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2010年6月23日(水)

PSP『ナルキッソス』プレイレポ――“死”を前にして、若人たちは何を思う……?

文:電撃オンライン

 こんにちは、ここ数日で涙を流しすぎて目が充血しっ放しのミントです。言っておきますが、フラれたとかではありません。今回プレイレポートをお届けする、角川書店から6月24日に発売されるPSP用ノベル『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』をプレイしていたからですっ!

 本作は、全世界で100万回以上のダウンロードを記録した同人ゲーム『ナルキッソス』シリーズに、新規シナリオやキャラクターボイス、イベントCGなどさまざまな要素を追加したPSP移植作品。3部作となっている原作が、すべてリフォームしたうえで収録されています。かなり大幅な改良&追加がされているので、原作をプレイ済みの人でも、新たな気分で遊べる作品に仕上がっていますよ。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』 『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲こちらがタイトル画面と、タイトルとなっているナルキッソス(水仙)。ナルキッソスという花の名前はギリシャ神話のナルシスにちなんでいて、本作のタイトルもそれが関係しているみたいです。

■死との向き合い方を考えさせられる、3章仕立てのストーリー

 シナリオを担当しているのは、『銀色』を始めとする名作の数々を生み出した、美少女ゲームメーカー・ねこねこソフトで知られる片岡ともさん。片岡さんの手掛ける作品といえば、死生観を語った胸を締め付けられるような物語が人気ですね。本作では、患者の間でのみ伝えられてきた“7つのルール”が存在する終末医療病棟“ホスピス”を舞台に、患者や医師たちが死と向きあう切ない人間ドラマが描かれ、“死を目前にした人は何を思い、何を願うのか?”、“周囲にいる人たちはどのように振る舞い、何をしてあげるべきなのか?”と考えさせられる、奥深いシナリオになっています。

 本編は全3章で構成され、第1章を起点に、第2章、そして最終章と過去に遡(さかのぼ)っていく形式で物語が展開。章ごとに登場人物も時間軸も異なっているのですが、すべてが合わさって1つの壮大な作品を作り上げています。また伏線の張り方も見事で、1つの章を終えると別の章をもう一度やりたくなる不思議な魔力がありますよ! それでは、そんな3つの章の具体的なストーリーとヒロインをご紹介していきましょう。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』 『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲映画の字幕のような形で表示される淡白なテキストも、本作の雰囲気作りに一役買っているのではないでしょうか。また、1人称の視点が時折変わっていくシナリオ構成&ギミックになっていますので、話に付いていけなくなった時はバックログで誰視点で語られているか見るといいかもしれません。

【第1章】“命の出会いと別れの2人”

 突如不治の病であることが発覚した少年・阿東優(あとうゆう)と、彼と同じホスピスで以前から暮らしている女性・佐倉瀬津美(さくらせつみ)の逃走劇。病室で死を待つだけの日々を送っていた彼らは、ある日急な衝動に駆られて優の父親の車を盗み、行くあてのない旅に出ます。徐々に心を通わせながら旅路を歩んでいく2人ですが、その先に待ち受けているのは避けられない別れで……。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』 『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲第1章は、序盤こそホスピスが舞台になるものの、脱走してからはほぼ車内で話が進みます。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』

●佐倉瀬津美(さくらせつみ)CV:江上リノ

 ただ1人全編に登場する、本作のメインヒロイン的存在。無口でほとんど感情を出さない、小中学生のような見た目の22歳。幼いころから入退院を繰り返してきたせいで、望みやあこがれを持つことを諦めてしまっています。優と出会ってすぐは淡々としていますが、旅の中でさまざまな経験をしていくうちに女の子らしさが出てきて、そのため話が進んでいくにつれてどんどん愛おしくなっていきます。

【第2章】“死ぬまでにやっておきたい10のこと”

 1章から遡ること6年――瀬津美の生き方に大きな影響を与えたホスピス患者・篠原姫子(しのはらひめこ)の入院生活をつづった物語です。自分が不治の病だと発覚しても、まったく気にする様子もない姫子。ある日、姫子は瀬津美という年の離れた女の子と友だちになり、毎日のように会いにきてくれる彼女と気ままな日々を送ります。そして、やがて死期が近づいてきたころ、姫子は瀬津美に付き合ってもらい“死ぬまでにやっておきたい10のこと”を終わらせることに。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』 『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲年の離れた友だちが欲しかったというのも本当ですが、姫子が瀬津美と親密になった本当の理由は、彼女がホスピスで働いていたころのある経験によるもので……。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』

●篠原姫子(しのはらひめこ)CV:柳瀬なつみ

 底抜けに明るい性格で、面倒見もいい優しい女性。普段はちょっぴりオカシな言動が目立ちますが、ここぞという時は凛(りん)とするカッコイイ一面もあります。赤いロードスターを愛車に持つ車好きで、女性なのにスポーツカーを整備・運転する姿がすごくピッタリ。それにしても、やっておきたいことの1つが“パイナップルの木の真実”を突き止めることって(笑)。

【最終章】“ルールは誰のために”

 第2章からさらに二十数年前、ホスピスで受け継がれる“7つのルール”のルーツを回想形式でつづった物語。家業の老人ホームの手伝いに励む少年・博史は、学校を休みがちになって留年します。そんな時、彼は病気のため留年した元クラスメートの陽子と打ち解け、いつしか付き合い始めます。そして、老人ホームのために医師を目指し始める彼女を応援する博史でしたが、陽子が体調を崩しがちになり、その目標は博史が受け継ぐことに……。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』 『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲長期にわたる上京生活の末に医師となった博史ですが、久々に再会した陽子は、明るかった昔の面影がなくなっていたのでした。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』

●日下陽子(くさかようこ)CV:友永朱音

 長い入院生活のせいで若干人見知りがちですが、天真爛漫な性格の持ち主です。ノリがいいおちゃめなキャラで、博史との恋愛沙汰となると子悪魔的になることも。趣味はTVを見ることで、ドーナツをはじめとしたお菓子作りが得意。

 また、本作にはこれら本編3章の他に、各章のエピローグと4つの外伝が用意されています。エピローグはヒロインの死後に残された人たちの後日談、外伝は本筋とは少しかけ離れた物語(第1章の裏で巻き起こったもう1つの事件など)となっていて、これらもまた本作の世界を広げています。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲プロローグを入れると、シナリオは合計で11個あります。クリアまでは大体、本編と外伝が各章につき6時間くらい、エピローグが各3時間くらいでした。中身が濃密なのはもちろん、ボリュームもたっぷりです。

■感動を激増させる、趣向を凝らした演出

 シナリオもさることながら、見せ場となるシーンの演出が光る本作。音楽、音声、グラフィックの3つが合わさって、深い感傷にひたれるムードが作られているのです。

●歌姫たちが切なく歌い上げられたサウンド

 ピアノ、バイオリン、フルートが主体のしっとりした楽曲が、物語のさまざまな雰囲気と絶妙にマッチしていています。シリアスなシーンの曲は特に心に響いてきて、eufoniusさんや彩羅さん、KAKOさんといった歌姫たちのボーカル曲や、美しいバックコーラス付きのBGMが流れる時などは、何度背筋がゾクゾクとしたことか……。公式サイトでボーカル曲の1つが聴けるムービーが視聴できますので、ぜひ一度ご覧ください。

●キャラクターの心がにじみ出るボイス

 PSP版には、豪華声優陣のキャラクターボイスが追加されているのですが、どの台詞も情感たっぷりでキャラクターたちの心情がヒシヒシと伝わってきます。ワタシとしては、1章での優(CV:中村圭佑さん)と瀬津美の掛け合いが超オススメ。人生を諦観したような淡々とした会話を聞いていると、胸がギュッと締め付けられるようです。

●臨場感たっぷりにストーリーを彩るグラフィック

 原作では数点しかなかったイベントCGが約100枚も追加、また背景だけだったゲーム画面に立ち絵が追加され、臨場感が大幅に増しました。また、イベントCGの中に、あえて表情が隠されているものがいくつかあるのですが、それが無性に期待と感動をあおるんですよね。それがもっとも実感できるのがおそらく第1章で、最後のCG1枚だけで晴れ晴れした気分にしてくれました。

『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』 『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
▲楽曲の数は全部で50以上! 本編で一度聴いた曲は、タイトル画面の“おまけ”からいつでも聴けるようになります。▲2人で写真を撮る際に挿入されるイベントCG。この時2人がどんな表情をしていたのか……それはプレイヤーの想像に委ねられるのです。

■このゲームは、アナタの人生観を変えてくれるかもしれません

 不幸な境遇を知って泣いて、嘆き悲しむ心の声を聞いて泣いて、死と向き合う姿を見て泣いて、数え切れないほど泣かされました。この物語は、ヒロインの死を免れられない“悲劇”であり、ほとんどが悲涙だったのは確かです。ですが、最後に流した涙は間違いなく感涙でした。悲劇でありながら最後は晴れ晴れとした気分になれる。本作は、そんな無常なのに後味のスッキリした“泣きゲー”です。――が、ただ感動して終わりという作品には留まりません。

 泣けるゲームをプレイしたいという人にオススメなのはもちろんですが、個人的には興味の有無にかかわらず、あらゆる人にプレイしてもらいたいですね。(ミント)

(C)角川書店/HOBIBOX/ステージなな

データ

▼『ナルキッソス~もしも明日があるなら~Portable』
■メーカー:角川書店
■対応機種:PSP
■ジャンル:AVG
■発売日:2010年6月24日予定
■価格:通常版 5,040円(税込)/DXパック 6,090円(税込)
 
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