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2011年1月6日(木)

ローテーションバトル誕生のきっかけとは? PSP『V&B』川島Pインタビュー 前編

文:ごえモン

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――PSP版を開発する上で、調整や変更はされたのでしょうか?

 難易度という意味で言うと、私がプレイしていた『7』のプロトタイプと比べると、『ヴィーナス&ブレイブス』は5倍簡単です。『7』の難易度は、「これがベストだ!」と考えて設定したプロトタイプの難易度を、半分にして発売したんです。『ヴィーナス&ブレイブス』はそれよりも簡単にして発売したのですが、お客さんからは「難しい」というご意見をいただいて……。

 私は世代交代ゲームを日本でもっともプレイしていると思うので大丈夫ですが、お客さんには世代交代のマネジメントを気軽に楽しんでいただければと思いまして、PSP版では難易度の変更を初めて入れました。“イージー”、“ノーマル”、“ハード”と言葉にしてしまうと簡単ですが、この難易度調整はすごい難しいんです。ただ単にパラメータをいじっても、“イージー”、“ノーマル”、“ハード”という難易度は作れないんですね。なぜかというと、『ヴィーナス&ブレイブス』はパラメータが異常に多いのと、そのパラメータによって引き起こされる状況が非常に多いので、単純に“敵のヒットポイントを下げればいい”とか“予測安全値の減り方を変えればいい”というのでは、調整ができません。なので、意外と時間をかけて難易度選択ができるように調整しています。作り手としては、ぜひ“ハード”で遊んでいただきたいですね(笑)。

――その“ハード”は、プロトタイプの作品と同じくらいの難易度なんですか? またPS2版の難易度と“ノーマル”は同じなのでしょうか?

 “ハード”は、それでもプロトタイプの半分くらいの難易度ですね。“ノーマル”はPS2版と同じ難易度になっています。“イージー”はかなり簡単にしたつもりです。

――“ハード”を20年プレイしてみましたが、ちょっと難しかったです。

 “ハード”は難しいですよね? でも、あれ簡単なんです(笑)。私や最初に一緒に作っていたプログラマーが遊んでいた難易度は、20年続かないですから。20年でほとんど詰むんですが、あるやり方をすると20年を越えられるんですよ。

――その“あるやり方”というのは?

 ヘタなプレイヤーは、衰退したら団員をクビにするんです。普通のプレイヤーは、若い団員を仲間にして、素質を見極めた上で厳選していきます。これが大半のプレイヤーのやり方だと思います。でも、うまい人は“ピークになったら”クビにします。“今を生きながら、今のことはあんまり見ていない”んです。常に先を見てプレイしていて、その先のスパンがどれくらいかがポイントなんです。

 ピークになったり、状況がよくなったりするというのは衰退の兆しです。なので、そうなる前にクビにしていかなければなりません。でも、それってものすごく難しいことですよね? 『ヴィーナス&ブレイブス』には招喚精霊が出てきますが、あれ、私からすると罠なんです(笑)。あれができると皆さんはうれしいはずです。でも、招喚精霊が出せるということは、次の世代に危機が必ず訪れるんです。そのぶん世代交代のことを考えなくなるはずですから。

『ヴィーナス&ブレイブス ~魔女と女神と滅びの予言~』
▲団員間で友情が芽生えることで、強力な招喚精霊が使用可能になる。

 なので、“ブレイブス・レジェンドモード”で『テイルズ オブ』シリーズのキャラクターに術技をもらえますが、あれは危ないですね。あれも罠なんですよ。『テイルズ オブ』キャラクターの術技は強いですけど、覚えてしまうと頼ってしまいます。なので『テイルズ オブ』キャラクターのウワサが酒場で出ても、私はスルーします。帰り道にあったら寄ったりしますけどね(笑)。

 だから、本当にうまいプレイヤーはこういったボーナスは一切使わずに、ピークでクビにします。これを極めるとおもしろいのが、魔騎士をあっさりクビにするんです。なぜかというと、魔騎士がいると魔騎士に頼ってしまうから。なので、すごい才能があるキャラが仲間に入っても、そのキャラに頼らずにプレイできるかどうか? というゲームになってくるんです。

――深いですね。

『ヴィーナス&ブレイブス ~魔女と女神と滅びの予言~』
▲魔騎士などの強力なレア職業は、酒場に現れる確率がわずか1%しかない。

 深いんです。こいつはスターだから、こいつが入ってくると5年~10年後の騎士団に危機が訪れるとはなかなか思えません。むしろ魔騎士が入ってきたらガッツポーズをしますよね? 普通(笑)。でもスターを中心にデッキを組んでしまうと、そのスターが抜けた時につらくなってしまいますから、魔騎士はいるけど二軍においてデッキは僧侶で組む、なんてことを私は普通にやります。ゲームをしながらこういうことを考えられたのは、私の中でいい勉強になりました。野球チームもきっとそうなんでしょうね。スター選手が入ると、10年後のチームにものすごい危機が訪れるはずなんです。それは会社でも同じことだと思います。本当に強い組織は個人に頼らないのかもしれませんね。

――社会の縮図のようなゲームですね(笑)。社会人になった人などが7年ぶりにプレイすると、シナリオの見え方が違ってくるかもしれませんね。

 そこを感じていただきたいですね。このシナリオの見ていておもしろいところは、世界がどんどん滅びに向かって閉塞していった時に、主人公たちが協力を求めて世界中を回るんですが、誰からも協力されないんですよね。こういうシナリオが書かれているということは、当時の時代背景も関係しているんだろうなと。体感だと、今はもうちょっと閉塞している気がするので、本作をまったくプレイしていない人にとっては、今の物語のように楽しんでいただけるかもしれません。以前プレイされた人は「ブラッド・ボアルってやっぱりダメなやつだな」とか(笑)、逆に「本当はもっと違うことを考えていたんじゃないか?」とか、少し違う見え方ができるといいんじゃないかと思います。7年たちましたから、本当に結婚したり子どもが生まれた人もいると思いますし。

――川島さんはPSP版をプレイしてみていかがでした?

 私は恥ずかしくてしょうがなかったです。こんなだったっけ? って(笑)。ただ、いろいろと反省もしました。今は年を取ってしまったので、「これはこういうものだ」と自分で納得してしまうんですね。いい言い方をすると、まるくなったのかもしれませんが、30台前半で作った自分のゲームを改めて見ると、乱暴なところもあるんですよ。画面数が100画面くらいあるとか登場人物が5,000人いるとか、当時は勢いでやりきっていたんですね。そういうムダなエネルギーって、あってもいいんじゃないか? とPSP版をプレイしてかなり反省しました。

――PS2版はオンラインにつないでプレイできなかったので、PSPで手軽に全国の人と対戦したいです。アドホックでもいいのでできないでしょうか?(mjさん)

 オンライン対戦は、PSP版を作る上で検討はしました。実際にPSPのアドホックで対戦ができるので、仕様書まで切ってこういうことをやろう、というところまでやっていたのですが、止めました。率直に言うと、『ヴィーナス&ブレイブス』は対戦をするために作っているゲームではなくて、“自分の騎士団をいかに長い年月をかけて育成していくか”というゲームだと思うからです。対戦やキャラクターのトレードを入れてしまうと、その魅力の部分がスポイルされてしまうと、作っている最中に気が付きました。そうじゃなくて、先ほど言ったように“どうマネジメントしていくか”を楽しんでほしかったんです。

――PSP版ではストーリーモードのイベントは増えていますか?(ヒロさん)

 シナリオについては、私もシナリオを書くので追加したいとは思っていたのですが、追加してしまうと皆さんに怒られてしまうのではないか? と思いましたので枠としては用意していましたが、変えませんでした。また、PS2版を作っていた時は30台の前半ぐらいだったのですが、そのころのシナリオの見え方とやっぱりちょっと違うんです。なので、今の私がシナリオをいじるのは違うだろうと、あえて当時のままにしています。

――本作は、4×3の12マスで展開されるローテーションバトルが他の作品にはない特徴的な部分ですが、このシステムが生まれたきっかけはなんでしょうか?

 一番最初に『7』を考えた時はRTS(リアルタイムストラテジー)のようなシステムでした。マス目がなくて、リアルタイムに戦士たちがフィールド上で動いていて、勝手に補助をかけたり勝手に攻撃したり――というところに、間接的に命令を出せるというのを最初は考えていました。でも、リアルタイムで時間が流れる戦闘は作ってみて難易度がとても高かったのと、うまい戦い方が固定しやすかったのでやめました。自分で作ったので自信を持って言えるんですが、だんだんと1つの戦い方に修練していくんです。それがものすごくつまらなかった。

 それで、私ともう1人、もうお辞めになられたプログラマーの方と一緒に言い合ったのが、“簡単なルールであるほうがいい”、“簡単なルールでありながら必勝法がない”、“必勝法がないからこそ、戦闘方法にさまざまな流派ができる”という3つのことでした。「そんな3つの要素が合わさったシステムなんてないよ」と思っていたのですが、「それを考えるのが企画でしょ?」とその方に言われまして(笑)、その後悶々と何カ月か考えました。それで、昔Vリーグが流行っていた時に、私はバレーボールのゲームを作っていたんですね。結局そのプロジェクトは世に出なかったのですが……バレーボールって、ローテーションするじゃないですか? あとは『Wizardry 』がずっと好きで、『Wizardry 』は6人の男女が狭いダンジョンで隊列を組んでいるじゃないですか? でも、ゲームだからただの数値で表示されているだけなんですが、本当なら「お前、前に行けよ!」とか肘で押したりしているんだろうなとか、いろいろな人が得手不得手がある中で、お互い助け合えるシステムがいいよな、とか想像している時にあの仕組みになったんです。パッと「クルっと回ったらどうだろう?」となってからは早かったですね。なので、きっかけはバレーボールから始まっているんだと思います。

 その後は、3×5の15マスで作ってみたり、順番にキャラが動くのではなくて、リアルタイムで全キャラが動くようなシステムも作ってみました。でも、何をやっているかわからないんです(笑)。そこで、人間は5個以上のものが同時に動くとわからないって勉強になりましたよ。そんなふうに、作って試して作って試してを繰り返して今の形に落ち着いているので、そういう意味では、一番最初にプレイステーションでプロトタイプのゲームを作っていた1年間は、非常にいい期間になったと思います。

(C)2011 NBGI

データ

▼『ヴィーナス&ブレイブス ~魔女と女神と滅びの予言~』ダウンロード版
■メーカー:バンダイナムコゲームス
■対応機種:PSP
■ジャンル:S・RPG
■発売日:2011年1月20日
■価格:4,700円(税込)

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