【ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話 8】ウマ娘の運命は、現実のレース以外でも紡がれていたりするんだねって話
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- 柿ヶ瀬
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柿ヶ瀬です。夏真っ盛りですが皆様夏バテなどしていないでしょうか。競走馬もこの時期夏バテしやすくなります。なのでこの時期は大レースなどは少なく、北海道開催が行われたり、放牧に出る馬が多くなるのです。逆に言えばだからこそこの時期に稼ぐ馬も出てくるわけです。『ウマ娘』のゲームでは、このあたりを夏合宿として海での特訓という形を取っていますね。
さて割と大きく報じられたので『ウマ娘』をやっている方もご存知かもしれませんが、先日“セレクトセール”というサラブレッドのセリが行われました。
そこでサイバーエージェント、即ちウマ娘を運営しているCygamesの親会社のサイバーエージェント社長である藤田晋氏がたくさんの1歳馬、そして当歳馬(※馬齢が0歳の馬のこと)を購入しました。こちらもネットニュースなどで話題になりましたので否が応でも目に入った方が多かったのではないでしょうか。
セレクトセールをネット中継で眺めたり競馬好き仲間とあれこれ話したりしていたわけですが、藤田社長が落札した馬を見た感じ、本気で馬主になるべく購入しているなとも思いましたし、競馬は好きだったとご本人が言っていた通り、好きだった馬がなんとなく見えてくるような気もしたりと、競馬好きとしては大変興味深いセレクトセールとなりました。
もちろん藤田社長が購入した馬以外にも、これはいいかもしれないなあと思う馬もたくさんおり、来年、再来年のデビューが楽しみです。
今回のセレクトセールで「『ウマ娘』から競馬に興味を持って、初めて競走馬のセリを見た!」という人もいらっしゃったのではないでしょうか。セレクトセールは日本のサラブレッドセールの中で落札価格が飛び抜けて高額になっていますので、色々と麻痺してしまわないようにお気をつけください。
セレクトセールの話が長くなってしまいましたが、せっかくなので、今回はそんなセレクトセール出身のウマ娘のお話をしたいと思います。
本当は『ウマ娘』に存在していなかったかもしれないあのウマ娘
マンハッタンカフェは1998年に始まったセレクトセールの最初の当歳セリに出た馬で、第1回セレクトセールの中でもっとも成功を収めた馬と言って差し支えないでしょう。
しかし、この馬が実は『ウマ娘』に登場しなかったかもしれない、仮に登場していたとしてもマンハッタンカフェという名前ではなかった可能性が高かったと言ったら皆さんは驚くでしょうか。
マンハッタンカフェの馬主は西川清さん(実際は社台ファームの代表・吉田照哉氏との共同所有ということですが名義は西川清さん)と言って、イーグルカフェやカフェオリンポスなど、カフェの冠名で知られる馬主さんです。現在は亡くなられており、息子の光一さんが勝負服と冠名を引き継いでおられます。今年のフェブラリーステークスを勝ったカフェファラオなどの馬主さんです。
このマンハッタンカフェ……もとい、セリの時には当然名前はついていませんので“サトルチェンジの98(母サトルチェンジが98年に産んだ馬という意味)”と呼ばれた馬は、1億3千万という価格で落札されました。ですが、競り落としたのは西川オーナーではなく別の馬主だったのです。しかしその後何らかの理由でキャンセルのような形になり、縁があったのか西川オーナーのところへとやってくることとなり、そして"サトルチェンジの98"は"マンハッタンカフェ"という名前になったのです。
西川オーナーの所有馬でなければ、名前はもちろん違っていたでしょうし、預ける調教師や乗ってくれるジョッキーも違っていたかもしれません、そうなれば当然出走するレースや、結果もまた変わっていたかもしれません。そして仮に我々が知っているマンハッタンカフェと同じような好成績を残せていたとしても、いろいろな事情からウマ娘にはなっていなかったかもしれません。
今『ウマ娘』においてマンハッタンカフェというウマ娘が存在するのはそんな偶然があったから。競走馬にはよく数奇な運命という言葉が使われますが、ウマ娘になるにあたって、ある意味ではこのマンハッタンカフェこそがもっとも数奇な運命だったのかもしれません。
約10年温め続けた渾身の命名に応えたカワイイあのコ
カレンチャンのオーナーは鈴木隆司さんという眼科医をされている方で、カレンの冠名で有名です。現役では未だ重賞を勝てていない2勝馬でありながら、GIレースでもあと一歩の好走をすることから、絶大な人気を誇るカレンブーケドールなどを所持していることでも知られる馬主さんです。
競馬好きには有名な話ですが、このカレンという冠名は鈴木オーナーの娘さんの名から取られています。つまりカレンチャンという名前はもう100%娘さんのことだと言って差し支えないような命名なわけです。そんな名前がなぜカレンチャンにつくことになったのか。
鈴木オーナーがJRAの馬主資格を取ったのは1998年頃だそうで、所持馬がJRAで出走したのは2000年のことでした。馬主になったときから、「これは!」と思った牝馬には娘さんの名前をつけたいと思っていたそうですが、約10年を経た2007年のセレクトセールで落札した“スプリングチケットの07”――競馬評論家の須田鷹雄氏が購買代理をしました。ちなみに須田鷹雄氏は筆者の心の競馬の師匠です――を見て一目惚れし、ついにずっと温め続けた名前をその牝馬に授けました。その名前こそ“カレンチャン”だったのです。
そしてそんな大事な大事な名前をつけられたカレンチャンは、鈴木オーナーに初めてのGI勝利をもたらすなどの大活躍で、見事に期待に応えてくれました。
カレンチャンは実際の競走馬としても関係者の方たちからカワイイ馬だったと言われていました。鈴木オーナーはもちろんのこと、『ウマ娘』でカレンチャンが育成ウマ娘として実装された際、当時カレンチャンの調教助手だった安田翔伍調教師が「話題のウマ娘に“オレの女”が登場してるようですね!」とツーショット写真を添えてツイートしたことも。馬主さんからも厩舎関係者からも、そしてもちろんファンからも本当に愛された馬だったのです。
そんなカレンチャンがウマ娘に登場するって、色んな意味ですごいことだなあと最初に発表された時から筆者は思っておりました。
愛娘の名を冠した競走馬の名を冠したウマ娘が登場する……いや、何を言っているのか頭が混乱しますねこれ。ホントに鈴木オーナーよく許可していただけたと思います。
競馬の世界というのは、どんなに期待されても結果が出るとは限りません。セレクトセールにおいては数億円という高値で競り落とされる馬がたくさんいます。しかしそんな馬が活躍出来ないことなどザラにあることなのです。カレンチャンの落札価格は2,500万(競走馬としては充分高い!)でしたが、期待に期待を込めて命名された愛馬がその期待通りに走ってくれるというのは、本当に恵まれた出来事だと思います。
カレンチャンをカワイイな~と思いながらウマ娘をプレイ出来るのは、鈴木オーナーとカレンチャンがそんな幸運に巡り会えたから。それを噛み締めながらプレイすると、さらにカレンチャンへのカワイイという想いが増すのではないでしょうか。
他にもこんな競走馬がセール出身なんです
セレクトセール出身の競走馬がモデルになっているウマ娘は現在マンハッタンカフェ、ゼンノロブロイ、ナカヤマフェスタ、カレンチャン、トーセンジョーダン、サトノダイヤモンドの6頭がいます。それ以外にもスーパークリークやテイエムオペラオーなどセリで落札された馬は何頭もいます(余談ですが、ハルウララはセリ市で買い手がつきませんでした)。
例えばサトノダイヤモンドがお嬢様キャラなのは、セレクトセール出身の活躍馬の中でもトップクラスに落札価格が高かった(2億3千万)からなのではないだろうか? とか、色々お話したいことはありますが、キリがないので今回はこのあたりにしたいと思います。
ちなみに、このようなサラブレッドのセリ市は今くらいの時期定期的に行われます。この記事を書いていたちょうど裏ではセレクションセールというセリ市が行われていましたし、8月23日~27日にはサマーセールというセリ市が。その後も9月にはセプテンバーセール、10月にオータムセールなどがあり、ネット配信なども行われます。興味のある方は見てみるのもいいのではないでしょうか。
ともあれ、もしかしたら藤田社長がセレクトセールで落札した馬たちも、いずれ競馬場で走り、大活躍して、ウマ娘となる未来もあるかもしれません。そんな楽しみを夢見ながらデビューを待つのもおもしろいのではないでしょうか。セレクトセール出身ではないですが、今年デビューする予定の藤田社長の所有馬も何頭かいますので、注目してみるのもいいかもしれません。
今回はちょっと『ウマ娘』よりも現実の競馬よりのお話になってしまいましたが、『ウマ娘』に登場する競走馬たちにはレース以外にも様々なドラマがあったりするということがおわかりいただけたら嬉しいです。
また次回もこういった“楽しみ方”を提示していければと思いますのでお時間ありましたらぜひご一読いただきたければ幸いです!
それではまた!
【コラム】ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話
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