2008年8月5日(火)
全国のDVD取り扱い店で8月8日に発売されるOVA「デトロイト・メタル・シティ(以下、DMC)」の出演スタッフに、インタビューを行った。
「DMC」は、2005年より「ヤングアニマル」(白泉社刊)で連載されている同名人気コミックのアニメ化したもの。オシャレなポップ音楽が好きな青年“根岸崇一”が、悪魔系デスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」のカリスマギターボーカル“ヨハネ・クラウザーII世”として活躍(?)する、デスメタルギャグ作品だ。アニメ化に加えて実写映画が今年8月23日より公開され、DS用ソフトの発売も決定している。
今回、アニメの監督である長濱博史氏に、制作にかかわった経緯やこだわったポイントなどについて聞いたので、以下に掲載する。
――アニメ「蟲師」で監督をやられた長濱さんが、「DMC」にかかわることになった経緯を教えていただけますか?
長濱氏:STUDIO4℃から、お話しをいただいたからです。ただ、最初は断っていたんですよ。ボクは、この作品はアニメに向かないと考えていたので。“根岸”というキャラクターが音楽性の違いからドタバタすることをアニメにした時にリアリティが出るのか、ファンが感情移入して観られるのか疑問を抱いていたんです。かといって、絵を変えたくはないですし、内容も変更したくない。「それならばアニメにするより、実写にしたほうがいいんじゃないですか?」とお話ししたところ、「実は実写の映画も動いていて、同時に動いた企画なんです」ということを聞いたんです。ボクの方も、断るつもりではいたんですが、アニメ化する際の手法などを検討していて、それをお伝えしたところ、STUDIO4℃側が「そのままやっていいですよ」と言ってくれたので、かかわることになりました。
――監督は、アニメの依頼を受ける前から、原作を知っていたのですか?
長濱氏:はい。実は以前に監督をした「蟲師」のファンの方が、「読んでいただきたいおもしろいマンガがあります。そして可能ならアニメにしてください」と教えてくださったんです。そして本屋にいって驚きましたね(一同笑)。「蟲師」を好きな人がススメてきた作品とは思えませんでした。でも何か通ずるものがあるんだろうと思いながら読みましたね。実は後で知ったんですが、ススメてくれた人が大分県の出身で、原作者の若杉さんも大分出身。主人公の実家が大分にあって、自分も大分の出身で、舞台となった犬飼村のこともよく知っている。そこには、奇妙な縁を感じました。さらに役者の竹内力さんも自分と同じ街の出身ということで、大分度が高いんです。
――STUDIO4℃さんの方からアニメにするにあたり、何か要求や依頼はあったのですか?
長濱氏:特にありませんでした。でも、「こういう風にやりました」とお伝えした時に、「これでやるんですか?」とあわてることは何回かありました(笑)。それはSTUDIO4℃だけでなく、東宝さんにもありましたね。でも「止めてください!」というのではなく、「ちょっとお話しを聞きたい」という形だったんですが。
――それは具体的にどういうことですか?
長濱氏:すべてですね。「え? マンガを声優さんに読んでもらい、それをプレスコ(※セリフを先に収録して、あとからアニメーションをあわせる手法)するの?」とか、「画面に黒枠が着いたままなんですか?」とか「セリフがこんなに早いんですか?」とかですね。とにかく、どうなるか想像ができなかったようで、バタバタすることが何度かありました。自分が今までかかわった作品の「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」や「増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和」と同じようなことをやっていて、個人的にはあまり変わっていないつもりだったんです。初監督をやらせていただいた「蟲師」をイメージしていた人からすると、「なんで?」って思ったんでしょうね。でもお話しをしたり時間が経って、無事発売されるので、誤解は解けたと思っています(笑)。
――制作にあたり、特にどのようなところに注力されましたか?
長濱氏:女の子には力を注ぎました。作画しているところに横から「この“相川”さんはかわいくないね。もっとかわいらしくして」とかさんざん言っています(笑)。作画監督の島村さんが、原作のテイストを生かしつつ、かわいらしくするという作業を徹底してくれました。他には、原画の方も一丸となって、女の子をかわいらしくしつつ、細かく動きもつけてくれて。主人公などは止め絵で口パクなのに、“相川”さんは前髪にアクションを入れたりとか、“ニナ”にも細かな動きが入ったりとか。あとは、“アサト”もイヤなヤツなんで、枚数を使っていたり。そんな無駄使いに近いことを積み重ねています。他には、美術監督の小林七郎さんに、「東京タワーをもっと濡れているような感じにしてください」とか「無駄に光らせてください」とお願いしたり、音楽も一流のミュージシャンに作っていただいたり……それスタッフみんなのこだわりですね。
――何に対してのこだわりでしょうか?
長濱氏:原作に対してのこだわりです。突き抜けていかないと原作のよさに追いつかないと思うんですよ。やっぱり原作ってすごいんです。その原作を読んでいるファンに、「これはアリ!」って言ってもらえる作品を作ることって、ものすごい労力が必要なんですよ。「また誰か「DMC」をちゃんとアニメにしてくれないかな」と言われるのは、一番怖い。「またこの人たちに作ってほしい」って言われないと意味がないので、とにかくこだわって制作しました。
――実写映画に出演されている役者さんが、声優として出演していますが、それはどういう形で実現したのでしょうか?
長濱氏:東宝にいる川村元気さんという方が企画を立てているんですが、アニメと実写を彼が企画しているんです。これまでこういう企画ってあまりなかったと思うんですが、それくらい東宝が入り込んでいるからこそ、できた結果ですね。東宝がプロジェクトを動かして、実写映画もアニメも原作も一緒に形にしようというのが根底にあった。アニメには、映画で監督をやっている李闘士男さんも出演してくださっているんです。でも出演にOKを出した李さんもあんなにセリフがあるなんて思ってなかったはずですよ(苦笑)。自分もセリフの分量を甘くみていたんですが、実際の収録時に申し訳なくなりましたね。でき上がったのを観て「これはやらせたヤツは人間じゃないな、鬼のやることだ」って我ながら感じました(笑)。
――アニメを見させていただいたのですが、確かに李さんのセリフは多かったですね。
長濱氏:実写映画の監督をブースに1人で座らせて、「もうちょっと気持ちこめて」とか「ここからここまでセリフやって」とか言うわけです。きっと李さんも「だまされた」って思っているはずですよ。でも結果、すごくおもしろい、笑える話になっているので、ぜひ注目して観ていただきたいですね。
――もし前情報で、出演者についての情報を仕入れていない人は、スタッフロールで驚くかもしれませんね。
長濱氏:そうですね。長澤さんなんて、見ていてさらっと聞いちゃうと思うんですよね。それでスタッフロール見たら、「あれ!? どっかで聞いた声だと思っていたら、長澤まさみなの?」って思う人もたくさんいると思います。
――そういう監督も実写映画に出演されているということですが?
長濱氏:ちらっと出させていただきました。横に加藤ローサちゃんが来て、ボクが小芝居しているんですよ(一同笑)。当日言われたんですよね、「ちょっと迷惑そうな顔をしてください」って。実写映画の収録が李さんのセリフ録りの後だったんで、罪滅ぼしの意識があって役作りもしっかりしました。
――なるほど、すごい気合の入れようですね。
長濱氏:当然です。声優じゃない人が声優をやってくれた時なんですが、失礼のないようにって本気でやってくれるんです。だから自分たちも出る以上、本気でやらなきゃダメだって思って臨みました。「DMC」のファンになりきって、でもDMCが来ていないからイラついている。そしてようやくライブが始まったのに、“相川”さんが遅れて入ってくるから「なんだよ?」って思うという小芝居をしましたね。それでこの間、試写会を見せてもらったんですが、自分を見て頭にきました。「コイツ、エキストラなのに小芝居してるよ!」って(一同爆笑)。あのころの自分の前にタイムマシーンで戻れたら、殴りつけてやりたいですね(笑)。
――頭に来ると言えば、「甘い恋人」を歌っている“根岸”くんのシーンは、ちょっとイラっとしましたね。
長濱氏:頭にきましたか? それはよかった(笑)。カジヒデキさんの作ってくれた曲「甘い恋人」がいい曲すぎて……あそこは“根岸”くんが失敗するところなんで、いい曲ではダメなんですよ。それを岸尾さんがかなりキモい感じに歌ってくれて、ああなりました。こんなこと言うと、岸尾さんのファンに怒られそうですが……あんなにイケメンでいい声をしているのに、その武器を全部封じて、やっていただきました。
――今回、アニメが“ジャック・イル・ダーク”との対決で終了していますが、今後、続きをやってほしいという依頼が来たら、また挑戦しますか?
長濱氏:そのままの形でやりますね。原作の2巻までをビッチリ終わらせているんで、3巻、4巻をそのままやるでしょうね。話の順番は、「サタニックエンペラー」をラストにもってきたり多少入れ替えるでしょうが。キャストも誰も変えずに……長澤さんはスケジュール大丈夫ですかね?(苦笑)。それと同時期に実写の続編が公開されたりしたらいいですね!
――そうですね。では最後に、作品を楽しみにしている人へメッセージをお願いします。
長濱氏:魅力的な声優さんが、下品なセリフを臆することなく絶叫しています。TV放送が実現したとしても、やはりピー音が入ると思うんです。そういう意味では、DVDを買っていただいて、楽しんでいただければと思います。スタッフが全力で制作し、原作ファンや興味を持っている人を失望させないものになっています。666円のお試し版「デトロイト・メタル・シティ 魔王生誕盤」からでもいいので、ちょっと手に取っていただき、楽曲の素晴らしさや内容を体感していただき、その流れで実写映画の方にも足を運んでいただければ幸いです。オープニングも自信作なので、ぜひ皆さんお楽しみに。
アニメを制作した中での熱い熱意を語ってくれた長濱監督。同氏が「原作のよさに追いつくために、こだわりぬいて制作した」というアニメ「DMC」を見逃すな! |
(C)2008 アニメ「デトロイト・メタル・シティ」製作委員会
■「DMC FES 08 HILLS SIDE」