戦いのない探索ゲー『ミクと水没都市 廃墟の謎』レビュー。美しさと物悲しさを兼ね備えた都市遺跡に惹き込まれる【電撃インディー#516】

江波戸るく
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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、本日12月14日に発売された、Uppercut Gamesが開発・レイニーフロッグが贈る『ミクと水没都市 廃墟の謎』をレビューしていきます。

 なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

冒頭から美麗さに圧倒。海を見ているだけで時間を忘れる

 主人公・ミクが、病気の弟(タク)を助けるために奔走した前作『ミクと水没都市』。今作はその続きとなっているようで、2人が新たな場所にいるところから始まります。

 水没した都市を探索する、という部分は前作と同じですが、今回は小舟での移動時にタクが一緒に行動してくれます。良かった、元気になったんだな……と、前作をプレイ済の身としてはほっとする描写でした。

※電撃オンラインでは前作のレビューも掲載しています。こちらもぜひ合わせてご覧ください。

物語を深読みしがちな人や、廃墟好きにオススメしたい『ミクと水没都市』レビュー【電撃インディー#181】

 ただ、ミクとタクは穏やかに過ごせているのかと思いきや、そうでもない様子。どうやらこの都市群は異様な黒い植物に覆われてしまっているようで、それらは崩壊が進む建造物たちに絡みつき、海に取り残された栄華の残骸を静かに蝕んでいます。そこに人と呼べるものは1人もおらず、息づいているのは別のものに侵食された生き物たちだけでした。

 そんな中、ミサという謎の存在から、黒い植物を取り除くヒントを得たミク。都市遺跡の探索を進めながら、浸蝕される世界を癒すべく、タクと共に行動を開始する――というものが、大まかな導入です。

  • ▲正直なことを言ってしまうと、冒頭からミクのことが心配になります。不穏。タクをひとりぼっちにしてしまうことがないようにと祈るばかり……。

 救いの種を探してさまざまなエリアへ足を運ぶこととなりますが、公式サイトでも紹介されている通り、本作には戦闘がありません。

 探索時のアクションに伴うゲージなども設定されていないのでゲームオーバーになる要素がなく、気ままに進められます。ぼーっと海を眺めて時間を忘れていても、襲われることはないのです。

 生ける屍や凶暴化した生物が巣食っていてもおかしくはない……と思わざるを得ない状況ですが、進む先でそういった存在と遭遇することはないので、廃墟を観察しながら落ち着いて探索ができます。戦いのあるゲームが不得意だ、という方も本作ならば遊びやすいはずです。

  • ▲収集要素である生物。記録を集めていきましょう。

 ということで、写真集を買うほど廃墟が好きな私は景色を眺めつつ、気を抜いて探索を始めたのですが……前方にとあるものを見つけて、反射的に足を止めてしまいました。

 遠くから見る限り、おそらく人ではない何かがいる、否、ある。たまたまそこにあった置物……にしては妙に人型に近いですが、見ていても動く気配がありません。離れた場所からにらめっこをしていてもどうしようもなさそうです。

 ちょっと怖いけど気になるから見てみたい、目を逸らせない、という厄介な好奇心には抗えません。そもそもその近くを通らないと進めないので、戦闘がないゲームのはず、戦いにはならないと思うけど近寄って大丈夫なのだろうか……と思いつつ、コントローラーのスティックをそっと傾けて近づきます。

 静止画だと伝えきれないのでぜひプレイして直接見ていただきたいのですが、ミクが近寄ると、やや赤みを帯びた蔦でできていた彼らは、少しだけ動きながら緑を帯びた姿へと変化していきます。「うわっ、なんか動いてる!」と僅かに驚いたのはここだけの話です。

 (ちょっぴりドキッとしたプレイヤーに対して)常に冷静なミク曰く、植物が人の形をとったそれは“レムナント”とのこと。残り物、という意味がある単語ですが、本作でも近い意味で使用されており、かつてここで生きていた人々の残像のごとく、各所に姿が見られます。

  • ▲ミクが救いの種を運んでいるときに近寄ると、彼らにも花が咲きます。

 緑色へ変わったとき、何かに救いを求めているように見えるのは考えすぎでしょうか……。留まり、どこへも行くことができない残滓として在り続けるしかない彼らを見かける機会は多いのですが、世界観の魅力に一役買っていることに間違いありません。

散らばった断片を集め、裏側の物語を読み解く楽しさ

 先程、生物を記録することができると触れましたが、本作の収集要素はいくつかあります。落ちている日誌をいくつか見つけると、ここでかつて何が起こったのかを見ることができるほか、点在する建造物(ランドマーク)などの名称を知ることも可能です。

 全体的にそこまでミクやタクの台詞が多いわけではないので、本作の世界観を紐解くうえでは欠かせない要素となっています。日誌やアイテムはフィールド上で光って存在を主張してくれているので、見かけたら回収しておきましょう。

※なお、ミクとタクはなぜたった2人で旅をしているのか……ということについては、前作をプレイすると把握することができます。過去が気になる方はぜひ。

 高所から落ちることはないので、ギリギリに立って周囲を見渡すこともできます。時間帯によって空や海、陽光を受ける建物の色が変わるので、お気に入りの場所をのんびり探すという遊び方もアリなのではないかと思います。

 救いの種による浄化は9ヶ所行う必要がありますが、マップは思っていた以上に広めで、気がついた時には目指していた場所とは違うところへ上陸していることも。ゲームでも現実でも方向音痴なので、地図で見て「ここへ行こう」と定めた場所へ真っ直ぐにたどり着けないことは多々ありますが、廃墟のグラフィックが魅力的で、迷子になってもあまり苦ではありませんでした。迷うということへの困惑を、目前のものへの興味が打ち消します(そして目的を忘れる)。

 過去に何があったのか? あの生き物たちはどう生活しているのか? など、現在からは断片的にしか見えない時間に思いを馳せてしまいます。直接語られない部分を読み解くのも楽しみの1つです。

 水没していく文明の名残は儚いものですが、そこを侵食して根ざす植物たちは力強くも感じられます。目に入ってくる美しさと物悲しさが覆う世界の中に、あっという間に惹き込まれました。

 敢えて語らない側面を持つ物語や、謎に満ちた廃墟での探検。綺麗でありながらも、どこか寂しさが感じられる世界観。

 そういったものが好きな方はこの機会に、独特な美しさを持つ都市遺跡へ行ってみてはいかがでしょうか。


江波戸るく:永遠に新米のライター兼編集者。業が深いと判断したキャラクターを“海溝”と定めて沈むことに生きがいを見いだす。


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