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2012年6月7日(木)

『モンスターハンター』とは異なる音作りを追求! コンポーザーが語る『ドラゴンズドグマ』の楽曲の世界

文:電撃オンライン

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■ジャズにロックにオーケストラ……どういった楽曲がマッチするか悩みました

『ドラゴンズドグマ』

――『モンスターハンター』シリーズの楽曲を手掛けられていますが、新規タイトルの『ドラゴンズドグマ』を担当するということで、苦労もあったのではないかと思いますが。

 そうですね、最初にお話があったのは『モンスターハンターポータブル 3rd』の開発中でした。2009年の春くらいのことですね。もちろん『MHP 3rd』の楽曲も作っている最中だったので、掛け持ちでやらせていただきますと返事をしました。それが最初の取りかかりになりますね。

――その時に、ゲームの内容は何か確認できたりしましたか?

 新規のタイトルですし、まだ開発も始まったばかりだったので、まっさらな状態でしたね。どういったゲームになるのかを聞きながら作っていった感じです。

――新規のタイトルということで、不安もあったのでは?

 いや、不安はまったくなかったですね。どちらかというと期待のほうが大きかったです。こういったハイファンタジーの世界観は好きですし、前からファンタジーRPGの曲は作ってみたかったので、個人的にも声が掛かったときはうれしかったです。確かに“大作感”というのはあって、プレッシャーはあったかもしれませんが、やりたいことのほうが勝っていましたね。

――オーケストラを使った演奏というのも、やりたかったことの1つだったのでしょうか。

 そうですね、僕の作風はまずオーケストラが主体としてあるんですけど、そこにいろいろなものを足していく手法を使っています。例えば『モンスターハンター』だったら民族楽器を入れてみたり、『ドラゴンズドグマ』だったら民族楽器とロック的な要素を入れてみたりしています。そうやって突き詰めていくことで、特徴的な音楽を作ることができます。

――確かに他の作品にはない、特徴的なオーケストラサウンドだったと思います。しかもかなりの曲数がありますよね。

 曲数に関しては、他のRPG作品などと比べるとそれほど多くはないと思いますよ。きっと『ファイナルファンタジー』シリーズとかのほうが曲数は多いんじゃないかな(笑)。今回発売されたサントラは2枚組みで86曲入っていますが、それでもゲーム中に使われている曲のすべてではないですから。収録しきれなかった曲も合わせると100曲以上になりますね。その中でもゲーム中で繰り返し聴くことになるような曲は注力して作っています。

――本作の楽曲制作期間はどれくらいだったのでしょうか。

 本格的に始動したのが2009年の秋からなので、2年半くらいですね。純粋な作曲の期間としては、その中の1年から1年半くらいです。コンポーザーの仕事というのは、曲を作るだけじゃなくて、その曲を実際にゲームへ実装することもやらなくてはいけないので、作曲だけじゃない期間というのも多いんです。特に、この規模のゲームになると、いろいろとやることも多いですし、これくらいの期間にはなってしまいましたね。

――想像はしていましたけど、大変なお仕事ですね……。

 今回は外部のコンポーザーの方を含めて4人体制でやらせてもらったのですが、他の方は純粋に曲だけを作っていただいて、僕がそれをチェックしてまとめていくという流れだったので、確かに大変なところはありましたね。

――4人で作るとなると整合性をとったり、バランス調整などが難しかったのではないかと。

 もちろん作る前にすり合わせをしているので、大きくブレることなどはなかったのですが、個性豊かな方々だったので僕の想定外のものができ上がったりしました(笑)。それぞれの個性を生かしたうえで本作の曲がどんどん深まっていきましたね。僕だけだったら狭い幅の中に収まってしまうと思うのですけど、より大きな世界観の音楽になることができたのではないかと思いました。作り手によって曲のキャラクターがまったく違うのですけど、それをひっくるめて『ドラゴンズドグマ』の音楽になったのではないかという印象です。

――本作の音楽を作る際に意識したのはどんなところでしょう?

 『モンスターハンター』とはもちろん作り方が違うので、1曲の中でも展開を持たせるというところに注意をしています。『モンスターハンター』の場合、大きなモンスターとの立ち回り中、常に同じテンションで曲が流れていると思いますが、本作の戦闘の場合だと、曲としてもっと緩急があってもいいじゃないかという考えで作っています。戦闘が激しい時に一瞬だけ曲が聞こえなくなってもいいと思うんですよね。そこにストーリー性を持たせたり、もっと凝ったオーケストレーションを仕込んだり、あえて癖のある作曲の仕方にしてみたりと、自分の中でも『モンスターハンター』とのいい差別化ができたのではと思っています。特に新規のタイトルなので、ルールがないんですよ。そこに対して、自分の解釈で作曲できたのはおもしろかったですね。

――とはいえ、自由であるがゆえに難しかったこともあったのでは?

 最初にプロデューサーの小林さんとディレクターの伊津野さんと集まって方向性の話をしたのですが、全然バラバラでしたね(笑)。何もない状態だったので、各々の希望がいろいろと出てくるのですけど、小林さんは王道な方向ではなく、ミスマッチで斬新なものを考えていました。例えばジャズとかどうだろう、とか。そういったものを入れていくことで普通のRPGとは異なる印象を与えることができるんじゃないかという考えでした。伊津野さんは80年代のクイーンとかKISSなどのハードロック的な路線はどうかという考えがあって、そして僕はオーケストラがやりたいという、まったくバラバラのイメージだったので、さて、これをどうまとめるか……というのが難しかったです(笑)。

――音楽の方向性がまったくバラバラですね(笑)。

 でもとりあえず皆さんのイメージに合うようなものをそれぞれ全部作りましたよ。それを実際に開発中のゲームに乗せて動かして検討しました。そういった試行錯誤がありまして、オーケストラの方向に決まりました。まぁ、その試行錯誤が長かったですけどね、それがあったから今の方向性に固めることができたと思います。

――なかなかパッとは決まらないものですね……。

 新規のタイトルなので、みんなのアイデアとイメージがいろいろとありましたからね。最終的には「『ドラゴンズドグマ』に合う音楽ってどういうものだろうね」ということを繰り返し話し合った感じです。オーケストラには決まりましたが、オーケストラの壮大感や重厚な感じだけでなく、ロックな部分だったり斬新なイメージや癖のあるものだったりを自分なりに考慮して、民族楽器や中世のパイプオルガンなどをミックスして詰め込んでいきました。

――聴いていて、いろいろな楽器を使っているなと思っていました。作曲をイメージする際に、具体的に参考にした作品などはありますか?

 自分の中には『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といったゲームサウンドのイメージはもちろんありますし、『ロードオブザリング』といったファンタジー映画の音も入っていると思います。でも、そういったものを真似るだけではダメですよね。元々、ヨーロッパ的な音のイメージというのがありました。そこで、ヨーロッパでオーケストラの音を録って、ハリウッド的な曲の作り方や日本的な曲の作り方といった作曲の技法を入れ込み、最終的にはロサンゼルスでミックスをするという制作工程を取りました。その流れが『ドラゴンズドグマ』の特徴になったと思います。

――曲のほとんどにボーカルが入っていますが、これはどういった意図からでしょうか。

 オーケストラサウンドのほかに、『ドラゴンズドグマ』の特徴の1つとしてボーカルをたくさん入れたいと考えていました。人の声というのは、どの楽器でも決して出せない特徴的なサウンドで、世の中にいろいろな楽器がありますが、声に勝るものはないと思います。ですから、ボーカルはアクセントとして絶対に使いたかったんです。合唱団やソロを生で収録したり、打ち込みで作ったりしたものもあります。メインテーマ以外は造語なので何を言っているのかわからないと思いますが、その歌声がゲーム中で印象に残ってもらえれば幸いです。

――ちなみに一番印象に残っている曲はどれでしょうか。

 本作のメインテーマになっている『Eternal Return(エターナルリターン)』という曲があるんですけど、『ドラゴンズドグマ』の音楽の方向性を固めるうえで、一番重要だった曲なんです。コンセプトが固まるまでの試行錯誤を思い返すと、一番キーになっている曲だと思いますね。実はこのメインテーマがすべての曲に派生しているんですよ。世界観やフレーズをアレンジしていますが、大元はこのメインテーマから派生したものなんです。3カ月くらいかけてアレンジを行って、修正を何度もして、個人的にも印象に残っていますね。

――サントラでも最後の曲ですね。

 いろいろなところに派生していった曲が、最後に『Eternal Return』にたどり着くというのが狙いです。なので、一度クリアをしてもう一度プレイをしなおした時に、「あぁ、あの曲、ここでも使われていたのか」と気付いてもらえたらうれしいですね。本当にいろいろなところで、いろいろな形で、このメインテーマのアレンジを聴くことができると思います。

――ドラゴン戦の曲が多い印象を受けました。

 ドラゴンは、『ドラゴンズドグマ』の象徴として、特にフィーチャーしています。

――個人的には『死闘の果てに』が好きです!

 巨大モンスターを攻略中に流れる曲ですが、それぞれのモンスターごとに条件があって、それを満たすと聴くことができます。いわゆる優勢になった時にプレイヤーのテンションを煽る曲ですね。メインテーマと同じくらい重要な曲で、戦闘に特化したテーマ曲になっています。

――戦闘中の状況によって流れる曲が変わるんですね。

 その時の状況によって変わるように仕込んでいます。ボス固有のものもありますし、ザコ戦でも実は3つくらい用意しています。戦闘状況を常に計算式で数値算出したものに応じて、音楽を切り替えています。戦闘終了後も曲が急に止まるのではなく、自然とアウトロにつながっていく、“ゲーム音楽としての曲の流し方”にも注目して聴いていただきたいです。

――とはいえ、死にそうな時はそれどころじゃないですけどね(笑)。

 焦っている場面でも、そこに何かしらの演出が入っていると思うんですよ。『モンスターハンター』も同じで、厳しい局面の時に「曲なんて聴いてられないよ!」って思うかもしれませんが、不思議と印象に残っているじゃないですか。ですから意識的に曲のテンションを上げすぎず、主張しないと決めていました。そのため、フィールドではほとんど環境音にしています。

――そういったバランス調整などもコンポーザーのお仕事なんですね。

 基本的には僕とサウンドのメンバーで決めていった感じです。関係者からは「もっと鳴らさないの?」とか、そういったご意見をもらいましたが、やはりすごく長い時間プレイをするゲームになるので、同じ曲を流し続けるのは苦痛になってしまうだろうなと思いました。なので、純粋に風の流れとか木が揺れる音、そういった環境音に乗って音楽が流れてくるほうが自然だなと。ふわっと流れてきて、ふわっと消えていく……特にフィールドに関してはそんなイメージでした。そうすることによって、ボス戦の曲のインパクトが出てきますしね。

――最後に、サウンドトラックの聴きどころをお願いします。

 『ドラゴンズドグマ』のための音楽ではありますが、1つの音楽作品として聴いてもらってもいいと、僕は胸を張って言えます。いろいろな要素、曲の作り方、ヨーロッパでの収録、ロスでのミックスがあって、音楽的にも音質的にも、いい意味で癖のあるものができ上がったんじゃないかと思っています。ですので、このサウンドトラックをきっかけにゲーム本編をプレイ中、音楽にも耳を傾けていただけたらうれしいですね。僕を含む、多くの関係者の情熱がたくさん詰まった作品になっているので、ぜひ聴いてみてください。

『ドラゴンズドグマ』 『ドラゴンズドグマ』
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データ

▼『ドラゴンズドグマ オリジナル・サウンドトラック』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■品番:SQEX-10309~10
■発売日:2012年5月23日
■価格:2,800円(税込)
 
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Amazon.co.jp
▼『ドラゴンズドグマ LIMITED EDITION』
■メーカー:カプコン
■対応機種:PS3/Xbox 360
■ジャンル:ACT
■発売日:2012年5月24日
■希望小売価格:各11,990円(税込)
※イーカプコン専売

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