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2008年10月29日(水)

作品との出会いに感謝! 作曲活動25年の朝倉紀行氏が『天誅』サウンドを語る

文:電撃オンライン

 アニプレックスから10月29日に発売される「天誅4 オリジナル・サウンドトラック」。その音楽を手掛ける作曲家・朝倉紀行氏にインタビューを行った。

 『天誅4』は、本格忍者アクションゲーム『天誅』シリーズの最新作。1998年にPSで発売された、初代『天誅』を手掛けたオリジナルスタッフであるアクワイアが、再び開発を担当している。Wiiならではのアクションで、屋根裏や縁の下などに隠れながらステージを進む「隠密アクション」、敵に気づかれずに忍び寄り強敵も一撃で葬り去る「必殺」を楽しめる。

 オリジナル・サウンドトラックは、『天誅4』で使用された楽曲をオリジナル音源で収録。シリーズの音楽を手掛けてきた作曲家・朝倉氏が、今作においても『天誅』独特の雰囲気漂う音楽を全面制作している。


 以下に、今年で作曲家活動25周年を迎えた、朝倉氏のインタビューを掲載する。

――まず、最初に朝倉さんが音楽にふれることになったきっかけを、教えていただけますか?

朝倉氏:今考えるとおかしいですけど、小学校6年の時に「1人っ子の歌」という曲を作ったのが最初ですね(笑)。その後は中学、高校、大学とバンドをやっていました。ギターとボーカルで作曲もしていましたね。中学と高校は、陸上部とバンドしかやっていませんでした。その当時はスポーツができる人が、バンドをやっているという風にリンクしていたんですね。そんな高校の時に「レッド・ツェッペリン」と出会ったんです。この音楽からは相当な衝撃を受けました。それからは何をするにしても、すべてがロックですよ。洋服買うにも「この服、ロックだな」とか言って(笑)。そして大学に進み、卒業してからはバンドやりながら、音楽を続けていました。

――音楽を仕事にしよう考えたのは、いつごろからでしょうか?

朝倉氏:大学に入ってからは考えるようになりましたが、それまでは「プロなんかにはなれないよな」と思っていました。それで「TVの音楽番組のプロデューサーになれたらいいな」くらいの気持ちで、放送学科に入ったんですよ。でも、バンドを始めて、オーディションを受けたらそこそこ通用して、調子に乗ったんですね(笑)。あと、好きなこと以外は続かない人間だということに気がついたんですね。それこそ、デビュー前には音楽で食べていくために、さまざまな職種のバイトを経験しました。居酒屋、トラックの運転手、ちり紙交換とか。デビュー前で印象深かったのは、雨の中荷物を運びながら「音楽で飯を食うぞ、音楽で飯を食うぞ」と念仏のように唱えながら、働いていたことですね。だから、取材された時によく言うんですが、ずっと音楽を仕事にしてこれたのは、この時につちかった執着心のおかげだと思います。

――バンド活動から、作曲家へと転向するようになったのは?

朝倉氏:27歳の時にバンドでデビューして、30歳までにシングル3枚とアルバムを2枚出したんです。ところが、これが2枚目のアルバムが全然売れなくてですね(苦笑)。シビアな世界ですから、クビを切られました。その時が一番貧乏でしたね、住むところがないくらいに。デビュー前は貧乏なのが当然なんですが、デビューしてそこそこ売れて、でもその後、お金に困ったこの時期が最も精神的にこたえました。そこで悩んだんですね。「俺は音楽がやりたいのか? ロックがやりたいのか?」って。もし音楽にかかわった仕事をしたいなら、ロックというフィールドにこだわっていたら、当然限定されてしまうんですよ。この思考がきっかけで、作曲家への転向を歩みだしたという経緯ですね。転向する時は、自分の音楽を見つめ直したり、とにかく状況を分析したりしました。作曲家になるのも何度もやめようとも思ったんですが、音楽以外にやることがホントに何にもないんですよ。それで、腹をくくって作曲家になることを決意しましたね。それからもう25年ですね。

――25年間というのは、短かったですか? 長かったですか?

朝倉氏:波乱万丈で山あり谷あり、あっという間の25年でした。これからは平坦に生きたいと願うばかりですよ(笑)。

――作曲家になってからはどうでしたか?

朝倉氏:作曲家に転向して、30歳から40歳まではコンペだけで生活していました。これが大変でしたね。1曲や2曲採用されたからって、飯を食えるわけじゃないので、毎回採用を狙って印税を増やして、印税だけで飯を食うっていうのは、なかなかシビアーな生活ですが、当時はそういう時代でした。ただ他の作曲家の人たちは、バンドのサポートをしていて、ある程度の収入が約束されている人が多かったんですが、ボクはパフォーマンスできるほどの腕がなかった。だから、作曲にかけていたため必死でした。

――その後、しばらくしてゲームサウンドにかかわるようには、どういった経緯があったのでしょう?

朝倉氏:ゲームサウンドにこだわっていたわけではないんです。10年間、アイドルやアーティストに歌を書いていて、その仕事がサウンドトラックにも伸びていったという。逆に言うとボクのセールスポイントは、歌も書けて、サウンドトラックも手掛けられるということ。そういう人があまりいなかったんじゃないでしょうか。実は『天誅』の仕事をもらった時も、プロデューサーにある歌ものの曲を聴いてもらったのが最初なんです。その結果、世界観を気に入ってもらえ、その曲をオープニングにして、サウンドトラックも書いてほしいという依頼があったという経緯ですね。だからそれ以降は、ボクがかかわるゲームのオープニングには、歌ものを持ってきています。

――和のテイストの曲を多数扱っていますが、何かこだわっているところはありますか?

朝倉氏:『天誅』の仕事を請けている時に、TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」をやっていたんですが、自分の中でこの2つが、その後の自分の音楽観に影響を与えました。ベーシックになっているのかもしれません。世界でボクにしかできない音楽というものにはこだわっています。日本の音楽だけに固執せず、中国、西アジアのトルコあたりまでのアジア音楽を取り込んで、ロックテイストやトランステイストなものとミックスして音楽を形成していることですね。

――音を作っていく作業の中で、スランプにおちいるようなことはないのですか?

朝倉氏:スランプと感じたことはないですね。しかし、締め切りが続いて音楽を出していくばっかりだと、自分の中にある音楽が枯れていくんです。そうすると、自分の中にあるパターンや、決まった形の音楽ばかりになってしまう。そうなってしまうと緊張感もなくなり、音を作っていても刺激的ではなくなってしまうのです。だからそうならないように、自分の心に刺激を与える時間を作るようにしています。音楽を聴く以外にも、ボクは映画が好きなんで映画を見たり、本を読んだりすることが重要だと思いますね。


――今回、『天誅4』のサウンドを手掛けるにあたって、クリエイターから要求はありましたか?

朝倉氏:ゲームのスタッフからは、『天誅』の1~3の流れをくみながら、新しい切り口でと依頼されました。「そんな無茶な要望はないよね」と、どこに行っても話すんですけど(笑)。……実は『天誅』から続いているスタッフはボクだけなんです。やや矛盾したとも取れるような命題だったんですが、これまで引き継いできた要素を加味しつつ、新たにクラシックの要素を入れて制作しました。オーダーには、うまく応えることができたと思いますよ。

――今回の『天誅4』はどういった気持ちで臨まれたのでしょうか?

朝倉氏:最初の『天誅』は、広さや砂漠というイメージにこだわっていました。次の『天誅 弐』はドラマ性が強かったので、メロウを意識しました。『天誅 参』は、エンターテイメント性をテーマにしましたね。映画が好きなんで物事をよく映画に例えるんですが、『天誅』はインディペンデントな映画で成功し、『天誅 参』でハリウッドに行ったみたいなイメージです。リュック・ベッソン監督でいうなら、『天誅』が「ニキータ」で、『天誅 参』は「フィフス・エレメント」ですね。だから『天誅 参』は派手に行こうと考えて、エンターテイメント性を押し出したんです。そして今回の『天誅4』では、人間の愛というベーシックな部分に帰化しています。あとは、ボクが捉えた“力丸”の本能的なパッションも、ちりばめてありますね。

――朝倉さんは今年で作曲活動25周年、『天誅』は10周年ということで、経歴の半分近くを『天誅』シリーズにかかわっていますね。『天誅』シリーズにどういう気持ちを抱いていますか?

朝倉氏:『天誅』には愛情があります。「るろうに剣心」と『天誅』の出会いが、世界で1つしかない自分のスタイルを模索し始めたきっかけですから。作品に対して恩人というのはおかしいですが、この作品を経験した流れで、侍が登場する他の作品とも出会えたのは確かです。作曲家なんで、ホラーやSFといった、他のジャンルの仕事をすることも当然あります。ですが、自分の中で、1番上の引き出しとなっているアジアを前面に出した音楽は、「るろうに剣心」や『天誅』で育てられたという気持ちはあるので、感謝していますし、愛情も感じています。広い意味で特別なタイトルですね。

――サウンドを作る上でゲームハードの制約というのは必ずつくものだと思うのですが、ゲームサウンドを制作する上で苦労した点があれば教えてもらえますか?

朝倉氏:それはいい質問ですね。PSの時は、サウンドのシステムに「SPU」と「CD-ROM XA」というものがあったんです。「XA」は普通にレコーディングした音をCDでレコーディングするようなもので、「SPU」はデータをのスタッフに渡して、内蔵音源を使って鳴らすというもの。その時は、音楽の作り方に対して、向き合い方を変えて仕事をしたんですが、それ以降に関しては、一切自分のスタイルを変えてないんです。あくまで、映画音楽のサウンドトラックを作るつもりで臨んでいます。だから、ゲーム音楽や映画音楽といった、コンテンツわけ自体が、ボクにとってはあまり意味をなさないんですね。例えば、今回のようにWiiでゲームを作る場合、もとの音よりも音質的にどうしても劣化してしまう。ボクがマスタリングにこだわっているのは、こういう場合にいかに音を劣化させないで、ユーザーに届けるかを考えているからなんです。それを実現するために優秀なエンジニアと仕事をしているのです。今回の『天誅4』の音は、音質だけ言えばWiiで発売されたソフトの中で、一番いいと思いますよ。

――音質ですか?

朝倉氏:ボクは音質にすごくこだわるんです。音楽の好き嫌いはどうしてもあるじゃないですか。嫌いな人が聞いたら、嫌いなものは嫌いだから、しょうがない。でも、嫌いな人が聞いても質の高さは伝わる。だから、ボクは音の入り口から出口にまでこだわり、ミックス・ダウンも自分でやるし、マスタリングは弊社所属の非常に優秀な桑原和男というエンジニアに細かいオーダーを出して、音楽的ワガママ聞いてもらうんです。今や、作曲家がミックスまでこだわりを持ってやるのは、あたりまえの時代になってきてます。


――10月29日に発売される「天誅4 オリジナル・サウンドトラック」の魅力について、聞きどころについて教えてもらえますか?

朝倉氏:今話した音質も1つですね。サウンドトラック用の音と、Wii用の音は違うマスタリングをしているんで、よりハイクオリティになっています。Wiiの32KHzとCDの44.1KHzのサウンドでは、当然44.1KHzになった方がいいに決まっているので、改めて聞き直してほしいですね。それと、サウンドトラックでしか味わえない、オープニングテーマのフルコーラス、しかも日本語バージョンとドイツ語バージョンを収録していることです。『天誅4』が海外で発売される時は、オープニングの歌はドイツ語になるのです。このゲームの特異性を出して、それでいてクラシックなイメージを出せるのがドイツ語だと考え、そうしました。海外のゲームをやらないと聴けないのでぜひチェックしてください。

――オープニング・テーマ楽曲はソプラノ歌手の柴田智子さんとのコラボレーションとお聞きしました。

朝倉氏:はい。オペラ色の強い楽曲になってますことからもわかるように、全体通してもクラシック色を色濃くしてます。実はこのテーマ曲は、アメリカで起きた「9.11のテロ」をきっかけに、柴田さんが発案して、何もビジネスのないところで産まれた楽曲なんです。お蔵入りしていたんですが、それを『天誅4』の金山監督が、“力丸”の運命や人間愛に結びつけてくれて、やっと日の目をみた作品です。そんな愛に満ちた作品を、ゲームファンのみならず、お茶の間でも聴いてもらえればと、強く願っています。そういう意味では、Wiiは「渡りに船」のプラットホームかも知れません。

――朝倉氏自身についてお聞きしますが、ゲームはプレイされますか?

朝倉氏:ボクがかかわっていない作品なんですが、PS2『鬼武者』シリーズはハマリましたね。仕事としてかかわった作品だと、『侍道』は『天誅』シリーズより簡単なので、しっかり最後までやりました。もともとは『ドラゴンクエスト』でゲームにハマったんですが、その時は自分がゲームのサウンドを書くなんて思ってもいませんでしたね。最近のゲームだと、Wiiの『突撃!!ファミコンウォーズVS』に挑戦しました。ファミコンの『ファミコンウォーズ』にすごくハマったので遊んでみたんですが、3Dに酔ってしまい断念しましたね。

――先ほど、PS2『SIREN』が置いてあったのですが、ホラー好きということでプレイされたのですか?

朝倉氏:ワハハハハ(笑)。実はあまり公開されていないんですが、『SIREN』のエンディングの曲「THE BUSTER!」は、ボクが書いて歌っているんですよ。Vocalは「Alpha Eastman」という名前になっているんですが、ボクがヘビィメタルの曲を作って、「ウワァ~~~~」って叫んでいるんです。他にもホラーつながりだと、以前にE3で流した『ヴァンパイアレイン』のトレーラー用のサウンドもボクが手掛けています。ロックやメタルのサウンドは、昔バンドをやっていた時の経験が生きているのかもしれませんね。

――サウンドからは朝倉さんの顔を想像できませんでした。では今後の予定を教えてください。

朝倉氏:25周年ということで、ボクの集大成となるアルバムを出すべくアニプレックスさんと準備しています。そこには、今まで公開してきた曲のセルフカバーだったり、『天誅 参』のオープニングテーマをボクが歌ってみようとか、これまでのサウンドトラックに収録できなかった曲を入れようと考えています。本当の意味に25周年にふさわしい1枚になると思います。新曲を入れようと検討中です。

――最後に、発売を楽しみにしている方へ向けてメッセージをお願いします。

朝倉氏:ゲームファンの方には、ゲームを楽しみながら、こだわって作った音楽も聴いてもらいたいです。音楽にこだわっていかないと、全体の世界観が劣っていくと思うんですね。そういう意味で、作品の映像を盛り上げる音楽の必然性を、本作で感じてもらえれば幸いです。『天誅』シリーズ10周年、私の作曲家生活25周年目にあたるこのサウンドトラックは、私にしかできないアジアン・テイスト、言うなればアジアのプログレの集大成な作品です。どうぞよろしくお願いします。

インタビューは、朝倉氏が代表を務めるメガアルファのスタジオで行った。25年の活動を思い出しつつ、「天誅4 オリジナル・サウンドトラック」の魅力を語ってもらった。
またサウンドトラックの告知として、2人の「くノ一(くのいち)」がスタジオに駆けつけた。「天誅4 オリジナル・サウンドトラック」は、本日10月29日に発売!

(C)2008 FromSoftware, Inc.


データ

▼「天誅4 オリジナル・サウンドトラック」
■発売元:アニプレックス
■販売元:ソニー・ミュージックディストリビューション
■品番:SVWC7591
■発売日:発売中(2008年10月29日)
■価格:2,310円(税込)
 
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▼『天誅4』
■メーカー:フロム・ソフトウェア
■対応機種:Wii
■ジャンル:ACT
■発売日:発売中(2008年10月23日)
■価格:7,140円(税込)
 
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