『デッドバイデイライト』元ネタ集第12回。西部開拓時代の新殺人鬼“デススリンガー”に迫る!【電撃PS】
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1人の殺人鬼と4人の生存者に分かれて、殺るか殺られるかの命がけの儀式を行う、非対称型対戦アクション『デッドバイデイライト(DbD)』。霧の森では今日も生存者の悲鳴と殺人鬼のうなり声がこだましています。
今回は3月に配信されたばかりの最新チャプター“CHAINS OF HATE”で登場した新たな殺人鬼“デススリンガー”の元ネタを紹介しましょう。
⇒“『デッドバイデイライト』に登場する殺人鬼の元ネタは?”
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西部開拓時代を舞台にした最新チャプター“Chains of Hate”
3月に実装された新たなチャプター“CHAINS OF HATE”は、1800年代のアメリカ、いわゆる西部開拓時代をモチーフとしています。数多くの西部劇の舞台となり、アメリカ人の開拓者精神(フロンティアスピリット)を象徴する時代である西部開拓時代とは、いかなるものだったのでしょうか?
東海岸の13州の連合国家として1776年7月4日に独立を宣言したアメリカは、1700年代の終わりから1800年代半ばにかけて、イギリスやフランス、スペイン、そしてメキシコなどから次々と領土を獲得し、北米大陸の西へ西へと“辺境”が移動していきました。
そして領土がついに太平洋岸へ到達した1848年にカリフォルニアで金鉱が発見され、いわゆる“ゴールドラッシュ”が起きました。一攫千金を夢見る移住者が西部へ殺到するにつれて新しい街が拓かれ、鉄道が敷設され、人口が急増しました。空前の“西部開拓時代”が始まったのです。
しかしその一方で、この時代は黒人奴隷やインディアンへの迫害、移民に対する差別など、アメリカ史の暗部とも言えるべき部分も象徴しています。新チャプター“CHAINS OF HATE”は、そんな西部開拓時代を舞台にしているのです。
復讐に燃える狂乱の殺人鬼“デススリンガー”
デススリンガー
本名:カレブ・クイン
性別:男
武器:ベイショアに死を
特殊能力:贖い主
カレブ・クインは貧しいアイルランド系移民の息子として、アメリカ中西部の荒れ地で生まれ育ちました。エンジニアだった父の才能を受け継いだカレブは鉄道会社に雇われますが、雇用主のベイショアに彼の発明品の特許を奪われ、売り払われてしまいます。
怒り狂ったカレブは、自らが発明したスピアガンでベイショアを撃ち抜きます。彼が絞首刑にならなかったのは、ひとえにベイショアが一命を取りとめたからでした。
ヘルシャー刑務所に収監されたカレブは囚人の拷問装置を刑務所長に提供し、その見返りに所長はカレブの減刑を提案してきました。自分のコネクションを使えばベイショアを一生檻の中に入れることができる。所長はその代わりに、彼の監獄を犯罪者で満たすことをカレブに要求しました。
そしてカレブは6年間も全国を渡り歩き、ヘルシャー刑務所に送り込むため指名手配犯を追い続けました。しかしある日、とある新聞の見出しが彼の目に留まります――「ヘンリー・ベイショア、ヘルシャー刑務所を買収」。彼はまたもや騙され、裏切られていたのです。
刑務所長室のドアを蹴破ると、都合のいいことにベイショアもそこにいました。2人を殴り倒し、群がる囚人たちの中に放り込むと、カレブはかつて自分が収監されていた独房に足を踏み入れます。自分のものだった古いレンチに手を触れると、どこからか沸きだした黒い霧が彼を包み込んでいきました――。
白人扱いされなかったアイルランド系移民の悲劇
殺人鬼デススリンガーことカレブ・クインは、1800年代半ばにアメリカへ移住してきたとみられる、アイルランド系移民です。
アメリカにおけるほとんどのアイルランド系移民は、1845年の“ジャガイモ飢饉”にその端を発します。当時、アイルランドは食糧供給地として肥沃な土地をイギリスに独占され、アイルランド人にはやせた土地しか与えられていませんでした。そんな中で地力が低い土地でも生産が可能なジャガイモは、アイルランド人にとって生命線となる作物だったのです。
しかし1845年に発生したジャガイモの疫病により大飢饉が起きました。当時のアイルランド人口800万人のうち、なんと150万人もの人が飢餓によって死亡したのです。そして100万人ものアイルランド人が、アメリカへと移住していきました。ですが渡米したあとも、彼らの生活は困窮を極めました。
世界史でも習うように、アメリカ建国の祖とされるピルグリム・ファーザーズは、1620年に英国国教会の迫害を逃れるためにイングランドからメイフラワー号に乗ってやってきた清教徒(プロテスタントの一派)を含む一団です。
以来アメリカでは、今日に至るまでプロテスタントが多数派を占めています。歴代の大統領も初代ジョージ・ワシントン以降、ほぼすべてがプロテスタントを信仰している者ばかりです。唯一の例外が、アイルランド系移民四世のカトリック教徒である第35代大統領、ジョン・F・ケネディのみです。
そしてアイルランド人は、そのほとんどがカトリック教徒です。彼らは無一文でアメリカに渡り、多くは文盲でゲール語(ケルト語派の古アイルランド語の1つ)しか話せない者もいました。
カトリック教徒であるアイルランド系移民は、イギリス系移民の子孫であるプロテスタントのアメリカ国民の目には、怠惰で大酒飲みな“新参者”として映りました。そして差別的な扱いを受け、社会の底辺で肩身の狭い思いをして過ごしたのです。
デススリンガーのストーリー紹介にあるように、「アイルランド人お断り(No Irish Need Apply)」と門前払いされることは、当時のアメリカで横行していました。大手新聞の求人募集などにも、「ただしアイルランド人は除く」といった条件が堂々と掲載されていたのです。
彼らアイルランド系移民が従事できたのは、大陸横断鉄道の敷設など過酷な土木作業や、軍隊などでした。前者は「すべての枕木の下にアイルランド人の骨が埋まっている」といわれるほどで、後者は南北戦争で同じアイルランド人同士が“敵”として戦うこともありました。
このように、当時のアイルランド人は白人と黒人奴隷、インディアンに次ぐ“その他の人々”として数えられ、白人扱いされていませんでした。カレブ・クインはこのような環境の中で育ったのです。彼が抱く“富裕層”に対する憎悪は、そんな歴史的背景もあって醸成されていったのでしょう。
デススリンガーのスピアガンはどんな武器?
デススリンガーの扱う改造スピアガンは、弾丸の代わりに鎖の付いた銛を撃ち出し、射貫いた生存者を引き寄せるというものです。鎖で引き寄せた生存者は、先端に取り付けた銃剣で切りつけられるようになっています。
インベントリの説明に“ハイブリッドライフル”とあり、リロード時に金属製の薬莢を排莢しています。またフォアエンド(構えたときに左手を添える銃身の下の木製部分)の先にチューブマガジンのスプリング部分が見え、そこに銃剣が取り付けられています。そしてイメージイラストなどから、銃身が円筒型ではなく、オクタゴンバレル(八角形の銃身)らしいことがわかります。
スキンのフレーバーテキストや生存者ザリーナのストーリー紹介から推定すると、カレブは1860年から15年ほど服役し、その後減刑された後にこの改造スピアガンを作り上げたようです。以上のことからベースとなった銃は、当時最も多く生産され、“西部を制した銃”として名高い1873年製造のライフル、ウィンチェスターM1873を改造したものなのではないでしょうか。
レバーアクションライフルの名作として名高いM73ですが、強力なライフル弾は使えず拳銃用の弾丸しか撃てません。しかしそのぶん装弾数も15と多く、拳銃と弾丸が共有できるといった利点もありました。
しかしデススリンガーのスピアガンは、かなり手を加えられているようです。まずレバーアクションならぬリールアクション(?)で排莢とリロードを行っています。またデススリンガーは右利きのようですが、なぜか給弾口が左側にあり左手で一発ずつ給弾しています。しかも排莢口が給弾口と一緒になっている謎仕様なので、イジェクション時に空薬莢が自分に当たりそうになっています。危ないですね……!
さらに、銛を撃ち出しているのに圧縮空気などを使わずに弾丸を使用していることから、かなり強力な弾薬で銛のお尻を叩いて射出しているようです。また銛を撃ち出すのに銃身内の施条(螺旋状の溝。いわゆるライフリング)は邪魔になるはずなので、削り取っている可能性があります。
もしかしたらベースは同じウィンチェスターのレバーアクションでも、施条のないウィンチェスターM1887などの散弾銃なのかもしれませんね。M87ショットガンは『ターミネーター2』(1991年公開)でアーノルド・シュワルツェネッガーが使用していました。
このように、デススリンガーのスピアガンはなかなかの魔改造っぷりが施されています。いずれにせよ、インベントリの解説にあるように"唯一無二の発明品"であることは間違いないようですね。
西部劇でも活躍した実在のガンマンたち
西部開拓時代、街には拳銃を腰に吊った“ガンスリンガー”や“アウトロー”たちが闊歩していました。この時代はのちに映画や小説のモデルになるような、後世に名を残す者を数多く輩出しました。以下で歴史に名を残す、実在のガンマンを紹介しましょう。
■ワイアット・アープ
西部開拓時代で一番有名なガンマンといえば、“OK牧場の決闘”で有名なカンザス州ダッジシティの保安官、ワイアット・アープの名がまず挙がるでしょう。盟友ドク・ホリデイとともに悪党クラントン一味を倒した一件は、西部劇ファンでなくても知っている人は多いのではないでしょうか。
また彼の愛銃として有名なのが、コルトシングルアクションアーミー(通称ピースメーカー)のバリエーションの1つである、“バントラインスペシャル”です。これは通常7.5インチほどの銃身を、12インチ(305ミリメートル)まで延長したもの。作家ネッド・バントラインがアープら5人の保安官に寄贈するためにコルト社に特注したもの……とのことですが、後世ステュアート・レイクという作家がアープの伝記を書いたときに創作したもので、実際にはアープはこのような銃を使用したことはなかったそうです。
アープとクラントン一味との戦いを描いた西部劇映画は数多くありますが、中でも『荒野の決闘』(1946年公開)や『OK牧場の決斗』(1957年公開)は、とくに名作として知られています。
■強盗団“ワイルドバンチ”
アウトローでは、ネバダやモンタナなどで強盗団“ワイルドバンチ”を率いたブッチ・キャシディとサンダンス・キッドが有名です。アメリカ史上最も長い期間銀行強盗や列車強盗を繰り返した彼らワイルドバンチは、映画『明日に向かって撃て!』(1969年公開)で名を高めました。
この映画でサンダンス・キッドを演じたロバート・レッドフォードは、役にちなんでユタ州で開催されたインディペンデント系の映画祭に“サンダンス映画祭”と命名したことで知られています。
■ワイルド・ビル・ヒコック
ワイルド・ビル・ヒコックもワイアット・アープに劣らず有名な保安官です。1861年の北部派と南部派の抗争で南部派10人に襲われるも、6人を射殺し、3人をナイフで刺殺、残る1人を殴り殺した"ロック・クリークの殺戮"で名を馳せました。南北戦争終結後は保安官としてカンザス州へ渡り、6年間に36人もの無法者を射殺したといいます。
しかし1876年、ポーカーをしている最中にジャック・マッコールという男に背後から撃たれ、死亡しました。彼がこのとき手にしていたカードは黒(スペードとクラブ)のAと8のツーペアで、この役は“デッドマンズ・ハンド”と言われています。『コール・オブ・デューティ』シリーズのデスストリークや、『FGO』の法具にその名が見られます。
■カラミティ・ジェーン
西部で最も有名な女性ガンマンと言えばカラミティ・ジェーンの名が浮かびます。1866年に彼女とその家族はモンタナ州へと移住しますが両親に先立たれ、さまざまな職に就いて弟妹たちを養いました。最終的には銃の腕を見込まれてラッセル砦の斥候となり、いくつものインディアン掃討作戦に参加したといいます。
1896年の彼女の自叙伝によれば、ラッセル砦ではあの第七騎兵隊で有名なカスター将軍の下で働いていたそうです。また前述のワイルド・ビル・ヒコックとの間に娘をもうけたと主張しています。ただし彼女の自叙伝はかなりの誇張と創作があり、著しく信憑性に欠けたものだったそうです。その性格から訴訟も数多く抱え、法廷内で男性陣を怒らせた結果“法廷の疫病神 (court calamity)”として“カラミティ”という二つ名が付きました。『FGO』ファンなら、昨年実装された彼女のことはもうおなじみですね。
■ビリー・ザ・キッド
21年という短い生涯ながらも、西部で最も有名なガンマンとなったビリー・ザ・キッドも忘れてはいけません。左利きで小柄なことから、“キッド”の二つ名が付きました。彼の早撃ちは伝説的で、放り投げた帽子が地面に落ちる前に6発の風穴を開けられた、馬に乗って走りながら杭に止まった小鳥を撃ち落としたなど、数多くの真偽が定かでない逸話が残っています。また短躯であったことは間違いないようですが、左利きだったという点については、現存する写真が裏焼きで左右逆になっていたからだという説も根強く指摘されています。
母の死後牛泥棒などの悪事を働くチンピラとして生活していましたが、ニューメキシコのリンカンという町でタンストールという牧場主に雇われました。しかしタンストールは町を牛耳るローゼンタール一派の手下ドラン一味に殺されてしまい、ビリーは雇用主の復讐のために立ち上がります。このようにアウトローから名うてのガンマンへの転身、そして主の恩に報いる義理堅さなどが、今日までのビリーの高い人気を支えている理由なのでしょう。
いかがでしたか? 殺人鬼デススリンガーは、歴史的背景に裏打ちされた奥深い設定を持つ殺人鬼です。今後もより魅力的な殺人鬼や生存者が霧の森に現れるといいですね! ただし、延々と殺人儀式をさせられる彼らにとっては、不本意かもしれませんが……。
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