『テルマエ・ロマエ』大爆発!!【O村の漫画野郎#52】
- 文
- 奥村勝彦
- 公開日時
秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!
『テルマエ・ロマエ』大爆発!!
あー。2008年のビームで風変わりな読み切りが掲載された。『テルマエ・ロマエ』。ローマ人が現代日本の風呂にワープしちまうって話だ。
その漫画にやたら衝撃を受けた俺は、他のテーマで作者のヤマザキマリさんと連載を準備していた副編の岩井に頼み込んで担当を譲ってもらった。
そして「テルマエの続きを描いてくれえ!」と頼み込んだ。これは編集者としての職業意識に基づく依頼ではなく、純粋に俺個人の願望によるものだった。
俺は温泉ファン(日本中にゴロゴロいる)&ローマ文明ファン(少しだけいる)だったのだ。そっから毎回毎回楽しい打ち合わせが繰り返され、異色の愉快な漫画が出来上がっていった。
んで、いよいよ1巻目発売!! まあ、そこまでやった段階で俺は十分ハッピーだったのだが、俺みてえに古代ローマの共同浴場に入浴してえなあって夢想してるヤツが日本全土に8万人くらいいるんじゃなかろーか、と秘かに期待はしてたの。
ところが……ジェットコースターに乗ったように増刷りが連発!! 全6巻で各巻ミリオンセラーを記録しちまった!! 最初は無邪気に喜んでたんだが、週に2回も増刷りがかかった日にゃあ、こちとら慣れてないもんで、だんだん怖くなってきた。
……だいたい変な話ではないか。掲載誌はビームだし、通り一遍の宣伝しかしてない。もちろんタイアップなんざ、当初は皆無。
なのに発売されるや爆発的に売れちまった。全くワケがわからない。しかも、売れ行きが落ち着き始めた頃に、“王様のブランチ”で特集されて再点火!! そっから落ち着き始めたら大きな漫画賞受賞!! そんでまた同様にまたも大きな漫画賞受賞!! とどめに実写映画が大ヒット!!
まるで予めプログラムされてたように部数は伸びまくった!! それは内容が面白かったのは当然だけども、それだけじゃ説明できねえ生命力が、この漫画にはあったんだろうなあ。俺は個人的には「これはローマ皇帝ハドリアヌス帝の御加護である!!」と思っているけどな。無茶苦茶だけども、それくらい説明不能なことが起こったんだよ、マジで。
そんで、この状況ってえのは当然ながらビーム編集部のキャパを突破していた。次々にやってくる宣伝用拡材の製作!! プロモーション活動!! タイアップ!! 他部署の援護射撃にも助けられたが、編集部内、特にデザイナー連中は大変だった。
だけども御想像の通り、それを遥かに凌駕する大いなる恩恵があった!! 長年続いていた経済的ギリギリ状況が、一気に解消されたのである!!
いやもう毎年、予算編成で頭をキリキリ悩ませていたのが無くなっちまったんだから、夢のようである。ヤマザキさんの息子さんも学費が鬼のように高いアメリカの大学に無事入れたしな。
おっといけねえ、連載自体に関しても本当に楽しい仕事だったよなあ。海外在住のヤマザキさんとは、今大流行のリモートだったし、各地の温泉にも出かけた。
特に面白かったのがやはり古代ローマ遺跡の現地取材!! 毎回、仕事自体は大変だったけど、本当に楽しんでやれたのだ。これ以外にもこの漫画のエピソードは山のようにある。とてもじゃねーけど書ききれねえので、この辺でやめときます。
ただまあ、こんな奇跡は、ひたすらしぶとく長くビームを細々とやり続けてきた事に対する、御褒美だったんだろうな。
それはどうすれば起こせるか、なんて考える種類の話じゃない。何はともあれ、ビームにとっては得難い経験を得られた数年間だった。それだけは断言出来る。
……次はラス前、俺の近況について描きます!! ……待て!! 次回!!
(次回は6月21日掲載予定です)
O村の漫画野郎 バックナンバー
イラスト/桜玉吉
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