2012年2月11日(土)
小説『エスケヱプ・スピヰド』で、第18回電撃小説大賞の大賞を受賞した、九岡望(くおか のぞむ)先生のインタビューを掲載する。
▲こちらは、吟先生が描く『エスケヱプ・スピヰド』の表紙イラスト。 |
本作は、20年前の戦争で壊滅状態になっている“昭和一○一年”を舞台にした近未来バトルアクション。廃墟の町・尽天(じんてん)で冷凍催眠から目覚めた少女・叶葉(かなは)は、暴走した戦闘機械から逃れる最中に棺で眠る少年と1匹の巨大な“蜂”――“鬼虫(きちゅう)”と呼ばれる超高性能戦略兵器と出会う。
棺で眠っていた少年の名は金翅(きんし)の九曜(くよう)。彼は“蜂”の操縦者にして、人としての感情を持たない兵器であった。損傷により自律行動ができない九曜は、叶葉を暫定の司令官とし、戦闘機械として働こうとするのだが、叶葉はそんな九曜を1人の人間として交流していく。徐々に人としての心を持つようになっていく九曜だったが、そんな彼の前に、同じ“鬼虫”である“蜻蛉(とんぼ)”の竜胆(りんどう)が現れて……。
▲こちらは九岡先生の著者近影。「ある街角の鉄柵にぽつんとぶら下がっていた錠前。何もロックしていない。発見したのは数年前だが、もしかしたら今でもぶらぶらやっているかもしれない」とのこと。 |
九岡先生には、本作が執筆の際に注意したポイントや、影響を受けたものなどについて語ってもらったので、興味がある人はぜひご覧いただきたい。
――本作を執筆した経緯を教えてください。
電撃文庫には毎年投稿しているので「今年もやるか!」と思って書きました。ただ、今回は自分の趣味全開で書こうということでこの作品を執筆しました。
――昨年まで送っていた作品は、あまり趣味を前面に押し出していなかったんですか?
ええ。振り返ってみると、悪い意味でラノベを意識していたと思います。例えば無理やり学園ものにしようとしてみたり。
――どうして今回に限って趣味を前面に押し出した作品を書こうと思ったんでしょうか?
これまでの作品の中にも、自分の趣味を盛りこんではいたんですが、それが中途半端だったんですよ。例えば学園ものだけど、アクションシーンを書きたいから入れようといった感じに……。でも、学園ものにヘタにそういった要素を盛りこむのであれば、いっそのことアクション中心で書いたほうがいいと考えたんですね。もしもその結果がダメだったとしても、自分の思い通りにやったんだから、次回から違うものが書けるであろうと思っていました。
――そんな趣味全開の本作の見どころを教えてください。
荒廃した近未来を舞台に、メカに乗り込んだキャラクターたちがぶつかり合う話です。アクションシーンの描写にこだわっているので、そこに注目してもらいたいですね。あとは、主人公の九曜とヒロインの叶葉を中心とした人物模様や生活ぶりも見ていただきたいです。バトルが前面に出ますが、彼らがどう心を通わせるかなども大事なポイントですので。
――アクションシーンで特にイチオシはどこですか?
やはり最後の戦いですね。ここはとにかく“鬼虫”のディテールを書くのがとにかく楽しかったです。戦闘シーンは本当に筆が乗りました。
――審査員の講評でも、戦闘シーンを高く評価したコメントが多かったですね。
ありがたいお話です。戦闘シーンはなるべくセリフを少なく、地の文を中心にしてケレン味のある言葉を入れたりしました。“電光石火”や“一撃必殺”などの四字熟語って、字面だけでワクワクさせる力があると思うんですよ。そういった言葉を盛りこんだりしましたね。
――戦闘シーンについてお話いただきましたが、作品全体を書く上で、注意したポイントはどこですか?
とにもかくにも“わかりやすく書く”ことですね。ただでさえ漢字が多く、地の文が多いので、読者を置いてけぼりにしてしまわないように。そして、SF的な理屈もあまり語りすぎないように注意しました。そこは簡潔にして、スラスラと読めるように心がけました。頭の中で声に出して書いたものを読んでみたり。
――オーソドックスなポイントですけれど、それだけに大事ということですね。キャラクターの口調もかなりシンプルですよね。
そうですね。頭の中で声に出して読んでいたことが大きいんだと思います。個性的すぎるキャラクターの口調って、どうしても読んでいて引っかかってしまうんですよ。その引っかかりを取っていった結果、口調がフラットになっていったんだと思います。
――他に注意していたポイントはありますか?
もう1つ、“盛り上げるべきところは盛り上げよう”ということを心がけていました。トリックや謎を考えて、どんでん返しで驚かせるような書き方をできるタイプではありませんので、盛り上がるべきところをはずさないように注意しました。
――そこがこだわった部分だと。
はい。話の筋自体はとてもシンプルですので、むしろそうした“演出”の部分に力を入れることができたかと思います。
――作品を仕上げるまでに掛かった期間はどれくらいですか?
だいたい4カ月くらいですね。構想をかためるのに1カ月、実作業に3カ月。担当さんからは「遅くはないですけど、もう1カ月ほど短いと素敵です」と言われましたので、もう少しスピードアップしたいと思います。
――ぜひ頑張ってください! 続いて作品についてもう少し細かく伺います。キャラクターはどのようにして作り出していったのですか? まずは主人公の九曜から。
この作品で私が主人公に求めているものは、昔の少年マンガに登場するようなヒーロー性なんですね。周囲が「コイツがいればなんとかしてくれる!」という頼れる部分をしっかりと持った主人公にしようと思ったんです。
――確かに、作中でもその強さは際立っていますよね。
強くてカッコいい。でもちょっと愛嬌がある。そんなキャラクターにしたつもりです。彼の一人称である“小生”というのも、自然と浮かんできました。古風でカッコつけた口調が似合うと思ったんですよ。先ほど、キャラクターの口調についてお話ししましたが、あえて九曜は引っかかりを覚えるような、浮いているキャラクターにしようと思いました。
――途中で一人称が変わったりもしますよね。
はい。コイツ自身は“小生”という一人称をキャラ作りの一環で使っているので、ちょっとテンパったりするとすぐに素に戻ります(笑)。
――そういうことなんですね。作中で竜胆(りんどう)というキャラクターが出てきますが、彼をまねているようなところもありますよね。
竜胆は、九曜の目標でもありますので。竜胆へのあこがれなども、九曜が背伸びをして“小生”を使う理由のひとつです。
――では続いて、ヒロインの叶葉について聞かせていただけますか?
九曜は叶葉とセットで考えていました。主人公がクールで感情をあまり表に出さず、静かなタイプなので、ヒロインは逆に表情をコロコロと変えて、チョコマカと動くにぎやかな女の子にしようと。主人公の手を引っ張ってくれるような部分もありますし。
――家事が得意で、何もできない女の子というわけでもないんですよね。
ヒロインには、主人公にできないことをさせようと思って、働き者で家事全般が得意な女の子にしました。ちなみに九曜は家事がまったくできません。
――ここもやはり、主人公とセットにしているわけですね。
はい。そういった部分以外にも、精神的な面で主人公を支えてくれるキャラクターになっています。作中でも、そういったことを言っているシーンもありますし。
――九曜や叶葉が登場するシーンで、好きなシーンはどこですか?
叶葉に正座させられた九曜が説教されるシーンですね。後は九曜がダジャレを言っているシーンも好きです。九曜が愛嬌を見せているシーンが好きです。
――自分の作品が商業作品として本棚に並ぶわけですが、その感想は?
実感はありませんが、きちんと本になった状態のものを見てみたいという気持ちが一番強いですね。それだけでなく不安な気持ちもあります。読んでくださった方がどう評価するのか。いろいろなオマージュを盛りこんでいますので、それがどう評価されるのか……。
――そこが気になっていると。
一番気になっているポイントです。読んでくださった方がニヤッとしてくれるとうれしいですね。
→創作活動を始めたキッカケなどを聞いてみました!(2ページ目へ)
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