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2011年1月13日(木)

【電撃ゲームス】松野泰己/宮部みゆき/米澤穂信が語る『オウガ』

文:電撃オンライン

『タクティクスオウガ 運命の輪』特別鼎談
松野泰己×宮部みゆき×米澤穂信
『タクティクスオウガ』がくれたもの

 『タクティクスオウガ 運命の輪』発売を記念して『電撃ゲームス Vol.15』(11月26日発売/アスキー・メディアワークス刊)にて掲載した、開発者・松野泰己さんと、『タクティクスオウガ』の大ファンを公言されている作家・宮部みゆきさん、米澤穂信さんによる鼎談企画の前編を、電撃オンラインでお届け。

 さらにディープな内容に突入した鼎談の後編は、現在発売中の『電撃ゲームス Vol.16』にて掲載中。

松野泰己(Yasumi Matsuno)
 1965年、新潟県生まれ。『オウガバトルサーガ』シリーズのゲームデザイナー。お気に入りキャラはザパン。【代表作】『伝説のオウガバトル』や『タクティクスオウガ』などの『オウガ』シリーズの他、『ベイグラントストーリー』などがある。

宮部みゆき(Miyuki Miyabe)
 1960年東京都生まれ。ミステリ、ファンタジーから時代小説まで幅広く手掛ける人気作家。お気に入りキャラはジュヌーン。【代表作】『火車』『模倣犯』『ブレイブ・ストーリー』『あんじゅう』など著書多数。ゲーム好きなら、人気ゲームのノベライズ『ICO -霧の城-』は外せない。

米澤穂信(Honobu Yonezawa)
 1978年岐阜県生まれ。『オウガ』シリーズをこよなく愛する、気鋭のミステリ作家。お気に入りのキャラはカチュア。【代表作】ユーゴ紛争をモチーフにした『さよなら妖精』の他、『インシテミル』『ボトルネック』『古典部』シリーズ、『小市民』シリーズ、『S&R』シリーズなど。


「夢のようです」

 笑顔からこぼれ落ちるその言葉には、不思議な緊張感と静かな興奮とが満ち満ちていた。2人の小説家と1人のゲームデザイナー。世代も創るものもそれぞれに異なる3人が、同じセリフを口にして、幸せそうに微笑んでいる。互いに顔を合わせ語り合うこの時が、まるで夢のように思える、と。

 オリジナル版『タクティクスオウガ』がスーパーファミコンで発売されたのは、今からおよそ15年前の1995年。当時まだメジャーなジャンルとは言い難かった硬派なS・RPGでありながら、リアルタイムの概念を取り入れた斬新なバトルシステムと、ドラマチックかつ強い憂色が漂う世界観・物語で、多くの熱狂的なユーザーを獲得した名作だ。

 日本を代表するミステリ作家・宮部みゆきが大のゲーム好きであり“『タクティクスオウガ』の熱狂的ユーザー”の1人であることは、一部のファンには周知の事実。15年前の宮部は、どうやって松野泰己がゲームデザインを手がけた『タクティクスオウガ』に出会い、どうしてここまでのめりこんでしまったのか? そして『オウガ』が結んだ、人気ミステリ作家・米澤穂信との不思議な縁とは?

 15年前から廻りはじめていた、それぞれの“運命の輪”をたどる。

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松野泰己氏(以下、敬称略) 僕は宮部さんの小説も、米澤さんの小説も大好きで、いつも楽しみに新刊を買いに走るくらいです。そんな憧れのお2人が、今目の前にいらっしゃることが信じられないのですが……(笑)。

宮部みゆき氏(以下、敬称略) 私もいつか、松野さんにお会いできたらいいなぁと思っていたんです。「こんなに素晴らしいゲームを作ってくれてありがとう!」とお伝えしたかった。米澤さんも、きっと同じ想いじゃないかと。

米澤穂信氏(以下、敬称略) 『タクティクスオウガ』があったおかげで、宮部さんとの縁も生まれ、こういった場にも招いていただけた。とても不思議な気分です。

松野 そうまで言っていただいて、本当に恐縮です。心臓が痛いです(笑)。

宮部 この企画のお話をいただいたとき、真っ先に浮かんだのが米澤さんのことでした。米澤さんの御本を読んで、たまたま同じ編集者が担当だったので「(米澤さんは)ゲームする人かな?」と尋ねたんです。そうしたら「『タクティクスオウガ』というゲームが好きだと前にうかがったことがあります」って言われて、「本当ですかーっ!?」と(笑)。

米澤 担当さんご自身はゲームのこと、ご存じなかったんですよね。

宮部 そんなことはもうお構いなしですよ(笑)。私は、そのまま電話でまくしたてたんです。「今から言うことをすべてメモして、米澤さんにお伝えください。“私は今、14周したところです。全ルートをもちろん制覇して、ギルバルトのおっさんのエンディング(※1)も見て、全キャラを育て、全イベントも見ました”」

松野 すごい!(笑)

宮部 「“ただし、私は慎み深いヒトなので“死者の宮殿”は、毎回(最下層まで)2回までしか行かないことにしております。米澤さんはスナップドラゴン(※2)をいっぱい使っていますか?”以上のメッセージを漏らさずお伝えください」と(笑)。

※1 ギルバルトのおっさんのエンディング
 オリジナル版において、ある特定条件を満たした時にのみ発生する、特殊なエンディング。ギルバルトって誰だ? という人も多いと思うので、ここでは詳細を伏せておく。

※2 スナップドラゴン
 特別な手段で最強の武器を生み出すことのできる竜言語魔法のこと。正体を知らない人のために、やはり詳細は伏せておく。

米澤 「スナ……なんとかを使いますか、ということでしたが、わかりますか?」と伝わってきました(笑)。その話を担当さんから聞いた後に、ちょうど宮部さんと出版社のパーティでお会いする機会に恵まれて。

宮部 他の方々をそっちのけで『タクティクスオウガ』の話に夢中になっちゃったんですよ。その時「いつか松野さんに会えたらいいね」って話をしたんです。まさかこんな形でこの作品が生まれ変わって、お会いする機会に恵まれるなんて思ってもみませんでした。

米澤 本当にうれしいんですが、私は“死者の宮殿”を3周しかしていませんので、宮部さんに比べるとここにいていいのか、と……。

松野 いやいやいや!! 3周でも相当スゴイです。十分すぎます(笑)。

米澤 宮部さんは私よりはるかにお忙しいのに、どうやってプレイなさってるんだろうと不思議でしょうがありません。

宮部 それはもう、いろいろなことを放っておいて(笑)。

米澤 私は学生時代に図書室の連絡ノートで、知らない誰かが出題してくる詰め将棋ならぬ“詰めオウガ”を解いたりして、時間を費やした記憶はあるんですが。

松野 それもスゴイですね!

米澤 誰でも書いていい雑記帳みたいなもので、とりとめもないメッセージが書いてあるんですが、学校に別の熱狂的な『伝説のオウガバトル』ファンがいたんですね。ノートに「あなたのチーム編成は××です。敵のチーム編成は△△です。今、あなたはこのビーストテイマーのカリスマを維持し、アラインメントだけを下げなければビーストマスターになれません。その際にとるべき作戦を答えなさい」とか書いてあって。

宮部 すごい!!(笑)

米澤 答えを書いて、自分も出題して……みたいなことを繰り返して。最後の最後で相手が誰かわかって、直接話をしました。ウォーレンはクラスチェンジをさせないほうが強い、いやリッチまで育てたほうが強いとかで、大論争になった記憶があります(笑)。

松野 『オウガ』シリーズをそんなに遊んでいただいていたとは……本当に恐縮です。

ゲームを始めたきっかけは
綾辻行人のススメ

 さて、前述した米澤の疑念に話を戻してみよう。オリジナル版が発売された当時、すでに宮部は人気作家としての地位を確立し、目が回るような執筆の日々を送っていたはずだ。そんな彼女が、どうして(よりにもよって超時間泥棒の)『タクティクスオウガ』に触れるきっかけを得たというのだろう?

宮部 元々、私にゲームを勧めてくれたのは、作家の綾辻行人さんなんです。

松野 ええっ!

米澤 そうだったんですか!

宮部 書くものが増えてきて、ストレスがたまるって話をしたら「ゲームはどう? やってみると楽しいよ」と綾辻さんが勧めてくれたので、始めてみたんです。だから最初はどんなゲームを選べばいいのかわからなくて、ソフトを買う前には必ず綾辻さんに相談していました。『タクティクスオウガ』のオリジナル版が出る前に遊んでたゲームは2本。『トルネコの大冒険』と『スーパーメトロイド』しかクリアしていませんでした。

米澤 す、『スーパーメトロイド』をクリアなさったんですか!?(笑)

宮部 アイテム全部取って、2時間17分が私のベスト記録なのよ。

米澤 あれだって、そんなにヌルくはないのに……宮部さん本当にゲーマーだったんですね。じゃあ、人生で3作目のゲームが……。

宮部 そう、『タクティクスオウガ』だったの! ゲーム屋さんのポスターで、絵に一目ぼれしたんです。それで綾辻さんに、「『タクティクスオウガ』っておもしろそうなんだけど、どうかな?」と電話したら、「すごく難しいから、ほかのS・RPGからやってみたら?」と返された。だけど、その時に紹介されたどの作品より『タクティクスオウガ』のポスターが素敵すぎて、釘づけになってしまって。これがやりたい! って決意して、買って帰ったんです。

松野 プレイされていかがでしたか? すぐにクリアできましたか?

宮部 いえ、すごく難しくて、結局最初のエンディングを見るまで約1年かかりました。最終的にはデニムが××されるエンディングで、あっけにとられて10分くらい放心(笑)。私の1年なんだったの!? どこの選択肢を間違ってたの!? と必死に考えて「何か違うエンディングがあるはずだ!」と思い至りました。そこからはもう、完全攻略本を買い込んでまたプレイして、さらなる深みにハマったわけです(笑)。難しかったけど、ちゃんと地道に石を投げていれば(笑)、日々成長して強くなれる実感があったので、ものすごく楽しんでいました。米澤さんは発売当時、まだ学生さんでしたよね?

米澤 ちょうど受験期だったので、オリジナル版を買ったまましばらく放置していたんです。『伝説のオウガバトル』がすごくおもしろくてやりこんでいたので、期待感は強くありました。ですが、そうこうしているうちに移植でセガサターン版が出たので、そちらでプレイしてみたんです。

宮部 移植版って、オリジナル版と何か違う部分があったんですか?

米澤 ボイスが収録されてたんですよ。それはそれでよかったんですが、じつは当時セガサターン版のディスクをパソコンに入れると、スタッフさんのメッセージが見られるような仕様になっていたんです。プレイし終えてパソコンに入れてみると、そこにすごく気になることが書かれていました。

松野 すごく気になること……?

米澤 メッセージには「ボイスを収録した関係上、スーパーファミコン版とはストーリーが1カ所変わっている部分がある。スーパーファミコン版もぜひやってみてください」というようなことが書いてありました。そんなの、絶対に気になるじゃないですか(笑)。急いでスーパーファミコン版をひっぱり出してきてやり直しましたね。

宮部 ちなみに、変わっていた部分というのはそんなに大違いだったんですか?

米澤 すごく大事な場面が変わっていて驚きました。あるイベントでヴァイスが窮地に追い込まれて、助けを求めるシーンがありますよね? オリジナル版ではそこで「助けてくれッ!」のあと、ヴァイスが「デニムッ!」と叫ぶんです。セリフとしてしっかりデニムの名を呼ぶシナリオです。ところがセガサターン版では、フルボイスかつ主人公に自由に名前をつけられるシステムの性質上、大事な「デニムッ!」の部分が取られているんです。

宮部 それは……言葉の重みが全然違ってしまう変更ですね。

米澤 あのシーンでは、ヴァイスが助けを求めた相手がデニムだったというところに、愛憎の極まる一瞬があると思います。デニムの名前を呼ぶからこそ、あのヴァイスの弱くもろい人間性がにじみ出てくる。すごく小さな違いですけど、世界観的には非常に重要な違いと言えると思います。

宮部 言葉がとっても大事なゲームですからね。小さな言動や、敵キャラたちにつけられた二つ名など、さまざまな部分に強いこだわりがうかがえますし。

米澤 やはりオリジナル版を遊ぶべきだな、と痛感した出来事でした。

松野 ありがとうございます。そこまで言っていただけると、細かい部分にまでこだわった甲斐があります。

→モチーフとなった現実の紛争と“最後の敵”の理由(2ページ目へ)

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データ

▼『電撃ゲームス Vol.16』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2010年12月27日
■価格:650円(税込)
 
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