがりつく可愛らしさは渾身のシーンだなと思いました。

逆井先生:あそこ凄いですよね。オープニングテーマが流れ始めてから“いちごミルクの方程式”の読み上げが始まるという。上目使いのコマリも相まって最高でした。

小林先生:第4話にもありましたが、今後のお話ではコマリが本気を出して戦うシーンがいくつかあるので、それらがどう描かれているかが楽しみです。

――『豚レバ』はいかがでしょうか?

逆井先生:豚とジェスの掛け合いが中心となる物語なので、2人のトークをずっと見ていられるのが1つの楽しみですね。

 シーンを挙げるなら第2話の終盤でしょうか。豚は「俺を誰だと思っている! 眼鏡ヒョロガリクソ童貞だぞ!」と発言していたのですが、繋がれている彼のところに来てくれたジェスが、その発言をふまえて「眼鏡ヒョロガリクソ童貞さんですね」と優しく呼んでくれるくだりがあります。美しい夕暮れの場面に合わないような会話で面白く、印象にも残っています。

 ほかにも第4話、第5話あたりからレギュラーキャラクターが増えてきていますが、ほかの女の子にも見境なくブヒブヒする豚を見てムスッとするジェスがかわいかったですし、楠木さんの演技も魅力的でした。

――個人的には、両作品とも男性キャラクターも魅力的だと感じます。

小林先生:本当に面白く演じてくださいますよね。小説の時点で割とみんな変態気質にも関わらず、アニメはよりパワーアップしている印象です。

 なかでもずっとラップをしているメラコンシーは収録を聞いているときに毎回笑ってしまうぐらい、盛り上げ方がうまいなと感じました。

逆井先生:本当にずっとラップしていますからね。すごいですよね。

小林先生:動き続けながら延々とラップをしているので、僕も見てビックリしましたよ。

逆井先生:あとは第3話で、カオステルが隠し持っていたコマリの髪の毛で悔しがりながら魔法を使う場面とかもめちゃくちゃ面白かったです。

小林先生:うまい具合の変態感を出してくれて嬉しかったですね。

――『豚レバ』はやはり豚役の松岡さんのお芝居が光りますよね。

逆井先生:さっきも少し言いましたが、アフレコの時点で本当に面白くて。みんな笑っちゃうくらいの場面もあって、演技であそこまでできるのは本当すごいですよ。

小林先生:第1話はもうずっと豚が喋っているじゃないですか。場面の動きはないのに、松岡さんのお芝居が面白いからずっと聞いていられるという不思議な感覚でした。

逆井先生:本当にたくさん笑わせていただきましたね。

――キャラクターたちの面白さがあるからこそシリアスな場面が際立つのもあると思います。

逆井先生:それはありますね。松岡さんのイケボ状態のときはやっぱり雰囲気が変わるので、そのギャップも楽しいですね。

2人が目指す今後の展望【ひきこまり吸血姫の悶々×豚のレバーは加熱しろ】

――この先の作家としての目標を教えてください。

小林先生:アニメ化という夢は叶いましたが、いつまで続けられるかというところで、なるべく長く書き続けることが今の目標ですね。

逆井先生:すごく現金な話をするとアニメ2期もやって欲しいという目標はあります(笑)。加えて、僕も書く仕事を一生続けたいので長く続けることは目標ですね。

 あとは、小説が一番好きな媒体ですが、漫画やアニメなど幅広い仕事に関われたらとも思っています。

――作品の結末などは既に決定しているのでしょうか?

小林先生:最終地点はぼんやりと決めているので、あとはそこまでの話が短くなるか長くなるかみたいな状態です。

 キャラが本当に多いので、全てを回収しきれるか不安ではありますが、今のところはしっかりと全員に触れることを目標にしています。

逆井先生:『豚レバ』はこの前出した8回目(第8巻)がシリーズ本編の一区切りで、あと1冊最後に書かせていただく「n回目」を来年頭くらいに出せたらと考えています。

 終わり方は最初から決まっていて、それまでの話をどう展開していくかを考えながら書いていました。

――アニメから作品を見た人に向けて、原作小説で注目して欲しいポイントなどありますか?

小林先生:『ひきこまり』は序盤だとまだキャラが少なくて、アニメはまだその段階かと思いますが、第5巻以降になると一気にキャラも増えて賑やかになりますから、手に取っていただけたら嬉しいですね。

逆井先生:『ひきこまり』はあのワチャワチャ感が面白いですからね。いちファンとしてもぜひ読んで欲しいです。

――『豚レバ』はいかがでしょうか?

逆井先生:アニメではエフェクトで豚の心の声とジェスに言いたいことを分けていますが、小説ではジェスに聞いてほしい部分は〈〉でくくるなど、地の文でわかるようにしています。

 豚の心情表現はアニメとはまた違った面白さがあると思うので、小説ではそこを楽しんで欲しいですね。

 コミカライズも豚の伝えたい言葉を吹き出しで表現していて、媒体ごとの違いを感じられて面白いです。アニメからいきなり小説のハードルが高い方は、コミカライズからでも楽しめると思います。

――最後にお互いの作品にエールを送り合っていただいて〆とさせてください。

小林先生:『豚レバ』は逆井先生のミステリー好きな部分や生物好きの要素が合わさることで唯一無二の作品になっているので、アニメを含めてこれからの展開も楽しみです。頑張ってください。

逆井先生:『ひきこまり』はキャラクターが多く、しかもそれぞれが違う背景を持っているので、彼女たちがそれぞれどういう結末に向かうのか注目ですね。アニメもこれから徐々にワチャワチャ感が出てくると思うので楽しみにしています。小林先生、頑張ってください。


©小林湖底・SBクリエイティブ/ひきこまり製作委員会
©2023 逆井卓馬/KADOKAWA・アニプレックス・BS11

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