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2013年8月24日(土)

サイバーコネクトツー流の『NARUTO』シリーズ&『ジョジョの奇妙な冒険』の作り方――必要なのは作品に対する世界一の愛【CEDEC 2013】

文:イトヤン

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■原作の“完全再現”にこだわった『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』

 『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル(以下、ASB)』はそのタイトルどおり、荒木飛呂彦氏のコミック『ジョジョの奇妙な冒険』の第1~8部に登場する主要なキャラクターが、一堂に会してバトルを繰り広げる対戦アクションゲームだ。

 こちらは原作の第7部まではすでに完結しており、個々のキャラクターのイメージや使用する技が明確になっているため、キャラのコンセプト自体は開発初期の1カ月でほぼFIXできたという。さらにその2カ月後には、各キャラに関する“おおよそ”の仕様が固まった。ただしディレクターの中舎氏によると、この“おおよそ”がミソだとのこと。

●原作からコマを抜き出して、各キャラクターの動きに合わせていく

 『ASB』ではキャラの各挙動をデザインする際に、原作コミックのコマを抜き出して、そこに描かれたポーズを再現するという手法が取られたそうだ。第1部主人公のジョナサン・ジョースターを例に取ると、1つの挙動につき7~15コマ、ジョナサン全体では240~250コマを抜き出して、原作で描かれた動きをモーションに当てはめていったという。結果としてジョナサンの場合には、挙動の約9割がコマの再現になっているそうだ。またゲーム全体では、1万2000~3000ほどのコマを抜き出すことになったという。

 『ジョジョの奇妙な冒険』のコミックでは、独特な言い回しの名セリフやユニークな擬音、さらには“ジョジョ立ち”とまで呼ばれているキャラクターの特徴的な立ちポーズも、ファンの記憶に残る大事な要素だ。中舎氏によると、これらをどうやって自然な形でゲームの中に採り入れるかというのが、『ASB』のゲームデザインのカギになったそうだ。

 前述の“ジョジョ立ち”は、『ASB』では“スタイリッシュムーブ”という形で採り入れられている。これは敵の攻撃を受けた際にジャストタイミングで防御すると、キャラクターが華麗なポーズとともに、敵の攻撃をかわすというものだ。また、対戦相手をダウンさせた際に挑発を行うと、原作の名セリフや名場面を再現した演出が入る。これらは単なる演出ではなく、ジャストガードや敵のゲージを削るといった具合に、ゲームとしての機能もしっかりと持ち合わせている。

 また、プレイヤー同士が対戦した際、個々のプレイ記録が記載されたカードが交換されるのだが、このカードに各キャラが名セリフを語ったボイスを添付することができるという。これはプレイヤー同士で名セリフの応酬を楽しんでもらいたいという意図があるそうだ。

 さらに、特殊な条件で対戦相手を倒すと、ステージ固有の“シチュエーションフィニッシュ”が発動するという。たとえば第3部の“カイロ市街”では、花京院典明がDIOに倒された場面が再現される他、第4部の“杜王町”では、“決して振り返ってはいけない小道”で無数の手によってあの世に引き込まれる場面が再現される。中舎氏によると、これは特定の条件で相手を倒すプレイヤーの技量と、原作再現をマッチさせることを狙ったものだそうだ。

■1年半の開発期間中、常に新たなモーションを追加

 『ASB』で第2部に登場したワムウを使用した際、レバー入力がない時に表示されるニュートラルポーズは、ワムウが“柱の男”として初登場した際の印象的なポーズを再現したものになっている。また、第5部の主人公ジョルノ・ジョバァーナがスタンドを使用している際のポーズは、コミック単行本の表紙に描かれた特徴的なポーズを再現しているという。

 このように『ASB』では、通常の挙動とは異なる特殊なポーズや動きが大量に用意されている。中舎氏によると、こうした追加に対応するため、開発初期の段階でキャラの基本的な仕様を“おおよそ”決めてしまってから、開発途中でフレキシブルにモーションを入れ替えるという作業スタイルが採られたそうだ。これが前述の“おおよそ”の意味だ。

●キャラのモーションは通常の格闘ゲームに比べて3倍から3.5倍!

 ところがこのため、1人のキャラに用意されたモーションは、通常の対戦アクションゲームに比べて3~3.5倍になっているそうだ。しかも約1年半にわたる開発期間中、常にモーションが更新されていくため、どの開発スタッフも手の空く期間がなく、全員でずっと全力疾走を続けなくてはならなかったという。

 さらに第8部は、ゲーム開発の開始時にはまだ連載が始まっておらず、連載開始後もしばらくはバトルが行われなかったそうだ。結局、今年の5月まで開発を粘りに粘った結果、“カツアゲロード”や「勝ったのは……オレです! たっぷり!」といった、原作コミックの最新の展開まで採り入れることができたという。ただしストーリーモードに関しては開発期間の都合上、ゲームオリジナルで対応せざるを得なかったそうだ。

■原作となる作品に、世界一の愛を!

 中舎氏によると、『ASB』の開発にはいろいろな問題も発生したが、『ジョジョ』的に言えば「覚悟」を決めることで乗り切ったそうだ。スタッフ全員が『ジョジョの奇妙な冒険』という原作に愛を注ぐことで、ゲームを完成できたという。

 「『NARUTO-ナルト-』と『ジョジョ』ではファンの性質が違うし、求められているものも変わってくる」と松山氏は語った。

 松山氏によると、重要なのは、その原作のファンが何を求めているかを、よく観察することだという。さまざまなイベントにも足を運び、版元や原作者としっかり話をすることが大切だ。

 しかし、キャラクター版権タイトルを作る際には何よりも、原作に対する“愛情”なしに作ってはいけない。仕事と割り切るのなら、他の仕事を選ぶべきだ。ゲームが作られる以前から、その原作にはすでにファンがいるのだから、原作の人気にあぐらをかいた仕事をしても、ファンが悲しむだけだ。

 「原作を最大限に活かせるゲームデザインを、世界で一番、原作者以上に考え抜くこと。その作品に世界一の愛を!」と、最後は松山氏らしい熱い想いのこもった言葉で、セッションが締めくくられた。

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