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2011年11月30日(水)

【中澤工さんインタビュー 後編】Xbox 360『ルートダブル』は“自分史上最高傑作”! システムでは選択肢をすべて排除

文:ごえモン

■昔は“骨太のAVG”が求められていなかった?

――話題は変わりますが、現在のアドベンチャーゲーム業界は、ちょっとだけ盛り上がっている気がするんです。

 そうですね。たくさんいい作品が出てきていると思います。

――僕の気のせいかもしれないですけど、中澤さんから見て、今のアドベンチャーゲーム業界についてどう思われますか?

 最近、僕自身もAVGをたくさん遊ぶので、盛り上がっているとは思います。この状況については、端的に言えば非常にうれしいです。僕はAVG業界でメインに働いていますが、僕が業界に入ってゲームを作るようになったころは、おもしろい骨太なAVGは敬遠されていた……というか、そこに注力することは求められていなかったんです。骨太なAVGというのは、話がおもしろかったり、後半に明かされる仕掛けがあるような、遊ぶことによっておもしろさが伝わるものです。でも、ACTみたいな派手さはないし、基本的には止め絵だし、物語のクライマックスが一番の見どころなのに、それを隠さなければいけません。

 昔は、営業的には、おもしろい話ってそれほど求められていなかったんです。おもしろいに越したことはないけど、それをウリにした製品は作れませんでした。営業部から求められるセールスポイントは、“ストーリーよりもビジュアル”、“内容よりも見た目”を求められていました。なので、とにかく「表面上はかわいい女の子がいます」「こんなに美しいビジュアルが見られます」ということを全面に出していました。企画書にも、第1に“○○さんの描く魅力的なキャラクター”“イベントCGが○枚!”みたいな(笑)。

――そのうたい文句は、よく聞いたことがあります(笑)。

 まずそれがありきで、“プレイしてみると実は話もおもしろい”というのが作り方の王道でした。“infinity”シリーズ第1弾の『infinity』は、完全にギャルゲーのフォーマットで作ってますからね。でも、プレイしてみるとミステリアスでおもしろいでしょ? と。

 若干そこで認めてもらえたようで、第2弾の『Ever17』ではより本格的な物語にできましたが、それでも美少女を全面に出しました。あくまでも“美少女ゲーム”というスタンスで。まあ、それを逆手にとっての仕掛けもできたわけですが。そんな背景が昔はありましたが、昨今のユーザーからは“おもしろいAVGをプレイしたい”“おもしろいAVGを作ってほしい”という気配を感じます。

 そういう後追いがあったからこそ、僕は『ルートダブル』を作れたと思っています。……と言いつつ、みけおうさんという、まさに萌え絵を描かれる人気イラストレータに描いていただいていますから、「お前何言ってるんだよ」となるかもしれませんが(笑)。でも、そうではないんです。あくまでも『ルートダブル』は『ルートダブル』という作品が根底にあって、その土台の上に、みけおうさんの絵がある。みけおうさんの絵を纏うことによって、より際立つ作品になっています。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』

 もちろん、ビジュアルの魅力的な部分をウリにしていないとは言い切れないのですが、みけおうさんにおんぶに抱っこではなくて、お互いにいい影響をおよぼしあいながら、新しい作品を作るというコンセプトで制作しています。

 みけおうさんは、いまだかつて『ルートダブル』のようなハードな作品にはかかわっていないので、ファンからすると「こうじゃないよ!」と思うかもしれません。でも、みけおうさんがこういう作品を作るとどうなるんだろう? というところで気にしていただけるとうれしいです。先ほど月島さんが新境地にたどり着かれたというお話をしましたが、きっとみけおうファンからも「こういうみけおうさんもアリだな」と思っていただけると思います。CG自体も、漫画を連載されている方に構図をお願いしているので、ダイナミックで動きのあるものになっています。そういう意味でも、新しいみけおうさんの絵を楽しめると思います。CGの枚数も、僕のこれまでの作品の中で一番多いですしね。

 ちょっと話は脱線しましたが、これが一時的な盛り上がりではなく、皆さんがおもしろいAVGを求め、求められるからわれわれがいいものを作れる、そんなサイクルを維持できたらなと思います。

――ちなみに、過去の作品で中澤さんが影響を受けたAVGはありますか?

 さかのぼっていくとキリがなくなってしまいますが、一番影響を受けたのは『街』なんです。『街』をプレイすることによって、多角的な物語にすごく感化されました。

 小説でもできるのですが、1つの物語をいろいろな方面から描くのは本当にゲーム的だと思います。なのでここ数年、オリジナルでは、多視点・複数主人公モノばかり作っています。作り手側からみると、これを作るのはものすごく大変だっただろうなと思っていて、『街』にはひたすらに敬意を表するぐらい大好きです。その後にリリースされた『428~封鎖された渋谷で~』もやっぱりおもしろかったですね。

――では、最近のAVGでおもしろかった作品はありますか?

 最近だと、『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』がとてもおもしろかったです。昨今、『逆転裁判』的なゲームを作ろうとするメーカーさんが多かったのですが、これはまったく違う切り口で描かれていました。確かに同じ方向を向いているのに「こんな料理の仕方があるのか」と驚き、睡眠時間を削って遊びましたよ(笑)。睡眠時間を削ったといえば、打越鋼太郎さんの『極限脱出 9時間9人9の扉』もおもしろかったですね。よくぞあのギミックを思いついたと、あれは思いつかないですよ。あとは月並みですが、『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』もおもしろかったですね。

――『STEINS;GATE』ですが、この作品もシステムがシナリオにうまく組み込まれていますね。

 もともと『ルートダブル』でシステムをシナリオにミックスさせようと考えていたのですが、それを強く意識したのは『STEINS;GATE』の影響です。『STEINS;GATE』をプレイしたおかげで、「選択肢なんて排除してしまえ」と決意できました。おかげで、もっと突き詰めたものを、もっと尖ったものを作ろうと思えました。

→アドベンチャーゲームが売れるためにはどうすればいい?

(C)イエティ/Regista

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