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2008年9月30日(火)

【うみねこ対談】この世界の行く末は、ベアトリーチェの思考にカギあり!?

文:電撃オンライン

 同人サークル・07th Expansionが制作しているPC用同人ゲーム『うみねこのなく頃に』。その『うみねこのなく頃に』の考察本が、『ひぐらしのなく頃に』の考察本に続き、アスキー・メディアワークスから発売されることが決定した。

 その制作発表を記念して、07th Expansion代表の竜騎士07氏と、考察本の著者で考察サイト「PARADOX」代表を勤めるKEIYA氏の対談をお届け。対談は全3回で、本日お届けするのは第2回となる。1回目の模様は9月23日の記事を参照のこと。

 なお今回の対談には、一部『ひぐらしのなく頃に』のネタバレも含まれている。『うみねこ』と『ひぐらし』の両方をプレイしている方のみ、先に進んでほしい。

(インタビュー中は敬称略)

【注意!!】以降の対談には『うみねこのなく頃に』、
『ひぐらしのなく頃に』のネタバレが含まれています。

「うみねこ対談」 「うみねこ対談」


“ベアトリーチェ”の思考や目的を探ることが、
『うみねこ』世界の行く末を探ることにもつながる

KEIYA『EP3』では“ベアト”以外も赤字を使います。これはかなりおもしろいアプローチだなと思っていて、「“ベアト”の赤字は信頼できる――じゃあ他の人の赤字も信頼できるのか?」という問題を投げかけられたような気がしているんですよ。

竜騎士07愛ですね。“ロノウェ”が信じられる人は彼の赤字も信じるでしょうし、彼を疑う人は赤字も疑うでしょう。まさに先ほど語った「信頼関係」の問題につながりますね。「誰の赤字は信頼できるのか?」、「そもそも発言者によって赤字の価値は違うのか?」みたいな。

KEIYA七姉妹や生き返った“秀吉”まで赤字を使ってましたからね。

竜騎士07その通り。誰を信じればいいんでしょうか(笑)。

KEIYA“ロノウェ”が最初はかなり胡散(うさん)臭い人物だったので、彼に赤字を語らせたのは「そう来たか!」という感じだったんですよ。

竜騎士07あの時点の“ロノウェ”は特に、つかみどころのない人物でしたからね。本当に赤字というのは不思議です。あれだけ“ベアト”が「信じろ」と言っている要素ですが、それさえ疑うことすらもユーザーの目線としてはおもしろいと思います。しかし赤字さえ信じないスタンスというのは、かなりツライでしょうね。やはり赤字は強力なヒントですから。赤字さえ信じない人は、物語の構築が非常に困難になることは間違いありません。

KEIYAそうですね。『EP2』の推理を始める時に「赤字を疑ったら手がかりがないな」というのは感じましたね。推理の足がかりにする意味でも、赤字は信じました。

竜騎士07それは間違いではないと思います。そもそも“ベアト”がファンタジーであることを知らしめたいのなら、ただそれだけの事実があればいい話なんですよ。……なんというか、“ベアト”っていいヤツですよね(笑)。考えが顔にすぐ出るし。ウソがわかりやすいし。

KEIYA残酷趣味ですが、いいヤツかもしれないと思いますね。

竜騎士07コミュニケーションに飢えている子ですからね。

KEIYA幼さがいろいろな部分から垣間見えるな、という印象を受けています。

竜騎士07残酷で偉そうですが、精神年齢は幼いでしょう。

KEIYA『EP3』の“ベアト”を見て、赤字を信じる人は増えるかもしれませんね。彼女の印象は今回で大きく変わったと思うんですよ。

竜騎士07そうですね。“ベアト”の新しい一面が出てきましたね。結局のところこの世界のゲームマスターが“ベアトリーチェ”であることはほぼ間違いないと思われるので、彼女の思考や目的を探ることは『うみねこ』世界の行く末を探る上でおもしろいアプローチだと思います。そう考えると、物語中の不可解な要素のいくつかが説明できるかもしれません。それこそが“ラムダデルタ”がよく口にする「隙」なのかも。“ラムダデルタ”はその「隙」にご立腹ですが。

KEIYA今おっしゃった“ラムダデルタ”と“ベルンカステル”を『うみねこ』に登場させたことには、ファンサービス以上の意味が込められているように感じました。『EP3』で物語の中核にかかわっている可能性が提示されたように思います。

竜騎士07さて、それを「ファンサービス」ととらえるか、人間の主観性がいかに歪んでいるかの証明ととらえるか、微妙なところですね。『ひぐらし』に“ベルンカステル”という人物名が登場したことは認めますが、“ラムダデルタ”なんてキャラが『ひぐらし』に登場した記憶は、私にはありません。なぜ彼女が『ひぐらし』に登場したことになっているのか? 人間は未知のモノを見た時、それを自分の記憶にあるモノで理解しようとします。『ひぐらし』をプレイした人が真っ先に陥るワナかもしれませんね。プレイしていない人なら、2人をただの魔女としか思わないでしょうし。それに“ベルンカステル”と“古手梨花”の容姿は似ているので同じキャラと考えることもできるかもしれませんが、“ラムダデルタ”と“鷹野三四”なんて容姿が全然違います。同じなのは髪の色と前髪の形、瞳の色くらいです。

KEIYAあの2人の会話に登場する「前のゲーム」というのが、『ひぐらし』であるなんてひと言も言っていないと。

竜騎士07そうです。そんなことに捕らわれていると……。

KEIYA『ひぐらし』の「祭囃し編」で、“羽入”が神になる方法みたいなことを“鷹野”に言っていましたね。「鉄の火で自らの命を絶てば神の座に」というセリフです。ちょっとそこで“鷹野”と“ラムダデルタ”のつながりを感じたりはしました。イコールではないにせよ、何か関係がありそうでおもしろいなと。

竜騎士072人の魔女がどのような位置づけで参加しているのかについて、考えてみてもよいと思います。ただ1ついえることは、彼女らはゲームのプレイヤーではない。プレイヤーは“ベアトリーチェ”と“戦人”であって、2人はどちらかというと見ているだけの閲覧者。閲覧者がサッカーのサポーターのような立場で、好きなチームを応援しているだけです。それに“ベルンカステル”が本当に“戦人”の味方なのかもわかりません。少しくらい疑ったほうがよいかもしれませんよ? 多くの人は“ベルンカステル”を全面的に信用していますが、普通に考えたらあんなに胡散臭い人物が無償で手助けをしてくれるなんておかしいですよね。『EP3』の裏お茶会のラストなんて、“縁寿”をだまして飛び降り自殺させたようにしか見えませんし(笑)。

KEIYA物事はいろいろな面から見なければダメだということですね。

竜騎士07そうですね。“ラムダデルタ”が敵であるとも限らないわけですし。

KEIYA『ひぐらし』が関係ない場合でも、「絶対の魔女」VS「奇跡の魔女」という構図はおもしろいですよね。以前「最終考察 ひぐらしのなく頃に」の対談で伺った「人間は99.99%確信を持ったことを、自動的に100%だと思ってしまう」という考え方が「絶対」で、残った0.01%の可能性を否定しない考え方が「奇跡」ということにつながると思うのですが。

竜騎士07そうですね。そう考えると、あのゲーム盤の何が99.99%なのか、そしてなぜ100%にならないのか、という部分が気になりますね。少し話は飛びますが、そもそも殺人はなぜ予告されなければならないのか。本当に殺人だけが目的なら、手紙で事前に予告なんてせずにこっそり殺したほうが確実です。さらにいえばなぜ碑文にそって見立て殺人を行うのか。第一の晩の犯行を大々的に行ったら、全員集まって篭城(ろうじょう)するに決まっています。毎回篭城する人間たちを分散させるプロットを考えるのは大変ですよ(笑)。

KEIYA今回の、ゲストハウス篭城の崩し方はおもしろかったです。工夫されたパターンがいろいろあって。

竜騎士07プロットを書けば書くほど「皆殺しにする時は、一度に全員を殺すに限る」ということを思いますね。『メタルギア』(編注:KONAMIのアクションゲーム)と同じです。死体を見られたら応援を呼ばれてしまうんです。しかしそれでもわざわざ見立て殺人を行うということは、つまりそれを行うこと自体に何らかの理由があると断定するしかありません。著者不明ですが『EP3』の死者のTIPSは、いろいろ殺人のルールが面倒だとボヤいていますよね。「そもそも、何で碑文にそわなきゃならないの?」と著者自身も思っているようです。碑文の謎が解けたら殺人をやめるようなことも、魔女の手紙には書いてありました。殺したいから殺しているはずなのに、なぜ中断する可能性を残しているのか……。おそらく“ベアトリーチェ”という魔法的存在は、100%島内の人間を虐殺する方法や手段を用意している。にもかかわらず、99.99%に留めている。現に“絵羽”が生還しましたから。なぜ犯人は100%できることを自ら99.99%に止めるのか。“霧江”はそれを「驕り(おごり)」と称しました。『EP3』までの3つの連続殺人事件を重ねて見ても、犯人が何をしたいのかわからない部分があると思います。それがひょっとするとコミケ特典の小冊子(※1)に書いてあるルールX・Y・Zのことなのかも。“ベルンカステル”をもってしても理解できないこのルールを理解しなければ、真相は見えてこないのかもしれません。今こそチェス盤をひっくり返すときかもしれませんね。敵は何を考えてこんな事件を起こしたのか、理由を考えると何か見えてくることもあるかも……。

KEIYAいくつか仮説は立てているのですが、まだどれも自信がない段階です。いろいろなパターンを考えたいなとは思っているのですが。

竜騎士07「仮説をいっぱい立てる」ことが本当は楽しいのだと、私は思います。仮説は立てた数が多いほどすばらしい。これまで赤字で密室をいくつか作りましたが、あれは本格ミステリーファンへのボーナスゲームという意味合いもありました。本格ミステリーにはおもしろい密室トリックがたくさん存在するので、その知識を披露して「こんな赤字なんて、あの小説の密室の応用だよ」みたいな感じでさまざまな仮説をたくさん立てて自慢できる機会を作ったのです。実際は私が考えていたほど、おもしろいトリックは語られなかったのが残念でした。もっとアレとかソレとか、おもしろい密室トリックの話で盛り上がってほしかったのですが……。そんな中でおもしろいと思ったのは「『EP1』の“絵羽”夫妻の密室は、単純にチェーンが長かった」という説です。それなら作中の記述に反することなく、密室が作れますよね。すき間から手を入れてチェーンを付け外しすればよいのですから(笑)。真相とは違うのですが、非常にユニークな意見だと感じました。

KEIYAもしかしたら、ネタバレしないようにミステリーのマナーを守っている人が多かったのかもしれませんね。

竜騎士07それならよいのですが……。私の感覚ではこれまでは、どちらかというとミステリーよりファンタジーの話題のほうが盛り上がっている印象ですね。

KEIYA「いろいろなトリック、いろいろなパターンを考えてほしい」というメッセージが、『EP3』からは伝わってきました。「証拠なんていらないから、まずは考えろ」というニュアンスの言葉を多用されていましたよね。

竜騎士07そうですね。証拠なんて都合よく現場に落ちているわけがないですからね。しかも“ベアト”とのゲームはとてもイージーで、彼女が提示した赤字をかい潜れさえすれば「その方法はなんでもよいと作中で語られています」。だから答えは何通りでもあるはずなのですが、多くの人は正しい1本を見つけなければ納得できないみたいですね。また初歩的なトリックだけを提示する方も多かったように思います。そのようなトリックよりは「屋敷に屋根がなくて壁を越えて部屋に侵入した」や「相手が壁に寄りかかっている時、壁越しに発勁(けい)を撃ち込んで振動で内臓を破壊して殺害」などのトンデモ推理のほうが、読むほうとしては楽しかったです。少し話は横道にそれますが、私は「最終観測者は常に疑うべき」だと思いますね。例えば日本の警察は優秀なので、最終観測者=第一発見者を最初に疑います。もし最終観測者がウソをついていたら、事件は迷宮入りになってしまいますから。

KEIYAおもしろいのは、第一発見者の真偽不明の証言と、検死による確定的な事実を組み合わせて真相を探るということですね。

竜騎士07そうですね。被害者が死んでいることは100%事実でしょうし、傷の有無なども事実として判断できるでしょう。誤診と、検死者の買収さえなければ。この話を突き詰めていくと社会派ミステリーになってしまいますが(笑)。このようにいろいろな可能性を考えておもしろい推理をもっと話し合ってもらいたいと思ったので、『EP3』はわかりやすく物語を説明した、という部分はあります。ここまで親切にしたのだから、『EP4』は逆に難易度を高めたいという気もありますが、どうなりますかね。今度は“戦人”と“縁寿”が魔女に挑むのですから、それを欺くのは書き手として楽しそうではあります。

KEIYA“戦人”と“縁寿”についてよく話題に上がるのが、髪の色のことだと思います。「母親が異なるのに2人とも赤いのはなぜ」とよく聞きますね。

竜騎士07“留弗夫”側の遺伝子の影響ではないですか? 兄妹だから記号性があったほうがわかりやすいですよね。“霧江”の白い色にする案もありましたが、「世間の想像縁寿図」に白が多かったので同じにするのはなぁ、と判断しました。

KEIYAグラフィック関連では、“シエスタ姉妹”の凝った衣装も気になっています。

竜騎士07鼓笛隊のような衣装で、明らかに浮いてますよね。

KEIYAモチーフはアーサー王伝説だと思うのですが。

竜騎士07少なくとも“シエスタ姉妹”の魔法的設定に関しては、少しアーサー王伝説に関係するような設定を持っていますね。

KEIYA腕章がイギリスっぽいですよね。

竜騎士07若干ですけれどね。まあ現時点では、かなり謎の変な2人組だと思います。

KEIYAウサミミが付いていることに驚いた読者も多いと思います(笑)。

竜騎士07あれはレーダーです。あれで敵を捕捉(そく)するんです(笑)。あと、“シエスタ姉妹”も“煉獄の七姉妹”も、既存のクローズドサークルミステリーに対する遊び心という部分がありますね。本来クローズドサークルは人数が確定しているものじゃないですか。この島もクローズドサークルのハズなのに、つぎつぎと登場人物が増殖していくという矛盾がおもしろいなと。

KEIYA読み方によってはもしかしたらヒントなのかもと感じたことはあります。「クローズドサークルで人が増えるわけはない。でも増えるということは……」みたいな。

竜騎士07島の外から人が来ていると考えてもいいですし、島には人が隠れていると考えてもいいですね。おもしろがってもらえるとうれしいです。勘のよい人たちは、すでに仮説を立てているみたいですね。

KEIYA“シエスタ姉妹”については名前も数字だけという特殊な存在ですよね。このへんも含めて仮説が立てられていますね。

竜騎士07他の“シエスタ姉妹”も今後登場するかもしれません。それで新しい数字が出るとヒントになるかもしれないですね。



対談第3回は10月7日に掲載予定! 乞うご期待!!

【※1】コミケ特典の小冊子
今年の夏に開催されたコミックマーケット74の会場で『うみねこのなく頃に EP3』を購入した人に、おまけとして配られた小冊子。竜騎士07氏書き下ろしの文章で、内容は“ベルンカステル”が謎の人物に宛てて書いたと思われる文章と、「アンチミステリーとアンチファンタジーについて」というタイトルのコラム。一応ヒントになっているように思われるが、「この内容を知らなければ真相にはいたれない」ということはないだろう。

(C)竜騎士07/07th Expansion 肖像画/江草天仁

データ

▼『うみねこのなく頃に EP3』
■制作:07th Expansion
■対応機種:PC(対応機種:Windows XP)
■ジャンル:AVG
■価格:1,575円(税込)
※『EP3』には『EP1』、『EP2』の内容も収録。購入は、全国の同人ショップ、アニメイト通信販売などから行える。
▼「最終考察 ひぐらしのなく頃に」
■発売元:アスキー・メディアワークス
■発売日:発売中(2008年3月27日)
■価格:1,680円(税込)
 
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