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2013年1月28日(月)

コントローラいらずのXbox 360用周辺機器『Kinect』は研究機関や福祉施設などでも活躍していた

文:megane

 Xbox 360用周辺機器として2010年に発売され、コントローラを持たずに操作できる周辺機器として注目を集めた『Kinect for Xbox 360(以下、Kinect)』。ゲーム用途としての見られることが多い『Kinect』だが、ゲームに留まらない活用法が広がっていた。

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▲『Kinect for Xbox 360』

 この『Kinect』のさらなる活用と発展について、日本マイクロソフトは同社オフィスに報道関係者を集め、“進化するマイクロソフトのUI”と題して、説明会を開催した。

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 説明会ではマイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長兼日本マイクロソフト業務執行役員 最高技術責任者の加治佐俊一氏が登壇し、同社におけるユーザーインターフェースの変革とともに、各業界における『Kinect』の導入実例を紹介した。

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▲『MS-DOS』時代のキャラクターユーザーインターフェースから『Windows』時代へのグラフィカルユーザーインターフェースへ。そしてナチュラルユーザーインターフェースと進化する。▲同社がリリースしている主な製品の一覧。現状ではどれもグラフィカルユーザーインターフェースを採用している。

■体感ゲーム用という枠を大きく飛び越える『Kinect』

 まずは『Kinect』の現在の状況について解説しよう。当初こそ『Kinect』はXbox 360のゲームのおもしろさを拡張するものとして登場したが、2011年に『Kinectセンサー』をWindows PC上で制御できる開発キット『Kinect for Windows SDK』のベータ版が公開。2012年2月に正式版として販売開始されてからは、日本全国の大学や各種施設で利用されるようになった。

 体感ゲーム用の周辺機器としては、WiiのWiiリモコンやPS3のMoveなど他ハードにもあるが、それらは基本的にゲーム機用の周辺機器として存在する。しかし『Kinect』の強みは、前述の開発キットを使い、汎用的に使用できるというところにある。

 この『Kinect』の中核にあるKinectセンサーには、RGBカメラ、深度センサー、多数のマイク、そしてあまり知られていないことながら加速度センサーが搭載されており、発売当時としては他に例を見ない精度と機能で話題となった。しかし、加治佐氏はこの『Kinect』について、「機器自体はただのセンサーであり、本質的に重要なのはさまざまなデータを分析してプログラムに変えていくアルゴリズムにある」と語る。

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▲Kinectセンサーを手に持つ加治佐氏。Kinectセンサーには、据え置きのゲーム用途には必要ないが、モバイル向けに加速度センサーも搭載している。

 こうしたセンサーなどを使ったインターフェースは、“ナチュラルユーザーインターフェース(NUI)”と呼ばれ、同社はこのNUIを積極的に推進している。

 国内での導入例としては、東京女子医科大学にて手術中の非接触型画像操作システム“Opect(オペクト)”として『Kinect』が採用されている他、重度の障碍を持つ人に向けた活動支援ソリューション“OAK”などがある。

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▲Opectのデモ。患者の血管の状態などを3Dの画像として表示し、Kinectセンサーに向かって手をかざすことでそれらを360度動かして見ることができる。

 OAKでは、Kinectセンサーによって口の開閉や手の動きなどを読み取り、その行動に応じた反応を行うことができる。説明会では加治佐氏によるデモンストレーションが行われ、加治佐氏が口を開けるとパワーポイントによる資料のページ送りが行われていた。

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▲OAKのデモ。加治佐氏が顔の位置を動かすと、画面内のトラッキング状況もあわせて動くようになっていた。
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▲リハビリ施設向けの“リハビリウム 起立くん”。▲商業施設などで人の入退店による人数などを計測できる“Hello Counter”。▲書道を空間で体感できる“AIRSHODOU”。

 こうしたプロジェクトは、2012年2月の『Kinect for Windows SDK』の発売以来数多く誕生しており、同社が把握しているだけでも150を超えるプロジェクトが国内で進行しているという。高等専門学校では『Kinect』を対象とした講座が開かれ、東京大学でも『Kinect』向けの講座が増えている他、早稲田大学でも『Kinect』を使ったプログラミングコンテストが開催されている。

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▲例えば、お台場にあるセガジョイポリスでは、施設内の各所にあるアトラクションで『Kinect』が使われている。テレビのドキュメンタリー番組でも大学の研究室でKinectの姿を数多く見ることができる。

■今ある機材とプログラムでさまざまなサービスを提供できる

 マイクロソフトでは、900人もの研究者が所属するマイクロソフトリサーチセンターで、こういったNUIの研究が常日頃から行われている。同社のNUIは、高価なセンサーを使うのではなく、汎用的なセンサーをプログラムでもって動かすものが多いようだ。

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 興味深い事例の1つが、マイクロソフト本社オフィスにおけるシャトルバスの手配システムだ。広角カメラと4つのマイク、タッチスクリーン、カードリーダー、スピーカー、汎用PCといった、どこにでもある機材を使用して、会話をしながらシャトルバスの手配を行う。

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▲アメリカ・レドモンドにある同社オフィスは非常に広大なため、ビル間の移動はシャトルバスで行うという。その手配システムがこれだ。▲システム内にさまざまな状況に対応するアルゴリズムがプログラミングされており、スムーズなバスの手配を行う。

 会話はプログラミングされたコンピュータと行うのだが、カメラに映し出された人の身なりやその時の状態(苛立っているかどうか)を判断し、その時に応じた対応を返すことができる。また、カメラに表示された複数の人と同時にコミュニケーションがとれるのも特徴の1つとなる。

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▲カメラに映し出された来訪者の映像から対応を確定する。▲手前にいる2人の対応が一段落したら、奥にいる人の対応を開始。その後、手前の2人に戻って対応を続けていた。

■これからの『Kinect』で実現する技術とは

 『Kinect for SDK』は、2012年2月のリリース以来3回のバージョンアップが行われ、さまざまな機能が追加されている。機器となるKinectセンサーはそのままなのにかかわらずだ。そして時期は未定だが、次のアップデートでは“Kinect Fusion”と呼ばれる3Dスキャナー機能が追加される予定だという。

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 これはKinectセンサーによって取得された映像をリアルタイムで3Dのオブジェクトとしてスキャンし、3Dモデルとして再構築するというもの。百聞は一見にしかずということで、まずは動画を見てほしい。

●Kinect Fusionデモ映像

 動画内では、Kinectによって3Dの映像が生成されている他、その映像に物理演算による処理をかけている様子を見ることができる。これはPCのCPU性能の進歩だけでなく、GPU(グラフィック機能)の処理能力が格段に向上したことも作用しているという。

 また、今月にラスベガスで行われた“CES 2013”では、“IllumiRoom(イルミルーム)”と呼ばれる、部屋全体をXbox 360のモニターにしてしまう技術が公開された。IllumiRoomについても言葉で説明するより、動画を見ていただいた方がわかりやすいだろう。

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●IllumiRoomデモ映像

 動画では、部屋の真ん中に設置された液晶テレビを越えて、部屋の壁にゲーム画面が表示されている様子が描かれている。このIllumiRoomについての詳細は、4月27日から5月2日にかけてフランス・パリで行われるイベント“CHI 2013”で公開されるとのことだ。

 日本におけるXbox 360用の『Kinect fot Xbox 360』は、日本とアメリカの住環境の差もあり、本体の販売台数に対して、普及しているとは言い難い状況にある。しかし、『Kinect』というソリューション自体は、アメリカのみならず日本においても研究対象として浸透している状況である。

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 加治佐氏は『Kinect』についてこう語った。「2万円のセンサーとPCがあれば、こういったことができてしまうんですよ」

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