2014年7月25日(金)
4月28日にKADOKAWAグループの子会社として参入し、角川ゲームスとともに事業を展開していくと報じられ、5月21日には新たな役員体制を発表したフロム・ソフトウェア。『ダークソウル』や『アーマード・コア』などの人気タイトルを手掛けてきたゲームメーカーなだけに、同社が今後どのような方向性を目指していくのか気になっている読者も多いだろう。
▲宮崎英高氏。『アーマード・コア』シリーズや、『デモンズソウル』『ダークソウル』などを手掛け、2014年5月より株式会社フロム・ソフトウェア取締役社長に就任。 |
そこで『電撃PlayStation』と電撃オンラインは、5月21日付けでフロム・ソフトウェアの取締役社長に就任した宮崎英高氏を直撃。社長就任の経緯、『ダークソウル』や『アーマード・コア』シリーズの今後、角川ゲームスとともに事業を展開していくことによるシナジー効果、宮崎社長自身が今後ディレクションしたい作品などについて伺った。
なお、本インタビューは7月24日発売の『電撃PlayStation Vol.571』に未収録の話題を含めた、ロングバージョンとしてお届けする。
――4月末のKADOKAWAからの発表、そして宮崎さんの取締役社長就任と、新たな体制が発表されたフロム・ソフトウェアですが、まずは角川ゲームスとのシナジーなど、今後会社としてどのような方向性を目指していくのか、展望をお聞かせください。
大きな方針に変更はありません。それは、ごくシンプルな話として“いいものを作っていきたい”ということですが、むしろ、そうした方針をより明確に、あるいは先鋭化していく流れがあると思っています。
角川ゲームスさんとのシナジーについても、まずは経営面での協働あるいはサポートをいただくという側面が大きく、フロム・ソフトウェアのもの作りの方針を変えていこう、という性格のものではないんです。もちろん、角川ゲームスさんともの作りで協働していく、ということは魅力的です。最近、直接角川ゲームスの皆様とお話しする機会をいただき、改めて感じたのですが、我々よりも実績や経験のある方が多く、とても刺激的でしたし、なにより皆様ゲームが好きなことが強く伝わってきましたから。
でも、そうした協働というのは、為にする、ものではないと思うんですよね。今回のことが契機となり、現場なりから自然に協働が生まれてくるのは歓迎なんですが、「体制変更があったからやりなさい」とトップダウンでいうものではないだろうと。
――フロム・ソフトウェア作品のファンにとっては、“フロム・ソフトウェアの作品作りは、今後どうなっていくのか?”というところがもっとも気になるところだと思いますが、今後のゲーム制作現場の方向性や体制はいかがですか?
フロム・ソフトウェアがゲーム制作で食べていく会社である、という方向性は変わりません。現場の体制自体もまったく変わっていないので、彼らにしてみれば「何が変わったんだろう?」という感覚だと思います(笑)。
角川ゲームスさんとのシナジーに関しては、体制が変化したからこれをしろと、上から押しつける気はないです。もちろん一緒にやりたくないという話ではないですが、無理やりに一緒にやることもないだろうなと。お互いのメンバーが合同で生み出せる、おもしろそうなアイデアが出てきたら、それは積極的に支援していきたいと考えています。
――よろしければ社長就任の経緯をお聞かせください。
最初にお話をいただいたのは神さん(神直利氏・フロム・ソフトウェア前代表取締役社長)からですね。私なんかがお受けしてよい話なのか、しばらくは迷いましたが、話をしていくなかで、その人事の目的もなんとなく見えてきて。それは、これはあくまで私の理解ですが「新しい体制に移行するなかで、フロム・ソフトウェアをもの作りの会社として明確に定義したい」ということで、それ自体には大賛成でしたから、多少なりとそのために役立つのなら、という思いで最終的にお受けしたんです。
それからは、安田さん(安田善巳氏・角川ゲームス代表取締役社長兼フロム・ソフトウェア代表取締役会長)とお会いして、お話しして……というような流れですね。あとは、ゲーム制作の現場から離れなくてよい、というところも大きかったですね。まあ、フロム・ソフトウェアは昔から“社長もディレクションする”会社でしたし、私自身がディレクター指向であることを、神さんも安田さんも理解してくれていましたから、そこはあまり心配していませんでしたが。
――宮崎さんにとっては、実際のゲームのディレクションが目的の中心にあると?
そうですね。私個人としては、あくまでも目的はゲーム作りです。役職や職責は、重要ではあっても、目的そのものではありませんね。
――すでに宮崎さんは、社長としてのお仕事と、ご自身の作品のディレクションを並行して行われていますが、ご自身のゲーム作りで変化したことはありますか?
そうですね……なんというか、上のレイヤーでワガママが言いにくくなりました(笑)。経営面のサポートはいただいているとしても、最終的な決断、あるいはその責任は社長にあると思っているので、そうなると、一ディレクターだった今までとは異なり、あまり好き勝手にワガママを言うわけにはいきませんから。
ただ、現場レベルでは、ディレクションにかけられる時間はあまり変わっていません。開発セクションの担当役員として、例えば採用面接や社内面談など、今までもディレクション以外にかける時間というのはそれなりにありまして、その内容が社長としての業務に変化した、という感じでしょうか。
――多数のファンを持つ『ダークソウル』シリーズ、『アーマード・コア』シリーズなど、人気シリーズの今後はどのように予定されていますか?
シリーズに対する姿勢も、とくに変わりません。『ダークソウル』を含むダークファンタジーの流れと、『アーマード・コア』に代表されるメカもの路線は、どちらも個人的にも思い入れがありますし、大事にしていきたいと考えています。
ただ私自身は、現状のフロム・ソフトウェアのラインナップについて、やや偏っていると感じています。ダークファンタジーに分類される大規模なタイトルが多いですね。今後1~2年くらいのラインナップはすでに決まっていますので、その先の話になると思いますが、『天誅』や『O・TO・GI~御伽~』に代表される和風など含め、できるだけバリエーションを持たせたいなと考えています。
例えば、一時期フロム・ソフトウェアはダークファンタジーを作らなくなっていたのですが、そこであえて『デモンズソウル』を作ったことで、『ダークソウル』につながる流れができました。同種の流れはこれからも必要で、そのためには多様性が必要である、ということです。そうでないと、いずれ我々のもの作りは閉塞していってしまうだろうと。まあでも、これは最初の話に戻ってしまうのですが、ダークファンタジーとメカものは続けていきたいですね。大げさに言えば『キングスフィールド』と『アーマード・コア』が、フロム・ソフトウェアの大きな2つの源流ですから。
――『ダークソウル』は必ずしもシリーズとして継続しない可能性もあると?
ダークファンタジー路線は大事にしていきたいと考えています。ただそれが『ダークソウル』である必要があるのかというのは、個人的に感じていることですね。方向性は同じでも、違うアプローチで続けていくとは思います。『ダークソウル』で固定化されている要素と、ダークファンタジーで表現できる要素は必ずしもイコールではないので、そこにこだわる必要はないかなと。
とはいえ思い入れのあるタイトルですので、今すぐにということにはならないと思います。将来的にずっと『ダークソウル』シリーズとして続けていくよりは“フロム・ソフトウェアのダークファンタジーもの”というような、ゆるい区切りのほうがいいかな、といった感じですね。
――『アーマード・コア』のほうはシリーズとしてまだまだ続いていきそうですか?
そうですね。シリーズが長いということもあり、『アーマード・コア』というくくりの中でも、かなりのことが表現できると考えています。もう11年近く、僕がいない時からフロム・ソフトウェアが積み上げてきたタイトルですので、大切にしていく必要はあると思いますね。
だからといって、別のメカものを作らないかというと、そんなことはありませんが。ちなみに僕が『アーマード・コア』シリーズを好きじゃないんじゃないかという説も流れていますが、絶対にそんなことはないです(笑)。むしろ自分自身で新作をディレクションしたいと考えているほどですが、『アーマード・コア』は「自分がやりたい!」という社内競争率の高いタイトルなので、難しいですね。
――これまでデペロッパーとしても多数の他社作品を手がけてきたフロム・ソフトウェアですが、開発会社としてのゲーム制作はどのようになるのでしょうか?
こちらも変わらず継続していきます。自社パブリッシュのもの作り、デベロッパーとしてのもの作り、どちらにも多くのメリットがありますし、そうした選択肢は我々のもの作りを豊かにしてくれると思いますので、どちらかに固定化する必要はないと考えています。私自身、一ディレクターとしても作り方の選択肢が減るのはあまり望ましくありませんしね。
――いわゆるインディーズ作品のような小規模のタイトルに関心はありますか?
小規模タイトルに興味はあります。現状の体制ですとなかなかに難しい部分もあるのですが、なんとかやってみたいですね。先ほど、ラインナップのバリエーションの話をしたかと思うのですが、あれは規模のバリエーションも含んだ話なんです。
今までよりも大きいものにチャレンジしてみたい、という話は当然あるのですが、一方でもっと小回りの利くものも作っていきたいということですね。少し話はずれるのですが、元々フロム・ソフトウェアって、なんというか、けっこうカオスなもの作りをしていたじゃないですか。硬派なタイトルもあれば、変なタイトルもあって、私としてはああいう状況は嫌いじゃなくて。必ずしもすべてが商業的に成功したわけではありませんが、そういったものを作ってきた経験や刺激は、結果的に我々のもの作りの土壌になっていて、会社としては決してムダではなかったと思っています。
――全世界のゲーム市場における日本の存在感は、過去に比べて薄くなっているという意見が多いですが、その中でフロム・ソフトウェアの作品は海外でも多くのゲームファンに評価され、非常に存在感のあるものとなっています。その理由を、ご自身でどう分析されていますか?
うーん、そこはよくわかりませんね。というか、ゲーム市場あたりを語るのは苦手なんですよ(笑)。私が業界に入ったのは10年前ですし、過去がどうであったか、過去と比較して現在がどうなのか、そういう話は難しいです。
ただ、もろもろのネットワークインフラ、あるいはコミュニティのおかげで、いいものが埋もれ難くなってきているのかな、とは感じています。いいものを作るという前提でいえば、望ましい環境ですね。もっとも、その前提が難しいのですが。
――今年のE3に行かれた感想はいかがですか?
▲フロム・ソフトウェアとSCEワールドワイド・スタジオ(SCE WWS)ジャパンスタジオがタッグを組んで生み出す完全新作のアクションRPG『Bloodborne(ブラッドボーン)』。 |
E3で発表した『Bloodborne(ブラッドボーン)』について言えば、かなりよい反応をいただけました。私自身E3は初めてだったのですが、期待していただけている、ということを生で感じる貴重な機会になりました。短い時間ですが会場を見て回ることもできましたので、いろいろなタイトルから刺激ももらえましたしね。
――日本と海外のユーザーの違いは意識していますか?
私自身はあまり意識していません。日本であれ海外であれ、その前に“ゲーム好き”な方がいる感覚ですね。もちろん、例えば○ボタンと×ボタンの理解といったように、文化的な差異というのはあるのですが、それでも“ゲーム好き”で共有できる部分は多いなあと。
あとは、我々がマーケティング主体でものを作るのが苦手である、ということもあります。だから、我々が海外ユーザーさんの好みを忖度(そんたく)してみても、あまりよい結果にはならないだろうと思いますし、彼らの文化依存性の高いところで勝負しようとは思っていませんね。
――宮崎さんの考える“フロム・ソフトウェアらしさ”とは何でしょうか?
それは難しい質問です。私自身が考える“フロム・ソフトウェアらしさ”というのは、もの作りに対する姿勢、真剣さ、モチベーション、あるいは意思決定のあり方といったもので、その結果としてできたものの構成要素、例えば“ダークである”とかではないんです。
いいものを作ろうよ、という結果が“ダークである”こと、あるいは、フロム・ソフトウェアタイトルの特徴として、そうした構成要素が語られることは、いずれもなんの問題もないのですが、我々自身がそれにとらわれてしまうのはよくないだろうと。これはおもしろそうだ、いいものになりそうだ、作ってみようよ、となった時に、“ダークでない”という理由でそれが却下されるのはよろしくない、ということですね。それはつまらないじゃあないですか。だから、“たま~にあいつら変なもの出すなぁ”くらいのイメージがよいなあ、と勝手に思っています。
――ご自身が今後ディレクションしたいものは?
そうですね。よくあきれられるのですが、それはいろいろとあります。例えば『ダークソウル』ですが、思い入れの強さもあり、また反省点もあるので、どこかでまたやりたいと思っていますし、『ダークソウル』のシリーズでなくても、なんらかダークファンタジーは継続していきたいと思っています。やはり大好きなモチーフですから。
あるいは、私のゲーム制作の原点である『アーマード・コア』にも思い入れがあるのですが、こちらは社内競争率も高いですね。それ以外でいうと、『ポポロクロイス物語』のような温かい雰囲気のもの、ボードゲームの『アーカムホラー』のような協力型など、ディレクションしたいものはたくさんあります。当然すべては無理なのが悲しいですが(笑)。
――最後に、フロム・ソフトウェアのファンに向けたメッセージをお願いします。
まずは、体制変更によりフロム・ソフトウェアのもの作りに大きな方針変更があるわけではない、ということをお伝えしたいです。そのうえで、必要以上に保守的になっては閉塞していってしまうので、バリエーション充実などの試みについてご期待いただきつつ、なにか変なものができた時にも生温かく見守っていただければなと(笑)。今後ともフロム・ソフトウェアをよろしくお願いします。
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