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2014年8月28日(木)

恐怖の原点が最新技術でよみがえる! 『バイオハザード HDリマスター』のポイントは空気感をあえて変えないこと

文:Z佐藤

 カプコンから、11月27日に発売されるPS4/PS3/Xbox One/Xbox 360用ソフト『バイオハザード HDリマスター』。本作を手がけた開発スタッフへのインタビューを掲載する。

『バイオハザード HDリマスター』

 本作『バイオハザード HDリマスター』は、2002年3月にリメイク発売されたゲームキューブ版『バイオハザード』をHDリマスター化したタイトル。原作となるリメイク版をそのままに、グラフィックやサウンドを高品質化し、インターフェースなどを現代にあわせて最適化している。

『バイオハザード HDリマスター』

 本作を手掛ける、北林達也プロデューサーと平林良章プロデューサーに、開発の経緯や意識していること、変更していることについてうかがった。なお、インタビュー中は敬称略。

『バイオハザード HDリマスター』
▲左が北林プロデューサーで、右が平林プロデューサー。

●北林達也プロデューサー:『biohazard 0』の開発にプログラマーとして参加。その後、『ロックマンX コマンドミッション』『ロックマンX8』『イレギュラーハンターX』などのプロデューサーを務める。

●平林良章プロデューサー:『biohazard』で初めてシリーズに携わって以降、『0』『4』『5』でデザイナーとして手腕を振るう。その後、『BIOHAZARD 6』でプロデューサーとしてデビューをはたす。

■“あえて変えない”のはGC版の雰囲気を大切にしたいから!

――GC版の発売から12年以上を経た現在、このタイミングで企画を始動させたのは、どんな理由からでしょうか?

『バイオハザード HDリマスター』

北林:実は前々から移植やリメイクを希望するユーザーの声は非常に多く寄せられていたタイトルで、社内でも制作する作品を決める会議で毎回候補として名前が挙がっていました。

平林:GC版『biohazard』は非常に手の込んだ作りをした作品で、これまでにも移植、あるいはHD化の企画は何度かありました。ただ、その時点で投入できる技術で「どこまで表現を向上させられるか?」という技術的な部分と、スケジュール的な部分の折り合いが、なかなかつかなかったんです。ようやく今回、北林を中心に動いていたプロジェクトチームが新しいプランを提案してくれて、それがうまく軌道に乗った感じです。

――北林さんと平林さんがともにプロデューサーですが、どのようなチームで作業を進められているのですか?

北林:今回のプロジェクトは、まずエグゼクティブプロデューサーとしてGC版でプロデューサーを務めていました小林裕幸を置きまして、小林に全体を監修してもらいながら、私と平林が直接開発を指揮するという形で進めています。我々2人の役割は、私が実質的な作業や制作全体の進行などを担当し、平林はGC版で開発に携わっていたこともありますので、グラフィックやゲームの細かい部分の監修を担当してもらっています。

『バイオハザード HDリマスター』

――本作の制作にあたり、“原作を大切にし、あえて変えないこと”をコンセプトとされていますが、その理由を教えてください。

北林:やっぱりユーザーは三上真司さん(初代『BIOHAZARD』の生みの親で、GC版ではディレクターを務めたクリエイター)が作った『biohazard』の世界を楽しみにしていると思うんです。それをHD化するにあたって、我々の解釈でよかれと思って変えた部分が本当に正しいのか? 変えることで、GC版の持っていた“怖さ”に対して新しい方向性を提案できるのか? ということを考えました。それでユーザーさんは求めているのは“リメイクのリメイク”ではないだろうという結論に至りまして、今回は“変える必要のない部分は、あえて変えない”というコンセプトで制作に取り掛かりました。

『バイオハザード HDリマスター』

平林:変えている場所もあるんですよ。ただ、かなりの検討時間をチーム内で持ちました。

北林:この部分は変えるべきなのか? という部分はしっかりとチーム内で話し合いまして。1度は変えてみたけど、やっぱり戻そうとか(笑)。そういった部分も多々ありました。

平林:変えた部分、変えない部分があるにせよ、周囲の人たちの反応を見極めながら、正しいチョイスになっているか? というところには、すごく神経を使って進めています。

――11月27日の発売日を前に追い込みの時期かと思われますが、現在はどんな作業をされているのでしょうか?

北林:ほとんどのリソースは完成していまして、あとは部分的な調整を残すだけですね。

平林:いかにGC版を大切にできるか? という調整で、かなり手ごたえは感じていますが、我々の手でHD化するにあたって「“GC版のリマスター”が実現できているのか?」という部分をつねに自問自答しながら時間の許す限り手を手を加えていっているところです。

『バイオハザード HDリマスター』

北林:やはり一番気を遣って取り組んでいるのは画面作りですので。あと今回は旧来のエンジンから新しいエンジンにすべて載せ替えをしていまして、これまで難しかったグラフィックやエフェクトの表現ができるようになりました。これによって手を加えないといけなことが増えましたが、“GC版の空気感を再現する”ということを念頭に1カット1カット細かく調整をしています。あとエンジンを乗せ替えたことでマルチハードでの展開も可能になりました。PS3版/Xbox 360版が発売された後、2015年の初頭にはPS4版とXbox One版、PC版の発売も予定しています。

■HD化の作業は時計の組み立てに似ている!? 新たな技術で名作を再現する

『バイオハザード HDリマスター』

――HD化という作業は、具体的にどのように進められているのでしょうか?

平林:時計を例に説明しますと、ちょっと昔の時計があったとします。その部品を1度すべて分解して、サビを取って、精度を上げられる部分には手を加えて、さらに新しい技術も加えて組み直している。もともとのギアを変えてはいけないと思うんですよ。当時、どうしても表現しづらかった部分を現在の技術でうまく表現しているという感じですね。

北林:作っていく過程で少なからず手を加えたほうがいい部分が見つかりまして……例えばエフェクトの話になりますが、GC版では“カーペットの上に表示される影”と“大理石の上に映り込む人物の姿”という処理を別々に行っていました。ですが本作では2つ特殊な処理を同時に行えるようになり、すべての影のモデルの作り直しています。もちろんGC版のよいところを残すという指針はありますが、現在の技術で表現力を向上させられる部分には手を加えています。

 あとプレイヤーキャラのセルフシャドーですね。自分の体に腕の影などが描画される表現ですが、GC版では表現することができませんでした。これを加えたことで、より臨場感がアップしていると思います。

――GC版とHDリマスター版の違いとしてグラフィック部分が大きな見どころになると思いますが、どういった点に心がけて制作されましたか?

『バイオハザード HDリマスター』

平林:キャラクターモデルに関しては、昔はシェーダーという発想がなくて、テクスチャとモデルデータの組み合わせで立体感や質感を表現していました。本作ではテクスチャをもっと高解像度のものに差し替え、そこにシェーダーの発想を加え、顔立ちやコスチュームの質感をより際立たせています。背景に関しては、GC版では背景内の動的な表現部分をエフェクトではなく動画背景を使用して表現している部分があるのですが、今回はそれを静止画の背景に動的な3Dモデルとエフェクトで構成していたりします。

北林:例えばGC版では技術的な限界からライトは1つしか設置できませんでした。それが今回複数の光源を置けるようになり、質感は大幅に向上しています。

平林:GC版が、いかに考え抜かれ、知恵を絞って、可能な限り工夫を凝らして作られていたことが改めてわかり、それを再現するのは苦心の連続でした。

――場面ごとに作り込まれていたということですか?

『バイオハザード HDリマスター』

平林:場面ごとに仕様が違うんですよ。最近のゲーム制作では、ある程度、共通の考え方で汎用的な組み上げ方をいろいろな部分で共用し、精度やクオリティを上げていくのがセオリーで、1つの技術が他のカットにも反映されているんです。ところがGC版は個々のカットが独自進化していて、場面ごとに最善を尽くしている、特注品の集合体だったんです。まさに工夫の塊でしたね。

 現在、ハイエンドの作品がやっていることを10年以上も前にアイデアで迂回しながら実現させているんですよ。ただ画面の解像度ですとか、絶対的な違いはもちろんありますし、以前に比べ技術的にもよりうまく表現できているようになっている部分もあります。何か足りないから加えたのではなく、現在の技術で表現力を向上させている、という感じです。

――画面が単純に美しく、クリアになると怖さが薄れてしまうことが考えられますが、いかがでしょうか?

平林:やはり現場が混乱した時期もありましたね。HD化なので精細さは重要なのですが、怖さを表現するためには、時にはわざと“汚す”必要があるんです。ただ、その度合いの部分は非常に難しいため注意を払いつつ、精細さを上げながらも怖さに必要な要素は維持できるように努めています。

北林:初期の画面はキレイにしただけで、やっぱり見えすぎる部分もあって、空気感のない薄っぺらい印象でした。そこからGC版そのままではなく、GC版の持っている空気感や持ち味を現在の技術でどう表現するか? という部分にこだわりながら制作していきました。

『バイオハザード HDリマスター』

――GC版では“動画背景”という手法で表現されていた部分が多かったと聞きましたが、それはどういったものですか? またその表現は本作でも採用されているのでしょうか?

平林:処理負荷の問題を軽減するため、GC版では多くの場所で背景を静止画、または動画背景という表現方法を採用していました。背後で動画背景が流れており、その場所をキャラが歩くような使い方で、例えば草木が揺れていたり、蛾が飛んでいたり、といったものをムービーとして処理していました。ですが本作では高解像度化するにあたって、動画背景だった部分を3Dモデル、背景データ、エフェクトを組み合わせたハイブリッド仕様の背景に置き換えています。動画背景をなくしたわけではありませんが、置き換えたほうがいいと判断できる部分に関しては手を加えて再現しています。細かい部分ですが注目してみてほしいです。

■リメイクなのか、リマスターなのか……遵守したのはGC版と同様の作品であること

『バイオハザード HDリマスター』 『バイオハザード HDリマスター』
▲4:3のオリジナル画面表示。▲16:9のワイド画面表示。

――画面の比率が“4:3”から“16:9”に変わりましたが、その点で手を加えたところはありますか?

平林:ムービーもワイド対応ですが、画面の上下をカットする方向で進めています。ただ、すべて同じ位置でカットすると場面によっては大事な部分が隠れてしまう可能性があるんですよ。とはいえ、なるべくGC版に近い形に仕上げたいという現場の思いから、構図的に一番きれいに見えるような部分を探してシーンごとにカットする位置を変えています。

北林:ゲーム画面のほうも当初は上下どちらかを切る方向で考えていました。ですが奥から迫ってくるゾンビを見えないようにしていたり、逆にギリギリで見えるようにしていたり、演出の手法として画面を隅々まで使って調整されていたんです。ですからカットする部分を上下どちらかに決めてしまうと、意図された演出を壊してしまいかねない。それで何も削ることなく全部しっかり見せよう! と決めまして、現在の「画面を上下にスクロールさせる」という形になりました。

平林:ワイドになったとしてもGC版と違う雰囲気にしてはいけない、というところから生まれたアイデアですね。ただGC版にはなかった要素を加えるわけで、それはどうなのか? 加えると決めたけど、どうやるのか? という、今度はスクロールのさせ方やスピードといった新しいハードルが生まれてしまって(笑)。

北林:スクロールの動き方やスピードで雰囲気が変わってしまいますので、気持ちのいいバランスを試行錯誤しながら調整しています。ようやく納得のいく動きとスピードに近づいてきました。

『バイオハザード HDリマスター』

平林:ただ、やはりGC版と同じ状態で楽しみたいという人も多いと思います。そのため“4:3”と“16:9”は、サブメニューからいつでも切り替えられるようになっていますので、お好みに合わせて選んでもらえればと思います。

北林:気持ちとしては“16:9”で遊んでほしいですね。GC版の雰囲気をそのままに最適化して調整していますのでオススメです!

――操作やアクション部分について、追加・変更したところはありますか?

平林:GC版の操作感を遵守(じゅんしゅ)しつつ、ユーザービリティを向上させるということも今回の1つの課題でした。そのため画面構成や操作性など、GC版の仕様のまま遊べて、なおかつ現在の時流に合わせた設定を用意しています。ただ操作しやすくなるとゲームのテンポが上がってしまうので、GC版をプレイした時のスピード感に近づけようと調整を繰り返しているところです。

北林:HD化にあたってたくさんアイデアを出した中で、銃を構えながら歩ける、横移動できるというアイデアもありました。けれどスタッフの間で話を詰めていくうちに、これは違うということで消していきました。こんな機能付きました、あんなモードも加えましたとかの要素があると、僕らとしては作品をアピールしやすいのです。でも、それって本当に求められているのか? ということです。

『バイオハザード HDリマスター』

平林:何かを加えたり変更したりすると、それに付随するすべての調整が必要になりますし、どんどんGC版から離れてしまう可能性もありますし。あくまでも今回は“HDリマスター”ですので。これがリビルドだったり、リメイクのリメイクでしたら変えるという方向性が正しいと思いますけど。けっこうゴチャゴチャになりやすいんですけどね。GC版をより遊んでいただきやすい機会を作らせていただく、というポジショニングは崩さないように心がけています。

北林:そこを踏み越えてしまうとコンセプト自体が揺らいでしまうので。リメイクなのか、リマスターなのか……。どこまでがGC版を大切にしていて、どこからがGC版を踏み込みすぎて失敗する部分なのか? という部分の境界線がすごく難しくて。油断して踏み越えてしまったことが多々ありました。

■いいものは何年経ってもいいのでたくさんの人に遊んでほしい!

『バイオハザード HDリマスター』

――本作ならではのスペシャルアイテムとして“ウェスカーズリポートI&II”が収録されていますが、こちらの内容について説明をお願いします。

平林:『バイオハザード』シリーズの歴史として非常に重要な映像や資料などを収録した、日本国内版だけの特典になります。まず“I”は、シリーズの歴史を映像で追いながらウェスカーによって事件の背景などが語られていきます。こちらの収録時間は15分以上です。特徴としては、1つの出来事を説明するにあたって一番ベストな最先端の映像を再編集して収録しているところで、ウェスカーズリポートのリマスター版といった内容です。“II”のほうは、洋館事件にまつわる闇がウェスカーの日誌形式で明かされていく読み物で、GC版で新たに追加された仕様や敵、装備などの設定の補足説明もあります。じつはGC版の発売当時にゲームの公式サイトで公開していましたが、公開が短期間だったんですよ。現在は見られませんし、せっかくですのでこの機会に読んでもらおうと収録しました。ゲーム内でページをめくっていくマニュアルのような仕様で、かなり読み応えのある内容になっています。

『バイオハザード HDリマスター』 『バイオハザード HDリマスター』

――最後に本作を楽しみにしているユーザーに向けて、メッセージをお願いします。

平林:GC版をプレイされている方には、思い出以上のものをお届けできるようにチーム全体でがんばっています。初めてプレイする方にはシリーズの原点ということもありますし、一番濃い部分が楽しめる作品になっていますので、この機会に遊んでもらえるとうれしいです。

北林:お待たせしました。ようやく『biohazard』という作品をより多くのみなさんに遊んでもらえる機会が作れたことに喜んでいます。制作の面でいろいろと苦労している部分はありますが、細かいことは気にせずに楽しんでもらえればと思います。

平林:お求めやすい形というのは、より多くのみなさんにプレイしていただける機会というのを作りやすいのかなと思います。そういう理由から今回は3,990円(+税)という価格で販売させていただきますので、手に取っていただけたらうれしいです。

北林:ここから『biohazard』の世界を知るユーザーもいますでしょうし、たくさんの人に遊んでもらいたいですね。

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