2011年11月30日(水)
皆さんこんにちは、ごえモンです。イエティが2012年3月29日に発売するXbox 360用ソフト『ルートダブル -Before Crime * After Days-(以下、ルートダブル)』について、原案・監督・プロデュースを務める中澤工さんにお聞きするインタビュー企画もいよいよラストです。
後編では、『ルートダブル』に実装されている“新機軸のシステム”についてや、本作のテーマ、苦労したポイントなどをお聞きしつつ、果てはアドベンチャーゲーム業界についても伺っています。前編・中編の2倍のボリュームになっているので、腰を落ち着けてからじっくりお楽しみください。
→インタビュー前編(制作経緯や脚本・月島総記さんの起用理由、バッドエンドについて)
→インタビュー中編(コンセプトや残酷表現、出演キャスト、移植について)
※この記事には、ゲーム本編の若干のネタバレが含まれています。ご注意ください。なお体験版をプレイされた人には、ネタバレにはならない内容となっています。
――『ルートダブル』に搭載されている新機軸のシステムについてご紹介をお願いいたします。
まず第1のシステムについてご説明するのですが、すでに公開されているゲーム画面に、実はそのシステムの片鱗(へんりん)が出ています。『ルートダブル』にはキャラクターが助かるか助からないかといった生死に関わる分岐や、キャラの好感度に影響するような分岐が当然多々あります。しかし、俗に言う“選択肢”というシステムはありません。……でも、シナリオは分岐します。
――選択肢を排除して、どのように分岐させるのでしょう?
“Senses Sympathy System(センシズ・シンパシィ・システム)”というシステムが影響してきます。Senseは日本語に直訳すると“感覚”ですね。複数形になってSenses。意訳すれば“感覚同調システム”といったところでしょうか。まさに主人公の様々な感覚=Sensesを、ユーザーに決めてもらうシステムです。もっとシステマチックに言うならば、閉じ込められている9人のキャラクターの気持ちに、どれだけ自分が共感しているかを視覚化したものです。
――それが、9人のエニアグラムに関係するんですね。
はい。『ルートダブル』ではエニアグラム(※1)という概念をゲームに取り入れています。これは人間の性格を9種類に分類する性格診断なのですが、ラボに閉じ込められる9名は、ちょうどこの9つの性格に分類できるように配分しています(※2)。エニアグラムの図形にある9つの点に、9名が割り当てられているんです。そして、ゲーム画面上にはエニアグラムが常時表示されるのですが、その上にレーダーチャートみたいなグラフが入力できるようになっていて、それぞれの性格に対してユーザーがどこまで共感するか? というのを、グラフに入力させるんです。
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※1……円周上に9つの点を打ち、それらを直線で結ぶことで表されるシンボル。現在では、人間の本質は9種類に分類され、誰しもがその1つを持って生まれてくるという考えにもとづき、エニアグラムは性格論とあわせて用いられるのが一般的。
※2……ルートダブルの主要登場人物9名は、次のようにエニアグラムの性格論の分類に割り振られている。Type1.批評家=宇喜多、Type2.援助者=ましろ、Type3.遂行者=恵那、Type4.芸術家=サリュ、Type5.観察者=渡瀬、Type6.忠実家=風見、Type7.情熱家=夏彦、Type8.挑戦者=洵、Type9.調停者=悠里。
――ユーザーの手でグラフに入力するんですか?
そうです。そのキャラクターの数値を低くすれば、当然“そのキャラクターに対して反感を持っている”ことになり、意見に対して否定的な気持ちを持っていることを表します。逆に高くすれば、そのキャラクターに対して共感する、同じ気持ちである、好きである、理解している、何かの意見に対して賛成する……という概念です。そういったものを、9人分入力させるんですよ。主人公含めて9人ですから、その中には自分自身も含まれます。この場合は、自分の直感や意見に自信を持つか持たないか、という意味になります。
――それはいつでも入力できるんですか?
始終入力はできません。分岐に近づくとグラフが光ってユーザーに入力可能になったことをお知らせします。「そろそろ分岐が近いので、あなたの気持ちを聞かせてください」という感じで。ユーザーは物語を読み進めつつ、どうしようかと考えながらグラフに入力していくことになります。そして分岐のポイントに辿り着いたら、その時のグラフの数値によって物語が分岐します。
ちなみに、分岐が近づいてグラフが光ったとしても、入力するしないは任意です。現状の数値のままでいいと判断したら、放置していても構いません。入力したい人だけが入力して、しなくていい人は何もせずにシナリオを読み進めればいいです。入力する人は、ボタンを押してグラフを拡大して入力モードにします。入力しない人は、何もしなくていいのでストーリーを中断することなく、そのまま読んでいくだけです。実のところ、クリアする上では、すべての分岐で毎回入力する必要はないのです。必要だと思った時だけ入力すれば結構です。極端なことを言ってしまえば、一度も入力しないでも進められます。まあ、一度も入力しないと途中で確実にバッドエンドですけど。
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――確かに、今までなかった新機軸のシステムですね。
具体例を挙げますと、目の前で風見が捜索方法を提案してきたとします。「ここは隊長と私が組んで捜索。守部は待機」とか。風見の意見に反論する or 賛成するのであれば、風見の数値を上げ下げすればいいだけです。風見の数値が高いか、低いかで分岐します。しかし、そこに渡瀬が別の意見を持っていたとしたら……「いや、ここは怪我をしている風見を待機させて、洵と捜索すべきではないか?」とか。この場合は、“風見と渡瀬、どちらの数値を高くするのか?”という条件になります。同じにすれば、どっちつかずの意見になりますし、両方を低くすれば両方を却下することになる――そういった形で、複数のキャラクターが絡むことになります。
さらに、物語が進むとすごく複雑になってきて、どのキャラクターとどのキャラクターの数値がどれだけ高いかとか、複数のキャラクターのバランスを見たりとか、だんだんアナログ的な感覚になっていきます。なので、分岐条件を完璧に見出すのは結構難しいかもしれません。でも、ユーザーには感覚的にプレイしてほしいので、ある程度、大きく幅を持たせて条件を設定するつもりです。例えば、0~9の数値が入力できるとして、風見の数値は6以上で、洵は3以下なら正解、とか。「このキャラクターは明らかに胡散臭いことを言っているな」と思えば数値を下げてください。
そこで特に気にせず読み進めてしまうと、その“胡散臭い”キャラクターの意見が採用されてしまい、バッドエンドになったりするんですよ。
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▲分岐直前 | ▲分岐A | ▲分岐B |
――お話を聞いた感じだと、結構難しい印象です。
結構難しいと思います。最初はバッドエンドになる確率も高いでしょう。ただ、バッドエンドになる部分はたくさんあるとは言いつつ、分岐の中のごく一部なんです。なので、いくつかトライ&エラーをしながらコツをつかんでいってほしいと思います。慣れてくれば、明らかに“コイツは高くしよう、低くしよう”という指針が見えてくると思います。仮にバッドエンドになれば、その原因となるものを排除するような入力をすればいいわけです。
――ヒント機能を実装する予定はありますか?
ヒントなどもいろいろ用意するつもりです。バッドエンドになってしまった場合、何がまずかったのかヒントを出したり、分岐ごとの重要性をユーザーに知らせたりなどを考えています。
後者についてもう少し説明すると、分岐には“ブルー分岐”“イエロー分岐”“レッド分岐”の3種類があるんです。間近の分岐がどれに当たるのかは、Sensesのグラフの色が青・黄・赤のどれかに変わることで、ユーザーに知らせます。ブルー分岐は、ただ好感度が変わるだけで、ストーリー的には大きく変化しません。でも、この累積によっては後半で何かが変化するかもしれないので、気になる人はちゃんと入力してほしいし、お気に入りのキャラクターがいれば、その人の数値を上げればいいと思います。
イエロー分岐は、右に行くか左に行くか、誰の意見を採用するか、というような大きくストーリーが変化する分岐なので、すこし注意したほうがいいでしょう。より、あなたが見たいストーリーに分岐できるように、ちょっと考えたほうがいいですよと。
レッド分岐は大変危険な分岐で、これを間違ったらバッドエンドです。すごく慎重に考えてください。考えなしにその分岐を超えてしまうと、条件が満たせずに、すぐさまバッドエンドになってしまう確率が高いです。
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▲Senses=灰(分岐終了、または、間近に分岐なし) | ▲Senses=青(間近にブルー分岐あり) |
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▲Senses=黄(間近にイエロー分岐あり) | ▲Senses=赤(間近にレッド分岐あり) |
――Senses Sympathy Systemには時間制限はあるのでしょうか?
リアルタイムの時間制限はありません。メッセージを読み進めていくうちに分岐を超えてしまうとダメなので、ある意味これが時間制限とも言えます。
――もしかしたら、9人全員の数値を下げたり上げたり、といった状況もありますか……?
そういうこともあるかもしれませんね。中には、引っ掛けではないですが判断の難しい場面も出てくると思います。ああ、言い忘れましたが、毎回の分岐で9人全員分の入力が必要なわけではありません。間近に迫った分岐で、“条件に絡んでくるキャラ”だけ入力できます。なので、その分岐に関係ないキャラは入力できません。例えば、“風見と洵のどちらの意見を選ぶか?”という場合は、風見と洵しか入力できません。先ほど質問にあった“9人全員の数値を下げたり上げたり”というのは、かなりレアな、非常に複雑な分岐の場合だけです。
現在もバランスを調整中なのですが、分岐をした後に“なぜこんな条件だったのか”が納得できるように気をつけています。ただ単に難しくするだけならば、変な条件の分岐を用意すればいいだけなんです。でも、そういうことはしないできっちりと納得できるような条件を設定して、納得できる結果にユーザーを分岐させる。その分岐に至る過程にもヒントらしきものがあり、間違っていることを言っているキャラクターは明らかに変なことを言っているし、複数キャラクターのバランスをどうしたらいいのかも、読んでいけばなんとなくわかるようにしています。
わかりにくいものに関しては、大抵はキャラクターの好感度に影響してくるものなので、そこはお好みでプレイしていただければと。
――これが、『ルートダブル』の1つ目のシステムというわけですね。
はい。Senses Sympathy Systemによってストーリーが分岐し、ヒロインのイベントやグッドエンド、バッドエンドなどに影響します。これがゲームの前半部分を左右するシステムです。
(C)イエティ/Regista
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