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2011年7月28日(木)

『アリス マッドネス リターンズ』クリエイターインタビュー!(焼き鳥つき)

文:サガコ

■人々がアリスに共感できる理由と、彫刻的作業

――PCゲーム『アリス イン ナイトメア』から10年。いつもあなたの描き出す世界には圧倒されます。どこからそんな着想がやってくるのですか?

 『ナイトメア』の時には、とても眺めのいいハイウェイを車で走っていたときに“Wonder”という看板の文字が目に飛び込んできたんです。それで「ああ、ワンダーランドだ!」と頭の中に世界が一斉に広がって! それで一気にゲームのイメージが完成してしまったんですよ。

――今回、ハードが進化してその世界観やビジュアルも10年前より一層明確に、美しい表現となりました。続編の構想はいつからあったのですか?

 前作を開発していた時点ですでに構想はありましたが、本作の開発に取りかかることができたのはおよそ3年前ほどです。前作でアリスは、自らの内面にある精神や感情との戦いを繰り広げました。今作では彼女を取り巻く外的な要因と向きあうことになります。

――精神を病んでいるアリスの世界を旅していくうちに、彼女に対して不思議な親近感がわいてくるんですよ。

 それは彼女が私たちの“鏡のような存在”だからでしょう。私はアリスを男らしくもなく、女らしくもなく“人間らしく”描くように心がけました。さらに親近感とおっしゃいましたが、彼女の葛藤はあなたの葛藤であり、私の葛藤でもあります。つまり、男女を問わず現代に生きる人たちが等しく経験する心の悩みを描きだしたものなのです。

――というと?

 人間は誰もが攻撃的な一面を持っていて、心の中では何かと戦ったり、負けたり、血を流したりしています。日々他者と接するたび、外的要因と接するたびに、精神的な“戦い”は行われているのです。ただ見えていないだけ、意識していないだけのこと。だから、アリスはナイフを振り回し己の中で戦っているのです。もしあなたが親近感を覚えるというのなら、実は社会の中でそうして生きているからこそアリスを身近に感じるのではないでしょうか。

――なるほど……それは童話に織り込まれた言いようのない絶望や狂気にも共通する点ですね。

 ええ。数ある童話がそういった人間の逃れ難い、普遍的なものをあぶりだす要素を持っているように、『アリス』もまたそういった表現を目指しました。

――その表現を突き詰めると猟奇的な演出が不可欠に?

 自分と他者とでは少なからず傷付けあわざるを得ませんからね。その表現としての過激な演出は確かに必要です。ただ誤解がないように伝えたいことがあります。18歳以上向けの作品ということで“もっと残酷に”“もっと過激に”という要望もありましたが、私たちの基準は“アリスがそれを想像できるか否か”しかありません。アリスの想像の中で、彼女が思い描けない残虐さを取り入れるつもりは毛頭ありませんでした。

 そういうわかりやすい刺激がゲームには求められているんだよ、って言われても「そうじゃないよ」と私はスタッフに言いました。『アリス』に求められているのは明確な世界であり、揺るぎない狂気であり、味わい深いストーリーです。単純な刺激が求められているのではないのだと説明しました。大切なのは“アリスがどう受け止めたか、どう想像したか”。常にアリスというキャラクターそのものが、開発チームの導き手として存在したのです。

――そこだけは何があろうと、揺るがさずに。

 そうです。言うなれば、『アリス』の開発は彫刻家の作業によく似ています。アリスの思い描いた世界や物語はもうそこにあって、私たちのすべきことはそれを石の塊から削り出すように“見つけ出す”作業であって、“つくりだす”のではないんだと、スタッフに繰り返し伝えました。

――そういった感覚的なことを、国籍さえ異なる多くのスタッフと共有するのは、大変難しかったのでは?

 楽しくもあり、苦しくもある作業でした(笑)。私やアートディレクターらが描く頭の中を共有するのに、今回は“壁”と“メモ”をおもしろい形で使ったんですよ。

■壁とメモが広げた“意外性”のマッチング

――壁とメモ、というと?

 ストーリーラインを5分ごとに区切ってイメージを片っ端からメモに書き、それを会議室の壁一面に張り付けたんです。ものすごい分量のメモで、壁は埋め尽くされました。スタッフは「このシーン作ってみよう」と思い思いにメモをはがしてそのシーンを作ってみる、というやり方からスタートしました。どんなものが仕上がってくるかはわからない。統一感がないんです。でもそれが効果的で、予想外のパーツとパーツが組み合わさって、想像以上の演出になったりしましたね。

――実に興味深い制作手法ですね!

 それらは開発当初の半年程度で、あとはもうひたすらミーティングを繰り返してイメージの共有に務めました。パーツがバラバラではどうしようもありませんからね。

――イメージのすりあわせやモチベーションの共有という点において、国籍の違いは問題にはなりませんか?

 言葉の壁や思想の違いなどで善し悪しはもちろんありますが、中国のスタッフは楽観的なところがいいですね。技術の限界などを理屈で考えるより先に「おもしろそう、やってみよう、きっとできるさ!」でスタートできる(笑)。それは欧米チームのスタッフにはあまり見られなくなった軽いフットワークです。基本的には互いに刺激を得ながら、進められています。

――今、閉塞感の強い日本や欧米のゲーム業界から見れば、そのフットワークの軽さはうらやましくさえありますね。

 もともと、人間の発想力に限界はないはずなんです。常に立ちふさがるのはハードウェアの限界であり、ビジネスとしての諸々の問題でしかありません。それもまた、人間の想像力と発想でクリアしていくしかないのですが。といっても、ゲーム業界は決して楽観的ではありませんね。私の会社も『アリス』を完成させる前に倒産寸前まで追い込まれたりしたものですから、なかなか難しいビジネスなのは確かです(笑)。

――ええっ、そんなことが!?

 ええ、危うく『アリス』が世に出なくなるところでした(笑)。おかげさまで今回はEAと手を組むことができ、『アリス』もお届けすることができました。そして今は、ポップキャップ・ゲームスでのブラウザ、モバイル、ソーシャル系ゲームも手がけているんですよ。

――では、しばらくはそれらの作品がメインで、今回の『アリス』のようなスタイルの作品はおあずけ……でしょうか?

 いえ、すでに皆さんが期待されているような新作の開発が2本、スタートしています。“赤ずきんちゃんとかつての日本”をテーマにした『Akaneiro』という作品と、“おもちゃ屋さん”がキーワードの作品です。特に日本の皆さんに楽しんでいただける内容だと思います。

――期待しています! では最後に、日本のファンに向けてメッセージを。

 『アリス』は日本市場、日本のゲームプレイヤーを強く意識して制作しました。アリスとともにストーリーと、アーティスティックな世界を存分に堪能してください。そして、気に入ったらぜひアリスのコスプレを!(笑) 私はそこにとても期待しています。

――ありがとうございました!

→マッギー氏と居酒屋で焼き鳥つついてきました!(3ページ目へ)

(C)2011 Electronic Arts Inc. EA, the EA logo and Alice: Madness Returns are trademarks of Electronic Arts Inc. All other trademarks are the property of their respective owners.

データ

▼『アリス マッドネス リターンズ』
■メーカー:エレクトロニック・アーツ
■対応機種:PC(対応OS:Windows)
■ジャンル:A・AVG
■発売日:2011年7月21日
■価格:オープン

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