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2012年6月6日(水)

『ルートダブル』をトゥルーエンドまで見た編集者がレビュー! ADV史に新たな傑作が誕生

文:ごえモン

 どうも、ごえモンです。1年以上、特集記事を書き続けてきたXbox 360用ソフト『ルートダブル -Before Crime * After Days-』が、ついに6月14日に発売されますね! 皆さんがどのような評価を下すのか 、今から楽しみでしかたがないです!!

Xbox 360『ルートダブル -Before Crime * After Days-』タイトル画面

 皆さんの評価はとても気になるところではありますが、すでにトゥルーエンドまで見た僕の感想は、“傑作”のひと言です。間違いなくおもしろかった! 今年を代表するADVであることは確実でしょうね。体験版をプレイして、「思いのほか楽しめたなぁ」なんて漠然と思っている人へ。この作品はその程度で終わりませんので、楽しみにしていてください。1人のADV好きとして、太鼓判を押しますよ!

 前置きはこのぐらいにして、これから本作のレビューに入ります。トゥルーエンドまでプレイした人間の感想が知りたい人は、ぜひ参考にしてみてください!

Xbox 360『ルートダブル -Before Crime * After Days-』悠里を助ける洵 Xbox 360『ルートダブル -Before Crime * After Days-』炎の中にたたずむサリュ Xbox 360『ルートダブル -Before Crime * After Days-』渡瀬に肩を貸す恵那

■シチュエーションは史上最悪! 研究施設に閉じ込められた男女9人の運命は……?

 まだまだ『ルートダブル』を知らない人が多いと思いますので、まずは本作の概要を紹介します。公開済みの情報が多いので「すでに体験版もプレイしたし、予習はバッチリだぜ!」という『ルートダブル』マスターの皆さんは、Bルートについて言及しているページ後半から読んでいくとよいと思います!

 さて、本作は『Never7 ~the end of infinity~』『Ever17-the out of infinity-』『Remember11 -the age of infinity-』の3作品(通称:“infinity”シリーズ。ちなみに、中澤さんはこの3作のみを担当)や、『I/O』『Myself;Yourself』などを手掛けたゲームクリエイター・中澤工さんの新作サスペンスアドベンチャーゲームです。

 時代は2030年で、物語の舞台は巨大な科学研究施設“ラボ”。そのラボで重大な事故が発生し、“なぜか”閉じ込められてしまった高校生3人と教師1人、逃げ送れた研究員1人、謎の少女1人、人名救助のために出動したレスキュー隊3人。こうした9人による脱出劇が描かれます。

【人命救助のため出動したレスキュー隊員】

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』笠鷺渡瀬 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』橘風見 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』守部洵
▲笠鷺渡瀬(CV:新垣樽助)▲橘風見(CV:佐藤利奈)▲守部洵(CV:友永朱音)

【ラボに取り残された人々】

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』椿山恵那 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』琴乃悠里 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』宇喜多佳司
▲椿山恵那(CV:豊口めぐみ)▲琴乃悠里(CV:名塚佳織)▲宇喜多佳司(CV:大川透)

【なぜか“事故”に巻き込まれた高校生】

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』天川夏彦 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』鳥羽ましろ 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』三ノ宮ルイーズ優衣
▲天川夏彦(CV:市来光弘)▲鳥羽ましろ(CV:今井麻美)▲三ノ宮ルイーズ優衣(CV:真堂圭)

 これだけだったら、全然“史上最悪”ではないですよね。しかし、こんなものでは終わりませんよ! このラボでは“事故”によって“死の灰”が蔓延し、1時間に1度、Alone Desire(AD)という薬を打たなければ死が待っているのです。唯一の脱出口は、隔壁が降りていて脱出不可能。システムを復旧させ、隔壁を開けるために必要な時間は9時間。……つまり、生き延びるためには9×9=81本のADが必要なわけです。でも、レスキュー隊が所持しているADではまったく足りません。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』現場に到着したレスキュー隊 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』Alone Desire(AD)
▲“死の灰”が蔓延しているため、防護服を着用して任務にあたるレスキュー隊。しかし、それぞれの事情で防護服が使えなくなってしまい……。▲閉じ込められた人間の命綱となる“Alone Desire(AD)”。火災や有毒ガスが発生しているラボ内で、人数分のADを見つけなければなりません。

 誰かを犠牲にしなければいけないのか? 自分が助かるために、誰かを見捨てるのか? そんな考えが頭をよぎりつつ、9人は施設内のADを探しながら脱出方法を模索します。そして火災や崩落、爆発などの問題に対処しながら進んでいた彼らは、3つの他殺体を発見。施設内にまだ見ぬ人間が? それとも、9人の中に殺人犯が混ざっているのか? もしかして、この事故も作為によるものなのか……? 登場人物たちは、次第に疑心暗鬼に陥っていくのです。これでは、「みんなで助けあって仲よく脱出しよう!」なんていかないわけですね。犯人を見つけなければ、自分が殺されてしまうかもしれないのですから。このように、最初は脱出をメインとしたサバイバル&サスペンスが描かれていきますが、物語はだんだんとミステリーへクロスフェードしていきます。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』消火作業中の風見 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』通路に高圧電流 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』ラボで他殺体を発見
▲火災などの問題を協力して解決してきた仲間たちの目の前に、3つの他殺体が。ミステリー要素も多分に含まれているのが、本作の特徴です。

 実はこの作品、A(After)ルートとB(Before)ルートという2つのルートに分かれています。前述した概要は、レスキュー隊の隊長・笠鷺渡瀬を主人公としたAルートの内容です。“事故発生から3時間後”を時間軸としたAルートとは違い、Bルートは“事故発生までの6日間”を、巻き込まれた高校生・天川夏彦の視点でひも解いていくことになります。多くの謎や伏線を散りばめながら脱出に向かうAルートに対して、誰が? どうして? を少しずつ明らかにしながら、事故当日に向かって進んでいくのがBルートです。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』Aルート選択画面 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』Bルート選択画面
▲ルートは、ゲーム冒頭で選択可能です。体験版をプレイした人は、Bを選ぶのがオススメ! Aルートの攻略が若干ですが簡単になります。

 “閉鎖空間からの脱出劇”と“2人の主人公”と言えば、思い出されるのは『Ever17』や『Remember11』。さらに、Aルートの“主人公が記憶喪失”という設定が盛り込まれ、中澤さんらしさが全開の作品に仕上がっています。物理学やSF要素も多分に含まれている本作は、これまでに発売された中澤さん作品の集大成になっていると感じられます。集大成といっても焼き直しではなく、それぞれをうまく昇華させているので、プレイしていて「またか」といったガッカリ感、うんざり感はありません。プレイを進めていけば、これまでの作品に勝る“カタルシス”がプレイヤーを待っていることでしょう。

 中澤さんのファンは、“『Ever17』超えがあるのか”を特に気にしていることと思います。トゥルーエンドまで見た僕の個人的感想を言うなら、「完全に過去作を超えたな」です。物語後半のおもしろさに加え、“新たなシステムの存在”や“疾走感のある展開による中だるみのなさ”もあり、思い出補正にも負けませんでした!

■選択肢を排除した新たなルート分岐システム“SSS”がシナリオを後押しする

 もちろん、僕が中澤さんの最高傑作とうたう理由に秀逸なシナリオがあります。シナリオがおもしろくなければ、ADVとして最低ですからね。その点、シナリオ担当の月島総記さんが絶妙なテキストを書いてくださっています。しかし、それに加えてシステムの素晴らしさが光っているのが本作です。

 この作品には、いわゆる“選択肢”というものがなく、まったく新しいシステム“Senses Sympathy System(センシズ・シンパシー・システム)”と“RAM System(ラム・システム)”が搭載されています。“RAM System”は重大なネタバレにかかわるので、ここでは“SSS”だけを紹介します。“SSS”は、円周上に9つの点を打ち、それらを直線で結ぶことで表されるシンボル“エニアグラム”を利用した分岐システムです。

『ルートダブル』エニアグラムチュートリアル(1) 『ルートダブル』エニアグラムチュートリアル(2)
▲9つの交点に、それぞれ性格タイプが割り当てられていて、登場キャラ9人がどれかに当てはめられています。

 本編で分岐が近づくと、画面右上の“エニアグラム”が点滅します。この時にBACKボタンを押すと、“SSS”入力画面に移ります。“SSS”入力画面では、9人のキャラクターに対応した“センシズ”の数値をプレイヤーが上げ下げすることで、レーダーチャートのような図形が変動します。そのレーダーチャートの変動とともに、各キャラに対する“感情”も変動し、ルートが分岐するのが“SSS”です。

 ……ちょっと何を言っているのかわかりませんね(笑)。ようは、9人に1~9までの数値が割り振られていて、それを高くすると、対応するキャラに主人公が“共感している”、“信頼している”、“意見に賛同している”ということになります。数値を低く設定すれば、もちろんその逆です。

 この数値は主人公にも設定されていて、高くすれば“自分に自信がある”、低くすると“自分に自信がない”ことになります。ただ状況によって、高くすれば“保身をはかる”、低くすると“自己犠牲にでる”となる場合が出てくるので、事前の文章や現在の状況を鑑みることが必要となります。

『ルートダブル』エニアグラムで洵の数値を変更 『ルートダブル』エニアグラムで渡瀬の数値を変更
▲これは渡瀬と洵の数値をいじる場面。洵の意見に賛同し、自分の意見は押しとどめる、というような回答になっています。

 例えば、3人のキャラクターが別々の意見を持っているとします。仮に「オレは右の通路に行きたい!(Aさん)」「私は左にするわ!(Bさん)」「うかつに動いたらだめだよ!(Cさん)」といった状況でBさんの意見を採用したいとなると、Bさんの数値を高くして、それ以外を低くすればOKです。これで分岐は3パターンとなりますが、もっと多くなる場合もあります。全員の数値を高くすると、全員の意見を尊重するような回答になるかもしれませんし、全員を否定すれば、まったく別の回答を提示するかもしれません。全員を中くらいの数値にすれば、主人公は優柔不断ということで、意見がまとまらず、仲間たちがケンカを始めてしまうかもしれませんね。

『ルートダブル』エニアグラムで9人全員の数値を最大に 『ルートダブル』ゲームオーバー画面
▲この画像のように、体験版では少人数の数値をいじる場面が多かったのですが、製品版では9人の数値をまとめていじる、なんて場面もあります。しかも、バッドエンドに直結するレッド分岐で。▲レッド分岐で間違えた場合、待っているのはバッドエンドです。Aルートでは、20弱のバッドエンドが用意されています。

 通常、選択肢であれば“○○する”、“○○しない”という明確な行動が提示されていることがほとんどです。これは神の視点です。しかし“SSS”であれば、プレイヤーは先の展開を想像するしかなくなります。あたかも、プレイヤーがその場にいるかのように、または主人公の状況と一致するように、“物語の先の展開が予想しづらくなる”のです。これは現実世界と一緒なので、先の展開に驚きが生まれるようになり、さらにバッドエンドが絡むとなれば、プレイヤーは焦りや危機感を覚えるはず。“SSS”は、サスペンスやミステリーにぴったりなシステムだと言えます。

 少し面倒&難しく感じられるかもしれませんが、ロジックがわかれば非常に簡単だし、前回の数値を引き継ぐため、毎回数値を入力しなくてもいいことがわかります。好感度のみに影響する“ブルー分岐”、ルート分岐に影響する“イエロー分岐”、キャラの生死に影響する“レッド分岐”と、色で重要性がはっきりわかったり、正解・不正解はSE(効果音)でもわかるようになっています。間違ったな、と思ったらバックジャンブやクイックロードですぐさま戻れるので、まったく問題ありません。

『ルートダブル』バックログ画面
▲製品版では“SSS”による好感度の変動を、バックログで確認できるようになりました。これをメモしていけば、誰の好感度が足りないかがわかりますが、たぶんメモをとる必要はないです(笑)。

 たとえマグレで成功しても、そのシーンを越えれば「なるほど。そういうことだったのか」と分岐条件について理解できることが多いです。また、バッドエンドにつながるレッド分岐も、基本的にはイエロー分岐で失敗すると発生するので、イエロー分岐で入力した数値とは別のものを選べば回避可能です。

 ここまでの説明だと“選択肢の見え方をちょっと変えただけのシステム”に思えます。たぶん、体験版をプレイした人で、そう感じた人も多いはずです。でも“SSS”のすごさは、“物語とシステムが融合している”ことと、“システムによってプレイヤーが物語に介入できる”ところなんですよ! 

 ADVは非常にシンプルなゲームジャンルで、進化の方法が限られていました。これまでは、絵や脚本の進歩、演出の進化、ユーザービリティが高いシステムへの改良などが主になされてきましたが、“完璧に物語にもかかわるシステム”というのは、あまりなかったと思います。

 『ルートダブル』では、この“システムと物語の融合”が非常にうまく実現されています。ここまでのレベルは大変珍しいです。なおかつ、カタルシスを感じられる部分で、プレイヤーが物語に介入している感覚を味わえるものは、今までありませんでした! 『ルートダブル』では、プレイヤーがゲームに参加し、プレイヤーがカタルシスを演出できるのです!!

 本作をプレイして、ようやく“ADVが目指すべきルート”の1つが明確に見えてきた気がします。最近はその片鱗を見せていた作品もいくつかあったのですが、ここまで突き詰めたものはなかったと思います。よくこれを思いつき、そして実現できたなと感心します。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』RAM System画面
▲初公開となる“RAM System”の選択画面です。これと“SSS”がうまく絡まって、“物語とシステムの融合”が高いレベルで実現されています。

 1点だけ、プレイ前は「ルート回収と周回プレイが大変そうだなぁ」と懸念していました。でも、それは“Answerモード”によって解決されていました。“Answerモード”は、各ルートの最良のエンドを見ることで解放されるモードです。“Answerモード”が解放されると、“SSS”入力時に“Answer”という項目が表示されます。これを選択すると、その時の回答パターンがすべて表示され、それを選べば正解ルートも不正解ルートも、さらには各ヒロイン寄りのルートにも、らくらく入ることができます。これであれば、“次のセンシズまでスキップ”機能を使って、すぐに別の結末やイベントを見ることができます! とってもラクチン♪

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』Answerモード(1) 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』Answerモード(2)
▲一番いいエンドを見れば、“SSS”の回答パターンが表示されるようになります。周回プレイにやさしいですね!

■ただの回想だと思ったら大間違い! 過去と現在を行き来するように展開するBルート

 お待たせしました。いよいよBルートのプレイレポートをお届けしますよ! Bルートを始めて最初に感じたのは、「えっ!? ここからなの!」という驚きでした。そう! Bルートは、“事故”が起こったまさにその瞬間、夏彦たちがラボに居合わせたところからスタートします。

 事故に対して発する、夏彦の「……ぼくらは、間に合わなかったんだ」というセリフが、Aルートの印象をいきなり覆してくれます。Aルートではほとんどセリフがなく、目的やどんな人間かもまったくわからなかった高校生組が、この冒頭で「ハッ! こいつら……もしかして!!」と一瞬にして気付かせてくれるわけです。この冒頭だけでもう、鳥肌がゾワゾワっと立っちゃいました。Bルートは、ほとんど説明なしでスタートし、緊迫した状況が続くので、Aルートよりもだいぶテンポがいい印象です。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』ラボに到着した高校生チーム 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』なぜかラボで悠里を発見
▲Bルートのクライマックスすぎる冒頭には、正直驚きました。説明がほぼなくテンポもいいですが、状況を把握するために、Aルートを先にプレイしたほうがいいと思います。

 さて、そこからは、混乱しつつも“ある目的”を達成しようと奔走する高校生組の姿が描かれる……と思いきや、山場にくると“何かが壊れたような演出の”ムービーとともに、事故の6日前“9月10日”の回想シーンが始まります。そして回想が始まった直後、なぜか夏彦の時計が壊れていて、針が指しているのは“9月16日の6:19”……事故発生直後の時間です。いきなり頭に???が浮かぶ展開ですが、ゾクゾクします!

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』夏彦の時計 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』なぜか時計が壊れている
▲事故の6日前にもかかわらず、なぜか壊れていた時計。時間は未来を指しています。Aルートをプレイしていると、いろいろと妄想が膨らむと思います。
『ルートダブル -Before Crime * After Days-』回想シーン導入 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』時計が割れるショートムービー
▲挿入されるショートムービー。割れたのは時計?

 回想の日常シーンでは、明るいBGMとともに高校生組の平和でコミカルな日常が描かれていきます。初めは本当に平和な日常が描かれるので、退屈だと思われるかもしれません。しかし、何気ない日常のそこかしこに、Aルートを体験して得た謎のヒントや、自分なりの考察を裏付けるような情報が、どんどんと湯水のごとく出てくるのです! シーン自体は本当に何気ないものです。でも、その情報によって「あそこのシーンはそういうことか!」とか「俺、もうわかっちゃったもんねー」みたいな知的興奮が得られるんです。ADVは、この知的興奮が1つの醍醐味ですよね。この“予想”を超えてくれると、さらに素晴らしいADVです。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』朝に起きた悠里 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』料理を作るましろ
▲寝ぼけて「んにゅ」なんて言っている悠里は、Aルートの状況から見ると本当に貴重。Bルートは、キャラに萌えられる最大最後(?)のチャンスなのです(笑)。

 なので、僕はAルートを先にプレイすることをオススメします。もっと言えば、体験版でAルートをプレイして、ひと通り考察した後に製品版でBルートをプレイすると、よりAルートの深いところまで見えてくるし、Bルートもさらに楽しめるので幸せだと思います。『ルートダブル』はADVとしてちょっと特殊で、事前情報を集めれば集めるほど本編で楽しめる作品になっています。発売前から、公式サイトで怒濤(どとう)のように事前情報が公開されていた理由がわかった気がします。

 話をBルートの回想に戻します。普通なら、このまま回想シーンが続くのですが、『ルートダブル』では1日ごとに“割れた何かが戻るムービー”が挿入され、現在時間の“9月16日”に戻ります。時間が戻ってからしばらく進むと、今度は過去の時間を時計が指し、回想シーンに戻るのです。フラッシュバックのような回想シーン。あたかも“過去と現在を一瞬で行き来している”ような……そんな印象を受けます。構成はまったく違いますが、僕はここで映画の『メメント』を思い出しました。さらに回想にもかかわらず、レッド分岐が発生しバッドエンドになるので、『Remenver11』の人格交換ギミックも彷彿とさせます。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』壊れた時計が直っている(1) 『ルートダブル』壊れた時計が直っている(2)
▲壊れたはずの時計が直り、なぜか過去の時間を指している!? 謎が謎を呼び、プレイヤーを飽きさせないストーリー構成が素晴らしいです。

 ここから先は製品版でぜひ体験してほしいのですが、Bルートは初めからクライマックスで、非常にテンポがいいルートです。オープニングまでの流れは、多分鳥肌が立ちっぱなしだと思います。さらに、日常シーンでもテンポは重視されていて、例えばヒロインとの買い物のシーン。普通のギャルゲーなら、どこに行くとか何を買うかでイチャイチャが始まりますが、『ルートダブル』だと一瞬で終わります。1クリックです(笑)。

 本編にかかわりのないムダな描写は極力排除し、日常の平和なシーンなのに飽きないよう工夫されています。「ちょっと刺激が欲しいな」と思うころには“現在時間”に戻るので、退屈さを感じる暇もないし、なんでそんなことが起こっているのか? 過去と現在の続きはどうなるのか? 気になってどんどんどんどん先に進みたくなります。回想シーンは最初こそ平和ですが、次第に日常が非日常に侵食されていく展開で、どんどんと加速していきますしね。Aルートでも、“止め時がわからない内容”になっていましたが、それはBルートも同じでした。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』レスキュー隊と出会う高校生チーム 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』宇喜多からの忠告 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』雑踏で夏彦を見つめるサリュ
▲ある事件をきっかけに、次第に壊れていく平和な日常……。ちなみに、Aルートに登場したキャラの、事故前の人間性もわかります。

 また、Bルートでは、夏彦たちが持つBC能力(超能力みたいなもの)の使い方や、BC能力者(コミュニケーター)の普段の生活、BC能力の授業などが描かれつつ、だんだんと“BC能力者の世界のあり方”みたいなものが見えてきます。それに呼応するように、“事故”の全貌もだんだんと見えてくる……という構成です。“回想ストーリーだから退屈そう”なんて心配は、まったくいらない内容になっていましたよ!

『ルートダブル』BCを使うましろ 『ルートダブル』恵那によるBCの授業 『ルートダブル』授業中にましろと会話
▲Bルートは、何気ないシーンにも多くのヒントが盛り込まれています。Bルートからプレイする人は、なんでもない情報でも頭の片隅に置いておくとよいです。
『ルートダブル -Before Crime * After Days-』学生たちによる無差別BC(1) 『ルートダブル』学生たちによる無差別BC(2) Xbox 360『ルートダブル』学生たちによる無差別BC(3)
▲“BCのある日常”がコミカルに描かれます。テレパシーによる、恵那先生のおっぱいが~のくだりは笑いました(笑)。

■ものすごいボリューム! 普通の人ならトゥルーエンドまで30~40時間はかかります

 これまでの記事でも書いてきましたが、『ルートダブル』はプレイ時間がとても長い作品になっています。ライトノベル1冊を1時間ちょっとで読む僕でも、トゥルーエンドまで18時間30分かかりました。ちなみに、一度もバッドエンド&デッドエンドを見ていません。いきなりトゥルーエンドです(笑)。もちろん攻略情報は見ていません。これは主人公になりきって慎重にプレイしたおかげかもしれませんね。かといって、ものすごく簡単だったというわけではなく、要所要所では本当に悩む場面がありました。それでいて正しい決断を見出せれば、一度でトゥルーエンドに行くことも可能です。なので難易度面での心配は、それほど必要ないかと!

 体験版レビュー企画によると、体験版Aルートの平均クリアタイムは8時間30分(100名の統計)でしたね。僕は4時間だったので、計算してみるとトゥルーエンドまで平均40時間はかかることになります。ちなみに、BルートはAルートよりも少し長めです。確か1.5倍くらいだったと思います。これだけ長いにもかかわらず、中だるみはほぼ感じませんでした。非常に密度の濃い作品だと言えます。

 トゥルーエンドまで18時間30分だったと書きましたが、TIPSやシナリオ既読率、エンディングリスト、実績はまだまだ埋まっておりません。これを回収していくとなると、あと数時間は楽しめるかなと思いますよ!

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』TIPS確認画面
▲TIPSの数は膨大! これを集めるのも楽しいですね。すべてを集めると、何かがある……?

■まとめ:間違いなく中澤工さんの最高傑作! 今年のNo.1ADVの最有力候補です

 たぶん、皆さんが本作でもっとも心配されているのが、“伏線が全部回収されるかどうか”でしょう。でも、まったく心配いりません! 全部回収されます!! 後半は、その伏線がどんどん回収されていき、「そんなところまで繋がっていたのか!!」と驚き感心すると思います。事故の真相自体は予想の範疇なのですが、すべてが繋がってすべてが解決し、山場と見せ場が続き、起承転結ではなく起承転転転転結ぐらいの展開に、エンドルフィンがダラダラと分泌されるでしょう(笑)。まだ続くのか? まだ山場があるのかよ!? やっと解決かと思ったら、畳み掛けるようにまた問題が出てきて、思わず「うぉぉぉぉーーーーーーーーー!」と会社で叫びたくなるほど興奮しました。傑作サスペンス映画のラストを見ているような畳み掛け方に、興奮しすぎて涙が出たほどです(笑)。

『ルートダブル』何者かに襲われるサリュたち 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』ましろに詰め寄る夏彦
▲すべてに意味があるので、与えられる情報は見逃さないように!

 懸念点が1つあるとすれば、“RAM System”を使うことによって、終盤のテンポがやや崩れていた点。このシステムによって物語がアツく盛り上がり、カタルシスを得られるのは確実です。でも、システムに付随するテキストが長く続くことで、アツい気持ちやテンションが持続されにくかったのが惜しい。丁寧に描こうとすると、どうしても流れが遅くなってしまいますから。それに対して、スピード感を重視して丁寧に描かなければ、ラストの感動が薄まってしまうし、キャラへの感情移入度も下がります。ここは一長一短ですね。どちらをとるか? どちらもこぼれ落ちない解決点があれば、ぜひ次のタイトルで実現してほしいと思います。

 体験版をプレイして、好きになったキャラ、いまいち好きになれなかったキャラが皆さんいると思います。発売前人気投票企画では主人公たちの順位が残念でしたが、ゲームを最後までプレイすると、9人全員を好きになれると思います! 特に夏彦の活躍は胸をアツくしてくれますし、ましろの健気さやサリュの幼女ボイスにクラクラします。あとは悠里に涙……。

『ルートダブル』カラオケボックスでの一幕 『ルートダブル』三ノ宮流サバットを説明するサリュ
▲Aルートではいろいろと“アレ”だったサリュも、Bルートではかわいくておもしろい、そして放っておけない女の子にイメージチェンジ!

 キャラクターそれぞれの過去・Roots(ルーツ)・根源を知り、それが繋がっていく演出にはグっときます。そして9人のルーツが本作のカギを握るということで、僕の脳裏にある図形が思い浮かびました。それはエニアグラム! 9人のルーツ(点)が1本の線で結ばれて、その交点が放つ輝きは“希望の光”を象徴しているように感じました。

 この作品には“希望”と他人とのかかわり方が込められているのだと思います。最後まで進めれば、『ルートダブル』のプロトタイプは『Myself;Yourself』なんだと感じられます。確かに、タイトルに込められた意味は『ルートダブル』に継承されているのだと。

 物語後半では、本当に何度も何度も何度も重大な決断を迫られます。プレイヤーがゲームに参加できるからこそ、この重大な選択で緊張できるし、正解したらうれしいし、「俺ってすげぇー!」という満足感も得られます。システムの項でも書きましたが、『ルートダブル』はADVの進化に対する1つの答えを示していると思います。こういった、“本気で作られたゲーム”がどんどん作られてほしいと心から思います。レビューで“傑作”なんて言葉は1度も使ったことがないですが、今回こそは胸を張って言いたいです。傑作ADVだと! ぜひ、この素晴らしい作品を、皆さん体験してください!!(ごえモン)

Xbox 360『ルートダブル -Before Crime * After Days-』コンフィグ(1) Xbox 360『ルートダブル』コンフィグ(2) 『ルートダブル』コンフィグ画面(3)
▲特に言及しませんでしたが、ユーザーインターフェースはとても優秀。ADVはこれが当然であってほしいものです。

(C)イエティ/Regista

データ

▼『ルートダブル』クロスポスター
■メーカー:アスキー・メディアワークス
■発売日:2012年7月14日
■希望小売価格:4,500円(税込)
 
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