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2011年2月13日(日)

“数”をテーマに異能力バトルを描いた兎月山羊先生のインタビューをお届け!

文:電撃オンライン

 『アンチリテラルの数秘術師(アルケニスト)』(原題:『アンチリテラルの数学』)で第17回“電撃小説大賞”の銀賞を受賞した兎月山羊(うづき やぎ)先生のインタビューを歩届けする。

兎月山羊先生インタビュー

 『アンチリテラルの数秘術師』は、あらゆるものに数を見いだし、それを書き換えることでさまざまなことができる異能力者“数秘術師(アルケニスト)”と、同じく数にまつわる異能で人々に害をもたらす“災厄の数(アルヘトス)”の戦いを描いた作品。そんな本作を書いた兎月先生と担当編集に、執筆に至った経緯などを伺ってみたので、ぜひご覧いただきたい。

■ 先輩作家からもらったアドバイスとは……? ■

広沢サカキ先生インタビュー
▲兎月山羊先生……ではなくこちらは13Bロータリーエンジンの写真。

――授賞式からだいぶ時間が経ちましたけれど、今はもう落ち着きましたか?

兎月:そうですね。授賞式の時は本当に緊張していて、何がなんだかよくわからない状況でした(笑)。

担当編集:リハーサルの時に、感極まって泣いてしまってましたもんね。

兎月:ちょっとちょっとぉ、泣いてませんよ(笑)。泣いたりはしていないのですが、本番前に取材を受けたのが恥ずかしかったですね。当然ですが慣れていませんので……。「俺に質問してもおもしろくないぞ!」というオーラを必死で出していました(笑)。

――お疲れ様でした(笑)。その後のパーティなどでは先輩方と何かお話しされましたか?

兎月:おかゆまさき先生たちとお話しさせてもらいました。今後のアドバイス的な感じですね。

――どんなアドバイスをされたんですか?

兎月:おかゆ先生からは「作家同士の横のつながりも大事だけど、一番大事なのは編集者との縦のつながりだ!」と言われました。

――第16回の受賞者からプレゼントをいただいたそうですが?

兎月:ええ。それぞれのタイトルにちなんだものということで、私は電卓をいただきました。現在仕事などでバリバリ使わせてもらっています。

――と言うと、普段のお仕事は数字に関係したものなんですか?

兎月:そこまで厳密に数学的なものではないんですが、理系の仕事とだけ。

――作品に数学という要素を入れたのも、そういったご自身と関連の深いものを取り入れたということなんでしょうか?

兎月:そうですね。小さいころから電子工作などが好きで、浅く広くやっていたんです。今回の小説にも、そうしたものは反映されている気がします。

――どうしてこの作品を電撃大賞に送ろうと考えたんですか?

兎月:社会人になってから毎年趣味的な感じで送っていたんです。だいたい5年くらいでしょうか。もしも「万が一作家になれたらいいな」的な感じで(笑)。で、せっかく送るのなら一番応募数が多いところがいいかな、という単純な理由ですね。

――送っていた作品は、今作のように数学などのご自身に関連のあるテーマを取り入れたものだったんですか?

兎月:いえ、まったく関係ないものばかりでした。

■ 数学をテーマに取り入れた理由とは? ■

――ではなぜ、今回数学というテーマを取り入れようと思ったんでしょう?

兎月:とあるコミュニティで、私が技術的な分野にまつわることをメインにした日記を書いていて、「これを小説のネタにしたら?」というアドバイスをもらったんです。そこではたと「自分のベースにあるものを小説に持ち込んだことはなかったなぁ」と、思いまして。習作的なイメージで書き出したのが本作だったんです。

――なるほど。それで数学をテーマに選ばれたんですね。では、実際にそれを小説に落とし込む時に気をつけた点はありますか?

兎月:う~ん……。実はあまりありません(笑)。結構思いつきのまま、ひらめくままに書いている感じです。あ、けれど作中に登場する大概の用語は、実在するものからアイデアを取り入れてはいますね。

――実在するもの、ですか?

兎月:たとえば、本編にもピタゴラスの名前が出てきますが、彼は“世界は数でできている”という考えを教義にした新興宗教のようなもの――ピタゴラス教団を作り上げたんです。“世界は数でできている”というのなら、その数値をいじれるとしたらどうだろう? と。

――確かにそれは、本作のキャラクターたちが使う能力のベースになっている感じですね。

兎月:それと、この教団では世の中にある特定の数に意味を持たせていたんです。そのエッセンスも本作に生かされています。

――本作の舞台は、“東京内戦”という架空の内戦が起きた後の世界になっていますが、なぜそうした設定にしたんですか?

兎月:自然体で力強いキャラクターを描きたかったというのがあったんです。それには、普通で平和なだけの世の中だとちょっと違和感があると思ったんです。

■ 最大の敵“赤帽子”は兎月先生の願望から生まれた? ■

――お気に入りのキャラクターは?

兎月:なんと言っても主人公の誠一ですね。私が思う“カッコいい人物”を表現したつもりなので。それとやっぱり……ヒロインの雪名も(笑)。彼女も主人公を作った時と似ていて、強い女性を描きたくて作ったキャラクターだったんです。

――誠一は精神的に、雪名は物理的に強いキャラクターという印象ですね。

兎月:そうですね。先ほど似ていると言いましたが、どちらも似たように強いわけではなく、強さの質は変えてあります。お互いに足りないところを補うような感じで描いています。

――なるほど。それでは、他のキャラクターについてもお伺いします。本作で主人公たちの最大の敵として登場する“赤帽子(レッドハット)”は、どういう経緯で生まれてきたんですか?

兎月:“赤帽子”は、私が「こんな怪人いたらいいな」と思って作り出したキャラクターです(笑)。

――かなり恐ろしい印象なんですが、どのあたりが存在してほしかったんですか……?

兎月:これまでに私が何度も電撃大賞に投稿して落選していたこともあって、「私の願いを叶えてくれる怪人がいればな~」などと考えながらていたのが、たぶん誕生のキッカケになっています。“赤帽子”は人の願いを叶えられる怪人ですので。

――そういうことですか。

兎月:“赤帽子”にも、願いが叶えられる人と叶えられない人とがいるんですが……私くらいの願いなら、まだ叶えられる側なんじゃないかと(笑)。どういう人の願いが叶わないかは、ぜひ読んで確認してみてください。

――本作の世界観に関わりが深いであろうキャラクターとして、ディエゴというキャラクターもいますが、彼についてお話を聞かせていただけますか?

兎月:いくつかの目線から主人公たちを描きたかったというところがあるんです。誠一のクラスメイトや、女性刑事の秋月。言うとすれば、このあたりが“日常の世界”から主人公や作中で起きる事件をとらえています。ディエゴはそれらとは対極的に、異能力者として“裏の世界”から主人公たちを見ていることになります。

担当編集:登場シーンは決して多くはないですが、存在感のあるキャラクターになっているかと思います。

兎月:作中でも触れていますが、彼は“教団”という組織――これは、先に言ったピタゴラス教団にヒントを得たものなんですが――に属しています。「一般人は知られていないけれど、世の中にはこういう裏の面が広がっているんだよ」ということが、彼を通じてわかるかもしれません。

――“赤帽子”は“災厄の数(アルヘトス)”という脅威として登場しますが、ディエゴや彼の所属する“教団”は、それとはまた違った意味での不気味さを秘めているように思えます。

兎月:そうですね。この後の続きも執筆していますが、“教団”には大きな意味を持たせたいとは思っています。

――キャラクターについて伺ったところで、次は本作で思い入れがあるシーンを聞いてみたいと思います。

兎月:ラストシーンでの、誠一と雪名のやり取りですね。一見すれば明るいようであって、それなのに絶望的な話をしているようにも見える。けれど、話している本人たちは前向きな決意に満ちている――そんなシーンですので、ぜひ読んでもらいたいですね。

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データ

▼『アンチリテラルの数秘術師』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2011年2月10日
■定価:599円(税込)
 
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