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ゲームしょくにん ときた たかしが なかまに なった! スクウェアのイズムを感じる『鬼ノ哭ク邦』インタビュー

MAC佐藤
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 「ローザにリディアってのか。なかなかイイおんなじゃねえか。オレがちからになるぜ!」

 と聞くと、反射的に“ゲームしょくにん ときた たかしが なかまに なった!”と頭に浮かぶベテランゲーマーの方も多いのではないでしょうか。

 そう、スーパーファミコン版『ファイナルファンタジーIV』のドワーフの城にある“かいはつしつ”の“かみんしつ”での一幕ですね。

 『半熟英雄』に『スクウェアのトム・ソーヤ』、『魔界塔士サ・ガ』に『ライブ・ア・ライブ』と、ファミコンやゲームボーイ時代からスクウェアのRPGに携わってきたレジェンド的存在の時田貴司さんが開発に携わる新作RPG『鬼ノ哭ク邦』のインタビューをお届けします。

 本作は、スクウェア・エニックスが8月22日に発売するPS4/Nintendo Switch/PC(Steam)用のアクションRPG。7月23日には、ストーリーモードのプレイデータを製品版に引き継げ可能な体験版が配信されました。

 この世とあの世を行き来し、迷える魂を救う主人公・カガチが紡ぐ“命”の物語と、いわゆる“ジョブ”にあたる“鬼ビ人(オニビト)”をリアルタイムで切り替えながら行う、爽快かつ戦略的なバトルが特徴です。

 お話をお聞きしたのは、クリエイティブ・プロデューサーの時田貴司さん(スクウェア・エニックス)、プロデューサーの佐々木隆太郎さん(スクウェア・エニックス)、ディレクターの橋本厚志さん(Tokyo RPG Factory)。

  • ▲左から橋本厚志さん、時田貴司さん、佐々木隆太郎さん。

 インタビュー前編では、ゲーム界のレジェンドの時田貴司さんが体現してきた“スクウェアのRPG”のイズム的な部分を中心にお届けします。

コマンドRPGではなく、アクションRPGを選んだ理由とは?

――E3でのインタビューでもお聞きしましたが、あらためまして『鬼ノ哭ク邦』のプロジェクトの立ち上げのきっかけについて教えてください。

橋本:『ロストスフィア』の開発が終わって、次回作はどうしようかという話になったときに、2つの世界を行き来しながら戦うゲームはどうかという話が出たのがきっかけです。

 そこで、世界を切り替えながら主人公が1人で戦っていくというような概要が決まりました。そこから少しずつ詰めていって、今のようなゲームの形になりました。

●『鬼ノ哭ク邦』E3 Trailer

――『いけにえと雪のセツナ』、『ロストスフィア』と、Tokyo RPG Factory作品はコマンド選択式のRPGが続いたので、3作目もそうなのかと思ったらアクションRPGで驚きました。

橋本:最初はコマンドRPGにしようと考えていたのですが、主人公1人だけだったらアクションRPGにしてはどうかという意見が出ました。

 それは佐々木さんや時田さんも同じで、アクションRPGなら何ができるのかという話をしながら今の形にもっていきました。

――時田さんや佐々木さんとしては、アクションRPGでいこうと思ったきっかけはあったのでしょうか。

佐々木:鬼ビ人の力を切り替えて戦うというシステムは、アクションのほうがよりダイナミズムに表現できるのではないかと考えました。

 それと、アクションRPGのほうがユーザーの広がりを作れるかもしれないと感じまして。

 コマンドRPGには作戦をじっくり考えて遊びやすい楽しさがありますが、それは『セツナ』や『ロストスフィア』でやっているので、3作目も同じことをやるのはどうかなと

 自分と時田がプロジェクトに加わったとき、もっと劇的に変えてもいいのではないかという視点を持っていて、それを3作目でもっと推し進めようという意識はありましたね。

 「こう来たか!」というようなインパクトを出したくて、だったら思い切ってアクションにしようと大きく舵を切りました。

時田:『FF』も最初の頃は毎回ガラッと変わっていて、2作目は『サガ』じゃないかと言われたりもしましたけど(笑)。

 最近のゲームはある程度パターン化してしまっているというのは感じていて、おもちゃ箱やびっくり箱のようなドキドキ感がほしいなと。

 エンターテインメントって、期待に応えることと裏切ることのバランスが大切なので、今回は思い切って変えてみようというところからスタートしました。

橋本:Tokyo RPG Factoryのスタッフのなかでも意見は分かれていたのですが、最終的にはガラッと変えていく方向でアクションRPGにしようと決まりました。

TRF作品=ノスタルジー重視という誤解

――Tokyo RPG Factoryの作品は、RPGの楽しさのなかでも懐かしさ、ノスタルジーを重視しているように感じることがありますが、いかがでしょうか?

橋本:そう言われることも多いのですが、“懐かしさを強く主張したい”という意識は、実はあまりありません

佐々木:人は誰しも好きなRPGがあって、それはもちろん開発スタッフ1人1人のなかにもあります。

 その部分の共通認識と言いますか、「このゲームが面白かった!」という感覚が似通っているスタッフが多いので、その基準でゲームを作ると、同じ世代の人たちは懐かしさを感じるんだと思います。

 ただ、最初からその部分を狙う懐古主義的な作り方ではなく、あくまで結果として“RPG本来の楽しさ”的な部分が評価されているところです。

――そういう意味では、『鬼ノ哭ク邦』は懐かしさやレトロ感ではなく、今の時代の新作RPGとして楽しそうだと感じました。

佐々木:3作目の最初の企画書を見たときに、自分は新鮮だなと思ったんです。

 1人の少女を守りながら旅をする、仲間はいなくて主人公1人だけで戦う、ということが書いてあって、それを見たときにアクションRPGにしたら面白そうだなという予感はしました。

 ただ、気になったこともありまして。企画書には“前2作(『セツナ』と『ロストスフィア』)のリソースを生かして開発したい”という意味合いのことが書いてあったんです。

――せっかく新鮮な設定なのに、ゲーム的に同じ感じになってしまうと?

佐々木:その前段階の志や考え方の部分が、ちょっと気になるなと。

 ゲーム開発において過去作品のリソースを生かすこと自体は当然なんですが、新作ゲームを作ろうというときに、最初から過去作のことを前提にしすぎると、考え方の幅がどんどん狭くなっちゃうじゃないですか。

 このままだとまた前2作と同じ路線でいってしまうな、結局はこの範疇に収まったなというものになりそうな気がして、だったらガラッと変える方向で自分と時田がアクセルを踏み込まないといけないという気持ちがありました。

橋本:開発現場的には、無意識のうちに過去作品にとらわれている部分があった気がします。でも、かなり早い段階で「そうじゃないんだよ」というマインドをチーム全体に伝えてもらえたのはありがたかったですね。

 それは世界観やシナリオについても同様で、ともすれば「過去作で評価が高かったから」「こういうユーザーさんが楽しんでくれたから」という固定観念にとらわれがちな部分にも注意して、「新しい楽しさを提供したい」というスタンスで開発にのぞめました。

独特な色使いのグラフィックや世界観の誕生秘話

――本作は和風というかオリエンタルというか、独特な色使いのグラフィックも大きな特徴だと感じています。どのような流れで決まっていったのでしょうか?

時田:ゲームにおいてグラフィックはとても重要で、『ファイナルファンタジー』なんかは最先端のビジュアルで他作品との差別化をしていた部分もありました。

 でも、そのぶん、そこにかかるコストは大きくて、どんな作品でも『FF』のような手法がとれるわけではありません。

 コストに応じて、どうコンセプトを際立たせるか。どうエッジをきかせると効果的なのか。

 そう考えたとき、色というのは視覚的にとても大事で、そこでユーザーさんにインパクトを与えられると、とても強みになります。

 1作目の『いけにえと雪のセツナ』の白一色の世界なんかは、わかりやすくインパクトがありましたよね。

 そうやって考えていったとき、『鬼ノ哭ク邦』ではビビットで和風な雰囲気のファンタジーという、独特な世界観になっていったんです。

橋本:最初から王道西洋ファンタジーではない無国籍な感じにしようという話があり、そこに“輪廻転生”という東洋の概念が加わっていくなかで、このような世界観が出来上がっていきました。

佐々木:桜がすごく和風な雰囲気を出しているんですよね。

橋本もともとシリーズ3作で“雪月花”という流れがあったので、花を入れたいという話がありました。

 日本人的には花といったら桜というイメージがあって、和風のニュアンスが強くなってはいますね。ただ、和風に限定しているわけではなく、多国籍な感じではあります。

時田:グラフィックとあわせて、エフェクトが想像以上にがんばってくれて、極彩色でありながらしっかりとアニメらしい、ポップなエフェクトに仕上がっています。この感覚は、かなり新しい雰囲気を感じられるのではないかと。

 今、海外はフォトリアルな表現が強いです。そこに日本が対抗していく1つの手法として、日本ならではの浮世絵、アニメ、マンガといったカルチャーに根付いたグラフィックを見せることは有効なんじゃないかと。

 そういった意味で今回の『鬼ノ哭ク邦』は、グローバルな視点でも存在感を出せる、おもしろいグラフィックに仕上がったと思います。

橋本:キャラクターデザインのタイキさんのテイストも素晴らしく、本当にオンリーワンの世界観を作れた手ごたえがあります。

●動画:『鬼ノ哭ク邦』紹介映像“キャラクター”編

時田さんが体現してきた“スクウェアRPGのイズム”

――時田さんといえばRPG界のレジェンド的存在ですが、どのような流れで本作に携わることになったのでしょうか。

時田:そもそも最初からTokyo RPG Factory作品には参加していたんですよ。

 『セツナ』と『ロストスフィア』は監修という形でかかわり、『クロノ・トリガー』などの開発経験やリソースを提供したり、相談に乗ったりということをやっていました。

 そうして一緒に仕事をしてきたなかでTokyo RPG Factoryへの興味が大きくなってきて、ちょうど3作目のタイミングでもう一段階踏み込んでゲームを作りたいと思ったんです。

――例えば、どういった部分に興味を持ちましたか?

時田:スーパーファミコン時代のゲームの作り方に似ているところとか(笑)。

 プレイステーションでメディアがCDになってからはゲーム制作の規模がどんどん大きくなっちゃって、それはそれで大事なことなんですけど、ファミコンやゲームボーイの時代は数人レベルで1本のゲームを作っていたんですよね。

 スーパーファミコンくらいの時代だと、もうちょっと人数が増えて10人ちょっととか。お互いの顔が見えるメンバーで、長くても1年以内くらいに全部を作るというギュッとした濃密なゲーム開発をしていました。

 当時は企画書とか仕様書なんてほとんどなくて、作りながら試行錯誤をして、開発スタッフ同士で意見をぶつけ合いながらゲームを作っていくことがざらでした(笑)。

 Tokyo RPG Factoryも、そういう雰囲気がある開発スタジオだと感じたんですよね。

橋本:少人数だからということもありますが、先にメイン作業が終わったアートのスタッフが他の部分のヘルプに回るなど、臨機応変な感じで開発をしている部分はありますね(笑)。

――実際に『鬼ノ哭ク邦』の開発を進めて、いかがでしたか?

時田:いやあ、やっぱり完全新作って楽しいですね!

 どうしても今の時代はシリーズものやIPものなど、過去の実績や歴史があるゲームを作ることが多いんですけど、ここまで自由にゼロからゲームを作れるのって、本当に楽しいです。

 自分としては、ゲームやエンターテインメントにおいて“新しさ”や“新鮮さ”ってすごく大事なんです。他がやっていないことをやりたいと言いますか。

 これはスクウェア・エニックスになる前のスクウェア時代からのお話ですけど、同じことをやってもつまらないので、とにかく新しいことをやろうと。

――たしかにファミコンやスーパーファミコン時代は特に、スクウェアのRPGは攻めているものが多かったですね。つねに新しい試みがあって、ワクワクしながら遊んでいました。

時田:新しいことを体験した時のインパクトって、すごいじゃないですか。

 自分は最初、RPGに興味がなかったんですよ。初代『ドラゴンクエスト』を遊んだ時は、1人で戦う戦闘が単調に感じて、ピンときませんでした。

 でも、その後にチュンソフトにいた友人から『ドラゴンクエストII』を無理やり遊ばされて、サマルトリアの王子を仲間にした時にものすごくインパクトがあったんですね。

 ああ、ゲームってこんな体験をさせることができるんだ! と衝撃を受けて、その経験は『ファイナルファンタジー』シリーズを作る際にも影響を受けた部分は大きいと思っています。

 そうして『ファイナルファンタジー』が完成したあと、もっと違う形でのRPGも楽しいんじゃないかと『サガ』シリーズが生まれ、アクションゲームとの組み合わせも楽しそうだと『聖剣伝説』が生まれ、どんどん新しくて楽しいRPGが生まれていきました。

 そんななかで自分は、王道系がこんなに強いんじゃ、それに勝つにはギャグしかない! と『半熟英雄』を作ってみたり(笑)。

 当時のスクウェアは「おもしろければなんでもオッケー」というノリで、各自が自分がおもしろいと思うものを作っていったから、あれだけ新しいゲームが次々と作れたんだと思います。

 ファンタジーだけでなく『フロントミッション』みたいなミリタリー系も含めて、みんなが「あの手があるじゃん!」「この手はどうだ!」と、あーだこーだ言いながら仕様を変えながら作っていくからこそ、先が見えない面白さというか、予定調和で終わらない面白さにつながった部分もありますね。

――なるほど! そういった時田さんが体現してきた“スクウェアのRPG”というイズムやマインド的な部分は、本作の開発スタッフ的にも共感できる部分は多いのではないでしょうか?

橋本:自分はいちユーザーとして“スクウェアのRPG”を遊んできた世代ですが、スクウェアはつねに新しいことに挑戦しているというイメージがありましたね。

 のちに自分が実際に作る立場になったときには、いつも何か新しいチャレンジをしたいとは思っていました。

 今回に関して言えば、リアルタイムでジョブチェンジをして遊べるというのは、新しい試みだったかなと。

 体験版で操作できる鬼ビ人(ジョブ)はごく一部ですが、ストーリーモードのクリア後に遊べるバトルモードでは4人の鬼ビ人を切り替えて戦えます。そこで、リアルタイムのジョブチェンジの楽しさの入門編的な部分は体験してもらえると思います。

●動画:『鬼ノ哭ク邦』紹介映像“鬼ビ人”編

佐々木:自分が面白いと思うことをやりたい、作りたいという気持ちは、やっぱり大事ですよね。

 『鬼ノ哭ク邦』で言うと、“リアルタイムでジョブチェンジができるアクションゲーム”って、単純に自分が遊びたいけど、それらしいものがないから自分で作ったという部分がありますし(笑)。

 今となっては、ある意味でいろいろな要素が出尽くした感があって、“どこにもない新しいものをゼロから作る”ことは難しいかもしれません。

 でも、自分たちが何十年もやってきたゲームが体に浸透しているので、それを組み合わせて新しいものを作るという手法もありなのかなと思っています。

時田:やっぱり新しいものを作るというのは楽しくて、遊んでも楽しいと思うんですよ。

 最近だと、『ニーア オートマタ』や『オクトパストラベラー』がヒットしたことが、それを象徴していると思うんですよね。

 人気シリーズの続編という謳い方をしなくても、面白ければきちんと広がっていって、ちゃんとヒットさせることができる。

 あの2作の存在は開発者全体に勇気や希望を与えて、自分の周りでも「新しいものを作ろうぜ!」というムードが確実に出てきています。

 そういう意味では『セツナ』のときのインパクトをもう一度与えたい。『鬼ノ哭ク邦』を遊んだユーザーさんに「こう来たか!」と新しい体験をしてもらえると思います。

※近日公開のインタビュー後編では、体験版の見どころやジョブの特徴、輪廻転生が重要となる独特な世界観についてお聞きしています。

© 2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
Developed by Tokyo RPG Factory.

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鬼ノ哭ク邦(オニノナククニ)

  • メーカー: スクウェア・エニックス
  • 対応機種: PS4
  • ジャンル: ARPG
  • 発売日: 2019年8月22日
  • 希望小売価格: 5,800円+税

鬼ノ哭ク邦(オニノナククニ)

  • メーカー: スクウェア・エニックス
  • 対応機種: Switch
  • ジャンル: ARPG
  • 発売日: 2019年8月22日
  • 希望小売価格: 5,800円+税

鬼ノ哭ク邦(オニノナククニ)(ダウンロード版)

  • メーカー: スクウェア・エニックス
  • 対応機種: PS4
  • ジャンル: ARPG
  • 配信日: 2019年8月22日
  • 価格: 5,800円+税

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  • メーカー: スクウェア・エニックス
  • 対応機種: Switch
  • ジャンル: ARPG
  • 配信日: 2019年8月22日
  • 価格: 5,800円+税

鬼ノ哭ク邦(オニノナククニ)

  • メーカー:スクウェア・エニックス
  • 対応機種:PC
  • ジャンル:RPG
  • 配信日:2019年8月22日
  • 価格:5,800円+税

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