2013年9月7日(土)
――『モンスターハンター』シリーズは、無印から数えると約9年、来年で10年になります。長年作り続けるうえでのこだわりについて教えてください。
藤岡:シリーズを通じて変わらないこだわりは、“アクションゲームとしての『モンスターハンター』”というところです。新しいアプローチをしたとしても、このことは絶対に守っていて、モンスターの動きやモンスターの仕掛け方、モンスターとのやり取りとか、武器の触り心地とか、そういったところは妥協せずに作っています。
『モンスターハンター』は、オンリーワン設計なんですよ。武器1つをとってもそうでして、遊びのかぶるものは絶対に作らない。例えば、新しく武器を追加するケースでも、この武器でしかこの遊び心地は体験できないというのを絶対に入れる。それがないんだったら武器を追加しないという作り方をするので、そういうところは、シリーズを重ねた今も、変わらずに絶対に守っています。
▲今作『MH4』の武器で言うと、操虫棍とチャージアックスが新しく武器を追加したケース。他の武器とは異なる遊び心地が詰まった武器ということになる。 |
藤岡:先ほども言いましたが、ベースを変えずに何かを追加すればするほど、自分たちのアイデアは枯渇していきます。でも、『MH3(トライ)』の時の水中であったり、『MH4』の高低差を利用した遊びだったりが入ることで、さらに一段上のアイデアを出せるようになります。今回は何がいいかなと考えながら、新しいアイデアを積むことができる土台を毎回用意し、そこに対する絶対に譲らないアイデアをとにかく入れるというのは、以前から変わらず今も続けています。
それとは別に、プレイヤーの遊ぶ環境がどんどん変化しているので、そこには追いついておかないといけないと、いつも思っています。それを無視して自分たちのやりたいことだけを表現しても仕方ないので、譲らないところとユーザーの環境の両方を加味しながら妥協せずに作っていくことは、この9年もそうですし、次の10年もずっと続けていくことだと思っています。
辻本:あと、ワクワクしそうなことは何とかやってみようというのもありますね。例えば『MH3(トライ)』の時だと、「水中に入りたいよね、じゃあどうにかしてみよう」みたいな感じでした。
藤岡:僕は辻本を見ていて、プロモーションの仕掛け方も一種そういうものだと感じています。「楽しそうなことをやってみよう、逆に楽しくないことはやらなくてもいいんじゃない?」みたいな割り切りを持ってやっていると。
――そういえば、以前『MH3(トライ)』でインタビューをさせていただいた時に、水中にハンターが飛び込むところを見て感動したという、開発中のお話をお聞きした記憶があるのですが、『MH4』の開発中はどうでしたか?
藤岡:段差をぴょんぴょんとシームレスに行き来しているのが気持ちよくて、崖下に飛び込んでも次につながっていたりとか。今までは、どーんと手をついて途切れてしまう作りだったんでけど、『MH4』では気持ちよくうろうろできる。モンスターとか何もいなくても、走り回っているだけで楽しくて、感動した記憶があります。
辻本:あの時は本当に気持ちよかったですね。あの気持ちよさがあったから、パッケージ裏のキャッチコピーが“駆け巡る”に決まったんですよ。
――そうなんですね!
藤岡:「それだけでも楽しいよ!」という意味で。
――“駆け巡る”というワードを聞くと、今までのシリーズとはコンセプトが少し異なっているような印象を受けます。根本のコンセプトはズレていないと思うんですが、スピード感というか何というか……。
藤岡:駆け巡るというか、走り回りたくなる作りは、今までのシリーズにはない感触ですね。エリアを巡る楽しみは、今までの『モンスターハンター』シリーズにもあった楽しさなんですが、それとは別に走り回っているだけ、移動するだけでも楽しいっていう感覚です。
辻本:駆け巡るを大きく解釈すると、壁をよじ登る時もそう。ぴょんぴょんやっているだけでも楽しいですから。登るのが苦じゃないというか。
▲駆け巡る、走り回ることの楽しさ。フィールドに関して言うと、今までの『モンスターハンター』は、駆け巡るというよりは、採集ポイントを探すために“探索する”というニュアンスが強かった。そうした要素は従来通り存在しながらも、“駆け巡る”という新たな楽しさが追加されたことになる。 |
――『モンスターハンター』シリーズのロゴには、作品ごとに異なるコンセプトが込められていました。今作『MH4』ではいかがでしょうか?
藤岡:前々から、ちょっと雰囲気を変えたいと考えていたんです。『MH4』では高低差をアクションに生かしたことから、アクションの根底にちょっと手を加えることになったわけで、『モンスターハンター』としての新しいスタイルというか、『モンスターハンター』なんだけど次の新しい何かを感じてもらいたいというべきか、『モンスターハンター』を内包した新しいものというべきか、そういったことがコンセプトになっています。そして、「このコンセプトはロゴでも感じてほしいよね」という話をして……。
今までは『モンスターハンター』ということがしっかり書かれたロゴだったんですが、『MH4』では“M”と“H”と“4”をドーンと大きく目立つようなレイアウトに変更してみました。ただ、重厚感のある質感は維持したかったので、今までのタッチをある程度踏襲し、そのうえで大きくシルエットを変えてみよう、といった感じです。『モンスターハンター』テイストなんだけど、なんだが新しい感じを出したいと、辻本に相談したところ、「思い切ってそこまで変えてもいい」と言ってくれたので、シルエットを全面的に見直す形で決着させました。
辻本:新しくはするけど、最終的には馴染むものという感じになったと思います。
――『MHP 3rd』のユクモ村の紅葉の赤がそうだったと記憶していますが、ロゴのバックや縁の色に、拠点のテーマ色が使われているケースがありました。『MH4』でも、そういった部分はありますか?
藤岡:今回の『MH4』のロゴには、冒険心や開放感といったニュアンスを入れたいと考えていました。ゲーム中を見ると、ストーリーの流れだったり、キャラバンだったり、キャラバンの集合体であるバルバレだったりと、1カ所に定着しないイメージが各所に存在します。そうした中、雇われたハンターという位置づけでいろいろなところを旅してストーリーが進み、さまざまな体験をしていくという開放感のあるイメージを、僕は『MH4』に対して持っていました。
一番最初に行くことになるフィールドの遺跡平原でも、開放感を感じることができると思います。キャンプから出ると、そこはすごく開けた場所。黄色い草原がばーっと広がっていて、この平原をパッと見た時、きっと開放感を味わうでしょう。そうした遺跡平原の印象やバルバレの黄色の印象がロゴのイメージに合うと思ったので、ロゴのエンブレムを開放感のある放射状のシルエットにしてもらい、ポイントとなる黄色は、シルエットをはじめ、ロゴの縁などにも使ってもらいました。
▲こちらが『MH4』のロゴ。ロゴのテーマ色になっている黄色には、こうした意図があったわけだ。 | ▲バルバレも色で言うと黄色のイメージ。『MHP 3rd』のユクモ村の紅葉の赤色と同じく印象深い。 |
――『MH4』の開発を終えて、印象深かったことや苦労した点についてお聞かせください。
藤岡:苦労話となると、いつもそうですけど、全部が当てはまりますね……。トライアンドエラーもそうですし、ここまでのものを作るというコンセプトを自分たちで決めて、後戻りできない形を自分たちでやるって決めて、それをおもしろいものにしなくちゃいけないというプレッシャーを感じて。辻本とは「絶対にトレードオフはしないでおこう」と話していました。アクション部分に関しても、何かを足したら何かを引くんじゃなくて、絶対に足そうと。10がMAXではなく、13がMAXになるように足していこうという感じで、つねにプラスする方向で物事を考えたんです。
例えると、段差があるからこういうアクションはできませんというのは絶対にやめましょうとか、そういうことですね。むしろ、そこがスタート地点になる。初期に作らなきゃいけない物量がとにかく膨大でした。まず、全部を入れ込んで素材分けして、なんだかんだみたいなことをすべてやったあとに、今度はそれを調整してチェックして……。こんなことを全部やったので、本当にしんどかったです。
→高低差のアクションが立ち回りのカギを握る?(3ページ目へ)
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