2014年6月19日(木)
アトラスから好評発売中の3DS用ソフト『ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス』。『ペルソナ』シリーズと『世界樹の迷宮』シリーズのコラボ作品ということでも話題を集めている本作の魅力を、ディレクターの金田大輔氏にお聞きした。
今回のインタビューは、現在発売中の『ペルソナマガジン #2014 JUNE~』に掲載されたものの完全版。誌面スペースの都合上、『ペルソナマガジン』では載せきれなかったお話などもすべて盛り込んでいるので、「『ペルマガ』でもう読んだよ」という方も(ありがとうございます!)、ぜひチェックしてほしい。
金田大輔氏
『ペルソナ』シリーズや『カドゥケウス』シリーズなど、アトラスの主要タイトルの多くに携わるクリエイター。『ペルソナ』シリーズには、『ペルソナ2 罪』から開発に携わっており、『世界樹の迷宮』は『IV』でディレクターを担当している。
――最初に『ペルソナ』と『世界樹の迷宮』のコラボ作品と聞いて、どのような作品になると考えましたか?
最初は、3Dダンジョンのゲームに、『ペルソナ』らしいイベントが展開されるという形をおぼろげに考えていました。ただ、実際開発を始めてみると、ラビリンスの構造やバトルシステムなどは大きく変わっていき、完成像が見えてきたのは、かなり経ってからでした。
――コラボ作品ということですが、『ペルソナ』と『世界樹の迷宮』、それぞれの要素のバランスはどのように分配して盛り込まれたのでしょう?
これは悩んだ部分なのですが、まず大事にしたのは、スタッフの意見や要望を立場や役職に関係なく全員が出し合うという、“ペルソナチーム”が培ってきた制作の文化でした。プロデューサーの橋野(桂氏)が言うには、不満点が出るということは、そこに必ずなんらかの理由があるというもので、それをただの不満で終わらせないことで、みなさんに喜んでいただける作品を目指すという考えだったんです。
また、当初は『ペルソナ』を立てると『世界樹の迷宮』が立たず、その逆もしかりという感じで、仕様のバランスにはとても悩みました。最初はどちらのファンの方にも喜んでもらえるものを作ろうと考えていたんです。造語ですが、2作品の魅力を最大限に詰め込んだ“最大公倍数”のような作品を目指していたんです。
料理で例えるなら、“チャンコ鍋”のようにいろいろな具材が入っているようなものでしょうか。ただ、そこで橋野に「『ペルソナQ』は、あくまで『ペルソナ』シリーズの新作だということを見失ってはいけない」と助言を受けたんです。僕が当初作ろうとしていた料理は、いろいろな味付けが重なって、塩味なのか、味噌味なのかがハッキリしていなかったのを見透かされたのかもしれません。
そこからは2タイトルのよさを引き出した内容ながら、『ペルソナ』らしさをいかに表現するかという考えに変わっていきました。いうなれば、作品は『ペルソナ』というテイストなのですが、食べてみると『世界樹の迷宮』の味もする、という感じですね(笑)。
▲『ペルソナ』シリーズの最新作という部分を意識した『ペルソナQ』。イベントシーンなどでも、『ペルソナ』らしいキャラクターのやりとりを楽しめる。 |
――その中で、『ペルソナ』として、『世界樹の迷宮』としてこだわった部分があるかと思いますが、各タイトルの“らしさ”はどのように表現されましたか?
それぞれの魅力のあるタイトルなので、入れたい要素はたくさんありました。そうした中、2タイトルのコラボであったり、文化祭という舞台から、当初はかなり明るい作品になっていたんです。
その方向性で進んでいた中、橋野から、それでは『ペルソナ』としてのテイストが異なると指摘を受けたんです。確かに『ペルソナ』シリーズは、コミカルな面もありますが、その根底にあるダークさだったりオカルティックな要素も大きな魅力です。ですから、このタイトルが『ペルソナ』の1つである限りは、たとえ、キャラクターがディフォルメだろうと、その魅力は外してはいけない要素だと思いました。
そうしてインターフェイスやラビリンス、サウンドなど、あらゆる面のトーンを落としつつ、ダークな面、オカルティックなテイストを盛り込む事を、ペルソナの1タイトルとしてこだわっていったんです。『世界樹の迷宮』に関しては、手描きのマッピングやF.O.Eといった『世界樹の迷宮』ならではの要素を、いかにそれを知らない方に伝えられるかということを考えてシステムを構築していくことに注力しています。
やはり、『ペルソナ』の新作ということで、『世界樹の迷宮』を遊んだことがない方が触れることも多いと思うんです。『世界樹の迷宮』のセオリーだから説明は必要ないだろうと甘えることはできないわけです。あくまで、初めて触れるシステムとして、遊びやすくなるようにチュートリアルなどで丁寧に解説しています。
▲全体的に明るめな雰囲気を感じるが、オープニングや冒頭のシーンなど、ところどころにオカルティックな演出もちりばめられている。 |
――たしかに、F.O.Eなどは、知らなければ出会ってすぐに戦いを挑んでもおかしくありませんね。
イベントなどで勝てない敵だとアナウンスするほど、開発からの挑戦と受け取って戦いを挑む方が多いんです(笑)。開発側としては、F.O.Eはラビリンスの仕掛けにもかかわってくる要素なので、初見で倒せてしまっては困るんです。
戦闘バランス的にも、そういう調整が施されていますし、結果、普通は勝てません。戦ってしまうのは、フィールドにいるF.O.Eがプレイヤーに向かってきているように見えるというのも影響しているようです。
F.O.Eが戦ってはいけない敵だと伝えるのは、意外と苦労した部分なんですよ。戦わずに逃げようというイベントでも、キャラクターの性格的にも真田あたりに「歯ごたえのありそうな相手だから戦おう」みたいなセリフを言わせないわけにもいかないので、余計に勝てるんじゃないかと思われてしまう(笑)。そのあたりのサジ加減は大変でした。
特に、本作ではF.O.Eの行動パターンが豊富になっているので、ラビリンスの仕掛けの一部として、戦わずにF.O.Eを回避する方法を探していただきたいですね。
――F.O.Eの行動パターンはどのように生まれたのでしょう?
本作では、僕のほうからラビリンスごとのコンセプトを明確にしてほしいというリクエストを出していました。というのも、同じ遊び方のラビリンスが続くと、どうしても飽きてしまうと思ったんです。そこで、このラビリンスは戦闘で道を切り拓いていくタイプ、このラビリンスは構造はシンプルだけど謎解きで進展するタイプといった、ラビリンスごとの特徴が設けられています。
その結果として、F.O.Eが一定のエリアを巡回するという行動パターンだけでなく、いくつものパターンが必要になったのです。本作では、かなり回避するのが難しいF.O.Eが増えているので、特に後半は頭を使うことになると思います。でも、だからってくれぐれも戦いは挑まないでください(笑)。
▲エリアごとに、初めて出会うF.O.Eは勝てない敵という、『世界樹の迷宮』の常識を伝えるのに苦労したとか。必ず、回避法が用意されているので、それを見つけ出すのも本作の楽しみの1つといえる。 |
――戦闘システムでは、キャラクターの個性をどのように表現されるのか楽しみにしていましたが、かなり『ペルソナ』の要素が強く反映されているように感じました。
当初は、キャラクターを『世界樹の迷宮』の職業に見立てる方向でも調整していました。ただ、それだと『ペルソナ』ファンのみなさんには伝わらないという難しさもあったんです。
実際、戦闘で戦う敵はシャドウで、キャラクターはペルソナを召喚します。『ペルソナ』ファンのみなさんからしてみれば、本作に登場する人物たちは知っているキャラクターですから、性能面でメンバーを選ぶのではなく、好きなキャラクターで戦闘メンバーを選べて、なおかつそれをシステムが邪魔しないという作りにしたかったんです。
ただ、キャラクターの個性が強すぎると、ペルソナの存在感が薄くなってしまうので、本作ではどちらかというとペルソナの個性を立てています。キャラクターの個性は、違和感がない程度におさえているんです。この部分は、担当スタッフも非常に苦労していたんですが、結果的には理想的なバランスを生み出してくれたと感じています。
――ペルソナはもちろん“サブペルソナ”のおかげで、かなりパーティ編成の自由度は増していますね。
“サブペルソナ”は名前からもわかるように『世界樹の迷宮』にあった、“サブクラス”が発想の元になっています。また、『ペルソナ』ファンのみなさんから、主人公だけでなく仲間のペルソナも付け替えたいという声があったという話を聞き、どちらのファンにとってもうれしい要素なのではないかと考え、“サブペルソナ”というシステムをカスタマイズ要素として煮詰めていきました。
▲“サブペルソナ”の導入で、ペルソナ育成の楽しみ、パーティ編成の自由度を実現した戦闘システム。そんな中、1キャラで2キャラ分の性能を持った善&玲の特殊なシステムは苦労も多かったらしい。 |
――戦闘では、敵の弱点を突くことで戦況が有利になるという要素も『ペルソナ』らしい点です。
『ペルソナ』の戦闘として楽しんでもらう以上、敵の弱点を突いて“Weak!”が出ないと、違和感があるという意見もあったんです。ただ、“1more”などの要素をそのまま入れ込んでも、本作の戦闘にはそぐわない。
そこで、スタッフからの提案を受け、 “BOOST”という要素を入れ込むことにしました。『ペルソナ』らしいバトルを踏襲しながらも、『世界樹の迷宮』らしいバトルの戦略性や駆け引きを生み出し、構築する。非常に難度の高い作業だったと思いますが、本当にスタッフのたゆまぬ努力が、より良い形を生み出してくれたと思っています。
――ちなみに、金田さんがプレイされるときは、どのようなパーティを編成されていますか?
やはり、どんな敵が現れても対処できるようなバランス型の編成にしています。前列に主人公と物理系が得意な完二か荒垣、あとはバランスよく攻撃できる陽介や順平といったところでしょうか。後列は、回復役に加えて善と玲は必ず入れるようにしています。善と玲は、“サブペルソナ”こそ装備できませんが、攻撃も回復もこなせるのでかなり便利ですよ。
また、本作ではハマ系やムド系に弱い敵が多めなので、直斗やコロマルあたりは、かつてない光を放つかもしれませんね(笑)。実際、最初のターンに“マハンマ”や“マハムド”を使うというスタッフは多いんですよ。
――プレイした感じ、かなり歯ごたえのある内容だと感じたのですが、攻略のコツみたいなものはありますか?
たとえば、ラビリンス探索時にペルソナを付け替えることで、SPが余っているキャラクターに回復させるという方法は便利だと思いますよ。物理系のスキルがメインのキャラクターは、SPも余りがちですから。まあ、僕自身は面倒なので実践はしていませんが(笑)。
他には、パワースポットで入手できる素材は高額で買い取ってもらえるので、探索を終えたエリアも通るようにしてパワースポットをめぐるだけでも、金銭的に余裕ができると思います。自動で移動してくれるオートパイロット機能もあるので、うまく活用してほしいですね。
また、僕はオートパイロット機能を、F.O.Eの移動コースのメモとして使っていたりしました。スタッフからは、「そんな使い方で作ったわけじゃない」と怒られそうですが(笑)。
――これは『世界樹の迷宮』らしさなのかと思いますが、本作では状態異常がかなり強力ですね。
かなり強力ですよ。特に、物理スキルを封じる“力封じ”、魔法系スキルを封じる“魔封じ”、命中率を下げる“速封じ”の封じ系のスキルが強力です。“力封じ”は攻撃力の10分の1程度に減少しますし、“速封じ”は行動順も遅くなるので、かなりオススメですよ。
また、これら封じ系のスキルは、すべて複合するので、例えば物理系の敵なら、“力封じ”と“速封じ”で敵の戦力をかなり減少させることができます。もちろん、『ペルソナ』シリーズにある“~カジャ系”や“~ンダ系”も修得できますが、本作では封じ系スキルを意識して使うことをオススメします。
また『世界樹の迷宮』の状態異常の代名詞ともいえる、“毒”もかなり強力なので、ボス戦などで使えば効率よくダメージを与えることができます。全体的に、ガンガン攻撃するよりも、からめ手のスキルを使った方が有利に戦えるようなバランスになっています。
――『ペルソナ』ファンの方からすると、イベントの多くでボイスが収録されているのも魅力的です。キャラクターの数から見ても、収録は大変だったのでは?
そうですね、特に主人公を演じていただいたお2人には、イベント以外にすべてのペルソナ名も収録させてもらったので、大変だったと思います。
――バトル中に叫ぶペルソナ名は新規収録なのですか?
そうなんですよ。他には、パワースポットでレアな素材が出るかシャドウが出るかという選択で、シャドウが出たときの「ああっと!」も全員分収録しているので、ぜひ全員分聞いていただきたいですね。あのセリフは、声優さんが自然な感じで「あっと!」みたいに読まれるので、不自然な感じに「ああっと!」と読んでくださいとお願いしたこだわりの部分です(笑)。
それから、戦闘中のボイスもとても豊富です。例えば、エンカウントした直後に、戦ったことのあるタイプのシャドウだったら、仲間が、その敵についてコメントしたりします。「ぎゃあああーっ! 出たよ、デカい虫いぃぃ!」等ですね(笑)。これは敵のタイプすべてに、仲間全員分収録しています。
また、味方がバッドステータスに陥ると、ナビのキャラクターがそれを教えてくれるんですが、その後に、当人がコメントを話すようにしています。睡眠のバッドステータスなら、寝言を話したりしますよ。これもキャラクターごとにセリフが入っていますので、かなりバリエーションがあります。
他にも、パーティの組み合わせで多彩なセリフを用意しているので、いろいろなパーティで戦うのはもちろん、両方の主人公でプレイしてもらえるとうれしいですね。
――サウンド面では、オープニングの曲や戦闘BGMにもこだわりを感じました。
『ペルソナ3』と『ペルソナ4』のコラボ作品ということで、川村ゆみさん、平田志穂子さん、Lotus Juiceさんには参加していただきたいと思っていました。それに、喜多條(敦志氏・サウンドコンポーザー)ががんばってくれて、『P3』の主人公で始めた場合と『P4』の主人公で始めた場合で、戦闘中のBGMが異なるというこだわりを見せてくれました。
具体的には、『P3』の主人公なら川村さんのボーカルとLotusさんのラップ、『P4』の主人公なら平田さんのボーカルとLotusさんのラップ、とそれぞれ異なる楽曲になります。あとは、川村さんと平田さんにボーカルとして参加していただいたエンディング曲もかなりいいデキなので、ぜひ最後までプレイして聴いてほしいですね。
▲オープニングでも『ペルソナ』らしいサウンドも存分に堪能できる。ちなみに、オープニングアニメや劇中のアニメムービーは、7月から放送されるTVアニメ「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」で監督を務める田口智久氏が手がけている。 |
――本作には“すれちがい通信”を使った遊びも用意されていますが、これについては?
活用すれば、強力なペルソナを入手できますが、どちらかというと、自分が育てたペルソナを発信したいというユーザーさんの気持ちに応えたかったという部分が大きいと思います。下手をすると、ペルソナ合体を行わずにQRコードだけでペルソナを入手していくなんて人も出てきそうですが、それも遊び方の1つですね。
――通信要素でいえば追加コンテンツも発表されていますね。
現時点では追加ペルソナしか発表していませんが、今後もさまざまな楽しみを配信していくので、ご期待ください。第1弾は、追加ペルソナのカグヤ、第2弾はオルフェウス改、タナトス、マガツイザナギですが、これらは設定上本編には盛り込めないペルソナなんです。今後の追加コンテンツも、おもしろいものを用意していますので、楽しみにしていてください。
――今回、『ペルソナ』シリーズと『世界樹の迷宮』のコラボタイトルを制作されたわけですが、そこで何か発見や得られたものはありましたか?
本作は、任天堂のハードで発売される初の『ペルソナ』シリーズですし、システム的にもチャレンジする要素が多いタイトルでした。そうした作品が、ユーザーのみなさんに受け入れてもらえたとき、初めて本作の開発で培った手法は得るものがあったんだと確信できるんだと思います。
――では最後に、本作をどのように楽しんでいただきたいかも含め、ユーザーのみなさんにメッセージをお願いします。
本作のコラボの要素や、文化祭という舞台は、みなさんに気軽に楽しんでもらいたいという意図から決めたものです。いろいろな方に触れてもらうことで、『ペルソナ』シリーズ、『世界樹の迷宮』シリーズ、それぞれを知ってもらうきっかけになればうれしいですね。また、作品のテーマのように、それぞれのファンの方たちをつなぐようなタイトルになってほしいという思いもあるので、各タイトルの魅力を存分に味わっていただければと思います。
▲『ペルソナ』と『世界樹の迷宮』のコラボであり、『ペルソナ3』と『ペルソナ4』のコラボタイトルでもある本作。ユーザーの声が高まれば、さらに新たな展開にも期待できるかも!? |
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