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2008年8月1日(金)

公開直前! 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」舞台裏を押井監督が披露!

文:電撃オンライン

 8月2日(土)全国ロードショーの映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」特別上映会が、都内ワーナー・マイカル・シネマズむさし野ミューにて開催された。

 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」は、森 博嗣氏の著作「スカイ・クロラ」(中央公論新社刊)を原作とした劇場用アニメーション作品。大人にならずにずっと思春期のまま生きる「永遠の子供たち《キルドレ》」が戦闘機に乗って、「ショーとしての戦争」を戦い、日々を生きる姿が描かれる。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」などの作品を手掛けた押井守氏が監督を務め、脚本は「世界の中心で、愛をさけぶ 」の伊藤ちひろさん、キャラクターデザイナー・作画監督は「イノセンス」の西尾鉄也氏が担当、制作はProduction I.Gが行っている。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」

 この映画作品をモチーフとしたWii用ソフト『スカイ・クロラ イノセン・テイセス』も、バンダイナムコゲームスより2008年秋に発売予定。ゲームでは、原作にも映画作品にも描かれない《キルドレ》の物語が描かれる。こちらの作品を開発しているのは、人気フライトSTG『エースコンバット』シリーズを手掛けたチームで、電撃オンラインでは体験プレイを掲載中だ。

 当日の特別上映会では、映画の冒頭20分が上映され、押井監督と西尾氏を招いたトークショーが催された。映画制作やTV番組出演、試写会など、さまざまな裏話を伺うことができたので、その模様を以下にお届けする。


■押井監督作品のスタッフは飲み屋で決まる?

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
イベント内での西尾氏(写真左)と押井監督(写真右)の様子。会場に訪れたファンは、映画制作のスタイルや裏話など、2人のざっくばらんな話を聞くことができた。

 まず、映画制作のスタート時期については、準備に入ったのが「イノセンス」の仕事が終わった後、2005年ぐらいのことからであるという。

 原作を読んだ押井監督は、「スカイ・クロラ」は小説というよりは文芸作品であると感じ、年をとらない16、7歳の子どもという特殊な設定の男の子や女の子を一人称で描いているのをおもしろいと思ったものの、原作のおもしろさをアニメーションで表現するのが無理だと感じたと話している。それから1週間ぐらい経ったくらいに、何か匂いを感じて、前述の「無理だ」という考えを翻したのだそうだ。押井監督自身、こういった「匂い」を感じた作品は、これまでに成功を収めてきたことが多いのだと語っていた。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」

 一方、西尾氏が映画制作に参加することになったきっかけを尋ねられると、「押井さんが(作ろうと)考え始めたころなんじゃないですか? 毎回そうなんですけど、正式に押井さんからよろしく頼むよというオファーはなくて(笑)。押井さんと一緒にやるのは、「イノセンス」から数えて2本目なんですけど、やるんだろ、みたいな感じで否も応もなく参加してますね」との答え。押井監督によれば、氏がスタッフに仕事を依頼する時は、本人にはなんとなく話が伝わって、飲み屋でばったり会うとそこで決まってしまうのだという。

 また、西尾氏が作画監督を務めるにあたり、氏がキャラクターデザインから原画の修正までの仕事を1本通して行いたい、という提案を監督にしたそうだ。これは昨今の作画量が膨大になったアニメーション映画においては皆無なことであるそうで、最初にその提案を受けた時は押井監督もためらったそうだが、結局最後には「本人がやると言い張っているので、やらせることにしました」と話している。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
結成式などはないという押井監督の映画制作だが、監督からすると「知らない人間とやることはありえないので」ということで、いつの間にか人が集まるのはいつものことなのだそうだ。


■撮影をしない押井監督と、撮りまくる西尾氏のロケハン

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
ロケハンの撮影スタッフの中には、女子大生や売店のお姉さんなどかわいい女性ばかりを撮って、押井監督に「何を撮っているんだ?」と尋ねられたら、「目に映る一番美しいものを撮ってます」と答えた人もいたのだとか。

 続いて、話がアイルランド、およびポーランドで行われたロケハンにおよぶと、2人の映画作りに対する考えの差が見えてくる。押井監督がこの地を選んだ理由については、登場人物たちをどんな空で飛ばそうかと考えた時に、原作の「雲が重たく垂れ込めた暗い空」という描写を見て、「ぱっと思い付いたのがアイルランドの空なんですよ」と話す。アイルランドもポーランドも、ヨーロッパの果てという点では共通しており、今回の作品ではそういった地を舞台に、日本人の顔をした子どもたちが生きる話にしようとイメージしたそうだ。なので、ロケハンの場所については迷わなかったという。ただし、本映画では明確に舞台をポーランドとしておらず、看板などを見ればポーランド語が書かれているので、それでポーランドだと考えることができる、という程度のものだともつけ加えていた。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」

 また、押井監督はロケハンでまったく写真を撮らない主義であり、監督自身はそこで見た風景がいつでもシーンとして頭の中に浮かぶよう、現場では全体的に風景を捉えるよう心掛けているのだそうだ。「ロケハンというのは、エンジョイすることが大事。その場所で楽しむということは、世界に馴染むということで、それは写真では得られない」と、スタッフに対してもロケハンでの撮影以外で得られるものを持ち帰ってほしいと話していた。

 西尾氏の方は、作画監督ということもあるようで、日本に帰ってから困らないよう、現場ではあれこれ具体的なことを考えずにとにかく膨大な写真を撮るのだという。その最たるエピソードとして、日本にはないポーランド独特のゴミ箱から、サングラスをかけてかっこいいと感じたおじいさん、おばあさんたちまでを、しっかり撮影してきたそうだ。前者についてはほとんど作品に反映されなかったそうだが、後者については後半のシーンにきちんと反映されているとのこと。何でも撮ったというロケハンでの膨大な撮影が、作品を支えているそうだ。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
ロケハンはエンジョイするものだと話す押井監督。「アニメーターの世界じゃ西尾は強面で知られているけど、かわいいもので、たった2週間のロケハンなのにすぐ日本に帰りたいって泣き言いうんですよ(笑)」と、ちょっとしたエピソードも披露してくれた。


■「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」のころはスタジオよりゲーセンにいた方が長かった!?

 ロケハンの話が終わると、いよいよ実際の制作段階の話題に。最初に聞けたのは、他の作品ではスタジオにほとんど顔を見せない押井監督が、本作ではかつてないほどスタジオに足を運んだというエピソード。監督は、風邪で1日休んだ以外、毎日スタジオに顔を出したと胸を張る。しかし西尾氏がそこで、「胸張ってますけど、1日せいぜい3時間ですよ!?」と実態を暴露。立場の危うくなりかけた押井監督だが、監督というのは作品と距離感を置くのが難しく、あまりべったりと作品の制作現場にかかわっていると、客観性をなくして何を描きたいのか曖昧になってしまうと話した。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」

 「だけど毎日行くのは大事」と語る押井監督は、スタジオに30分もいればスタッフの状態が把握できるため、本作では、それだけは欠かさず行って、結果的にスタジオにいた時間がもっとも長い作品となったという。けれど、西尾氏に「押井さん、最近は毎回それ言ってるよね。「イノセンス」の時も同じこと言ってたじゃん」と言われ、昔はいったいどのくらいスタジオに足を運んでいたのかという疑問が浮上。「パトレイバーのころはスタジオにいた」と話す押井監督だが、なんと映画「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」では、「スタジオにいるよりもスタッフを探しにゲームセンターにいる時間が長かったかもしれない」との大暴露がされた。

 また、7月3日にはフジテレビのバラエティ番組「笑っていいとも!」に出演した押井監督。この前日のテレフォンショッキングでは、お決まりの挨拶である「いいとも!」を言わず、周囲がとても冷や冷やしたそう。ただしこれは、普段スタジオには絶対いないような時間に起きていた押井監督、タモリさんとの電話中にアクシデントで電話が切れてしまい、「ふたたび電話口に出た時は「いいとも!」どころではなかった(笑)」との裏話を披露していた。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
トークショー終了間際には、西尾氏と押井監督の2人に花束が贈られた。ファンからの質問に答える場面もあり、映画の魅力とそこにかかわった人間の思い、おもしろいエピソードが披露された上映会となった。

 最後に押井監督から、「今言えることは早く作品が公開してほしいということ。この映画を見て、2時間楽しかったでもいいけど、見て感じたことをぜひ語り合ってほしい」とメッセージをファンに贈り、たくさんの話が聞けた2人のトークショーは幕を下ろした。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
イベント終了後には、2人の直筆サイン色紙も抽選でプレゼントされた。2人の直筆サインの上には、押井監督を模したと思われるイラストも。

(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

■劇場用アニメーション「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
【公開日】2008年8月2日(土)全国ロードショー

【スタッフ】(※敬称略)
 原作:森 博嗣「スカイ・クロラ」シリーズ(中央公論新社刊)
 監督:押井守
 脚本:伊藤ちひろ
 音楽:川井憲次
 主題歌:絢香「今夜も星に抱かれて…」(ワーナーミュージック・ジャパン)
 製作プロデューサー:奥田誠治・石川光久
 プロデューサー:石井朋彦
 演出:西久保利彦
 キャラクターデザイナー・作画監督:西尾鉄也
 美術監督:永井一男
 メカニックデザイナー:竹内敦志
 レイアウト設定:渡部隆
 色彩設定:遊佐久美子
 ビジュアルエフェクツ:江面久
 CGIスーパーバイザー:林弘幸
 CGI製作:POLYGON PICTURES
 サウンドデザイナー:Randy Thom・Tom Myers
 音響監督:若林和弘
 整音:井上秀司
 他

 製作:「スカイ・クロラ」製作委員会
 制作:Production I.G
 配給:ワーナー・ブラザース映画

【キャスト】(※敬称略)
 “草薙水素(クサナギスイト)”役:菊地凛子
 “函南優一(カンナミユーイチ)”役:加瀬亮
 “土岐野尚史(トキノナオフミ)”役:谷原章介
 “三ツ矢碧(ミツヤミドリ)”役:栗山千明
 他

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