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2010年10月19日(火)

【『ソラトロボ』インタビューVol.1】長年温めた作品への想い

文:電撃オンライン

『電撃ゲームス』

 バンダイナムコゲームスから10月28日に発売される、DS用ソフト『Solatorobo それからCODAへ(以下、ソラトロボ)』。『電撃ゲームス』(アスキー・メディアワークス刊)に掲載された、本作の連載インタビューを電撃オンラインでお届け。Vol.1では、松山洋氏と中田理生氏に『ソラトロボ』への想いをたっぷりと伺った。

※インタビューの文章は『電撃ゲームス』4月23日発売号で掲載した内容に一部修正を加えたもの。インタビュー中の名前は敬称略。

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【『ソラトロボ』インタビューVol.1】

エグゼクティブディレクター
松山洋氏(写真左)
 サイバーコネクトツー社長。『ソラトロボ』のストーリーや世界観などの細部の設定をはじめ、全体のディレクションなど多岐にわたり制作に携わる。

プロデューサー
中田理生氏(写真右)
 バンダイナムコゲームス所属。『.hack』シリーズなどで、サイバーコネクトツーとコンビを組んで多くの作品を世に送り出している。


●“空想科学世界”を愛するプレイヤーのど真ん中に訴えかける熱い作品

【『ソラトロボ』インタビューVol.1】

――まずは、DSオリジナルタイトルである『ソラトロボ』の開発に至るまでの経緯を教えてください。

中田:DSの普及によって、ライトユーザーの皆様でも楽しめる新たなジャンルのゲームが数多く生まれました。でも、DSにおいて“ゲームらしいゲーム”のヒット作はあまり多くありません。そこで、“いかにもゲームらしい王道のA・RPG”をユーザーの皆様に提供したいと考えました。その考えと、DSというハードでの展開に合うと思ったのが、この『ソラトロボ』の企画だったんです。

松山:サイバーコネクト(当時)が最初に開発した『テイルコンチェルト』が終わってから、ずっとやりたいと思っていたんです。企画も何度か出したんですが、なかなか機会に恵まれず……。でもこの企画は、実は無記名投票で順位を決める社内コンペで2回も1位に輝いた作品なんです。それは間違いなく、次の作品候補になるものじゃないですか。作りたい人間がいて、スタッフもそれを支持してくれる。そんな状況でしたので、企画を動かすしかないなと(笑)。

――満を持して制作が決まったわけですね。そんな本作のコンセプトはどんなものなのでしょうか?

松山:これまでのサイバーコネクトツー開発のゲームのポリシーには“ゲームソフトは子どものもの”というのがあります。まあ私は、マンガ雑誌を月60冊読んだり、移動中にPSPに入れたアニメを倍速で片っ端から見たりするような異常中の異常なんですが(笑)。我々はそんな自分たちと同じようにアニメやゲームの影響を受けている人たちや、子どもの心を忘れない人たちのハートのど真ん中を突く“空想科学世界”を描く作品を作りたくて。絵空事でしか起こらないことを、ゲームで表現したいんです。最近のゲームはジャンルも増え、選択の幅も広がりました。でも私たちは、ゲームらしいゲームで勝負をしたい。そんな情熱を、この作品に込めています。

――その熱い思いは、膨大なページ数の本作の設定資料を拝見しただけも十分に伝わってきました!

松山:ゲーム開発の最初の1年は、設定だけを作り込んでいましたからね(笑)。「どんな長編アニメシリーズを作る気だ!」というぐらい、本当に細かく。

――設定画を拝見すると、街並みや機械のデザインがどこか懐かしく、レトロな印象を受けます。この絶妙な雰囲気にしたのは、何かこだわりが?

松山:好きなんです(笑)。もっとSF色を強くすると下品になるし、ほんわかさせすぎるとヌルくなってしまう。私が作りたいものは、人の生死もちゃんと描く“刀で斬られると血が出る本格派の世界”であって、“ファンタジーだけの世界”にはしたくなかった。ですから、この寸止め的なバランスで勝負しようと思いました。かつて、そんな世界観について、バンダイナムコゲームスのいろいろなプロデューサーの方に意見をいただく機会があったんです。すると『ソラトロボ』には、3つの問題があると言われたんですよ。1つはロボ。これについては少年はいいけど、女の子たちがついて来れない。2つ目はケモノ。脇役として登場させるのはいいけど、全員がケモノの世界は、尖りすぎているだろうと。3つ目は浮遊大陸。大地が浮いたままの世界観で、大ヒットしている作品はこれまでにないと。この作品はどれだけ十字架を背負っているんだと言われまして(笑)。でもこれだけのことを言われると、逆に手応えのようなものさえ感じちゃいますよね。この感想を受けて、そのまま突き抜けて作ることに決めました。

――そんなこだわりのポイントの1つであるケモノには、何か思い入れがあるのでしょうか?

松山:好きなんです(笑)。アニメ『名探偵ホームズ』が本当に大好きで、主題歌も歌えるし、今でも定期的に見返してます。そういう“オイシイ作品”を見て育ったので、こういう大人になったんだと思いますし。

中田:でも、企画を進める上で、最後の関門になったのもケモノという設定でしたね。他の設定は調整したり、表現を変えて押し通したりしましたが、ケモノだけは、本当に難航しました。社内でも「他は全部オーダーを聞くから、主人公だけは人間にしてみたらどう?」という意見も出たほどです。会社と松山さんで「鼻をとろう」「イヤです」「なんで?」「カッコイイからです」なんてやりとりもありましたね。

松山:「この鼻が出ているのがイイんです!」という話を冗談抜きで本気でしました。その時は、「これは平行線をたどるかもな……」とも思いましたけど。ただ、世間にはカッコいいだけの少年の主人公がたくさんいるので、この設定については最後まで曲げませんでした。

――松山さんはケモノにかなりのこだわりがあるようですが、理想のケモノ像はどんなものでしょうか?

松山:全身や生態はいかにもケモノで、二足歩行ができるスタイルがイイです。犬タイプなら、鼻が前にグッとせり出していないとイヤ。本作では、毛むくじゃらになるように、デザイナーに細かく指示を出しましたね。猫については、鼻があまり出ていないぶん、首回りのふさっとした毛でケモノらしさを表現してもらいました。

中田:ケモノを登場させる件で最終的な論点となったのも、鼻をどうするかでした。「耳も毛もいいけど、鼻をとって」と言われた松山さんは、逆に「耳も毛もいらないけど、鼻だけは残してくれ」と主張していましたね。

松山:ケモナーとしての愛が詰まっている部分なので、力説しました。まあ、理屈じゃないんですけど(笑)。


●ルーツをストーリーのテーマに設定の細部まで想像を広げられる世界観

【『ソラトロボ』インタビューVol.1】

――本作のストーリーのテーマを教えてください。

松山:大きなテーマは、“自分の起源(ルーツ)を探す冒険譚”です。ルーツとは、その言葉の通り、物事をたどっていくこと。そして世界観は、ほんわかしているように見えて、実はハードなSF世界であるという2段構えにしようと考えました。「○○に見えるけど、本当は××」というような感じですね。

中田:そのテーマとストーリーラインは企画段階から好評でした。骨太で筋の通った世界観に、納得のいく結末。でもこの骨組みには問題がないけど、“皮”にあたるケモノや浮遊大陸の設定で引っかかってしまって……。尖った設定は諸刃なところがありますからね。厚くする部分と、削る部分のちょうどいい落としどころを見つけるのに苦労しました。その試行錯誤の結果は、外部のスタッフである結城信輝氏(キャラクターデザイン)や谷口欣孝氏(メカニックイラストレーション)に参加を要請するなどして、いい方向に進んだと思います。

――ルーツというテーマは、設定やストーリーを深読みするマニアにはたまらないものがありますよね!

松山:私が子どものころに見たロボットアニメはそれ単体でもおもしろかったのですが、アニメ誌を見ると「このロボにはこんな設定が!」とか「アニメでは出てないけど、こんな世界観になっている!」とか、インタビューなどを通じて、もっと内容を掘り下げることができたんです。私はそれを読むのが、本当に大好きで! だから『ソラトロボ』でも、そういう部分もたっぷり遊んでもらいたいと思ったんです。本作は、自分たちが楽しんでいたことを次世代の人々にも味わってもらいたいという、ある意味で我々からの提案のつもりです。だからキャラの言動やデザインにも、さまざまな伏線を準備していますよ。たとえば、主人公の愛機であるダハーカの正式名称は、DAHAK-AZI03(ダハーカ アジゼロスリー)というのですが、「なぜ主人公のロボなのに、ナンバーが03なのか?」とか「他にも同じシリーズの機体があるの?」といった感じで、1つの情報からいろいろなことが推理できるんです。そういう情報は本当にたくさんあるので、発売前でも情報は惜しむことなく放出していく予定です。ただ、ゲーム画面から想像をふくらませるという楽しみもあると思うんですよ。ですから、大量に設定を作ってはいますが、あえて設定を公開せずに、画面から匂わせる程度にしているものもあります。世界を動き回る中で、いろいろなことがうかがい知れるようになっていますので、発売後はぜひニヤニヤしながら本作の世界を歩き回ってほしいなと思います。

――それでは、キャラクターについて伺います。主人公のレッドはどのようにして作られたのですか?

松山:企画の当初から、レッドは劇的な成長をしない、つまりブレない主人公にしたかったんです。作品の軸は、世界の謎やルーツを楽しんでもらうことですので、そこに主人公の成長というテーマまで入れると、要素が多くなりすぎてユーザーの方が何を楽しめばいいのかわからなくなってしまうんですよ。そのため、あえて思い悩むタイプの主人公ではなく、芯の通った“昭和時代のアニメに登場する主人公のようなタイプ”にしました。

中田:本作は設定だけでも、十分に尖っている作品ですから、主人公の性格を王道にして、全体とのバランスを取ったという側面もあります。口調にしても性格にしても、他のキャラクターと並んだ時にひと目で主人公とわかってもらえるように作っていきました。

――そんな彼の性格を考えると、ストーリーは冒険活劇的な内容になるのでしょうか?

松山:冒険活劇であることに間違いはありません。でも、雑誌の記事などで受けた印象と、実際にプレイしたときの感想は変わると思います。いい意味で、皆さんの期待を裏切ることになるでしょうね。たぶん「そんな話だったの?」と驚かれるような展開になります。入口が王道でも、出口が必ずそうとは限りませんよ。

――ストーリーのカギを握っていそうな謎のネコヒトのエルは、どんな人物なのでしょうか?

松山:レッドの生活に、非日常を連れてくる存在ですね。ストーリーの最初のほうで、さっそく驚かされる展開が待っていますよ。レッドは、壮大な冒険をこの人物と一緒に進めていくことになります。

中田:その他のキャラクターについては、悪役とかライバルとか、パッと見ですぐにどんな配役なのかがわかるようなデザインを心がけていますね。

松山:でも“何事にも、表と裏がある世界”ですから。彼らも、見た目はこうだけど、実は……という部分を必ず用意しているので、ご期待ください!


●爽快感とスリルを味わえるアクションとDSの限界に迫る映像表現へのこだわり

【『ソラトロボ』インタビューVol.1】

――システムについて伺います。本作はロボが登場するとのことですが、アクションの見どころは?

松山:世の中には、ロボが活躍する作品も、ヒトが剣を持って戦う作品もたくさんあります。ですから、銃火器でハデな銃撃戦をするような感じではなく、何かをつかんで投げるといった特色のあるアクションを目指しました。それに合わせて、アクションの軸になるダハーカの腕は、“強く・長く・フレキシブルに動く”ような、蛇腹(ジャバラ)のついたデザインにしました。

中田:ロボに乗っている時と降りた時のアクションを分けて、プレイヤーがどちらの状態でアクションを行うか考えながら進める遊びも用意しました。ロボアクションでは、モノを壊す、投げるといったオフェンシブな爽快感を、ヒトアクションでは、かわす、逃げるといったスリル感を味わえます。このように、A・RPGの醍醐味はひと通り楽しめるはずですよ。

――美しい背景を実現する“パースマップ”は、どのような経緯で採用されたのでしょうか?

松山:どうしても映像で“DSの中にスゴイ世界が詰まっている感じ”を出したかったんですね。そう考えて映像表現を模索するうちに、あるアニメの表現に感銘を受けまして、「これなら行ける!」と決めました。

中田:ゲーム内容のチェックをするためのシステムの試作は、このパースマップが最初でしたね。DSで表現できるビジュアルの最高到達点を測る意味でも、まずこれを作り込んでいきました。結果として狙いどおりに美しい背景が完成して、周囲の反応も好評でしたね。

――もう1つの新たな演出の“モーションイラストデモ”とは、いったいどのようなものでしょう?

松山:DSのデモだからといって、1枚絵を出してBGMとテキストで解説するのは味気ないなと感じていまして。だからといって、ポリゴンを動かそうにも、複数のキャラを動かすのはハード的に厳しいんですね。そこで、1枚のイラストを盛り上がった土台に貼りつけて、画面がちょっと立体的に見えるようにしてみたんです。そこに、角度をつけたり、動きをつけたりと試行錯誤しつつ、絶妙な“2.5次元”な表現を作り上げました。それで最初にできたのが、エルが眠っているシーンです。これを周囲に見せたら非常に反応がよかったので、他のシーンも合わせて全部作り直しました。実際にDSで絵が動いているのを見たら、「おっ!?」となると思いますよ。

【『ソラトロボ』インタビューVol.1】

――お話を聞いていたら、ほんわかした第一印象に反して、かなり硬派なゲームに思えてきました!

松山:パッと見た時のほんわかさだけでは、私は燃えないんです。名探偵ホームズも、作り込まれたロンドンの街並みや、本格的なミステリーがあったからこそのめり込めた。ですから、雰囲気がいいだけのゲーム内容ではなく、ストーリーもシステムも細部までこだわって作っています。我々のような空想科学世界を愛するすべての人に楽しんでもらいたい作品ですね。

中田:“世界創生”や“起源(ルーツ)”の謎に迫る……と聞いて、ニヤッとしてしまうマニアック志向の方には特に期待していただきたいですね。とはいえ、もちろんゲームとしてよくできているので、小学生が手にとっても全然遊べるようになっていますよ。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

中田:DSでできることの限界を意識して作ってきたので、見た目はほんわかしていますが大作です。良質なACTであり、やり込み要素もあります。そして、世界観を構築するために最高のクリエイターが集まりました。ぜひ質的にも量的にも期待していただければと思います!

松山:子どものころ、アニメでもマンガでも、1つの作品にいつまでも酔いしれていた経験はありませんか? 翌週の掲載や放送まで、設定や展開について友だちと休み時間に盛り上がっていたころの感覚を思い出してほしいです。本作はそんな楽しみ方をしてもらうために、過剰ともいえるほど設定を作り込んでいます。我々と同じマニアックな方が遊べば、お腹いっぱい楽しめると思いますよ。続報も含め、発売を楽しみにお待ちください!

→10月21日掲載のVol.2では、プランナー野口泰弘氏が『ソラトロボ』の世界を語る!

(C)2010 NBGI

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