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2008年12月18日(木)

「アクエリオン」“不動”司令の秘密も公開!? 河森氏トークイベントをレポ!

文:電撃オンライン

 TVアニメ「マクロス」シリーズや「創聖のアクエリオン」などの作品で知られるビジョンクリエイター・河森正治氏。氏のティーチインイベントが、第21回東京国際映画祭にて開催された。

 イベントでは、ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記(よしだひさのり)アナウンサーの司会のもと、河森氏が制作に携わった作品を振り返りつつ、取材で体験したことを語ってくれた。以下に、そのコメントをお届けしていく。

▲「こんなにたくさんの人の前で話すのは初めて」と、ちょっぴり緊張した様子の河森氏。はにかんだような笑顔を見せながら挨拶と写真撮影を済ませ、早速トークへ。

「イーハトーブ幻想~KENjIの春」

 「まるで生オーディオコメンタリーですね(笑)」と微笑む河森氏。これまでに携わった7つの作品と、取材の際に撮った写真を組み合わせた映像を見ながらトークを進めていくことに。最初に映像で流れたのは「イーハトーブ幻想~KENjIの春」の取材について。田んぼなどの写真を見せつつ、河森氏は「岩手だけでも2~3週間取材しましたけど、宮沢賢治さんが歩かれたであろう場所は、ほとんどまわりました。宮沢さんがどんなことを考えたのか、追体験するようなイメージでしたね」とコメントした。

 さらに吉田アナからの「原作モノを手掛けるのは珍しいという印象があるんですが?」という質問には、「何度か依頼はあったんですけどね。依頼を受けた際に「(原作と)変わってもしりませんよ」と前もって言うんです。それで「どれだけ変えてもいいです」と返事をいただいてやるんですが、「変わりすぎです!」って言われて(会場笑)」と返していた。河森氏がやりたくないワケではなく、こうした事情で原作モノが表に出ることが少ないのだという。「この作品は、「マクロスプラス」と「マクロス7」と「天空のエスカフローネ」が終わって一段落ついた時にいただいたお話だったんですね。「ロボットモノのお話だったら断ろう」と思いながら話を聞きに行ったら違う話だったので、それならばお受けしようと」と、制作に至った経緯を話してくれた。

 また石の写真がスクリーンに映し出された時、「石までも写真に収めているんですね」と驚いた吉田アナに「宮沢さんの作品には、石がよく出てくるんです。それを踏まえたうえで石を見ていると、こんなにもいろいろな種類の石があるんだなって気付かされるんです」と説明した。さらに河森氏は、「写真を撮るのは、元々好きなので。他のスタッフに伝えるためですね」と数多くの写真を撮っている理由を明かしてくれた。

「超時空要塞マクロス」と「愛・おぼえていますか」

 続いてスクリーンには「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」の映像が。戦争を解決に導く手段として歌を盛り込んだことについては「他の人と同じことをしたくない性格なんですよ。だから、「ガンダム」も「ヤマト」も本当に好きな作品なんですけど、武力で解決したら同じモノになってしまうなって考えがあったんです。好きなものだからこそ違うものを作りたいと思っていたそんな時、美樹本君(美樹本晴彦氏)が女性歌手の絵を描いているのを見て、歌で戦争を解決したらおもしろいなってアイデアが浮かんだんです」とのこと。この時期の取材としては「飛行機をとにかくたくさん見ていましたね」と話した。またTVシリーズが終わった後は、アメリカに3週間ほど行ったりしていたようだ。

 「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」の作業が終わった後にも1カ月くらいアメリカを周った後、河森氏は「似たような刺激でマヒしてしまったので、今度は隣に行こうと中国に行こうって思ったんです」と中国取材へ。「そしたら、この国のほうがはるかにデカルチャー(衝撃的)だったんですよ。食べ物のカスを吐き出して机を汚すのが「美味しい」という意味だったり、トイレだって顔を見合わせてする。いい悪いってことではなく「こんなにも違うんだ!」というのが衝撃的だった」のだとか。「中でも一番衝撃的だったのは、(地域的に)TVがなくなったとたん、子どもたちの目がイキイキしてキレイになるんですよ。この傾向はどこでもあって、すごいショックでしたね」と述べた。このことを受けて、映像クリエイターとして数年間を駆け抜けてきた当時の河森氏は、「これでよしと思って仕事をしてきたんですが、ないほうがいいんじゃないかなって思ったりもしました」と、自身の仕事の存在意義に、疑問を覚えたという。

「マクロスプラス」

 「10年経ったら時効だから、もう1回「マクロス」やってもいいんじゃないの?」と、あるプロデューサーに言われて作ったというこの作品。「ただ単純に同じものを作るつもりはなかったんです。そこで集団催眠や洗脳をテーマにすれば作れると思って、取り掛かったんです」と話す河森氏に、吉田アナは「中国やネパールに行って、日本との違いにショック受けたと聞くと、作品の内容が現代的なものから離れがちになるかのかと思うんですが?」とコメント。河森氏は笑いながら「最先端科学も原始的なものと同じように好きなので」と答えていた。

 今後、CGを使った作品が増えていくであろうと予想していた当時の河森氏は、「「マクロスプラス」が最初から仕上げまで手で描ける最後のものになるだろうと。だから、最高の戦闘をやろうって板野さん(板野一郎氏)と話して作りました」と「マクロスプラス」の戦闘シーンについてコメントした。またデジタル化については「好きもきらいも何もなく、ただそういう時代になるだろうって予測はありましたね」とのこと。「マクロスプラス」が作られた94年ごろから、すでにそうした流れを感じていたようだ。

「地球少女アルジュナ」

 タイトルにある「アルジュナ」が、インドの聖典「バガヴァッド・ギーター」に由来しているという本作。河森氏は、本作の制作にあたってボルネオのジャングルやインドへ取材に行ったという。特に印象的だった経験として、「アーユルヴェーダ」という、民間医療との出会いについて話してくれた。「90歳過ぎのインドでもトップの先生に、手首の脈を触られただけで、人間ドッグで悪いと指摘された場所を全部指摘されまして。他の人には前の日に食べたものを当てられました。そこで食べ物の大切さをあらためて実感させられて、この作品のテーマの柱を「食べ物」にしようと思いました」と河森氏。さらに、中国から帰ってきた頃に「自然農」と呼ばれる農法に出会った河森氏は、取材として、実際に自分で自然農に参加したりもしたようだ。吉田アナに「ご自分で農業をされたりはしないんですか?」と聞かれると「土地があったらやってみたいですね。(自然農では)3日にいっぺん世話すればいいくらいなので、とにかくシンプルなんですよ。アニメもそうだったらいいのに(笑)。片方でアニメ作りながら片方で自然農を実践できたら理想的ですよね」と笑いながら答えていた。

 前の年の稲などを倒し、その上に新たな作物を作っていく自然農を取材していた河森氏は、その取材時に言われた印象的な言葉として「自分の親のしかばねを養分とするから、自然農には肥料は必要ない。たくさんのしかばねのないところに命は育たない」という言葉を紹介していた。

「マクロス ゼロ」

 学生時代に友人たちと第2次世界大戦で戦場となったトラック島に行ったという河森氏。景色の美しさと浜辺に落ちていたB-25爆撃機などの残骸を見て、「こんなにきれいな場所で戦争したのか」と驚いたとともに、「戦争をテーマにした作品を作っていながら、戦争に対する理解が薄くて申し訳ないと思いました。そのことがあってラオスへ行ったんです」とラオス取材へおもむく。ラオスを選んだ理由は、ベトナム戦争の最大の激戦地のひとつであったことと、ベトナムに比べて観光地化されていなかったことの2つ。後者については「観光地化されていないほうが、昔の印象が残っているんじゃないかと」思ったのだという。

 その後、サルが芋荒いする写真や、破壊された仏像、さらに戦車砲にぶら下がった板野氏の写真なども公開され、「ここの暮らしは近代化されていなくて、とてものどかでしたね。高床式の住居の下には機織(はたおり)器があって、女性が皆、自分の服を縫っているんです」と説明してくれた。戦争の傷跡をたどる以外にも、得るものは多かったようで、ここでの取材の多くが「マクロス ゼロ」にフィードバックされていったのだとか。

「創聖のアクエリオン」

 ラオス取材や、同時期にアメリカで起きた「9.11テロ事件」は、河森氏の作品に取り組む姿勢に影響を与えたようだ。「その頃、「戦記モノ」は作っちゃダメという状況になっていたし、僕自身も何のための戦いなのかわからなくなっちゃうんで、戦いを話のメインにできなくなりました。そこで神話的なストーリー、ファンタジーとして、物語を何とか捕らえるしかないんじゃないかという感覚になっていた時期ですね」と話す河森氏は、この時期に神話への造詣を深めていったという。「神話の中での戦いが、どうして何千年も語り継がれていくのか調べていくと、深層心理にすごく影響していたんですね。その深層心理と神話性の関係が、「アクエリオン」につながりました」と話を繋げていった。

 「もちろん自分も含めてですが、現代人は頭脳・肉体・心理がバラバラな気がしました。だから、どこかで戦争が起きていてもなんとも思わず暮らしていたり、食べ物が汚染されていても食べちゃう。頭と身体と心が連動していれば、起きないことだと思うんですね。だから、その分離したものが合体するとどんな感覚になるのか、何が見えるのかな、と」。そうしたものを盛り込んでいったのが「創聖のアクエリオン」で、河森氏は「よく、合体して力が強くなるロボットはあったんですけれど、合体すると感覚が広がるようなロボットを作りたいと思いました。そこで、感覚が広がるとなんか気持ちいいんじゃないかと。「合体すると気持ちいい!」ってところはその考えから出てきているんです(笑)」といい、会場を笑わせていた。「創聖のアクエリオン」を制作した姿勢については、「この作品では、真面目なことをできるだけバカバカしく、くだらないこと――1万2,000年前に出した恥ずかしいラブレターを奪い返しに行くエピソード――は真剣に作るなど、これまでとは逆の作り方を試しました」とのこと。

 続けて、この作品に登場する“不動GEN”について「作品を見た人は、彼のことをとんでもない人だと思うでしょうけれど、彼の能力は、取材先で出会った人の能力を合成して作ったものなんです」といい、吉田アナや観客を驚かせた。「7、8人の人の力を合わせたものです。もちろん、オーバーに表現していますけどもね。もしかしたら、かつてはこうした能力が普通だった時代があったんじゃないだろうかと思ったりしますね。テクノロジーの入っていない地域を取材すると、こうした能力を残した人たちが多いんですよ。もしも現代人に、こうした感覚が少しでも残っているんだとしたら、何千人に1人でもいいんでこうした感覚がよみがえってくれたりしないかな、と思いました」。ただし、“不動GEN”を作品内で描くにあたって注意した点として、河森氏は「これをまともにやってしまうと「そんなことあるワケねーだろ!」と怒られるので(笑)、ギャグにくるんだんです」とコメントしていた。

「上海大竜(シャンハイダーロン)」

 この作品は「ジーニアス・パーティ」という、たくさんのアニメ監督がコラボレーションして作ったもので、商業性に捕らわれずに作られた作品。中国を取材した時に、作品に盛り込めなかったカルチャーショックネタなどを形にしたものだという。「原点として、書いた絵が動くとか自分の想像が形になるってことがアニメだと思ったんで、それをストレートに表現しました。改めて、アニメーションっていいなと思いましたね」と笑いながら話してくれた。そして「元々アニメーションって言葉自体が「アニミズム」からきています。アニメイトする、つまり「命を与える」ということだから、生命力をもう復活したいなって、そんな気持ちはありましたね」と、そうした狙いがあったことも話してくれた。

「マクロスF(フロンティア)」

 この作品では、総人口1,000万人規模の大規模移民船団が登場するが、その半数が暮らす旗艦「アイランドワン」が、ドームに覆われた温室のようなデザインをしていた。そのことについて河森氏は「自分を含めた日本人って、温室のような場所に住んでいるな、と。すごいテクノロジーに介助してもらって、ようやく生かされている。そんな状況に「バジュラ」という外敵が現れて、ビニールハウスが破られて外界に触れてしまう。その時に何が起きるの? というのを、アイドルの歌に乗せて贈るみたいな(笑)、テーマとエンターテイメントとの間に極端なギャップがありますね」と、作品で表現したかったことを語った。続けてタイトルに「フロンティア」を入れた理由について、ネイティブアメリカンとコロンブスの関係になぞらえたうえで、「作品をご覧になった方はわかるでしょうが、実は「バジュラ」って、開発・侵略される側なんです。主人公たちが彼らのテリトリーを侵略しにいく物語だから「フロンティア」と付けたんです」と説明してくれた。

 さらに「マクロスF」で歌があってバルキリーがあって、三角関係があるという、シリーズの原点とも言うべきオーソドックスな形になったことについては、「25周年なんで区切りという意味と、「マクロス」の新作をやると決まった時に周囲から「もう「マクロス7」より変えないでくれ」、「「アクエリオン」より変えないでくれ」と言われて、まぁちょうど「アクエリオン」でバカなことをやり切ったんで、正統派なエンターテイメント路線に戻してもいいかなと思って」というのが理由のようだ。また、もしも「創聖のアクエリオン」を作っていなかったとしたら、と仮定した上で「ひょっとしたら“アルト”は裸でバルキリーを操縦したり、変形しながら「気持ちいい!!」って言っていたかもしれません(会場笑)」とのことだった。

 ここで吉田アナが「マクロスF」の映画化について切り出すと、「元々「マクロス」のコンセプト自体が、「自分たちの生活の中に戦争が入ってきたら?」、「自分たちが生活するために別の生態系に侵略戦争を仕掛けたら?」というものなんですね。でも、現代人は皆、その侵略戦争を継続しているということを忘れてしまっているので、それを体感できないかなと思って作ったんです。そのためには、なるべく大画面・大音響でやった方が感覚的に伝わるのでは? と。頭でいくら伝わっても意味はなくて、身体まで伝わらないとつまらないので、できれば劇場版は、最初は必ず劇場の大きい画面で見てほしいです」と、映画の大スクリーンを作品作りの一部として取り入れていると説明した。そんな劇場版は、現在鋭意製作中とのこと。

 ここで映像は終了。河森氏は、これまでの取材で何度も味わってきたカルチャーショックについて「(ファンにも)作品を見ている最中に、カルチャーショックを味わってもらえたら最高ですね。もしその中の何人かでも、僕が行ったような場所や、行けないようなもっと変わった場所を訪れて、――その時、モノの見方が必ず変わると思いますが――その変わった目線でもう1回日本を見たり、僕の作品を見てもらえると、まったく違う楽しみ方ができると思います。そのように設計しているんですよ」と語ったうえで、自分の作品や創作のメソッドについて「そう設計しないと、まだ自分の実力だと頭と身体と魂をつなぐようなものって表現し切れないかもしれない。ただ、それらがつながった瞬間に感じる感覚の広がりみたいなモノこそが、真のエンターテイメントだと思っています。これを「時限爆弾方式」とか「時間差エンターテイメント」と呼んでいるんですけど、なにも「画面を見ている最中だけのエンターテイメントじゃなくてもいいんじゃないか」という実験をやっているつもりなんです」と語った。

 最後に河森氏は、今後の仕事について「「マクロスF」の劇場版は決まっているんですけど、他にも大量に新作準備中なんです。こんなに企画が重なって進行することなんて滅多にないんですが(笑)」と笑いながら話していたが、そのせいもあってか「取材がしたいから仕事をしている」というほどの取材好きなのになかなか取材に行けないことを、ちょっぴりもどかしそうに語っていた。そして、観客へ感謝を述べて、拍手の中会場を後にした。

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