2014年5月28日(水)
なぜ今『ミステリートF』なのか? 傑作『YU-NO』『EVE』を生み出した菅野ひろゆき氏の遺志を継ぐ浅田誠氏にインタビュー
鬼才のゲームデザイナー・菅野ひろゆき氏が手掛けたアーベルの推理アドベンチャーゲーム『ミステリート』シリーズ。2004年に発売された1作目『ミステリート ~不可逆世界の探偵紳士~』と続編の『ミステリート2』がセットになってXbox One用ソフト『ミステリートF 探偵たちのカーテンコール』として新生することが、先日の“MAGES.Xbox One向けソフトウェア発表会”で明らかとなった。
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▲『ミステリートF 探偵たちのカーテンコール』キービジュアル。『ミステリート』シリーズの主人公・八十神かおるとそのアシスタント・七尾芹奈の姿だけではなく、『不確定世界の探偵紳士』の主人公・悪行双麻やフィーナの姿を確認できる。 |
なぜ今、Xbox Oneで『ミステリート2』を開発するのか? 故・菅野ひろゆき氏の遺志はどのように引き継がれているのか? 制作のキーマンとなるMAGES.の浅田誠プロデューサーにインタビューを行った。なお、浅田氏が手掛けるXbox One用ADV『PSYCHO-PASS サイコパス』のインタビューも同時掲載している。こちらもあわせてチェックしてほしい。
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▲浅田誠氏。ケイブでさまざまなシューティングゲームを世に送り出したのちに、MAGES.に入社。現在は同社の新たなゲームディビジョン“Division 8”を統括する。 |
■『ミステリート2』の開発を受け継いだ理由
――『ミステリート2』(※1)の開発再開は多くのシリーズファンが待っていたと思うのですが、菅野ひろゆき氏(※2)が亡くなられてしまったこともあり、実現は難しいのではないかと思っていました。どういった経緯で浅田さんが遺志を継ぐ形になったのでしょうか?
自分がMAGES.に入社する以前から、移植のお話がアーベルさん(※3)との間でされていました。ただ、その時はMAGES.のプロデューサーの中で担当する者が決まっておらず、見送っていたようでした。その話を入社する時に聞き、本作をプロデュースすることになりました。
※1:『ミステリート2 ~フェアウェル・エンカウンター~』……『ミステリート ~不可逆世界の探偵紳士~』の続編として発売が予定されていたタイトル。菅野氏はこのタイトルの開発半ばで急逝してしまった。
※2:菅野ひろゆき氏……『悦楽の学園』や『DESIRE』、『EVE burst error』、『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』などを手掛け、アドベンチャーゲーム業界に多大な影響を与えた人物。2011年12月19日、脳梗塞により都内の病院で死去。43歳没。
※3:アーベル……菅野ひろゆき氏が設立した会社。推理系のアドベンチャーゲームを数多く世に送り出した。
――シューティングゲームのイメージが強い浅田さんですが、もともとアドベンチャーゲームもお好きだったのでしょうか?
はい。その中でも、ADV業界に多大な影響を与えた菅野さんの作品は特別ですね。自分はケイブ時代に『インスタントブレイン』(※4)というアドベンチャーゲームを作ったことがあるのですが、その時に菅野さんにシナリオでの参加を打診していました。音楽も菅野さんの作品に曲を提供していた梅本竜さん(※5)に頼んでいたので「なんとか3人で集まって作れたらいいよね」と話していたのですが……。残念ながらその話は流れてしまいました。
一緒に作れなかったことは残念ですが、今回自分が『ミステリート2』の開発を手掛けることができたのは運命のようなものを感じますね。菅野さんが作りたかったものを100%再現する……というのは難しいですが、近い形でお届けできればと考えています。
※4:『インスタントブレイン』……浅田氏が手掛けたXbox 360専用ADV。過去を写し出すことができるカメラ“エクスポージャー”を使い、事件を解決に導いていく。
※5:梅本竜氏……ゲームミュージックの作曲家。『EVE burst error』や『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』など、菅野氏の作品に多くの楽曲を提供していた。2011年8月に体調不良が原因で死去。37歳没。浅田氏とともに制作した『インスタントブレイン』が遺作となった。
――なぜ、対応ハードにXbox Oneを選択したのでしょうか?
前職からのお付き合いもありましたし、早い段階でXbox Oneでの展開のお話をいただいていましたので、移籍後の一番初めの展開先としてXbox Oneを選択しました。
■菅野ひろゆき氏が遺したプロットをひな型にシナリオを作成
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――ファンが気になるであろうシナリオについてお聞かせください。『ミステリート2』にあたる部分はどのように制作されているのでしょうか?
プロット自体は菅野さんがお亡くなりになる前に手掛けていたものがあるため、それをそのまま使用しています。
――プロットはどのぐらい完成していたのでしょうか?
70%ぐらいですね。物語全体の流れや中身の膨らませ方、結末などがすでに書かれていたので、そこはそのままの形で使用しています。実際にシナリオに起こす作業はアーベルのスタッフさんにお願いしました。誰が書いたとしても“菅野ひろゆきの文章”にはならないとわかっているのですが、長年一緒に執筆活動をともにしてきた人たちにお願いすれば、菅野さんの持っていた世界観に近づけられるだろうと思っています。
――菅野さんのシナリオは地の文などが特殊なので、雰囲気を似せるのも難しそうです。東西(あずま にし)の名前をわざと間違えるネタとか、関係ない場所を調べ続けた時に出る“風呂では頭を最初に洗うべき”などのうんちくとか。
菅野さんのシナリオの魅力はセリフのかけあいのテンポだったり、どうでもいい豆知識などをわざとテキストに組み込んだりしているところだと思うんです。そこを再現するのは難しいので、到着したシナリオを読んで「菅野さんならこう書くんじゃない?」とシナリオライターさんと相談しながら開発しています。
――では、菅野さんの作風を意識した文章になるんですね。
はい。ただ、無理に形だけ似せても失敗してしまうと思うので、菅野さんの持っていた味はそのまま生かしつつ、新しい『ミステリート』をどうやって表現するか……その部分を精一杯あがきながら作っています。
――『ミステリート』シリーズは今回の『2』で完結するのでしょうか?
菅野さんのプロットに『ミステリート』シリーズの結末が書かれていましたので、『ミステリート 完結編』として制作しています。菅野さんの頭の中でも『2』で終わりと決まっていたようですね。
――『ミステリート』には『不確定世界の探偵紳士』や『アザーサイド・オブ・チャーチ』、『デュアルM』などの関連作品がありますが、それらとのかかわりは……?
実は『ミステリート2』には2人の主人公がいます。1人はおなじみの八十神かおるで、もう1人は『不確定世界の探偵紳士』の主人公である悪行双麻(あぎょう そうま)です。この2人の視点で物語を追うことになるのですが、シリーズに登場した多くのキャラクターたちが登場するので音声収録が大変です(笑)。
――2人の主人公というのは『EVE』を思い出させますね。ということは、マルチサイトシステム(※6)を採用しているのでしょうか?
現状は視点を変えていくイメージで作っているのですが、1本道から枝分かれするような構成とどちらが最適かを精査しながら進めています。
※6:マルチサイトシステム……『EVE burst error』などに搭載されていた主人公の視点変更システム。一方の主人公で物語が進まなくなった際に、もう一方の主人公のシナリオを進めてフラグを立てることで、先に進めるようになる。それぞれの主人公のささいな行動が、お互いの物語に影響を与えていくこともある。派生作品の中には、マルチサイトシステム自体をトリックとして利用したものも。
――音声収録の話もありましたが、キャストはオリジナル版と同じですか?
かおる役の緒方恵美さんと双麻役の子安武人さんは同じですが、それ以外のメインキャラクターは一新しています。
――なんと! 深雪が好きなのでどなたが演じることになるのか気になります。
深雪は三石琴乃さんが担当されています。あとからスタッフに言われて気付いたのですが、緒方さんと三石さんがそろったら完全に『エヴァンゲリオン』ですよね。
――子安さんもいますしね(笑)。ちなみに、他のキャスティングはどうなっているのでしょうか?
七尾芹奈を能登麻美子さん、氷川マイを花澤香菜さん、舞ノ小路水陰を小倉唯さん、麻生優希を平野綾さんにお願いしました。
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▲七尾芹奈。かおるのアシスタントを務めるクラスDディテクティブの少女。笑顔の裏に悲しい過去を持つ。 |
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▲南条深雪。南条探偵事務所の所長でクラスCディテクティブ。双麻の元部下で、彼に恋心を抱いている。元職場であり、ライバル事務所でもある“しあわせ探偵事務所”と同じ事件を捜査中にかおると出会う。 | ▲氷川マイ。任務遂行のためなら手段を択ばない冷徹な殺し屋。とある事件でかおると出会い、戦うことになる。 |
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▲舞ノ小路水陰。日本に3人しかいないクラスAディテクティブの1人。見た目からは想像できない高い実力と、とある特殊能力によってクラスAの称号を得る。解決案件数では双麻に劣るが、その内容は引けを取らないと言われている。こう見えて、かおるより年上。 | ▲麻生優希。フリーのルポライター。かおると出会ってから、かおるに付きまとうようになる謎の多い人物。 |
――おぉ、人気の声優さんばかりですね!
最初にアーベルさんと打ち合わせをした時、「10年ぶりに復活する『ミステリート』なので絵柄も一新しようか」という話もあったんです。ただ、七瀬葵さんが担当した『ミステリート2』のイラストはかなり完成していたので、それはやめようとなりました。では声優さんのほうはどうするのかという話になった時、すでに声優をお辞めになっている方もいたんです。そこで、今作ではキャストを一新することにしました。
――では初代『ミステリート』の音声は再収録されているんですね。
はい。『2』でキャラクターを演じられている声優さんの音声に差し替えています。きっと、『1』をプレイ済みの方も新鮮な気持ちでプレイできると思いますよ。
――主人公の声を変更しなかったことにはどのようなこだわりがあるのでしょう。
アーベルさんとお話した時に、お2人……特に緒方さんは、かおるというキャラクターを思い入れ深く演じていただいたということをお聞きしました。皆さんの中でも主人公の声は緒方さんで固まっていると思いますので、そのまま続投していただくことにしました。
――なるほど。ところで、初代『ミステリート』は声優陣以外の変更点はあるのでしょうか?
システム面が当時のままだとさすがにストレスを与えてしまうと思いますので、ユーザーフレンドリーに改良しようと調整中です。
――暗号による謎解き(※7)の仕様も変わるのでしょうか?
当時から一部の暗号は難しいと言われていたので、なんらかの救済処置は用意しようと思っています。いくつか案はあるのですが、簡単にしすぎても推理ADVとしておもしろくなくなってしまうので、うまく調整したいと考えています。
※7:暗号……『ミステリート』のゲーム内に存在する謎解き。当時はアーベルから「Webサイトなどで解答をズバリ書かないように」という攻略規制が敷かれていた。一部謎解きの難易度が高く、詰まってしまうプレイヤーも……。(ただし、アーベルの公式サイトにあるフォームから謎解きについての質問をできるなど、救済処置も用意されていた)
――暗号と言えば、 “SHINASUTIMIKIRA Project”がXbox Oneのコードネーム“Durango”の暗号でしたが、もしかして『ミステリート』を意識されていたのですか?
あれは『ミステリート』とは関係ありません(笑)。“Durango”をどうにか変換できないかと考えた時にキーボードを見て、「みかか読みでいいや」と思いつきました。
――“SHINASU”なので『エスプガルーダ2』かも? なんて想像していました(笑)。話を戻しまして、『ミステリートF』ならではのシステムは搭載されているのでしょうか?
それは今後の情報で公開していきたいと思います。ただ、プルーフターゲットシステムやディテクティブ・チャージシステムなど、菅野さんが手掛けた『ミステリート』らしいシステムに関してはなるべくいじらず、そのまま搭載する形にしています。
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▲ディテクティブ・チャージシステム。事件の手がかりを見つけるなど、捜査が進行していくことで画面のようにポイントを獲得していく。ポイントの最大値は100で、80まで貯まった段階で犯人を入力できる。 |
――Kinectを使って東西を殴る、いろんなものにキスできる……なんてことは?(笑)
いくつかKinectを使ったアイデアもあったのですが、「そこに力を入れても……」と思い直して搭載は見送りました(笑)。
■浅田さんが手掛ける新たな『ミステリート』が遊べる日は?
――現状で開発はどのぐらいまで進んでいるのでしょうか?
すでに実機で動くぐらいまで完成していて、『ミステリート1』の音声収録も終了しています。今は『ミステリート2』の収録に取りかかっているところです。なるべくお待たせしないように頑張ります! 『ミステリートF』発売後もさまざまな新タイトルを発表していきますので、こちらにも注目していただければと思います。たぶん驚くと思いますので、よろしくお願いいたします!
――期待しています! それでは、最後に読者へメッセージをお願いします。
『ミステリートF』は自分自身が待っていた作品だったので、本当はプレイする側にいたかったです(笑)。そんなイチプレイヤーとして待っていた、期待していた部分をしっかりとファンにお届けしますので、もう少しだけ待っていてください!
→Xbox One『PSYCHO-PASS サイコパス』のインタビューも同時掲載!
→Xbox One『カオスチャイルド』に迫る志倉千代丸氏インタビューも同時掲載!
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