2014年2月26日(水)
博多の街には人口の3%の殺し屋が存在する……? 『博多豚骨ラーメンズ』で電撃小説大賞《大賞》に輝いた木崎ちあき先生インタビュー
第20回電撃小説大賞≪大賞≫受賞作『博多豚骨ラーメンズ』が、ついにメディアワークス文庫より発売。著者の木崎ちあき先生へのインタビューをお届けする。
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本作の舞台となる福岡は、一見平和な街に見えるが、今や殺し屋の激戦区という危険な街だった。殺し屋専門の殺し屋まで存在するこの街で、殺し屋たちの群像劇が描かれる。殺人事件の加害者になったと思ったら、被害者になったりの大騒動!! さまざまな人間模様と陰謀が渦巻く本作の結末は?
インタビューでは、生粋の福岡っ子である木崎先生が語る、本作の制作にまつわるエピソードが満載。さらに特別企画として木崎先生による“3大博多グルメ”、“プロ野球応援歌ベスト3”もお届けする。なお、電撃小説大賞のWebサイトには本作の特集ページも開設されている。
――いよいよメディアワークス文庫『博多豚骨ラーメンズ』が2月25日に発売されます。今の素直な心境を教えてください。
発売日が近づき、今までの努力が報われるようなうれしい気持ちもあるのですが、読者のみなさんに楽しんでもらえるか、電撃小説大賞≪大賞≫受賞作にふさわしい作品だと評価してもらえるのだろうかと、不安な気持ちもいっぱいです。
――本作の舞台は、人口の3%が殺し屋の街・博多です。木崎さんも福岡市ご出身ですが、やはり実体験をもとに……。
いえいえ!! 福岡は危険な街だと、よくネタにされてますよね? そこに乗っかって物語を作ってみようと思ったんです。社会の裏側で大陸の多国籍マフィアや殺し屋たちの抗争があるんじゃないかとか、そんな自由な想像が入り込む余地がある。人口の3%が殺し屋というのは、もちろん私の作品の中だけですよ! 実際は平和で住みやすい街です。
――先日、福岡近郊で手榴弾が回収されたというニュースを見ましたが?
えっ、それは……(笑)。とにかく大丈夫です!! 実際の福岡は平和な街です!
――そういうことにしておきましょう(笑)。本作は“日常の中の非日常”が効果的に使われている話だと思います。物語冒頭では、就職活動中の斉藤がとある会社の面接試験を受けています。一見、ふつうの会社面接に見えるのですが、物語が進むとその会社が殺し屋専門の人材派遣会社だということがわかるというオチで……。
はい。斉藤は裏の世界と表の世界をつなぐ“巻き込まれ役”なんです。彼は善良な市民ですが、何も知らずに殺人請負会社「マーダー・インク」の面接に受かってしまい、就職してしまいます。そこで一人前の殺し屋になるための殺人研修を受けるんですが、成績不振で東京本社から福岡支店に飛ばされてしまって……。斉藤は就職といった“日常”と、殺し屋という“非日常”に翻弄される人物です。
――殺し屋なのに、新幹線に乗って転勤していく姿がおもしろかったです。
うれしいです!! 転勤はごくふつうの会社員にも起こることですよね? でも、そこに彼が殺人派遣会社の社員で、殺し屋激戦区の福岡へ不安を胸に転勤していくという非日常を加えると、特別な面白味が出るんじゃないかと考えました。
――そんな斉藤が福岡へやって来ると、そこは殺し屋たちの暗躍する都市で。殺し屋たちが入り乱れる物語は予想外の連続で驚かされました。
多彩な人物が干渉し合い、その交流から誕生する物語を書きたかったんです。本作を書くにあたり、登場人物の職業を決め、それにあわせてキャラクターを作っていきました。一番最初に設定した人物は博多弁を話す、私立探偵の馬場善治です。地元を舞台にするなら、方言をしゃべるキャラクターをぜひ登場させたかったので。馬場ともう1人、女性よりも美しい19歳の殺し屋・林憲明(リン・シェンミン)も早い段階で完成したキャラクターです。
――このペアは女性に人気が出そうだと思いましたが、いかがですか?
そう言っていただけると、本当にうれしいです!! 物語の大枠を作る時、この2人の関係性をベースにして他の人物たちの設定を追加していったので、彼らには特に思い入れがあります。生い立ちが不幸な美しい殺し屋と飄々とした博多弁の私立探偵……。ぜひ、女性読者のみなさんにも本作を読んでいただいて、秘められた人間ドラマを楽しんでいただきたいです。
――あと忘れてはいけないのが、福岡市長専属の殺し屋チームですよね。
眼帯のリーダー・宗方、紅一点の麗子、爆破が得意な大学生・紫乃原、埼玉出身のロシア人・イワノフのエピソードも楽しんでいただきたいです!! 実はまさか電撃小説大賞に入賞するとは思っていなかったので、「市長は政敵と対決するため、殺し屋を雇っていてもおかしくないよね?」とやりたい放題に設定を組みました。物語の中にも、実際に存在する場所も出てきますし、今はいろんなところから苦情が来ないことを祈っています(笑)。
――実際に街の空気を作品に取り入れるため、執筆の合間に中洲近辺、昭和通りなどを歩きまわったそうですね?
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はい。殺し屋になった気分で福岡の街を歩き回りました。「あの場所、殺人に使えそうだな……」とか考えながら。当時は仕事を辞めてニートだったためにずっと実家にいたので、他にすることがなかったというのもありますが(笑)。歩き回っては書き、書いては歩き回り。電車に乗っても気を抜かず、まわりを警戒しながら……。すごい目つきをしていたかもしれませんが、幸い職務質問はされませんでした。
――つまり、街を徘徊しているうちに、殺し屋時代を思い出してしまったと……。
違います!! 私が過去に殺し屋だったことは一度もないです! 善良な市民ですので。本作の執筆に没頭するために、殺し屋になったつもりでいただけです(笑)。
――それを聞いて安心しました!! では、本作の執筆過程を振り返って、一番大変だったことを教えてください。
誰にも小説のことを相談できなかったのがつらかったですね。両親も私の執筆活動を応援するという感じではありませんでした。今なら、迷ったときは担当編集さんに相談できます。でも、当時はひたすら自問自答していて……しかもニートだから生きるのがつらい。あの心細さに耐えたからこそ、今の自分があるのだと思うと、くじけずにがんばって書いてよかったなぁと心から思います。
――創作活動に煮詰まった時は、どんな方法で気分転換していましたか?
野球ですね。気分が沈んだ時は野球を観て、心をリフレッシュしていました。私は野球好きなので、夜のゴールデンタイムはいつも野球を観ます。延長戦もバッチリ観戦して、深夜のスポーツニュースを梯子して英気を養い、それから執筆に戻る……というのがいつものスケジュールでした。野球はセ・パ問わずなんでも観ます!! 応援しているチームが負けたりすると逆にストレスがたまることもあるんですが(笑)。
――本作にも野球を引用した一文が多いですよね? それは木崎さんが野球好きなことと関係があるのでしょうか。
はい、そうです! 本作の冒頭で描かれた斉藤のエピソード――斉藤は高校生の時、甲子園に出場したピッチャーでしたが、相手バッターの頭に死球(デッドボール)を当てて負傷させて以来、それがトラウマになっているという話も、数年前、セリーグのある試合を観ていたら、同じように頭部死球が当たったことがあったんです。
当時、倒れた選手がピクリとも動かなくて、救急車が球場の中に入ってきて、試合がずっと中断して、すごくショッキングでした。私がもしその時のピッチャーだったら、もう二度とインハイ(内角高め)には投げられないだろうな、と思って。その時の出来事を私なりに掘り下げて、斉藤の内面性に反映させることにしたんです。今までに観たインパクトに残った試合だったり、選手の言葉だったり、そこから創作の発想を得ることも多いです。
――各話タイトルも第1章ではなく、1回表とか野球風です。プロローグが始球式、最後にヒーローインタビューまであるという構成が楽しいですね。
そうですね。でも、プロットの段階では物語の中に野球要素を入れることは決めていませんでした。そこに野球をからめようと思いついた時、ストーリーがパッと頭に浮かんで、始球式(プロローグ)から始まって1回表(小説本編)へ続いて行く、今の構成が決まったんです。物語もスムーズに書けるようになりました。
――今、ここにメディアワークス文庫を買おうとしている読者がいると仮定して、どのような言葉でご自身の著作をアピールしますか?
まずは、一色箱さんが描くイラストが素晴らしいです。特に林憲明が美しいです。ぜひ多くの読者さまに観ていただきたいです。メディアワークス文庫にはめずらしく折込ポスターもついていたり、本文中にモノクロイラストもあったりと、電撃文庫を読んでいる方も手に取りやすい作りになっていると思います! あとは殺し屋たちの群像劇、キャラクター同士の関係性や会話なども楽しんでいただけたらうれしいです!! そして、最後に生き残るのは誰か、殺し屋たちが何を求め、どんな未来を手にするのか見届けてください。文中にさりげなく登場する、わかる人にしかわからない福岡ネタにも注目です(笑)。
――銘菓『通りもん』がさりげなく登場していましたね!
はい。通りもんは美味しいですね。あとは明太子!! 実は市長専属の殺し屋・紫乃原を爆弾使いにしたのは、地元で放送された明太子のローカルCMのとあるフレーズを言わせたかった、というだけなんです(笑)。そういう小ネタも楽しんでいただければ幸いです。
――最後に読者へメッセージをお願いいたします!
『博多豚骨ラーメンズ』なんて、ふざけてみえるタイトルだし、設定も怒られそうなんですけど、本人は真面目に物語を書きました。殺し屋、情報屋、復讐屋、刑事、探偵……それぞれのキャラクターがそれぞれの立場で福岡の街を疾駆していきます。1つの殺人事件が次の事件を呼び、連鎖していく物語を最後まで読むと、あっという驚きがあると思いますので、ぜひ手に取って読んでいただけたらうれしいです!
■発売記念スペシャル企画(1)
生粋の福岡っ子!! 木崎先生がオススメする3大博多グルメ
第1位 ふくやのいか明太子
老舗の明太子屋さん“ふくや”の人気商品。刺身用のイカと明太子を合わせたもので、ものすごくおいしい!! ご飯にもお酒のつまみにもぴったりです。
第2位 うどん
福岡はうどんの消費量が意外と多いんです。ブチブチ切れる、コシのない麺がおいしい。
第3位 新鮮な魚!
福岡は生魚がおいしいです! どこのお店、どこのスーパーに行っても、新鮮なお刺身が食べられます。サバなどの青魚の刺身もおいしい。福岡へ旅行する機会がありましたら、ぜひ食べてみてください!!
■発売記念スペシャル企画(2)
三度の飯よりも野球が好き!! 木崎先生が独断で選ぶプロ野球応援歌ベスト3
第1位 千葉ロッテマリーンズ 福浦和也選手の応援歌
2011年から採用された福浦選手の応援歌。イントロを聞くだけで胸が踊ります! ロッテ選手の応援歌はどれもカッコいいですが、個人的にこの曲が一番好きです!
第2位 オリックス・バファローズ 李大浩(イ・デホ)選手の応援歌(※現福岡ソフトバンクホークス所属)
李大浩選手のオリックス時代の応援歌。歌詞がとても凝っていて大好きです。今年から聞けなくなるのが残念……。
第3位 中日ドラゴンズ 野本圭選手の応援歌
個性的なメロディで、韻を踏んでいる部分が好きです。ついつい口ずさんでしまう1曲です!
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