2011年2月14日(月)
小説『はたらく魔王さま!』で、第17回電撃小説大賞銀賞を受賞した、和ヶ原聡司先生のインタビューを掲載する。
『はたらく魔王さま!』は、世界征服まであと一歩だった異世界の魔王が、日本の東京・笹塚に飛ばされてしまい、ファーストフード店でアルバイトをしながらの貧乏生活に悪戦苦闘する庶民派ファンタジー作品。魔王を追って日本にやってきた勇者エミリアなど、魔王を取り巻くキャラクターも個性派ぞろいだ。
電撃オンラインでは、この作品の著者・和ヶ原聡司先生にインタビューを行った。作品へのこだわりや入念な下調べなど、さまざまなお話が聞けたので、ぜひ作品とともにチェックしてほしい。
――まずは、この作品を書こうと思ったキッカケを教えてもらえますか?
当初、このもとになるお話を、自分のWebサイトで連載していたんです。たまたま同じ趣味を持っていた友人たちと、“魔王と勇者”をテーマにした物語を作ろうという話になって。それが好評だったので、電撃大賞の応募時期が合ったこともあり、応募に至りました。
――庶民派の魔王と勇者という着眼点が、とてもおもしろいなと思いました。
“なぜ魔王は世界征服をしようと思うんだろう”というのが、わりと昔からの疑問だったんです。人間だったら相手の国を攻めて資源や産業を奪うなどといった理由があるのですが、魔物が人間世界を襲うことになんの意味があるんだろうと。それがそもそもの始まりで、魔王はいつも何を食べているんだろうとか、魔王城は誰が建てたんだろうとか、そういうことを考え始めてから、魔王を主人公にしようと考えました。
――小説を書いたのは、これが初になるのでしょうか?
オリジナルは初めてですね。賞に応募したのも初めてです。
――初めて小説を書くにあたって、苦労はありませんでしたか?
書きたいことを抑えるのに苦労しました。サイトでは、主に2次創作をやっていたのですが、オリジナルを作るとなると、そこに自分の思想がどうしても入ってしまうんです。魔王たちのアルバイトへの取り組み方などにしても、セリフの流れがうっかり説教くさくなってしまったりすることがあるわけです。なので、あまり自分が言いたいことばかり詰め込みすぎないようにするのは苦労しました。少しでも自分の主張が行きすぎると話に詰まってしまいましたね。
――執筆期間はどれくらいだったのでしょうか。
3カ月ぐらいでしょうか。サイトに載せていたものがこれの半分以下だったので、加筆・訂正するのに1カ月、その時に規定枚数を越えていたのでそれを修正するのに半月ほどでした。締切は4月10日だったのですが、待たずに2月ぐらいに出してしまいました。
――早いですね!
1人何作出してもいいということだったので、残り2カ月でもう1本出そうと思ったんです。ちょっと無理でしたが(笑)。
――そちらは短編だったんですか?
いえ、長編ですね。70枚ぐらい書いたところで、うまく行かずに力尽きました。
――ちなみに、どんな話だったんですか?
時代劇でした。江戸時代に、同心と妖怪のコンビが事件を解決していくような作品です。今でも温めてはいるんですが、全然話が進まないですね。
――授賞式の時の気持ちを教えてください。
負けてなるものかと思っていました。芝居をやっていた過去がありまして、人前に立つのはこの中で一番慣れているのは俺のはずだ! と。結局開始早々負けましたが(笑)。式には、名前を知っている作家さんたちがたくさんいらっしゃったので、緊張してずっと気張っていました。
――作品を読んだ第一印象として、和ヶ原先生はバイト経験が豊富な方なのかなと思ったのですが、いかがですか?
主人公たちにアルバイトをさせようという発想はあったのですが、そう多くの職種を渡り歩いたわけではありません。大半が飲食業でした。ですが、芝居仲間のバイトの話をよく聞く機会があったんです。そういった話の中から、登場させるバイトを考え、書くにあたっては実際にそのアルバイトをしている友人から話を聞きました。
――ご友人の実体験にもとづいていたんですね。テレアポの描写がすごくリアルで驚きました。
あれはすごい偶然だったんです。受賞が決まった後も、テレアポの情報が薄かったんですが、友人を介して携帯電話会社のテレアポをしている方のお話を聞く機会に恵まれ、その人から詳しい話を聞くことができたんです。それで、著者校正の段階で修正を加えました。その出会いがなかったら、ここまで書けなかったなと思います。僕はオフィスワークをやったことがないので、タイムカードの切り方から、自分のデスクの様子などまで、何もわからなかったんですよ。なので、とても貴重な出会いでしたね。
――著者校正の段階で、他に修正した部分はあるんですか?
最初と最後の部分でしょうか。勇者エミリアとの出会いと、後半にエミリアが傘をくれるシーンです。この作品は、バイトの描写のリアリティなどを評価していただいているのですが、その出会いのリアリティだけがまったくなかったんです。なのでその出会いを修正した結果、最後の部分も変わったという感じです。あとは、店長の性別ですね。
――え、この本では女性ですよね? もとは男性だったんですか?
魔王の兄貴分のような感じで配置していたんですが、店長が男性である必然性がなくなってしまい、男性と女性のバランスを取るために女性にしたらどうかとやってみたんです。うまく主人公への的確なアドバイザーになってくれたので、変更しました。店長を活躍させてみたいんですが、編集さんからダメだと言われるんですよ(笑)。
――大家さんも素性が明かされませんが、これも応募段階からだったのでしょうか?
そうですね。いやらしい話になるのですが、応募段階で2巻以降も続けられるような作品になればという下心もあったんです。なので、将来的にこの人が何かできたらいいなと考えていました。『刑事コロンボ』の“ウチのカミさん”のような感じで、はっきりとは出ないけど、存在感があるようなポジションのキャラクターですね。
――物語の今後の展開について少し教えてもらえますか?
今後は、魔王や勇者が日本社会で立身出世していく様を書きたいなと思っています。ファンタジーと日本の現実をうまくミックスしていきたいですね。魔王が異世界に、マグロナルド1号店を出したりとか(笑)。
――アルバイトストーリーが進んでいくという感じなんですね。
アルバイトばかりですと単調になってしまうので、他のことも盛り込んでいきたいと思っています。巻を進めることができたら、“働くとはどういうことか”ということを魔王が悟っていくというのもおもしろいですね。魔王には半分主婦のようになっている、アルシエルという部下がいるのですが、こういう風に、現実の家族の立場を彼らにあてはめて描いていきたいなと思っています。これを読んで、お父さんとお母さんがお互いの苦労をわかってもらえればうれしいですね(笑)。
――子どもも親の苦労がわかるかもしれないですね(笑)。
主な読者層は中高生の皆さんかと思うのですが、今の時代は働くことへのネガティブイメージがネットなどから入ってきやすいと思うんです。なので、ポジティブなイメージを発信できたらいいなと……今考えました(笑)。
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