ゲームシナリオライターよもやま話 その2。あるプロジェクトに地獄が訪れた理由とは?【電撃PS】

電撃PlayStation 、師走トオル
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 『僕と彼女のゲーム戦争』などで知られる作家・師走トオル氏によるゲームコラム“名前のないゲームコラム”。今後定期的に“ゲームシナリオライターよもやま話”をテーマにお送りします。

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ゲームシナリオライターよもやま話:その2
問題。このプロジェクトに地獄が訪れた理由とは?

 ゲームシナリオライターのお仕事と言えばなんでしょうか?

 そうです、ゲームシナリオを書くことです。格好よく言うと“ライティング”です。

 ただ、もちろんそれだけではありません。大まかにいうと次の四つがゲームシナリオライターの仕事ということになります。

【A】MTG
【B】ラーニング(事前勉強とも言います)
【C】ライティング
【D】修正作業&納品

 ただし、ゲームの内容やシナリオライターとしてのプロジェクトへの関わり方などでも大きく変化します。たとえばキャラクターや世界観の設定を一から考えることもあれば、すでに用意されている設定を使っていきなりシナリオを書くこともあります。

 修正作業についても、シナリオテキストのみ修正して完了する場合もあれば、シナリオを実際に実機で動かし、シナリオの意図とゲーム演出の間に乖離がないかまでチェックする場合もあります(スクリプト・チェックなんて呼び方をする場合もあります)。

 他にも声優さんのボイス収録に立ち会うこと、変わったところでは担当したキャラに合ったイラストレーターさんを提案することもあります(※1)。

【※1】ちなみに滅多にない機会なのでこの場をお借りして訴えておきます。

 イラストレーターさんが自身のイラストをツイッターなどに投稿し、ファンを始めいろんな方がそれを拡散(RT)することは今や珍しくありません。

 それはきっとあなたが思っている以上にイラストレーターさんの新しい仕事に結びついています。私のような雇われシナリオライターですら、ツイッターで見たことがきっかけでイラストレーターさんをゲーム会社に紹介し、お仕事の依頼と受諾に至ったことがかなりあります。「このイラストレーターさん好きだな」と思うことがありましたら是非RTしてみてください。

 ではその上で、まず“【A】MTG”とはどんなお仕事なのか解説していきたいと思います。

 とはいえ、これはわざと難しくMTGと書いてるだけで、単なる“打ち合わせ”のことなんですよね。MTGとはミーティングの略称です。当然ながらギャザリングとは関係ありません(でも初見だと本気で間違えそうになります)。

 なんでわざわざ打ち合わせじゃなくてMTGと書くんだ、という疑問を持った方。ごもっともだと思います。ただこれが面白いもので、たとえば出版業界における編集さんと作家間の会話では、大体“打ち合わせ”と言います。

 ところがゲーム業界ですと、かなりの高確率でMTGと言うんですよね。こればかりはもう“企業文化”の違いとしか思えません。最近は作家がゲームシナリオライターになることが珍しくないんですが、初めてこのMTGという単語を目にした方は大体戸惑います(※2)。

【※2】その他よく耳にするけど初見だとさっぱり分からないにもかかわらずしょっちゅう耳にする用語として、アジェンダとかMGとかいくらでもあります。アジェンダは議事日程とか行動予定とかそういう意味で、MGはミニマムギャランティ=最低限の報酬のことだそうで。

 ではMTGとはどんなものかを解説するため、とある事例を紹介しましょう。なお、この件については後述の理由で守秘義務契約を結んでいないのですが、それはそれとして信用にかかわるので、無数のフェイクを入れていることはご了承ください。

 ある日のこと、知り合いの方から次のような連絡を頂きました。

「X社が今度初めてゲーム開発に挑戦するらしいんだけど、そこにシナリオを入れたいらしくて。ちょっと手伝ってあげてくれない?」

“ソフトウェア開発の経験豊富な会社が、ゲーム開発に初挑戦”という事例は今も昔も珍しくはありません。X社もその一つというわけですね。

 ですがX社の場合、プログラムはどうにかなるにしてもゲームシナリオとなると当たり前ですがノウハウがありません。ただその解決方法は簡単で、シナリオ制作会社やフリーランスのシナリオライターに相談すればば済む話です。

 そのために我々はいるんですから――というとカッコイイですが、どちらかというと「そのおかげで我々は飯を食えてるんですから」と表現した方が適切ですね。

 そんなわけでそのX社に赴き、まず最初のMTGが開かれました。

 こういった場合のMTGはほぼパターンが決まっています。まずは自己紹介と名刺交換は欠かせません。それから今回の依頼内容についての説明、ギャランティやスケジュールをうかがいます。今回の場合、ギャランティについては、

「相場はこれぐらいなんですけど」
「えっ、そんなに高いとは思いませんでした!」

 といった乖離が生じて暗雲が立ちこめましたがそれはそれ。予算内でお手伝いするとか、本来は放棄する著作権の一つを持たせてもらうとか、解決方法は結構あったりします。

 特に今回は先方がゲームシナリオ制作未経験という案件ですから、じっくりお話すればギャランティの相場についても理解してくれるかもしれませんし、お手伝いできる局面はいくらでもあるはずです(※3)。

【※3】余談ですが最近ネットで「こんなクソ案件が来た!」という話題が盛り上がることがよくあります。相場をはるかに下回る案件の依頼というのは私も結構経験がありますが、断る前に「これこれこういう理由があるので、これぐらいのギャランティは欲しいです」と説明すると納得してくれることもあります(必ず納得してくれるとは言わない)。

 問題が起こったのは、ゲーム内容についての話になり、そのゲームについての設定書を見せてもらったときのことです。その設定書には次のような項目が2枚ほどの用紙に印刷されていました。

“中世ファンタジー風の世界観。”
“この世界は魔法で動いている。”
“モンスターがいる。”
“●●が世界を支配していて××がそれを倒す。”

 本来、ゲームというのは新しい世界を一つ作るようなもので、しかも多くの開発スタッフの手でアセットを作るわけですから、その設定資料は数十枚のPDFファイルになることが普通です。“項目を列挙しただけでのテキストファイル”で収まるわけがないんです。

 つまり初めてのゲーム開発ということもあってか、X社側もこのときはまだ必要な設定を全部出し切れていなかったんです。どういう設定が必要なのかも分からず、とりあえず思いついた設定をテキストに列挙した結果、いささか参考にし辛い、まとまりのない設定書になってしまったわけです。

 もちろん「この設定を元にシナリオを執筆して」と依頼されればやるのが我々シナリオライターです。必要でしたらこちら側で設定を考えることもできます。ですが、クライアント側の考えが全部出し切れていない状態で成果物を納品すればどうなるでしょうか?

 かなりの高確率で、すべてのクリエイターにとって最悪の言葉をクライアントから言われることになるんです。すなわち、

「思っていたのと違うので再提出お願いします」

 じゃあお考えになっている設定、全部教えてください――と泣きつくこと必定です。

 なお、シナリオライター側が設定書の読み込みが甘く、その結果『思っていたのと違う』という当然の評価を受けることもあります(というか私もよくやらかすのであまり人のことは言えません)。

 ただ幸いなことに、MTGとはそのような不幸な事故を防ぐことができる行程なんです。

 ゲームシナリオライターにおけるMTGとは“理解の場”だと思っています。

 まずはお互いを理解し、次にプロジェクトの方向性を理解し、時に議論してお互いが作ろうとするモノへの理解を深めていくわけです。

 今回の場合で言えば、出された資料は明らかに不足していました。ならなにが不足しているかを理解してもらい、補完してもらえばいいだけのことです。

 その後、「現状だと設定が不足しているように見受けます」とお伝えした上で、MTGやメールのやり取りなどで次々お願いしました。

「ゲームシナリオの設定としては、よくこれこれこういう項目があります」

「それこそ主人公たちが普段どんなものを食べているのか、国の人口は何人なのかを言ってもらえれば、こちらでそれに合わせて気候や世界観、文化レベルや国の大きさを提案することもできます」

「もし今後開発スタッフを増やすことになりそうならベタ打ちテキストではなく、エクセルなどを使って資料を整理しておくといいと思います」

 X社にもその提案にご納得いただけ、ひとまずは先方が設定を考え直してみるということで落ち着きました。

 さて、唐突ですがここで問題です。
 この案件、このあとどのような地獄が待ち受けていたでしょう?
 正解は20行ほど下で!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 正解は“X社の反社会的行為が判明して開発が中止になった”です。

 申し訳ありません、事前情報出してなかったから推理とか不可能だったと思います。

 でもご想像いただきたいんです、私にとっても皆さんと同じぐらい寝耳に水だったと。この件を紹介してくれた方から突然連絡があったかと思ったら、出てきた言葉が“反社会的行為”ですよ。なんですか反社会的行為って。いえ、怖くて詳しい内容聞いてないんですけど。

 とはいえ、このように案件が中止になることは珍しくもありません。

 そしてなにが地獄かって、すべての仕事がタダ働きになったことです。X社に行くための交通費も自腹。MTGに出席し、資料を読み込むのもタダ働き。友人にメールするなら五分で済みますが、ビジネスメールのやり取りは結構時間がかかります。全部合わせれば一日二日で終わることではありません。そのすべてが完全なるタダ働き。フリーランスにとってこれを地獄と言わずしてなんと言いましょう(なおこれ以上の地獄もよくあります)。

 相手が真っ当な会社であれば「下請法に基づいて日当と実費請求いたします」とメールすれば済む話です。ところがこの件については、

「あの会社、反社会的行為してたみたいなんですよ。だからもう今後は師走さんから一切連絡しないでいいですから」

 と仲介してくださった方に言われては色々な意味で連絡取りたくありません。かくしてX社のその後については一切知りません。

 というわけでこれがゲームシナリオライターにおけるMTGの一例です。
 MTGとは“理解の場”だと言いました。ところが、時折理解そのものが不可能な事態が起こっておじゃんになることもよくある、というわけですね!

 余談ですが、ゲームに限らず○○制作プロジェクトと名がつくもののMTGというのは参加者の誰もが「いいモノを作ろう」「期待に応えたい」と希望に満ちあふれて行うものですから、それはもう楽しいものです。最初の内は。

 ところが、およそプロジェクトと名がつくものは時間が経つに連れて様々な問題が生じるものです。最初は楽しそうに行われていたMTGも次第に空気が重くなり、最初は活気づいていた議論も段々と(※4)。

【※4】この先は編集部の判断で削除とさせていただきました。

 さて、というわけで次は冒頭に挙げた“【B】ラーニング”とはどういうものか――という解説に入りたいのですが、実はこれ、ゲームシナリオのお仕事の中では個人的に一番難しいと思っている行程です(私だけかもしれませんが)。

 そのためもう少し行数を割いて解説できれば思っておりまして、また次回とさせて頂ければと考えております。来月20日の更新にご期待いただければ幸いです。

師走トオル氏プロフィール

 ゲームをこよなく愛する作家。主な著作に『火の国、風の国物語』『僕と彼女のゲーム戦争』『無法の弁護人』『バイオハザード7 レジデントイービル ドキュメントファイル』等。最新作『ファイフステル・サーガ 再臨の魔王と聖女の傭兵団』は富士見ファンタジア文庫より発売中。